第10話 導きし者
「ねぇ、指揮者って何?」
「説明してる余裕はねぇ! にしても、神力が残ってるのに、何で指揮者が…?」
「ナックラーさん、集中するっす!」
「あ、あぁ…」
「でも、何となく分かったよ! 行こっ!」
さっき僕が示した光。いつも使っていたはずのあれを“指揮”って言うなら。
もう理解できた。あの夢は、ただの夢なんかじゃない。この指揮者の力を得た夢だったんだ。多分、記憶が曖昧になったのは、その反動だ。
だけど、整理できた。もう充分、やるよ!
「ナックルさん、指揮に従って! 一緒にやろう!」
「あ、あぁ…」
「エドも! せっかく戦えるんだからさ! それに氷のツメって、カッコいいじゃん!」
「俺もっすか⁉︎ でも、俺の役目はカメラだけっす…」
「何だっていいよ。僕の指示は、法令と同義! 無視するなら、法律違反にするよ!」
僕の言葉に、2人は度肝を抜かれたように顔を見合った。だけど、僕の力は遠い昔、人々を導く法を司った神の力。その力を持つ僕が、隊長命令なんかに縛られてたまるか。
「…何を言っても、こりゃダメそうだな。いいぜ、指揮者の命令に従うぜ!」
「まあ、俺の初陣っす。気張っていくのみっすよ!」
「みんな、思い切って、楽しくいこう!」
~デ・ロワー、ファイター課オフィス~
「どうします? ペーターさん」
「俺に聞くな。アイツらが決めたことだ。だけど、面白そうな展開になりそうだ。フラットくん、君の本当の力を見せてやれ」
モニターで彼らの戦闘を眺めていたペーターとランが、フラットの動きを注目していた。
だが、止める気配はなく、逆にそのままにしておくようだった。
「では、カメラを自動飛行モードに変更しますね。それにしても…エドが戦闘に、ねぇ」
「ハハッ、いい働きぶりだよ、フラットくんは」
~花やしき公園~
「ナックルさん、ジャンプ! エド、翼を攻撃!」
「了解だぜ!」
「了解っす!」
僕の指示通りに2人は動いた。小鳥を殺したことで、鳥がかなり興奮している。これで決まりだ、この捕鳥とあの小鳥は親子だったんだ。
だけど、人を襲う以上はやむを得ない。同じ命とはいえ、その罪は重い。だから、罰するほかない!
「喰らえっす!」
「ピヤァァァァァ!」
エドの氷のツメが、燃える翼を突き刺して凍らせていく。そして、飛べなくなった鳥は、地面に落下した。
「エド、下がって! あとは…僕がやる」
「えぇ⁉︎ でも…」
「いや、エド。フラットには神力が残ってるぜ。それがどういう意味か、分かるだろ?」
「…分かったっすよ」
ナックルさんの言葉のおかげで、エドは鳥から距離を置いてくれた。
あとは、僕がやるだけ。
「迷いし魂が故に犯しし罪。古より引き継がれし“グラディウス”が導き出し法を用いて、汝裁かん。神業・判決!」
「キィィ!」
今の神業は、全部僕の思いをグラディウスに乗せて操るもの。僕の法律の中に、死刑なんて考えはない。
それなのに、小鳥を殺したエドは後で極刑だね。
「キィ?」
「おまっ、今何した⁉︎」
「鳥の火が…消えたっすね」
「違うよ! 普通の鳥に戻しただけだって!」
僕より長いこと公認ファイターやってるんだよね? 何で僕にある知識がないの?
「異世界モンスターって、パラレルスペースの中の引力で力を得て暴走しただけの動物じゃん」
「え…そうなんすか?」
「いや、俺は知らねぇぜ?」
「じゃあ、証拠に…。はい、パラレルストーン! あの鳥から取り除いたやつ!」
異世界線から流されてきた動物。もちろん、動物だから何の力も持たない。
でも、異世界線と異世界線の間の空間、パラレルスペースの中は異世界線同士の引力しかない。
その引力は、パラレルスペース内に入り込んだ生物の潜在能力を引き出す。この鳥は寒い地域にでもいたのかな? だから炎を扱えるのかも。
「お前、スゲェな。タメになったぜ」
「でも、そんなことよく知ってたっすね。初耳っすよ」
「そうなの? とりあえず、これでこの鳥は普通の野生鳥だよ。じゃあ、帰ろっか」
僕はフィールドの壁としていた結界を解除して、歩き始めた。
だけど、脅威を退治したっていうのに、周りの人はあまり浮かない顔をしていた。
「げっ、忘れてた! フラット、さっさと行くぜ!」
「え、えぇ⁉︎」
「そうっすね。面倒ごとになる前に帰るっすよ」
「ちょ、2人ともどうしたの⁉︎」
エドとナックルさんが、僕の両手を引っ張ってバイクを停めてある場所まで走り出した。
嫌ってわけじゃないけど、頭の中は大困惑だよ。そんなに早く帰りたい、ってわけでも無さそうだし。
まあ、帰れば分かるか。それじゃあ、委ねることにしようっと。戦闘で疲れたし。
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