二つの世界を旅する騎士姫（卑弥呼と龍神の騎士姫）

１−１３ 洞窟の謎（どうくつのなぞ）

　クロード騎士隊長は、次回の詮議の日程をフラウ王女が一週間後と決めたのには何か理由があるのではないかと考えていた。

　実際、フラウ王女は今回のハザン国との戦に当たり、その前に邪馬台国の卑弥呼女王に会う必要があると考えていた。この頃になると、王城近くの洞窟で出の行方不明事件は自分にとって必然であったと感じるようになっていた。確とした根拠はなかったが、邪馬台国の卑弥呼女王こそが、戦への勝利を導いてくれる鍵の様に思えてならなかった。そして、それは確信めいて感じられていた。

「あの洞窟へ行くなど、あの様な危険なことは２度と御免ですよ。私は、死にそうに心配致しておりました。心配のあまり私は、姫様の居なくなったあの洞窟で、ずっと待っていました 」

　クロは少し顔を赤らめながら、絞り出すような声でフラウにそう告げた。

「一週間ずっとか？そんな話、私にはしなかったよな！」

「ご無事に戻られたので、安心のあまり、、、」

「心配をかけた！クロ。クロがそんなに心配してくれたとは、私はとても嬉しい 」

　フラウは、少し頬を染めながらクロの肩に手を置いた。

「私は、あの洞窟に今回のハザンからの侵攻に対抗できる大きなヒントがあると確信している。と云うより、是非とも行かなければならないと心の声が仕切りに囁きかけてくる 」

　フラウ王女の顔は真剣であった。実際には再びあの洞窟に入るなど、クロードや両親そして妹に再び心配をかける羽目になってしまうのは確実である。それでも自分を信じて欲しいと王女はクロードに頭を下げた。そしてクロードの手をしっかりと握り、自分の留守の間家族守ってくれる様にと頭を下げた。

　勿論、今回は家族にも十分に納得してもらった上で行こうとは思っていた。

「姫様が、そこまでの覚悟をなされているのであれば、私は、私の我儘で姫様を止める様なことは出来ません 」

　クロは少し震える声でそう言い、頭を下げた。

　フラウ王女が

「楽しい夕食の時に、この様な物騒な話は無いのですが、、、」

と前置きして事の仔細を話し始めた途端、妹のジェシカ王女は、あの洞窟へ姉が再び行くと聞き、もう啜り泣きを始めていた。

　フラウ王女は、父と母そして妹に自分の我儘を許して欲しいと言いながら、自分は絶対に無事に帰って来れることを確信していると話した。実際、自分が起死回生の戦略・戦術を見つけない限り、ハザンの国の勢力から考えて恐らく王国の滅亡はほぼ確実であろう。

「あの時はたまたまうまく行ったと云うこともあり得るでしょうに、、、わざわざ再び大きな危険を犯す必要があるのですか？」

　エリザベート女王は、少し目を伏せながら心配そうに呟いた。

　フラウ王女は、国民と自分達が生き残る為には、今回の自分の提案は如何しても必要なことだと再度両親を説き伏せ、やっとその裁可をもらうことができた。

　フラウの真剣な頼みに両親は涙ぐみながら二人顔を見合わせ、

　「宜しく頼む」

と渋々ではあったが了解した。

　その夜、フラウはあの日あの洞窟から卑弥呼の住む邪馬台国へ行くことが本当に可能だと仮定して、それを再現する為には幾つかのキーワードが有るはずだと考えていた。

　一つは恐らく女王が話してくれた歴代女王に伝わるあの口伝(くちづ)て。

　歴代の女王に共通するものとは一体何なのか、、、？と考えた時、確信とまでは行かないが、それが代々トライトロン王国の女王に受け継がれてきた血の繋がり、いわゆる血液では無いかとの考えに至った。

　しかし、恐らく実際には未だその他にも満たさなければならない他の条件が必要であることも予感していた。

　何れにしても、明日洞窟へ行ってみないことには何も始まらないので今悩んでもこれ以上先に進むことは出来なかった。そうなった以上明日を待つしか無いと諦めると、やがて次第に睡魔に引き込まれていった。

　翌朝、フラウは戦闘服に着替えると、クロードを呼んだ。

「はっ！ここに 」

　フラウ王女はクロードに洞窟まで一緒に来て、そして自分の洞窟内での一部始終しっかりと見て見ておいて欲しいと頼んだ。

「こういうことは今度一度きりにしたいとは思っているが、、、 」

「クロードも一緒に行くんじゃなかったの？」

　エリザベート女王が心配そうに聞いてきた。

「お母様！あの洞窟から先は、恐らく私一人しか行けないと思っているのです。そのことはお母様もそう推測されているのでしょう 」

　クロードには自分が帰ってくる迄に、ハザン侵攻に対する重要な対抗戦略を考えてもらう必要があった。

　女王は、” そうね ” と少し不安げにつぶやいた。

　その洞窟は、城門から歩いて10分位の所にある。それは山の中で見られる様な洞窟ではない。一見、只の荒地だが、よくよく見ると、部分的に雑草が少し薄くなっている場所がある。その一部分の雑草をかき分けると、何故か錆びない金属の鎖で出来た取手の様なものが見える。

　どういう仕掛けなのかは分からないが、その取っ手を引くとフラウの力でも簡単に大きな岩の入り口が開いていく。

　大人が一人入るには十分過ぎる広さで、岩が開き終わると同時に階段がひとりでに次々と生まれ出て少しづつ競り下がって、やがては完全な階段となった。

　確か最初に此処を見つけた時はこの様な階段はなく転げ落ちた記憶がある。今回、何故階段が生じたかの理由については後に邪馬台国の卑弥呼から聞くことになる。

　この場所はフラウが、クロードと戦闘練習していた時に偶然見つけたものだ。以来ずっと気になっていたフラウが一人で入り込み、偶然に現実とも夢ともつかないあの現象にみまわれ、１週間位の行方不明の後に王国に帰り着き、しばらく寝込んでしまったのだった。

　しかし、フラウはその階段を踏んだ途端、自分が邪馬台国の卑弥呼女王という人物に会ったという薄れつつあった記憶が再び鮮明に蘇ってきた。

　やはり ” あれは夢では無かった ” と自分の想像が確信に変わった。

「クロ！私の後を離れずに着いて来て、そして今から私の身に何が起こるのか、その一部始終を詳細に見ておいてくれないか 」

「分かりました。仰せの通りに 」