第3話 バレちゃった秘密
なんとか罰も終わり、僕達は寮へと歩いていた。だけど、ナックルさんは用事と言って、帰り道の途中にある大きなビルの中へ入っていった。
そういえば、1週間に4日くらいはナックルさんとここで別れるっけ。看板には、「デ・ロワー総合ビル」としか書いてないし。
まあ良いか、帰ろっと。
特に気にする必要もないと感じた僕は、そのまま寮に戻り、明かりをつけ、ベッドに横たわり、ウォッチフォンで動画配信サイトを開いた。そうしているうちに、通知マークが点灯した。
「あ、このファイターの新しい戦闘動画上がった。参考になるんだよなぁ~、この人の戦い方」
僕も、#一応__・__#はファイターだからね。だから目立つのが嫌いであって。こういう人は良いよな~。芸能人扱いされても気にしなくて。
おっ、目の前に攻撃が来たらしゃがむっていうのも手なのかぁ、勉強になるなぁ~。
「あ、終わっちゃった。よぉし、今日も1周しとこっと」
僕はチャンネルに移動して、再生リストを押し、最初から垂れ流しすることにした。
でも、そのまま眠ってしまったのか、気がつくとオレンジ色をしていたはずの外は、夜とは思えないほどに明るい街灯やら通りの光に包まれていた。
「ん…あっ! そろそろ晩ごはん作らないと。えぇっと…」
『緊急警報! 緊急警報! 浅草上空に、空間のねじれが発生! 警戒レベル5! 至急、近くの避難シェルターへお逃げください! 繰り返します!』
この放送は、あれが起きたのか。ちょうど良いや、これも記憶整理しておこう。なんかあの夢のせいで頭の調子がおかしいし。
この警報が意味するのは、脅威を呼び出すゲートが出現する際に発せられるもの。この脅威っていうのは、異世界から訪れる厄介者の“異世界モンスター”、異世界線と異世界線を結ぶパラレルスペース内で生まれる怪物、“アリジゴク”。
この2体が現れることが確定すると、東京の地下あちこちに作られている地下シェルターへ逃げなければならない。だから、僕も外へ行かなくちゃ!
冷蔵庫を閉めて、僕は外へ飛び出た。家の鍵はオートロックだから問題なし。そのままの勢いで、僕は避難する人並みを#かき分けて__・__#進んだ。
そうしてたどり着いたのは、グニャグニャと空間がねじれ動く浅草大学内のグラウンド。まだ練習を続けていた生徒が逃げ遅れていた。
「仕方ない…! お願い、僕のリスナー達! 応援頂戴!」
目立ちたくないが故に隠していた秘密。それをさらけ出すことに躊躇したが、人命にかかわる以上は見過ごすわけにはいかない。
決意して、僕は自分の腕時計式電話端末、通称“ウォッチフォン”に内蔵していたアプリを起動した。
それだけで、僕の身体は、朝と同じ光に包まれた。そして、いつもはイヤリングにつけている小さな玉が、水色のオーラを放つ槍へと変貌した。
それを握りしめ、僕は生徒達のもとへ急ぎ、まだ何も起こることなく間に合った。
「今道作るから待ってて! えっと…こうかな」
「おっ、助かった! おい、これなら行けるぞ!」
近くの木の枝を伸ばして地面につけ、さらに太くして橋のようにして、木から学校の外へ飛び降りるって寸法だよ。
まあ、念のためこれも記憶整理っと。普段の力じゃ、ここまでできないけどね。これは僕のウォッチフォンを飛行モードにして、この様子を中継してるんだ。それで、視聴者のプラスの力、それを支援力っていうんだけど、それを糧にして、いつもに比べて何倍もの力を出せるんだ。
とはいっても、僕も細かい理由は知らないんだけどね。
「それじゃあ…そろそろかな?」
『グゥ…ギャアァァァァァ!』
「キタキタ。それじゃあ、本格的にやらないとね。フィールド展開!」
神器を地面に刺して、僕の力でゲートを中心に結界を張った。これで脅威は街で暴れられないはず。
それじゃあ、戦闘といこうかな。リスナー、一緒に戦ってね!
「アリジゴク5体だけかな。それなら、まとめて動きを制限するのみ! 第一審判『
「「グギィ⁉︎」」
よし、良い感じ。全部のアリジゴクの身動きを抑えられた。あとは楽々-
『フラット⁉︎』
「えっ⁉︎ ウッソ…」
突然響いた、野太い声。思わず僕は、その場で中継を切断した。だけど、バッチリその目は僕を見ていた。
その声の主は、僕がよく知るナックルさんだった。しかも、その後ろにはテレビでしか使わないようなカメラに、空にはカメラドローンまで飛んでいる。
てことは、これって…。本物の
「おまっ、ファイターだったのか⁉︎」
「い、いや…。えーっと…と、とりあえず! 僕に合わせて! 話はそれからでお願い!」
すぐに中継を再開して、僕はナックルさんに命令した。それでも、映像を中断しただけで音声はリスナーに届いていて。コメント欄では、僕の嘘がバレつつあった。
[え? フラットってデ・ロワー所属2期生ファイターじゃないの?]
[どゆこと? 意味不明すぎて置いてきぼり」
やばいやばい。デ・ロワーの名前を借りてたのがバレる。ていうか、あの建物がデ・ロワーの名前を使ってたってことは…。もしかして、ナックルさんって!
「ったく。後で話があるぜ。それじゃあ、いくぜ、後輩!」
「う、うん!」
うぅ、ナックルさんに怒られるとかいつぶりだろう。でも、協力なんてやったことないから楽しみだけどね。
「ペーター、遠隔指揮は任せたぜ!」
「? ペーターって?」
「いいから気にせず戦え! お前には指揮できねぇんだ!」
指揮とか、全然分からないんだけど。専門用語とか出されましても、僕にはさっぱり…。
「お前はいつも通りやれば良いぜ! 初の共戦、楽しみだ!」
「あ、うん。それじゃあ…。第二審判『
氷で固めたアリジゴクに、炎の裁きを与えた。アリジゴクの弱点は、体内に隠れている変なオーラを纏う球体状の
5体中4体のアリジゴクのコアが見えている。
「ナックルさん、任せるよ!」
「ナイスパスだぜ! 第一突進『光』術・『
弱点丸出しのアリジゴクとなれば、対処は簡単だよ。それに、あれだけの馬鹿力があるナックルさんなら、より簡単だし。
案の定、1番近くにいたアリジゴクのコアに向かっては突進し、連続して次は踏みつけ、また次も踏みつけて、最後の個体には全体重を乗せて殴りつけた。
鮮やかな動きで、一気に4体のアリジゴクのコアは壊れて、消滅した。
だけど、残り1体が残ってる。しかも結界を壊そうとしてる。ていうか…ほぼ壊れてね?
「ギシャアァ!」
「まずい! フラット、やつを対処…? まっずい⁉︎」
「まずいって…何が?」
「何がって、あれ“特級”だぜ⁉︎ お前じゃどうしようもねぇって!」
特級って言われても分かんないって。だから専門用語は通じないっての。もっと分かりやすく言ってほしいんだけど。
「あぁ~…いわゆる強敵だ。さっきまでの個体は脳を持たないが、コイツは脳を持つ。一筋縄じゃいかないぜ」
「ふぅん…。それなら、異世界モンスターと同じじゃない?」
異世界のモンスターなら脳を持つし。いやでも、アリジゴクが喰うものがモノだからなぁ。
「じゃあ、触手を切れば良いんじゃないかな? あれがなくなっちゃえば、攻めやすいよ」
「いや、そうだけどよ。それが簡単にできねぇ相手だから危険なんだよ」
「そう? 見極めれば簡単だよ。見てて」
僕は槍を握りしめて、特級と呼ばれるアリジゴクへ攻撃を仕掛けた。
それに気付いたアリジゴクは、体内に隠している触手を全て駆使して僕を返り討ちにしようとした。だけど、僕が持っているのは槍。バッサバッサと触手を切り払っていく。でも、触手はすぐに再生されていった。
「えぇぇ⁉︎ どうなってんの⁉︎」
「ここまで回復能力が高いってことはよ…。回復に脳を全振りしてるってことだ! フラット、そのまま触手を斬りまくってくれ!」
「わ、分かった!」
ナックルさんがそう言うなら、従うまで! 斬って斬って斬りまくる!
「ふっ、ほっ、ハァ!」
「喰らいやがれ! 対脅威用爆弾だ!」
え、爆弾なの⁉︎ ちょ、こっちも危ないじゃん! どうしよ、逃げようにも触手攻撃に隙がないせいで避けきれない。
「フラット、そのままでいろよ!」
「え、うわぁ⁉︎」
ナックルさんは爆弾を投げ終え、すぐさま僕の背中を引いてアリジゴクから距離を置いてくれた。
その数秒の間に爆弾は爆発し、アリジゴクに大ダメージを与えた。
「よっしゃあ! これでどうだ!」
「グルル…ギッシャ!」
「え…効いてない⁉︎」
「ギッシャアァァ!」
何事もなかったかのように、アリジゴクは僕達目掛けて突進してきた。
でも、待てよ? 相手はアリジゴクなんだ。コアさえ見つけられれば、それで良いわけだ。なら、やっちゃおう!
「いっくよ~! 僕のリスナー様、お待たせいたしました! これより、本日のシメに入らせて頂きます。では…! 第一創造『
「ギシュ⁉︎」
アリジゴクの周りにある木の枝。その先端が刃物のように一瞬で鋭く成長させ、アリジゴクの身体を突き刺した。
いくら回復力が高いとはいっても、これなら!
「スッゲェ…! こんな戦法、俺じゃできねぇ!」
「ナックルさん! 一緒にやるよ!」
1人よりも2人のほうが効率もいいし、支援力も稼げるし、なにより僕達らしいじゃん!
「オーケー! 一緒にやってやろうじゃんよ!」
「うん! ソゥ~…レィッ!」
「ドウリャアァァ!」
僕の槍、ナックルさんの猛突進。この2つの力が、異なる方向から加わったことにより、隠れているコアに大きく反響した。
つまり、間接的に壊すことに成功し、特級のアリジゴクは消滅した。
「…や」
「「やったァァァ!」」
かなり苦戦したけど、その分勝ったときの喜びは大きい。今まで1人で戦闘してたから、ここまで喜ぶこともなかったけどね。
だから、この勝利の喜びは忘れられないと思う。ずっと、ずっと。
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