第22話 今日もポーションが売れて爆益!

 翌朝、目覚めの良い朝を迎えた。

 青空が迎えてくれて気分が最高だった。頭もずいぶんとスッキリした。あんなに重かった体も今は軽い。寝不足はやっぱり敵ね。

 ちゃんと睡眠を取らないとダメ。


 ふとテーブルに目線をやると、そこにはポーションが置かれていた。


 これは……?


 手紙も添えられており、それがイベリスからの贈り物だと判明した。



【これは栄養ポーションです。ぜひ、お飲みください】



 へえ、これはありがたい。

 わたしはさっそく栄養ポーションを飲んだ。


 ……甘くて美味しい!


 これはローヤルゼリーで間違いない。栄養満点で、虚弱体質や体の不調を整えてくれる。こういうポーションも作れるんだ。本当に凄い。


 サッパリしたところで、わたしは一階へ降りた。


 ちょうどイベリスがいて挨拶をしてくれた。



「おはようございます、アザレアさん」

「おはようございます。ポーション美味しかったです!」

「さっそく飲んでいただけましたか」

「はい。おかげさまで元気いっぱいですっ」

「それは良かったです。ああ、そうそう、今日の販売分のポーションをたくさん作っておきました」


 工房アトリエに案内され、向かうとそこには天井まで山積みになった木箱があった。す、すごい数! なにこれ!

 こんな光景ははじめてみる。


「え……これ全部、体力回復ポーションとか魔力回復ポーションなんですか!?」

「はい、これ全部です。マーガレットさんも手伝ってくれて。彼女の転移魔法は素晴らしいですね!」


 なるほど、マーガレットさんの転移魔法も応用したんだ。それでこんな山積みに。当の本人は工房アトリエの隅にある仮眠用ベッドで眠っていた。

 ずっとがんばっていてくれたんだ。嬉しい。


「ありがとうございます、イベリスさん」

「いえいえ、私ひとりだけの力ではありません。マーガレットさんにもお礼を言ってあげてください」

「はい、起きたら必ず伝えます!」

「そうしてあげてください。ちなみに、もうお店の前にお客様が……」

「も、もうです?」

「ええ。夜明けから待機組がですね」


 そんな朝早くから並んでるの!?

 そこまでしてポーションを欲しがる冒険者もいるんだ。でも、そこまで求められているのなら、ちゃんと売ってあげなきゃね。


「相変わらず看板のないお店ですけど、オープンしちゃいますか」

「そうしましょう、アザレアさん」


 わたしはお店の玄関へ向かい、さっそくドアを開けた。

 露店街の大通りに長蛇の列。

 えっと……五十人はいるかな。

 こんなに並ぶなんて嬉しい悲鳴!


 さっそくお客様を迎え、対応していく。



「今回は魔力回復ポーションの販売も開始しましたー! よろしくお願いしますね」



「おぉ、マジかよ!」「二週間ぶりの魔力回復ポーションじゃねえか?」「そうそう、最近はどこの錬金術師も売らなくなっちまった」「材料が高騰しすぎて作れてねえって話だった」「やっぱり、宮廷錬金術師のアザレア様なら余裕ってわけだな」「さすがだよな。この辺りの錬金術師じゃ一番だ」「彼女のポーションが一番質がいい」「今日も売ってくれー!」「魔力回復ポーションがあれば、魔法も使いたい放題だ」「ダンジョン攻略が進むよな~」「今日もアザレア様、可愛いなぁ……」「結婚したい」



 一組ずつ店内へ招き、わたしはポーションを販売していく。やっぱり、体力を回復するグリーンスリムポーションは飛ぶのように売れていく。そして、今回の目玉でもある魔力回復のイエロースリムポーション改もお買い上げいただいた。


 すごい、どんどん売れていく。

 積み上がっていた木箱も物凄い勢いで減った。


 なによりも感謝されることが嬉しかった。



「ありがとう、アザレアさん! また明日も頼むぜ!」「君の回復ポーションは素晴らしいよ」「いつもがんばって偉いな」「今度、お茶でもどうだい。お礼がしたい」「SSS級の錬金術師になったんだって? すげぇな。ウチのギルドに欲しいよ」「君のポーションをもっと世に知らしめたい。バレンシアに来ないか?」



 うわぁ、嬉しい。嬉しすぎる~!

 老若男女問わず、幅広い層がお店を利用してくれた。こんなに多くの人が来てくれるなんて、ホント、そろそろお店の名前をつけて看板を掲げないとね。


 そうして、お昼過ぎ頃には『完売』となり、在庫もなくなってしまった。


 今日も全部売れちゃった……。


 とんでもない利益を生み出してしまった。



「お疲れ様ですよ、アザレアさん。お見事でした」

「こちらこそ、お疲れ様です。イベリスさんもお手伝い感謝です!」

「やはり、まだまだポーションの需要は高いようですね。供給も追い付いていないようですし、他の錬金術師はいったい何をしているのでしょう」


 確かに、ちょっとヘン。

 こんなに儲かるなら、他の錬金術師もどんどん商売をすればいいのに。材料だって露店から仕入れたりいろいろ方法はある。


 不思議に感じていると、お店に誰か入ってきた。



「邪魔させていただきますわ!!」



 気の強そうな女性が入ってきて、わたしをにらむ。って、わたし!?



「い、いらっしゃいませ。あの、もう閉店なのですが」

「関係ないですわ! それより、貴女でしょう。辺境伯令嬢アザレア・グラジオラス!」

「ええ、そうですけど。なぜ御存知で?」

「ポインセチア帝国中で噂になっていますもの。名前くらい知っていて当然ですことよ。そんなことより……そんなことよりも、アザレア! 貴女のせいで、あたくしの商売があがったりですの! どうしてくれるのです!」


 意味が分からなかった。

 わたしとこの女性は初対面のはず。というか、名前も知らないし。


「えっと、どなたです?」

「これは失礼を。あたくしの名はエーデルワイス。エーデルワイス・マグヌス・マクシミリアン・フライヘル・フォン・ブラウンですわ。必ず記憶しておきなさい」


 名前、長っ……!

 ということは貴族ね。

 あれ、どこかで聞いたことがあるような。



「フライヘル男爵ですか」



 イベリスがそうボソリとつぶやく。

 だ、男爵……そうなんだ。



「あら、お詳しいですのね……って、イ、イケメン! こ、これは驚きましたわ。こんな背が高く眉目秀麗な殿方がいらしただなんて……!」



 エーデルワイスは、顔を赤くしてイベリスを見つめる。……むぅ。



「で、なんのようですか?」

「そうでした。用件はただひとつ……このお店を畳んでいきたいのです!」



「「なっ……!?」」



 この人、なに言ってるのー!!

 お店を畳めとか、いきなり失礼だし……そんなこと出来るわけない。わたしの夢を潰すってことじゃない。絶対にイヤ。



「このお店ばかりに客が入っていてズルいんですの」

「そんな理由で!?」

「ええ、そんな理由ですわ。アザレア、貴女はそもそも税金もきちんと納めているのかしら?」

「アルケミストギルドは、税金免除ですけど……」

「へ……そ、そんなはずは!」


 アルケミストギルドの詳細を見せると、エーデルワイスはギョッとしていた。


「本当でしょ?」

「た、確かに。というか、この殿方は……宮廷錬金術師のイベリス様でしたのね。あたくしとしたことが……なんというご無礼を」


 ベタベタとイベリスに触れるエーデルワイス。なんなのこの人!


「エーデルワイスさん。申し訳ないのですが、お帰り下さい」


「あぁん、つれないですわ、イベリス様。こんな女よりも、あたくしをお選びになってくださいまし……! と、まあ、おふざけはこれくらいにして……本題に入りましょうか」

「……? どういう意味ですか」


「あるダンジョンに万能薬の材料になるというアイテムがあるらしいですの。そこで、あたくしとアザレアでどちらが先にそのアイテムを獲得できるか勝負しましょう。貴女が負けたら、このお店を畳んでいただきますわ」


 な、なんでそんな勝負をしなきゃいけないのよ……。でも、万能薬になる材料かぁ、ちょっと興味あるかも。

 病気に苦しむ人はたくさんいる。そんな人たちの助けになるのなら、探す価値は十分にある。でも、エーデルワイスと争うのはなぁ……どうしよう。

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