第2話 東京大学附属浅草支大学院
走ること5分、僕達は息を切らしながら浅草大学に辿り着いた。飲み食いもせずに全速力で走ったせいで、今にも倒れそうなほどに疲れた。それに比べて、ナックルさんは余裕そうだ。流石はフットボール部所属、体力はバケモノ級だよ。
「ったく、これくらいでへばってるようじゃ、まだまだだな」
「良いでしょ、僕は帰宅部だし」
『あら、お2人とも。ごきげんよう』
話しているところに、貴賓のいいお
「バジー教授、おはようございます。今日も校門で挨拶ですか?」
「え、えぇ。それにしても、わたくしを教授なんて呼ぶなんて珍しいですわね。いつもは呼び捨てですのに」
「そうだよな? なんだ、
「ち、違うよ! 疲れすぎてついね」
本当は違う。教授だから、教授って呼んだ。いつもそうしていたはずなのに、なんでだ?
まあいいや、記憶整理でも。バジー・ケプラ、空想物理学と天文学に詳しい薬学部の教授。ベージュの天然パーマで、メガネを外した姿は浅草大学1番の美女という噂も。
うん、やっぱり正常だね。これで大丈夫って確認できたし、病院は良さそうかな。
「それよりも、お2人は急いだほうがよろしいですわ。あと20分くらいで講義が始まりますわよ」
「はい、それでは失礼します」
「また後で会おうぜ、それじゃあな!」
バジーに急ぐように言われたから、潔く僕達は講義室に急ぐことにした。
そしてエレベーターを使って5階の奥にある、20人分程度の共用椅子と机が並べられている講義室に入り、僕たちは空いていた1席に隣同士になるよう腰を下ろした。
中には、もう講義を受ける6人の生徒でいっぱいだった。
「なんとか間に合ったね」
「この時間の講義は人が少なくてラッキーだぜ!」
「それで遅刻したら早い講義にした意味ないけどね」
「それじゃあ講義始めるぞ~。それと、課題レポートの提出受付開始したから、今から20分以内に提出しておくように」
あ、そうだっけ。課題出されてすぐに書き終えたから、たしか「提出用」ってファイルの保存しておいたはず。
あ、あったあった。そういえば、いつもならナックルさんが「写させてくれ~!」とか言ってきそうなのに、今回は何も言ってこなかったな。忘れてないといいけど…。一応、聞いてみるか。
「ナックルさん、ちゃんとやった?」
「もちろんだぜ! カバンからパソコン出して…?」
「ナックル? カバンはどうした?」
「げっ…」
あ~…。これは、やっちゃったな。慌てるあまりに、カバン置いてきてる。
仕方ない、目立たないように取りに行ってくるか。その前に、提出しちゃってと。
「先生! お腹痛いので、お手洗いに行っても良いでしょうか?」
「あぁ…。提出できてるな、行っていいぞ」
「はい、失礼します」
「え、おい! 俺のカバンはどうすんだよ⁉︎」
「なんとかするから安心して待ってて」
ナックルさんを安心させられるように、教授にバレないように肩を3回優しく叩いてから、僕は講義室を出た。
そして近くの男子トイレに入って個室の中へ入り、小さく深呼吸した。そして、壁に手を当てて精神を集中させた。
僕の手から水色のオーラが放たれて、壁に穴をあけていく。その穴の向こう側にあるのは、僕とナックルさんが暮らす寮。そこに、無造作に置かれた、緑色のナックルさんのリュックがあった。
「よし。誰も、いないよね? それじゃあ、入ってと」
穴を潜って、ナックルさんのリュックのショルダーを掴み、僕は戻ろうとした。
だけど、見返した穴の先にあったのは、個室トイレじゃなくて、夢で見た、あの真っ白い空間だった。その中から、あの白獅子獣人男が出てきた。
「え、ど…どうなってるの⁉︎」
「いやはや、予想以上にその身体に慣れましたな。いえ、当たり前と言えば当たり前でしょう、フフフフ…」
「あれは…夢じゃなかったの⁉︎」
これは紛れもなく現実だ。走った後のあの感覚、あの苦しさ。これは、間違いなく現実。どういうこと? 本当に僕は異世界転生でもしたの?
でも、そしたら普通は子供になるはずだよね? なんで大学生?
「混乱させてしまって申し訳ない。ですが、今1から話すのは早すぎる。今回はあくまで様子見です。それでは…」
白獅子獣人男がその真っ白い空間に戻ると、穴の先は個室トイレに戻っていた。
あれ…? 今、何してたっけ?
「そうだ、これ届けないと…って、こんなの持って講義室入ったら、絶対怪しまれるじゃん! どうしよ、どうしよ…! そうだたしか、このトイレの下って…」
僕は個室トイレから出て、窓を開けた。やっぱり、そこにはキュウリ畑がある。
これなら、僕の力で。その前に、近くに人はいないよね。それじゃあ…。
「神業・急成長!」
キュウリのツルを僕の力で伸ばして、上手いこと操りながらトイレの窓のほうに成長させた。
そして、ツルにナックルさんのリュックを結んで、そのまま講義室に向かって成長させた。
「これでよしっと! それじゃ、戻ってよ~」
僕は手だけ洗って、講義室に戻った。だけど、自動扉の向こうからざわつく声が聞こえる。
「? どうかしました?」
「フラットか、いや…あれがな」
「あれって…あ」
そうじゃん、僕がやったってこと誰も知らないんだから、これじゃあツルが自我を持って動いてるみたいに思われるよね。
仕方ない、僕がやったことだし自分で解決するか。たしかハサミ持ってきてたはず…。
「ナックルさん、窓開けて」
「…お前なぁ」
ナックルさんと僕だけの秘密。僕の力は目立つから、あまり使わないようにしてるんだよね。
ぶっちゃけ、こういう力は、ほとんど誰しもが持ってるんだけど。
「ほい、退治は任せたぜ」
「うん。ほいっと」
ナックルさんのリュックを渡せられるように、僕はツルを切った。それと同時に力を使うのをやめたため、ツルはそのまま地面に向かって落ちていった。
「ふぅ~。で、ナックルさん。リュック持ってきたよ」
「ん? どういうことだフラット? お前、トイレ行ってたはずだろ」
「あ…」
完全にそのこと忘れてた。なんて言い訳しようかな…。いや、正直に言おう。
でも、そうするとこの力のことバレちゃうし…。
「すみません! 俺が便所行ったときに置いてきただけで、フラットが代わりに取りに行ってくれただけです!」
「ナックルさん…」
正直助かった。僕じゃ、そんな口実できないよ。嘘とか苦手だし、いつもは嘘を許さない側だから。
「なるほど。そうなると、ナックルには追加の課題だ。この問題、解いてみろ」
「えぇ~っ⁉︎ フラットのせいだぞ!」
「リュックを置いてきたナックルさんの自業自得でしょ!」
講義中に口論を始めた僕達。その結果待ち受けていたのは、講義妨害による罰。
その内容は講義室の清掃と教授が監督をしている野球部の球拾いだった。
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