第12話 君のことを知りたい
オフィスから出て、色鮮やかにライトアップされた夜の帰り道を僕とナックルさんで歩いていた。
「すっかり夜だね」
「そうだな。って、あそこに歩いてるのエドじゃねぇか?」
「本当だ。何やってるんだろ?」
帰り道の途中にあるラーメン屋の前に、エドがいた。だけど、何かウロウロしているように見えるけど、入れないのかな?
「エード! 何して-」
「ギャアァァァァァ⁉︎ な、なんだ…驚かすなっす」
「いや…そういうつもりじゃ。ていうか、こっちが驚いたし」
「だよなぁ。しかも今の大声で通行人もこっち見てるしよ」
本当だ、みんなしてこっち見てるよ。そりゃあ見るよなぁ、まるで刃物に刺されたみたいな絶叫だったし。
「で、エド。何してたの?」
「別に、なんでもないっすよ」
「ラーメン屋に入りてぇんじゃねぇのか?」
「ギクゥ⁉︎ そんなわけないっすよ!」
今のセリフが物語っちゃってるよ。にしても、まだ完全にエドは心を開いたわけじゃないのか。
でも、これだけ話すようになっただけ充分だけどね。
「でも、このラーメン屋、今日は閉まってるよ?」
「なっ。でもやってるじゃねぇか!」
「そうっすよ、変な冗談はよせっす!」
「いや、今日はうどん屋さんが店舗を借りてやってるんだよ。入ってみる? かなり美味しいよ」
ヘヘッ、僕のおすすめかつ秘密のお店なんだけどね。僕を受け入れてくれたお返しだ、教えてあげよっと。
「うどんっすか…。なら、俺は違う店に-」
「行かせないよ、ほらほら~っ!」
「ちょ、無理矢理なんて非人道的っす~っ!」
「おい、俺も行くのかよ!」
非人道的って、それはちょっと心外だなぁ。でも、エドの背中を押すのが僕のできること。それなら精一杯やるだけだよ。
それに、食わずに評価されるほど僕が嫌いなことはないからね。
~うどん屋~
自動ドアから入って、右側は5つの4人用テーブル席、左側は厨房と面したカウンター席と古風ながらの店舗。そして中央の通りの奥はお手洗いになっている。
「こんちゃ、今空いてる?」
『おう! その声はフラットの坊主か?』
厨房から出てきたのは、キツネ型獣人の店主、ベストのおじさん。このお店が始まって以来、僕は常連なんだ。
もう付き合いも長くて、タメ口どころか馴れ馴れしく話せるくらいだよ。
「今日は友達と一緒にきたんだ。テーブル、空いてる?」
「おうとも。ちょっと待ってな…掃除よし、七味の量よし。良いぞ、座れや」
「はぁ~い!」
「なんか、フラットのやつ人変わってねぇか?」
「世渡り上手ってやつっすかね?」
なんか失礼な言葉聞こえたけど、無視してと。まあ、空いてる奥から2番目のテーブル席に着いて…早速注文しよっと。
「じゃあ、僕はいつものでお願いね!」
「あいよ! で、そちらさんは?」
「えぇっ、まだ決まってないっすよ!」
「俺もだぜ。フラット、ちょっとは待ってくれよ」
「ふふ~ん。カレーうどんと、エドには…」
このラーメン屋さんだと、味噌ラーメンが有名だったはず。よし、それで行こう。
「味噌ラーメンで!」
「おし、じゃあ待ってろよ坊主!」
「はい、待ってるよ!」
ベストさんが胸ポケットに入れていた入力式の伝票で僕達の注文品を押し、レシートを机の上に置いて、厨房に戻っていった。
「今どき口頭での注文なんて珍しいな」
「でしょ? まっ、時間かかるしゆっくり待とうよ」
「…俺、なんか不思議っす」
「エド? どうかした?」
急に眉をひそめて、エドは俯いていた。僕にも、その理由は分からない。何かお気に召さなかったことでもあるのかな。
「俺、今まで誰とも食事を一緒に取る気なんてなかったっすのに…。今じゃ、もうどうでも良くなったっす」
「…俺、少し便所行ってるぜ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
気遣ってくれたんだな、ナックルさんのくせに分かってるじゃん。
「エドはどう思ってる? 僕達といるの、嫌い?」
「嫌い…じゃないっすけど。分からないんすよ、なんで俺なんかと…」
「うぅ~ん…。気になったから、じゃ理由にならないかな?」
実際、エドのことが気になったから話しかけたっていうのはある。なんか、僕とナックルさんが出会った頃みたい。
って、あれ? どうやって出会ったんだっけ…? 思い出せないや。やっぱり記憶障害なのかな。一旦病院で診てもらったほうが良いのかも。
「どうしたんすか? なんか悩んでるみたいっすけど」
「あぁ、いや、なんでもない。明日の大学、ちょっと忙しくなりそうだなぁって」
「大学っすか…。俺も、“銀座大学”に行かないとまた留年っす」
え、今銀座大学って言った? え、東京大学附属支大学の中でもトップの理数系大学じゃん!
じゃあエドって相当頭が良いってこと? 文系で浅草大学を選んだ僕とは大違いじゃん。
「あの、そんなに俺が理数系っていうのが驚きなんすか? それこそ心外なんすけど」
「だって、そんなそぶり見せないんだもん! てっきり正社員として働いてるのかと思ったよ! いや待てよ…。そういえば、ファイターってバイトなのか?」
流れに乗ってデ・ロワーに入ったから分からないけど、ファイターにバイトっていう扱いがあるのかな? なさそうだけど。
「フラットは学生っすもん、バイト程度の扱いっすよ」
「なんだ、正社員じゃないんだね」
「正社員はアカデミーから直々に派遣されてくるんすよ」
「? アカデミーって?」
「し、知らないんすか⁉︎ あんな超有名なファイター企業っすよ⁉︎」
そんなに驚かれても、知らないものは知らないんだもん。
「アカデミーは、地球を代表する、それこそ地球1のファイター企業っす!」
「地球1のファイター企業…? それって、デ・ロワーの二つ名じゃなかったっけ?」
僕の記憶だと、よくニュースチャンネルでその二つ名が使われてるのはデ・ロワーのはずなんだけど。
「あぁ~…。アカデミーの人の8割の出身がデ・ロワーって言われてるっすもん。だから、ある意味ではデ・ロワーは地球1って言っても過言じゃないっすけど…」
「けど…なに?」
「今じゃ、その名も廃れつつあるんすよ。有望な人材が来なくなったっすもん」
来なくなった? ここまで有名なら、入りたいって人も多そうだけど。
「俺がこの世界に流れ着いたときくらいっすかね。なんの事件かは覚えてないっすけど、大量殺人犯中の違法認定ファイター、通称ヴァイスに手も足も出せず終いで、デ・ロワーの株が急降下したんすよ」
「地球1でも敵わないヴァイスって…。じゃあ今も逃亡中ってこと⁉︎」
「聞いた話だと、“人工アリジゴク計画”によって、その大量殺人犯が、殺人を犯すきっかけになった記憶、そのきっかけとなった人生に関する存在をこの世界から全部抹消したらしいっす」
え、ちょっと待って。知らない単語が連続して脳内がパンクしそう。
「人工アリジゴクって?」
「あっ。機密情報…つい話しちゃったっす」
「えっ…。何やってんの⁈」
「アッハハ、まあいつかペーターさんが話すと思うっすよ」
もう、エドの危機管理能力の向上も考えておかないと。流石にこういうことについては厳しくいかないとね。
「よ、戻ったぜ。で聞いてたぜエド。何こんな一般大衆のいる場所で公言してんだ?」
「ヒエっ…わざとじゃないっすよ…」
「わざととかそういう問題じゃ-」
「はぁいお待ちどうさん! うちの店で喧嘩は御法度だよ! さぁ食べた食べた!」
ベストのおじさんが、口喧嘩を始めそうな2人の間に割って入って、テーブルに注文したうどん2つにラーメン1つを置いた。
どれもモクモクと湯気をたて、一緒にお腹を鳴らすくらいの美味しそうな匂いを運ばせてくる。
「とりま、俺の特製メニュー食って落ち着け、な」
「まあ、飯食いに来たわけじゃ…ん⁉︎」
「ナックラーさんは大袈裟っすね、匂いはふつ…⁉︎」
2人とも普通に食べちゃったね? この店のメニューは、ゆっくり食べないと美味しすぎて涙が止まらなくなるんだ。
で、脳が震えて失神する。これぞ-
「
「俺の料理、やっぱまずいのか?」
でも、ベストのおじさんは自分の料理の腕を知らなくて、お客が失神すると自信をなくす。
あえて僕は何も言わないけどね。
さぁて、と。かなり気になる情報を得られたし、明日にでもペーターさんに聞いてみよ。知らないままでいるわけにもいかないし。
その前に、目を輝かせながら桃源郷まっしぐらの2人をどうにかしないとだけど。
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