第11話 指揮者は嫌われ者

 ~デ・ロワー、ファイター課オフィス~


 僕達は花やしき公園から帰ってきた。でも、僕は戦闘後の人からの視線をずっと気にしていた。


「今帰ったぜ。ふぃ~、面倒ごとびならなくて良かったぜ」

「そうっすね。じゃあ帰るっす」

「あぁ、今日は帰って良いよ、エド」

「すっごい頑張ってたからね! カッコよかったよ」


 うん、カッコよかったけど、気になって仕方がない。あの目線。


「それより、フラットくん。君はどうする? 指揮者として戦うか、ファイターとして戦うか」

「あ、あの! その前にあの目線が気になって!」

「もちろん話すよ。君が受けたであろう、冷たい視。ちょっと席を変えようか。おいで」


 課長席である窓前の大きなデスクからペーターさんが席を外すと、僕を手招いて、2階にあるオフィスの休憩スペースへと誘った。




 ~休憩スペース~


「それで指揮者のことだが…。かなり悪質な論文が発表されてね。そのせいで、指揮者の印象がかなり悪くなったんだ」

「論文って、どんなのですか?」

「こんなのだよ」


 ペーターさんは首から下げる携帯電話端末、ネックフォンで、その論文のデータを立体映像で見せてくれた。


「簡単にまとめた資料は…これか」

「あ…」


 そのページに載っていた簡略文には、


[何もせず、ただファイターに指示をする指揮者こそが悪である。なおかつ、指揮者は神力を失ったファイターのなりの果て。なにより、指揮者になったファイターは成果が少ない。これが事実である。指揮者は結果も残していない役立たずなのだ]


 そう書かれていた。だが、そのサイトはかなり厳しい。嘘で埋め尽くされている文章を載せた場合には、すぐにバン、つまり削除される。

 そんなサイトに載り続けているってことは、これは紛れもない事実ってことだよね。


「書いてあることは全部事実だが、書き方が悪質なんだ。指揮者になったファイターは、元から戦闘には不向きなファイターなんだよ」

「不向きって…僕もですか⁉︎」

「あぁ。君は脅威の討伐に躊躇っただろう?」

「え…」


 すごいな、ペーターさん。僕の心の内を分かってるみたいだ。たしかに、僕は殺すことはいつも躊躇う。魂のないアリジゴクなら構わないけど、魂のある異世界モンスターになると、ねぇ。


「そういうファイターが、指揮者になるんだよ。だから、指揮者が必ずしも役立たずファイターだったっていうわけでもないんだ」

「じゃあ、そのことを言い返せば良いんじゃないですか?」

「そう簡単にはいかないんだ。これは地球連合どころか宇宙連盟さえも納得しているんだ」

「宇宙連盟って…。全宇宙を総括している、あの宇宙連盟ですか⁉︎」

「そうでなかったら他にどこがあるんだ?」


 そんな大規模的な悪質理論だと、手出しはできないか。でも、僕ってファイターのままだ。あれ、サイトにあった情報と矛盾してる。


「君はファイター続けられてるしなぁ…。そうだ! 君の姿があれば、指揮者のイメージが変わるかもしれない! そこでだ、君は指揮をしながら戦うってのはどうかな?」

「えぇっ⁉︎」

「さっきできてたじゃないか。できるだろ?」


 うっわ、嫌な課長! でもなぁ、できなくはないし…。いや、だからってここで従ったら、無理難題を与えられ続けるかも。だけどそれって、あくまで僕の未来図だし…。

 あぁ、もう! こうなったら!


「やります! やるだけやってみます!」

「君ならそう言うと思ったよ。それじゃあ決まりだ、頑張ってくれよ」


 そう言うと、ペーターさんは席から立ち、オフィスに降りて行った。だけど、僕はその背中を見つめるだけにとどめて、追いかけることはしなかった。


「とりあえず、帰るかな。もう疲れたし」


 完全にペーターさんの姿が見えなくなってから、僕は席から立った。

 そのとき、オフィスの方から僕を呼ぶ声がした。


「呼んだ~?」


 僕が柵から顔を覗かせると、ナックルさんが手を振って僕を見ていた。


「そろそろ帰ろうぜ~!」

「あ、分かった! ちょっと待ってて」


 たとえ僕がファイターでも、いつも通りやるだけ。何か引っかかるところもあるけど、今は気にしなくていいと思う。

 今は今。それだけなんだから、楽観的にいよう。僕は明るさだけが取り柄なんだから。

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