第9話 僕の戦い方

 脅威の口が現れているのは花やしき公園の中央部、いわゆるアミューズメントパーク施設が並ぶ場所。

 まだ子供連れの人が避難しきれていない。そして今回現れた脅威は、鳥型の巨大な“異世界モンスター”。身体に炎を纏っている。


「こんなに逃げ遅れたやつがいると、戦闘なんかできないっすよ」

「任せて! フィールド展開!」


 僕の神力を、燃える鳥の足元を中心に仕掛けて、そこから円形に結界を展開した。

 もちろん、それは抵抗する術を持たない、怯えている人は入れないようになっている。つまりは、結界の展開とともに、逃げ遅れた人は結界の外側へと押し出される。

 そして、僕達もだけど、敵も結界の外には出られない。これで戦いやすくなるよ。


「凄いっすね。これ、凄いっす!」

「エド、興奮するのは良いけどよ、カメラ握り潰すなよ」

「それやったのはナックラーさんっすよ!」

「え、カメラ壊したの? 握って? ナックルさん、筋肉ダルマってレベルじゃないよそれ」


 こんな状況下で雑談してる僕達も相当イカれてるんだろうけどね。


「まっ、いくぜ! ついてこいよ! ペーター、指揮は任せたぜ!」

「そ、それが…フラットくんの結界が、指揮を遮っているんだ。すまないが、個人の判断に任せるしかない」

「はぁっ⁉︎ マジかよ…」

「それなら、今回の戦闘。僕に任せて!」


 僕ならあれくらい倒せる。こっそりとでも、相手してきたんだもん。倒せないわけがないよ。


「自信満々なのは良いことだが、油断するな。敵の詳細が分からない以上、無闇に突っ込むわけにはいかねぇ」

「何言ってんの? 分からないから突っ込むんだよ。いくよ~っ!」


 僕は勢いよく飛び出した。異世界モンスターを相手にするときは、いつもそうしてるんだから。

 そうでもしないと、敵の攻撃手段とか、素早さとか、何も分からないもん。

 加えて、こういうハラハラした演出をすると、視聴者からの支援力も多くなるし。


「クウェアァァ!」

「うおっと⁉︎」


 コイツも突っ込んでくるのか。だけど、初めてオフィスに入ったときに見てた動画で学んだからね!

 敵が目の前に攻撃を仕掛けたら…しゃがむ!


「クエ⁉︎」

「その熱そうな身体、冷たくさせてあげるよ! ソゥレ!」


 僕は槍を手に握って、それを鳥に突き刺した。だけど、もちろん抵抗しながら飛び回る。

 だから、ファイターキットの1つ、飛行を可能にする“フライトシューズ”を使って、刺さった槍を離さぬように僕も宙を飛んだ。


「スッゲェ、あんな戦闘、普通じゃできねぇぜ! アイツ、ゼッテェ成長するぜ。俺が断言する!」

「俺知ってるっすよ。フラットの戦い方は、ただの真似っす。だから-」

「だからスゲェんだ! 他人の真似で咄嗟にこなせるやつなんて、いやしねぇよ! だが、アイツはやってやがる。あんなスゲェやつだったか?」


 僕が頑張ってる間に話し合ってるの、なんか気に入らないな。でも、集中しないと!


「よし、これだけの支援力が集まれば! 神業・温度低下!」


 突き刺さった槍から、鳥の体内に僕の神力が入り込む。その神力は、燃えさかる鳥の身体の体温を冷やし、体力を奪っていく。


「よしきた!」

「サンキュー、フラット! これならいけるぜ!」

「ん? ナックラーさん、後ろっす!」

「なにぃ⁉︎」


 まだ脅威の口は開いていた。その中から現れた、この鳥より一回り小さい群がる6羽の鳥。

 それらが、ナックルさんを覆って攻撃している。


「傷害罪だね。それなら、神業・束縛!」

「「きぃっ⁉︎」」


 僕の神力は、明らかに罪であると認めない限りは無効。だから、こういう風に目の前で罪を犯さなければ何もできない。

 まあ今回は目の前で攻撃してくれたおかげで、簡単に身動きを止められたよ。


「す、すまねぇ。助かったぜ」

「とりあえず、こっちは相手しておくから、ナックルさんはデカい方お願い!」

「だから隊長は…。いや、分かったぜ。エド、俺達が映えるように撮影頼むぜ!」

「任せられたっす!」


 こんな可愛いサイズの小鳥を討伐するなんて、したくないけどやるしかない。

 だって、今までそうやって…? あれ、今まで僕、戦ってきたんだっけ?

 思い返すと、僕って戦ってきた…はずだよね。なのに、なんで#ファイターの背中__・__#の記憶しかないんだ?


「フラット、危ねえ!」

「なっ⁉︎」


 僕が気を抜いているうちに、小鳥たちの制限をしていた僕の神力が弱まって、切れてしまった。


「まずい…!」

「アイシングスラッシュ!」

「エド⁉︎」

「…? エド!」


 僕の目の前に、冷気を放つツメを使って小鳥を切り裂くエドの姿があった。


「まったく、戦闘中になってるんすか⁉︎」

「ごめん、つい…」

「にしても、エド! カッコよかったぜ!」

「かっこいい…? 俺がっすか?」

「うん、すっごく…! ナックルさん、後ろ! 危ない!」


 ナックルさんが鳥から目を離した隙に、鳥はナックルさんに向かって燃える羽を吹き飛ばしてきた。

 反射的に、僕が思わずその攻撃に向かって指差すと、光の筋が現れた。

 それに驚くように、鳥は攻撃をやめた。


「え…は、お前。指揮者…?」

「今の光、間違いないっすよ」

「指揮者って…いつもこうしてたような…?」




 ♢♢♢白獅子獣人の部屋♢♢♢


「ふふっ、始まりましたね。『本当のあなた』の出番ですよ、フラットくん?」


 

 戦闘中のフラット達が映るガラスドーム。そのフラットの中には、あの光がより強く輝いていた。

 全てはこの男の仕業だということを、誰も知ることはなかった。

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