第15話 エルフ聖女マーガレットの依頼
事情を聴くとノイシュヴァンシュタイン卿は、ブルースター騎士団の副団長と判明した。
「そういうわけでね、プリムラに頼まれて錬金術師を探していたんだ」
「そんな理由が! でも、イベリスさんに頼めばいいのでは?」
そう疑問に思うと、イベリスが首を横に振った。
「残念ですが、私は皇帝陛下の為に尽くさねばなりませんので」
「あ、そっか」
陛下直属だっけ。
命令によって行動が制限されているのかも。
ノイシュヴァンシュタイン卿も納得している様子だった。
「助かったよ、アザレアさん。では、自分は戻らねばならないので」
「いえいえ、本当にありがとうございました。プリムラさんにもよろしくお願いします」
「ああ、伝えておく」
爽やかに去っていく。
となると契約は結んでいるし、もっとポーションを作らないとね。
ようやく落ち着きを取り戻し、わたしは改めてイベリスにお礼を言った。
「お疲れ様でした、イベリスさん。お手伝いしていただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、とても楽しい時間を過ごせました。こうしてお店を開くのも三年振りでしたからね」
「そんな前にお店を?」
「ええ、一時期経営していました。今は人材育成に力を入れているので」
あ、そっか。それでアルケミストギルドのギルドマスターを。転職試験の試験官をやっていたりするんだ。確かに、ポインセチア帝国の錬金術師は、まだまだ不足している。ポーションすら不足しているのだから。
「片付けをしますね」
「では、私もお手伝いします」
お店を閉めようとすると、誰かが慌てて入ってきた。じょ、女性……? しかも貴族の女性だ。可愛いドレスに身を包み、とても可愛らしくオシャレをしている。
「あ、あの! イベリス様! イベリス様ですよね!!」
「……君は?」
「わたくし、エイダと申します。直球に申し上げますと、イベリス様をお慕いしております!」
な、なんですって!?
こ、このコ、いきなり告白ってこと!
「エイダ? ああ、伯爵令嬢の」
「覚えてくださったのですね。毎日、お手紙を送らせていただいておりますが、目を通していただけているとは感激しかありません!」
え……そうなの。イベリスってばこの女性から手紙を……むぅ。
「ごめん、悪いけど手紙には目を通していないんだ。忙しくてね」
「…………へ。今なんと」
「手紙は最初の一通しか読んでいない。私が興味あるのは、アザレアさんだけだ」
なんだか普段よりも冷たい口調のイベリスは、エイダに牽制するように言った。あら、こんな彼ははじめて見た。ちょっと怒ってる?
「そ、そんな! こんな薄汚い錬金術師のどこがいいのですか!? 美しさのカケラもないでしょう」
薄汚い!? ヒドイ言われよう。
「手紙にも似たようなことが書かれていたけど、そういう偏見はよくない」
「本当のことを申したまでです。錬金術師なんて最底辺の職業でしょう」
「あのね、私はその錬金術師なのだが」
「イベリス様は、宮廷錬金術師なので例外です!」
なにその特別扱い!
意味分かんない。
段々と腹が立ってきて、わたしは抗議しようとしたけどイベリスが思いとどまるようにと視線で送ってきたので、わたしは足を止めた。
……どうして。
「アザレアさんも立派な宮廷錬金術師ですが」
「んなッ! そんな馬鹿な。こんな田舎令嬢が!?」
「もういい。エイダとか言ったね。君には消えてもらうよ」
「な、なにを!」
イベリスは懐から紫色の液体が入ったポーションを取り出した。容器の形もなんだか変わっていた。な、なにアレ……明らかに普通のポーションとは違う。
彼はそれをエイダに投げつけた。
って、投げちゃった!?
ポーションが衝突する前に弾けてバラバラになり、中身がエイダに掛かる。すると、エイダの姿が消えてしまった……。
え、あれ……どこへ行ってしまったの?
「あの、イベリスさん。彼女は消えてしまったのですか?」
「今のは特殊な『テレポートポーション』です。対象に投げるとランダムで転移させるという効果を持つんです」
「そ、そんな凄いポーションがあったんですね!」
「ほんの三日前に開発したばかりなんです。ここで役に立つとは……ああ、大丈夫。あれは本当にテレポートさせるだけで、彼女はきっと国内のどこかにいるはずですから」
国内で使用した場合は、街のどこかに転移させるみたい。凄いなぁ、そんなものまで作れるんだ。ワクワクする。
ちょっとしたトラブルに見舞われたけど、もうきっと大丈夫かな。
◆ ◆ ◆
お店の整理が終わり、その後、イベリスの作ってくれた晩御飯を食べ終えた。お腹いっぱい、幸せいっぱいになっているとお店の扉をノックする音が響く。……え、こんな時間に来客?
気になって向かってみると、そこにはシスター服の女性エルフがいた。わぁ、腰まで伸びる金髪が綺麗。
「……アザレア様ですよね」
「はい……どうしました?」
「緊急の討伐クエストをお願いしたいのです!」
「と、討伐クエストを? なぜ」
詳しく聞くと、彼女の名前は『マーガレット』という。この帝国では“聖女”として名高いのだとか。そんな人がわたしを頼ってくるなんて……。
討伐クエストは、パーティに参加したものらしく、仲間がダンジョンで立ち往生しているのだとか。そ、そんな大変なことに!
「ダンジョン配信を拝見させていただきました。アザレア様のお力ならきっと彼等を助け出せるかと! なので、力を貸していただけませんでしょうか。お礼はしますので!」
そんな必死にお願いされると断れないのが、わたしの性格だ。
「分かりました。ちなみに、どこのダンジョンですか?」
「東にあるオークダンジョンです。その名の通り、オークの支配するダンジョンでして……中でもドラゴンを操る『エンシェントオーク』がとても強くて……太刀打ちできないほどで」
え……エンシェントオーク?
名前からして、とても強そうなのだけど。
しかも、ドラゴンを操る!?
あ、あの
それ、ヤバすぎない!
「ちょっとお腹が痛くなってきました……」
「それならご安心ください。はい、ヒール!」
治癒魔法をはじめて見た。って、それをされたら仮病を使えない。仕方ないかー。これも人助け!
「な、治ったかもです」
「ほっ、安心しました。良かったです」
この純粋な笑みには敵わないな。
「では、その前にイベリスさんに聞いてきますね」
「分かりました。外で待っています」
黙って行くことはしたくない。
まずはイベリスに相談して行こう。
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