第14話 この身がどうなろうとも

 結局、エドを見つけられなかったや。それに、僕も講義があるから、仕方なくお昼になってエドを探すのをやめて浅草大学に来たけど…。


「お前はこれで遅刻何回目だ!」

「いやぁ、スケジュールが前倒しで…」


 どこかで見たことがあるような男子が、厳しいで知られてる熊型獣人のベアード教授に叱られてる。

 まあ、黙って入ろっと。


「ちょ、お前! 助けてくれ!」

「うわぁっ⁉︎」


 無視して過ぎようとした僕の腕を、その生徒が強く引っ張った。

 そして、何も力を入れていない僕はその力になされるまま、後ろにのけぞりかえった。

 で、そのせいでベアード教授にぶつかってしまった。


「イッタタ…何すんの⁉︎」

「わ、悪りぃ…」

「っ、松尾タクマ! お前に反省レポート8枚の罰だ!」

「ゲェっ⁉︎お前のせいだぞ!」

「はぁ⁉︎ 十中八九 そっちのせいでしょ!」


 僕に責任転嫁するなんて。言い方悪いけど、被害者は完全にこっちなんだけど! 教授の罰がちょうどいい塩梅だよ。


『何やってんの? 講義室入れないんだけど…? あっ、フラットでしょ、君!』

「え…えぇ~⁉︎ ヒナちゃん⁉︎」


 デビューしたばかりの単独アイドル、綾川ヒナ。ライム色の髪に光の加減で色を変える瞳。

 彼女の瞳は太陽系外にある、昆虫の始まりの惑星であるバグーラ星出身の特徴なんだよね。


「教授、何やってたの?」

「ヒ、ヒナちゃんには関係ないよぉ、デュフフ」


 えっ。ちょ、ベアード教授? あなた、その話し方…。気色悪いとかのレベルじゃないんだけど。


「もうタクマ、こんな場所にいたら講義遅れるよ! 行こっ!」

「あぁ、そうだな…」

「あ、ヒナちゃ~ん…」


 ハハ、流石はアイドル。キモいファンに対しての扱いに慣れてらっしゃる。

 ていうか、ベアード教授の裏の顔、知りたくなかったなぁ。

 まあいいや、僕も入ろっと。 




 ~講義室~


 今日は廊下側と窓側の席が1人用、講義室中央の席が2人共用の席の、30人くらいの生徒が入れそうな講義室。

 だけど、もう窓側も廊下側は満席で、残っているのは中央の、後ろから2列目の席。隣は空席だった。


「よいしょっと。ふぅ~…パソコン出してっと」

「お、俺たちの前か」

「そこしか空いてなかったもんね」

「あ、さっきの。ヒナちゃんと…大騒がせなやつ」

「大騒がせとは失敬な! 俺は有名俳優の松尾タクマ! もちろん知ってるよな?」


 え、ごめん。知らないよ。あんまりドラマとか見ないっていうのもあるけど、エンタメニュースでも聞いたことない。


「なんだよその顔。ちぇ、俺ってそんなに無名かよ」

「そうじゃなくって! 僕って、そういうのに疎いからさ」

「…フラット、何か迷ってるんじゃない?」

「えっ…」


 ヒナちゃん、よくテレビで「人の目を見るだけでその人の気持ちが分かる」って言ってたけど、本当みたい。


「私で良かったらあとで聞かせて。それじゃあ講義受けよっか」

「うん」

「ふわぁ~…めんどくせぇな、講義とか」


 まったく、遅刻してその態度って。ナックルさんじゃないんだから。

 でも、そういえば、あの変態教授が、「遅刻何回目だ!」って言ってたしなぁ。そういうことか。

 さて、教授も来たし…ってあれ? そういえば、この講義ってナックルさんもいるはずなのに、いないじゃん。どうしたんだろ?




 ~講義終了後、食堂~


「ふぅ~ん。服をプレゼントしたら怒らせちゃったのか」

「うん。どうしたら良いのかは分かったんだけど…なんて言えば良いのかなって」

「あぁ~…難しいねぇ。でも、そういうの、私とタクマの間でもあったなぁ」

「そのときどうしたの⁉︎」

「え? 成り行きで気付けばどうでも良くなってたよ」

「ズコッ!」


 そういうラブラブ関係の展開は無理だから、普通の答えが欲しいんだけどな。


「そういう悩みだとなぁ。自分で解決しなさい! 以上、じゃ!」

「え、えぇっ⁉︎」


 頼れるお姉さん感はどこへやら。ヒナちゃんは問題を放棄するように駆け出していった。

 でも、言っていることはその通りだし、自分で解決してみるか。


『キャッ⁉︎』

「え、ヒナちゃん⁉︎」


 エレベーターホールのほうで、ヒナちゃんの声がした。何かあったのかと思い、すぐに向かった。




 ~浅草大学、エレベーターホール~


「ヒナちゃん⁉︎」

「あ、フラット。ナックラーが倒れちゃってて。しかもすごい汗に湯気まで…」

「あぁ~…予想ついた。じゃあ、僕はナックルさん背負って-」

『緊急警報! 緊急警報! 浅草上空に空間のひずみが発生!』

「今⁉︎ でも戻ってる余裕が…」


それなら任せてよ。私とタクマでなんとかしておくから。フラットは早くね!」

「うん、じゃあ任せえぇ⁉︎」


 その言動ってことは、まさかヒナちゃんとタクマってファイターなの⁉︎ 

 って聞く間もなく、飛び出して行っちゃった。ファイターなら当たり前の行動だし、そうなのかも。よし、ナックルさんを背負って、と。


「重~い! でも、行かなきゃ!」


 僕だってファイターだ。どんな事情があっても、絶対に人命に関わる今が優先なんだ。

 この身がどうなっても。それが僕の思うファイターだ。

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