第16話 ダンジョン配信の力

 マーガレットのことをイベリスに相談した。


「ふむ、エンシェントオークですか。噂には聞いていますよ。恐ろしく強く、エルフを度々襲っているのだとか。それに、薬の原料になるハーブを独り占めしているようです」

「もしかして、それでポーションが足りないんですか?」

「原因ひとつですね」


 そうだったんだ。それで回復ポーションが高需要なんだ。


「イベリスさん、マーガレットさんの仲間を助けたいんですが」

「まさかこんなところで聖女マーガレットと出会うとは」

「知っているんです?」

「もちろんです。ポインセチア帝国の聖女といえば彼女ですからね。治癒魔法や転移魔法、聖属性魔法に長けているとか。そんな魔法を奇跡と呼ぶ方もいらっしゃいますね」


 へえ、知らなかった。ずっと帝国から離れて暮らしていたからなぁ。――って、感心している場合ではない。


「彼女の依頼を受けたいのです」

「分かりました。私も同行しましょう」

「本当ですか! 嬉しいです」

「ええ、二人だけで行かせるわけにはいきませんし、エンシェントオークは手強いので」


 良かった。イベリスも一緒に行くことになった。

 外で待たせているマーガレットさんのところへ。彼女はこちらに気づいて丁寧にお辞儀をした。


「お待たせしました、マーガレットさん」

「そちらがイベリス様ですね」

「ええ、こちら宮廷錬金術師のイベリスさんです。わたしの師匠です」

「……あら」


 なんだか意外そうに声を漏らし、マーガレットさんはイベリスの顔を見つめていた。……あれ、どういう空気?

 もしかして知り合いなのかな。


「はじめまして、マーガレットさん」

「え? あ……はい。別人なのでしょうか」


 どういう意味だろう?

 ちょっと気になるかも。


「事情はアザレアさんから聞いております。さっそく東にあるオークダンジョンへ向かいましょう」

「はい、ありがとうございます。では、オークダンジョンまでのディメンションポータルを出しますね」


 なにもない地面に手をかざすマーガレット。え、いったい何をするつもりだろう? 気になって注視していると、彼女は神秘的な光の柱を召喚した。


 こ、これは!?


「すごい輝き……」

「アザレアさん、このディメンションポータルに入るとオークダンジョン前に転移できます」


 そういうことなんだ。これが転移魔法なんだ。馬車もなしに一瞬でダンジョンへ行けちゃうんだ。聖女の力って本当に奇跡みたい。


 さっそく、わたしは光の柱の中へ飛び込んだ。


 数秒もしない内に見知らぬ廃墟にいた。暗くて視界が悪いけど、建物の中だということは理解できた。


 その後、イベリスとマーガレットもやってきた。


「これほどの転移魔法を扱えるとは、さすが聖女様」

「い、いえいえ。そのイベリス様もできるのでは?」

「その昔は聖職者を志していた時期もありましたけどね、もう出来ないですよ」


 え! そうだったんだ。知らなかった……。

 そんな過去があったなんて。

 ちょっと気になるけど、今は救出が優先。


 マーガレットの後をついていく。

 カビ臭い廃墟の中を歩いて突き進む。


 この建物……とても広い。

 まるでお城みたい。


 え、というか古城かな。


「あ、見えてきました。この先の部屋ですよ!」


 足を止め、指をさすマーガレット。この先に仲間のパーティがいるのね。それと強敵であるエンシェントオークも。


 わたしは爆弾ポーションを取り出し、握りしめた。


 いざとなれば爆破する!


 慎重に進むと、驚くべき光景が広がっていた。



「え……うそ」



 わたしはビックリして爆弾ポーションを地面に落としそうになった。……あっぶな。

 部屋の奥にはドラゴンを背にして眠るオークの姿があった。


「…………んごぉ」


 ね、寝てる?


「あのオークです! 間違いありません。でも、仲間が見当たりません……」


 慌てるマーガレット。確かに人の気配はまったく感じられなかった。いるのはオークだけ。どういうこと?


 わたしは爆弾ポーションを投げつけ、オークを起こした。



「んごふぉ!? ……だ、誰だ。このオレの眠りを覚ます愚か者は!」

「あ、起きた」

「ん? また人間か」


 エンシェントオークは人の言葉を話した。って、話せるものなの!?


「ああ、言い忘れていました、アザレアさん。モンスターの中には言葉を話す者もいますよ」

「そうなのです!?」


 それにしても、大きな体。強靭な肉体で、牙とか凄い。武器は大きな斧。それに飼いならしているっぽい大型のドラゴン。な、なんて恐ろしいの! こんなの聞いてない!


 混乱しているとマーガレットが叫んだ。



「オーク! わたくしの仲間をどうしたのです!」

「ん? ああ、あの時のエルフか。……悪いがお前の仲間は、オレの腹の中だ」


 腹を擦るオーク。……え、うそ。食べられちゃったの!?

 証拠であるかのように地面には骨が転がっていた。


「そ、そんな……」

「助けを呼んだようだが、遅かったな。エルフ、お前は美しいから特別にオレの嫁にしてやる。それと助けに来た……おぉ、これまた美人な錬金術師! 男はいらねェ」


 斧を持ち、こちらに向かって来るエンシェントオーク。いきなり襲ってきた……!


 なら、こっちは爆弾ポーションを投げつける!



「くらいなさい、このポーションを!」

「ん? そんなポーションでなにができ――ぶあああああああああッ!?」



 オークに命中して爆発を起こすポーション。煙が上がり、一瞬視界が悪くなった。やったかな……?


 視界が開けると、煙の中からオークが飛び出してきた。


 あれ、倒せてない!



「アザレアさん!!」



 寸でのところでイベリスが助けてくれた。危うく斧で真っ二つになるところだった。うぅ……怖かった。



「イベリスさん、ありがとう……」

「いいんですよ。貴女を守ると誓ったのです。だから!」



 フレイムフェンリルのゼフィランサスを呼び出すイベリス。大型化して、そのまま炎を吐き出した。それはエンシェントオークへ。す、すごい火力! これなら!



「そんな炎でオレは倒せないぜ。本物を見せてやる。エンシェントドラゴン! ファイアブレス!」



 オークは、ペットのドラゴンにそんな命令を下す。するとドラゴンは、口から海のような炎を吐き出し、ゼフィランサスの炎を飲み込んだ。うそー…。



「くぅ、ボクの炎では無理そうです。主様、申し訳ない!」

「いいのですよ、ゼフィランサス。こうなったら、力を解放するしか――」


 絶体絶命のピンチかも、そんな状況に陥ったときだった。

 背後から複数の人の気配を声がした。


 え、なんだろう?


 振り向くと、大勢の冒険者が駆けつけてきていた。



「え!? マーガレットさん、あの人たちは?」

「ああ、あの方たちですか! みなさん、アザレア様のファンですよ~。陰からずっと尾行していたので、ついでにディメンションポータルで通しておきました」


「えー!!」



 もしかして、ダンジョン配信の視聴者さん!?



「うおおおおおおおおお、アザレアさんを守れえええええええ!」「オークなんて俺たちの力を合せれば倒せるさ!!」「この人数なら勝てる!!」「視聴者大集合だ!!」「エンシェントオークをぶっ倒せ!!」「アザレアさんの為に!!」「そもそも、エンシェントークはエルフを奴隷にしてるって話だ!!」「ひでぇよな。人間も食っちまうし!!」「そうだそうだ、ぶっ倒せ!」「俺は聖女様の為に!」「この戦いが終わったら、俺はアザレアさんに告白するんだ……」「配信しておきますねー!!」「みんな!! 勝とうぜ!!」



 三十人ほどが集結。

 ス、スゴイことになっちゃったー!!

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