第8話 チームとして戦うということ

 ~デ・ロワー中庭~


 よし、バイクの準備よし。作戦会議なんてやってたら、死者だって出るかもしれない。

 悪いけど、僕は人の命を黙って見過ごしたくない。作戦なんてその場で考えれば良いし、やれることをやり尽くす。それが僕の戦闘だ。


「リミッター解除、フライトモードオン、反重力ユニット起動! よし、いける!」

『フラット~っ!』

『抜け駆けはなしっすよ!』

「2人とも……!」


 作戦会議を続けるかと思ってたのに。ていうか、僕のバイク3人乗りできるかな。


「俺はチャリがあるからそれで良いぜ! エドを乗せてってやれ!」

「とかなんとか言って、ただ単に-」

「駄弁ってる暇ないんじゃないっすか?」

「っと。それもそうだね。じゃあ側車に乗って! 一気に行くから! で、ナックルさんは…いないし」


 さっきまでナックルさんがいた場所を見返すも、そこにはただ草が生い茂って風にたなびいているだけだった。

 仕方なくバイクの方を振り向くと、エドが既に側車に座って、両手に“ツメ”を装備していた。


「逃げたか。エド、ジェットコースター好き?」

「まあ…速いのは好きっすよ?」

「じゃあ大丈夫だね。でもさ、とりあえずそのツメ、仕舞えないかな? 運転席にまで伸びてるから」


 これじゃあ運転中に突き刺さっちゃうよ。しかもめっちゃ鋭いし。


「それもそうっすね。それじゃあ、よっと」

「え、すっごい! そんな長いツメ、仕舞えるんだ⁉︎ って、驚く暇ないか。それじゃあ、行くよ!」


 いつもよりもこのバイクのハンドルを握る僕の心が踊りに踊る。楽しみで仕方がないんだ、誰かと力を合わせて戦うなんて。


「行くよ! 振り落とされないように、シートベルトちゃんとつけてね!」


 僕の改造バイクあいぼうは、2秒の加速で音速を超える最高速度まで達する。

 ことのつまり、防護メガネをかけて、重装イヤーマフを着けて、緊急用有機ガムを噛んで、振り落とされないようにしないと、死ぬってこと。

 いやぁ、この改造はバレたら逮捕案件だよなぁ。まっ、エドもその対策は疑いなく全部やってくれたし、良いや。


「ダァァァ⁉︎ ちょ、えぇぇぇぇぇえっ⁉︎」

「見えた! しっかり捕まっててよ!」


 燃えさかる花やしき公園。その炎を見て、なぜか僕は本能的に突っ込んだ。

 だけど、僕の腕をエドが咄嗟に引いた。


「危険っすよ! それに、カメラが壊れるっす」

「あ、そっか。ごめん、ありがとう」


 危ない危ない。我を忘れて飛び込んだりしたら、エドがケガしちゃうよ。僕1人じゃないんだ。

 とりあえず安全なところに降りて、と。これでよし。


「ひどい有様っすね。でも、良いザマっすよ。ニンゲンの作ったものなんて、たかが知れてるっす」

「エド…」

『そいつは聞き捨てならねぇな、エド。それでも…テメェ、ファイターかぁ⁉︎』

「グハァ⁉︎」


 僕の背後から歩いてきた誰かが、そう語るエドを思い切り殴り飛ばした。

 そのくたびれた服、それでその人がナックルさんだと気づいた。


「ちょっ、殴らなくたって!」

「いいや、これぐらいはしねぇとな! 今のエドの言葉、お前だって納得できねぇだろ!」

「…ううん、それは判断できない。しちゃいけない。それより、納得できないからって暴力振るうナックルさんに納得できてないよ」


 僕だって納得はできていない。だけど、それを正しいかどうかは判断できない。だって、僕の力は、“法をつかさどる神、テミスの力。

 そうだけど、だからこそ簡単に独自の判断で正しいって思っちゃいけない。なぜそう被告人はそう思ったのか、その行動に移したのか。それを知った上で判断するのが僕の#使命__・__#。

 それが、僕の思いで、責任感だ。それが僕なりの#正しい__・__#なんだ。


「ナックルさん。今は仲間割れしてる場合はないでしょ! その反省はオフィスで! 僕達は1人じゃないんだよ! みんなで戦うなら、こんなことして良いわけが-」

「もう良いっす! 勝手にすれば良いっすよ!」

「あぁ、勝手にさせてもらうぜ!」

「…あのさ!」


 これはもう、言って聞かせるしかない。よくこんな関係でファイターやってこれたよ。


「つまんない喧嘩してる間にも、脅威は暴れてるんだよ⁉︎ それを放っておいてでも喧嘩したいならお好きにどうぞ! そんなファイターがいる企業、こっちから願い下げだよ!」

「……それは…」

「正直、嫌っすね…」


 やっと落ち着いたかな。まったく、言いたくもないこと言ってる身になってよ。

 心が痛いっていうレベルじゃないんだからね。


「分かったらさっさと戦闘準備! これじゃ早く着いた意味ないじゃん!」

「そうだな。フラット、急ぐぜ!」

「俺も行くっす! カメラをやるって、決めたっすもん!」

「うん。やっと覚悟を決めたね。やるよ!」

「「了解!」」

「…って、俺が隊長だっつの!」


 あ、そうだっけ。つい隊長気取っちゃったよ。ま、いっか。空気変わったし、そのまま暴れる脅威の群れのもとに辿り着けたし。

 これでやっと、チームで戦えるよ。僕が一喝入れるの、いつぶりだろう。でも、ちょっと刺激的で楽しいから良いけど。

 それより、戦闘か。僕の実力、2人どころかさらに多くの視聴者に見せられる大チャンス。絶対に逃さないよ!

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