第7話 素敵なお店を手に入れた

 錬金術師の試験が終わった。

 残った全員が無事に合格し、錬金術師となった。唯一、わたしは『宮廷錬金術師』になり、ついに夢を叶えた。


「わぁ~、この錬金術師の服……自分ではないみたいです」

「とてもお似合いですよ、アザレアさん」


 鏡に映る宮廷錬金術師の服装。ドレスみたいにとても綺麗で華やか。こんな可愛い服が着られるなんて嬉しい。嬉しい……すごく嬉しいっ!


「ありがとうございますっ」

「こんな立派な姿が見られるとは、私としても嬉しいですよ」

「イベリスさんのおかげです! わたし、これからもがんばりますから」

「ええ。ここからが本当のスタートです。まだやるべきことが沢山ありますからね」


 まだホムンクルスだって造っていない。

 露店とか出してみたいし、ダンジョンへ行って冒険だってしたい。やりたいこと、まだまだたくさんある。全部できるよう、自分を研磨けんましていかないと。


 試験が終わり、私とイベリスの二人だけになった。


 これからどうしようかと悩む。すると、小型化したフレイムフェンリル・ゼフィランサスを連れたイベリスが爽やかに現れ「合格祝いを渡したい」と言った。


「渡したいものですか?」

「ぜひ来て欲しい」


 断る理由はない。わたしはイベリスについていく。


「どこへ向かわれるのです?」

「まずは馬車へ。ゼフィランサスが連れていってくれますから」


 そう言われ、わたしは馬車へ乗り込んだ。

 イベリスと出会って以来の馬車。……あ、そういえば田舎の実家はどうなっているだろう。今頃、両親は心配しているかも。


 いえ、どのみち今は戻れない。

 いつか会いに行けばいい。

 その時、謝ろう。


「……」

「元気がありませんね、アザレアさん」

「わたし、家出をして来ているので……なので、少し心配になったんです」

「ご安心ください。グラジオラス家には連絡済みですから」

「え……本当ですか?」

「私が面倒を見ると言ったら、ご両親は涙ながらによろしくと。特にお父様は激怒どころか意気消沈してしまっているようで、本当に“申し訳ない”と反省しているようですよ」

「……そう、でしたか」


 そっか、お父様は分かってくれたんだ。わたしが結婚よりも夢の方が大切だってこと。 おかげで不安が少し取り除かれた。

 でも、いつか話に行かないと。


 そんなことを思っていると、馬車はある場所で止まった。


 ここは……露店街の中心?


 馬車から降りると周囲は活気に満ちていた。商人がたくさん。鍛冶屋や錬金術師、ペットのモンスターもたくさんいる。踊り子も日銭を稼ぐ為に踊っている。


「ここはポインセチア帝国一番の大広場・ローゼル区域。帝国内で一番商売が盛んな場所です。ここなら直ぐに評判も広まり、上手くいけばお金持ちになれますよ」

「へえ、何度か通ったことありますけど、そんなに凄い場所だったんですね」


 イベリスの後をついていくと、素敵なお店の前に到着した。看板は――ない。あれ、ここお店じゃないのかな?

 閉店しているようだし、お客さんもいない。

 そんなお店の中へ向かうイベリス。

 わたしも後を追う。


 中へ入ると、やっぱり誰もいない。


「お店が無事で良かったです」

「こんな凄い場所にお店があるのに、なにもないのですね?」

「ここは弟子にプレゼントしようと思っていたお店なんですよ」

「……へ、それってつまり」

「そうです。アザレアさんにこのお店をプレゼントしたいんですよ」


「…………!?」(突然すぎて石化するわたし)


 え、ええッ!?

 なにこれ、夢なの?


 思わず自分の頬をつねってみると痛かった。……うん、夢じゃない。現実。



「あはは、夢じゃないですよ。ぜひ、アザレアさんに使っていただきたいのです」

「ま、まさかお店をもらえるなんて……信じられません」


 普通、プレゼントにお店とかあげないと思う。予想外すぎてわたしは、まだ実感が沸いていない。それどころか、震えが止まらない。


 極度の緊張状態に陥り――わたしは直立不動のまま倒れた。



「…………あぅ」

「アザレアさん!? アザレアさん、しっかりしてください!!」



 ……意識が……遠のいて……いく。



 …………はっ。



 目を開けると、頭痛に襲われた。そっか、わたし倒れて……ここは?



「……ん、どこですか」

「目を覚ましましたか、アザレアさん」

「あれ、わたし……って、イベリスさん!」



 目の前にイベリスの顔があった。

 どうやら、わたしは彼に膝枕ひざまくらされていたみたい。ど、どうしてこんなコトに!?


「申し訳ありません。どうか、この状況をお許しください」

「なぜ、膝枕なんですかッ!?」

「その、クッションとかこのお店にはなくて……固い床に寝かせるわけにはいかないと思って。不快に思われたのなら謝罪いたします」


「いえいえ! とんでもありません! むしろ、嬉しいというか……いえ、その、なんでもありませんっ」


 なに言ってるの、わたし~!

 恥ずかしくて死んじゃいそう……。

 と、とにかく離れなきゃ。

 体を起こして、わたしはイベリスから離れた。

 高鳴る鼓動、乱れる息を整えていく。

 ……ふぅ、幸せだった。って、そうじゃなくてっ。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!」

「では、お店の中をご案内しますので」

「そうですね、お願いします」


 まず、素敵なカウンターと陳列棚。ポーションなど薬品がたくさん置けそう。それからお店の奥へ進むと……。


「ここが工房アトリエです。ポーションやプラントの調合をする場所ですね」

「わぁ、素敵ですっ! ここは道具がそろっているんですね」

「全部、アザレアさんのモノです。自由に使ってください」


 それから、奥にあるキッチンやお風呂、二階の三室もある寝室を見せてもらった。どこも広くて快適。しかも眺めも最高! 立地条件がよくて住み込みもできるとか、夢のような場所でテンションが爆上がりした。うん、最高!


 案内が終わって一階へ降りると、なぜかお客様がいた。わたしよりも年下の女の子だ。しかも、猫耳も生えてるような。


 でも……まだ看板もないのに、どうして。


「あの~、アザレアさんのお店ですよね?」

「そ、そうですけど……まだオープンの予定もないですよ?」

「おお、やはり! さっそくポーションを作っていただきたいのです!」


「え!?」


「実は、私はポインセチア帝国のブルースター騎士団の騎士団長を務めております、プリムラと申す者。あなたが宮廷錬金術師になったという噂はもう騎士団にも轟いているんですよ~。ぜひ、騎士団うちと契約して最高品質のポーションを供給していただきたいっ!」


 とんでもない提案に、わたしはまた気絶しそうになった。も、もうそんな噂が広まっているんだ。早すぎでしょ……!

 でも、そっか。試験会場にあれだけの人がいたし、噂が広まるのも早いよね。それでも早すぎる気がするけど。


「これは凄いことですよ、アザレアさん」

「そうなんですか?」

「これはつまり、騎士団との専属契約を結べるということ。滅多にないことです!」

「ひぇー! そう言われるとなんだか重く感じました……」


 話を受けるかどうか……うん、悩むまでもないよね。こんなチャンスはない。

 お店を安定させるなら、手っ取り早いし……お金も欲しい。イベリスに結構な借金もしちゃっているから、返済もしなければ。

 わたしは契約の話を進めることにした。

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