1−8 城中のお騒がせ

 その夜、珍しく眠れずにうとうととしているフラウのベッドに、妹のジェシカが滑り込んできた。

 かっては良くジェシカが眠れない時、姉から寝物語の御伽話(おとぎばなし)を聞きたくて姉のベットの中に滑り込んできたものだった。そんな時、フラウはジェシーの黄金の髪を優しく撫でながら寝かしつけたものだった。


「お姉様!今晩だけ、私のわがままを聞いて下さい 」


 ジェシカは彼女なりにこれから起こるかもしれない色々なことに、これからは自分も全くの傍観者のままでは居られなくなってしまうであろうという予感がそうさせているのかもしれなかった。


 フラウは燃える様に赤く長い髪のポニーテイル、太陽の光を浴びるとルビーの様な綺麗な光を発する。少し日に焼けた白い顔に映える夏の青空のような濃いブルーの瞳。少し気の強そうな引き締まった唇の美女であるのに対し、妹のジェシカ王女は天使の様な少し巻き毛のプラチナブロンドの髪、透き通るような白い肌、何者の嘘でも見抜けるような澄んだ薄いブルーの瞳の美少女であった。


 ジェシカが未だ幼い頃フラウは、妹がまるで精巧に創られたお人形さんを見ているようだといつも羨ましがっていた。

 潜り込んできたジェシーの柔らかい身体に、妹の身体が思った以上に成長していることに、驚きと、少しの嫉妬を覚えた。


「この子、胸が大きい。妹のくせに私より成長している 」

と妹からすれば、とても理不尽な嫉妬を投げかけられていた。


 それもこれも、今の幸せな時間に待ったが掛かる迄の間の僅か乍らの平穏な時間でもあった。

 フラウはジェシーの絹のような滑らかな髪を指で掬いながら、ひと時の安息の時間を満喫しながら、深い眠りに落ちていった。


 侍女シノラインのけたたましい声に、フラウは目を覚ます。

「姫様!アワアワワーとんでもないことです。だ、だ、誰をベッドに連れ込んでいるのですか?トトトとんでもないことを。私は、、、きっと責任を問われ、牢屋入れられて、それから打首、いや火炙りの刑に、、、」


 シノの訳の分からない慌てぶりに、やっと完全に覚醒したフラウは、自分のベッドの中でもぞもぞと動く物に気が付いた。シノの騒ぎに触発され、自分も盛大な叫び声を上げた。


 二人の叫び声に欠伸をしながら、ジェシカが上布団から驚いた顔を出し、

「何をそんなに慌てて、何かあったの?」

とても間延びした声で聞いてきた。


 掛け布団の中から顔を出したのがジェシカ姫だと分かって、シノラインはヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまった。


 間をおかず、今度は隣のジェシカの部屋から、再びけたたましい声が響いてきた。

 

「ところで、シノ!今何かとても不謹慎なことを考えていたのじゃないか?私が見知らぬ男をベッドに連れ込んでいるとか?」

「め、め、滅相も無いことを、、、私目がそ、そ、そんな不謹慎なことあるわけ訳がありません 」

「そうか?それにしては打首やれ、磔(はりつけ)やれと大騒ぎしていた様に聞こえたが、、、」


「た、た、大変です !大変です。ジェシカ王女様が行方不明に、、、」


 ジェシカの侍女アンジェリーナの声である。フラウは、慌ててジェシカの部屋に急ぎ、座り込んでいるアンジーに、

「何をそんなに騒いでいるのか?」

少し落ち着かせるように声をかけた。


「ジェ、ジェシカ王女様が、行方不明になられた様です 」

「ジェシカは私の部屋に居るから、そんなに騒がないでくれないか!」

と困った様に話すフラウに、

「ベッドにジェシカ王女様がいらっしゃらないので、フラウリーデ王女様に続き、ジェシカ王女様まで行方不明になられたのかと思い、、、」

と消え入りそうな声で答えた。


 フラウの失踪が、城の者達に与えた影響は少なく無かったらしく、安堵のためか、アンジェリーナは涙を流しながら喜んだ。フラウは、自分の失踪が不可抗力であったとしても、城の多くの者達に計り知れない影響を与えてしまったことを申し訳なく思った。

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