運命の輪 3
差し出された黒の毛皮を無造作に掴み、ユダは歩き出した。
「どちらへ行かれるのです?」
投げかけられた問いに足を止めず、答える。
「ヒカリへ」
ユダの答えを聞いた彼らは、いつもと変わらぬ闇一面の四方を見回し、首を傾げた。
「ヒカリなどどこに・・・?」
アルカルドの問いに答える者は既に消えていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
血を洗い流し、服を着替えたユダは、切り立った崖に一人立っていた。
複雑に変動したそこから下は見えず、ユダの佇む場所はこの世界に在れば否応無く聞こえる喧騒が全く聞こえて来ない程に高い場所だった。
ユダの見詰める先には、尚、上空にある、光り。
ユダにはこれより先に行く手段がなかった。
あの光りの元に辿り着くにはユダが考えていたよりも困難であった。
上空にあるのだから飛べる者を下僕にすればいいと思い、実行したが、皆、一定まで上昇すると怯え始め、強引に上昇を命じればその身は塵になった。
その上、光りまで行けと命じても、どこに光りがあるのか分からない様だった。
(ただ飛行能力があるだけでは駄目か。
もっと、高位で魔力のあるものならあるいは?何にせよ、厄介な)
ユダの一族はこの世界で高位に属す近い為、自分達より劣る種族に興味を抱くことは余り無い。
まして一族の長であるユダは、その典型であった。
微かな光りへと近付く手段がこの場には無い事を理解していても、高位の魔の捜索に向かう間に濃厚な闇が光を掻き消してしまうのではないかと思うと、その場を離れられずに居るユダは、その切り立った山地を周辺に活動する事にした。
だが、この特定の環境に住む獲物は平地に住む権利を持たない低位の者達の巣窟であり、最高位であるユダにとって、最悪の味覚ばかりであった。
「不味い。低位の者がこんなに不味いとは・・・」
目的の為とは云え、不満を禁じえない状況になってきたユダである。
不味い上に、血から取り込める魔力が押し並べて低く、量をこなさなければならない。
まさに「質より量」とはこの事かと思い知る。
今状況下に於けるユダの殆どの獲物は小振りで、体長百cm程。
ここらの者達は、まず体を環境に適したものに進化させた為、みな皮膚が硬質で、見た目にも不味そうな連中ばかりだった。
そんな不味い獲物の灰色の皮膚の獲物の頭に爪を食い込ませ、もう片方の手で、獲物の首を掴んで固定させる。
そして、シャンパンの栓でも抜く様に頭に食い込ませた手を引きあげ、首から引き千切った。
最早、首筋に噛み付く気にもならないようだ。
このスタイルになる前、首筋に傷を作って、そこから血を頂こうとした所、酷いことになったことがある。
この種族は、自身の命が尽きる時、敵も道連れにする断末魔を上げる。
だが、自分と同じ位を持つ者か、低位でなければ道連れ効果は発揮しない。
もちろんユダには何の効果も無いが、この長くやかましい絶叫は山に木霊し、木霊が木霊を呼び、恐怖の連鎖を引き起こした。
優れた聴覚を持つのが仇になってしまうとは。
耳を塞いでも全く緩和されないひたすらデカイ絶叫はユダにとって命を云々より余程、深刻であった。
「やかましい!!」
貧しい食事への不満と、耳鳴りを引き起こす絶叫のけたたましさに、山脈を一つ消してしまった。
気付けば、木霊した断末魔のおかげで辺りの獲物は全滅。
その結果、食事にあり付けなかったと云う一族の誰にも知られたくない苦い思い出が出来た時であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ぎゃっという短い断末魔。
二十体目の食事に取り掛ろうとした時、前方がにわかに騒がしくなった。
何事かとそちらに視線を移すと、上空の光りから一筋の光りが伸びていた。
今にも掻き消えそうな光りの筋だが、確実に闇を遮って伸びている。
今迄にない変化を目の当たりにしても玲瓏な貌に表情の小波はないが、心は浮き立ち、どこか茫然と立ち上がり、意図せず脱力した手から獲物が落ちると、その光りの方向へと体が動いた。
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