第23話 坑道ダンジョン

 悩みに悩んだ結果、わたしは勝負を受けることにした。

 勝つ自信もあったし、いろいろ言われっぱなしも悔しい。それに万能薬の材料になるアイテムというのも気になった。

 錬金術師として、そういうレアな材料は知っておきたし、集めておきたい。


「分かりました。では、そのダンジョンを教えてください」

「ダンジョンの名だけ教えます。そこからが勝負ですわよ」


 ニヤリと笑うエーデルワイス。むぅ、なんだか意地悪な感じ。でも、きっと大丈夫。こっちにはイベリスもいるし、マーガレットもいる。頼れる味方が多いのだから。


「言ってください」

「ポインセチア帝国の反対側、南西にある『坑道ダンジョン』ですわ。その奥に“女神の泉”という奇跡をもたらすと呼ばれている泉があるのです。そこにレアアイテムが眠っているのだとか」


 結構詳しく教えてくれるんだ。へえ、そんなダンジョンがあるなんて知らなかった。坑道ということは……地下通路。人工に掘られた洞窟みたいなところかな。主なイメージは炭鉱かな。

 そういう場所は、わたしは一度も踏み入れたことがない。どんなモンスターが生息するかも知らない。心配だけど、もうがんばるしかないっ。


「そこへ向かい、アイテムを入手した方が勝ちでいいのですよね?」

「その通り……というわけで、勝負開始!!」


 くるりときびすを返すエーデルワイス。

 腰まで伸びる長い髪を激しく揺らし、彼女は風のように去っていく。ちょ……え! ウソでしょ!! なんて素早さなの。あれでは追いかけるのは無理ね。


 南西とか言っていたけど、どのあたりなのだろう。


 困っているとイベリスがアドバイスをくれた。


「大丈夫ですよ、アザレアさん。坑道ダンジョンの道は私が知っていますから」

「さすがイベリスさん! 頼れるぅ!」

「いえいえ、私はほとんどのダンジョンを網羅していますからね。優秀で有能な近衛兵とよく歩き回っていたんですよ」

「そうなのですね! では、急いで向かいましょう。このままではエーデルワイスさんに先を越されちゃいます!」

「もちろん。ですが、歩いて行くと大変なので、マーガレットさんの力をお借りしましょう」


 どうやら、マーガレットの転移魔法に『坑道ダンジョン』の記録があるようだった。うわ、なんという偶然! これなら一瞬でダンジョン前に飛べる。


「まさかマーガレットさんが転移先を持っていたなんて!」

「えへへ、実は以前のパーティに加入していた時に行ったことがあったんです。その時は少しモンスターを狩って回った程度ですけどね」


 坑道にはレアなアイテムが落ちていたりするらしい。そうだよね、そういう洞窟みたいなところって珍しい鉱石とかるっぽいし。ああ、そういえば武器や防具を精錬するアイテムもあるんだとか。

 例えば『エクサニウム』。これを鍛冶屋に持ち込んで、ブラックスミスに頼むと武器を強化してもらえるらしい。失敗もあるけど、強くなればその分、武器の火力が大幅にアップするんだとか。防具だったら防御力が上がってモンスターから受けるダメージが軽減されると聞いた。

 凄いなぁ、そういうアイテムもあるんだ。


「お願いできますか、マーガレットさん!」

「ええ、もちろんですよ~! アザレア様のためなら、全力でお支えします」


 ディメンションポータルを展開してくれるマーガレットさん。お店の中に光の柱が現れた。そこへ飛び込めば一瞬で転移される。

 わたしは強い心を持って飛び込んだ。



 ◆



 光が晴れると、そこは大きな洞窟の前だった。

 背丈の何倍もある大穴。そこから風がヒューヒュー吹いて、ちょっと不気味に感じた。これが坑道ダンジョン。岩がゴツゴツしているのかと思ったけど、かなり整備されていて、ちょっとした迷宮みたいに見えた。


 吟味していると、イベリスもマーガレットも到着。


「今回、ゼフィはお店に待機させました」

「そうなのですね?」

「ゼフィは最近、魔力を使い過ぎましたからね」


 よく分からないけど、そういことなら仕方ない。無理はさせられないし、今回は三人で向かう。

 ダンジョン内へ歩いていくと、人の気配はまったく感じなかった。今のところ、エーデルワイスがいるような雰囲気はない。……ということは一番乗り?


 それとも、もう先に行っているのかな。

 向こうも転移魔法で移動している可能性がある。だとすれば結構距離を稼がれているかも。



「気を付けてください、アザレアさん。この坑道ダンジョンのモンスター、結構強いですから」



 前を歩くイベリスがそう言った。



「ほ、本当ですか……?」

「そのうち現れるでしょうけど、このダンジョンにしか生息しないモンスターがいますからね」


 珍しく剣を構えるイベリス。あ、武器あったんだ。わたしも何か武器が欲しいところ。今のところ爆弾ポーションしかないし!

 嘆いているとマーガレットがわたしの肩を叩いた。


「大丈夫です、アザレア様。わたくしが詳しいですから!」

「そうでしたね。どんな、モンスターがいるんです?」

「えっとですね、この近辺では『スライムワーカー』ですね」

「ス、スライムワーカー?」

「ええ! 工事帽子をかぶった変わったスライムなんです。しかも“つるはし”も背負っていて、なんかちょっと可愛いんです」


 えぇ~、そんなスライムがいるのぉ!?

 なんだか信じられないというか、まったくイメージが沸かない。確かに、故郷ではたまに工事をしているオジさんとか見かけたけど。あれをスライムにした感じなのかな。


 う~ん、ダメ。変な怪物しか思い浮かばない。


 整備された通路を進むと、なにか見えてきた。



「おっと、噂をすればなんとやら。スライムワーカーのおでましです!」



 イベリスが足を止めた。少し先にはポヨポヨと飛び跳ねるスライムの姿。色はなんだか肌色に近いような感じ。マーガレットの言うとおり、頭には工事帽子をかぶっていて……背中には本当に“つるはし”を背負っていた。

 え……なんか顔がオジさんだ。

 なにこのスライムー!!

 顔もついているとか聞いてないしっ。



「戦闘開始ですね……!」

「アザレアさん、私がスライムワーカーを引き付けます。なので、タイミング見計らって爆弾ポーションを投げたりしてください。それとマーガレットさんも聖属性魔法で攻撃を」


 そういえば、マーガレットは聖属性魔法が使えるんだった。まだ見たことなかった気がする。あ、でも以前にオークダンジョンで撃っていたかも。見ている暇がなかったから、今回は間近で見れるかな。


 ワクワクしていると、イベリスがスライムワーカーの攻撃を受けていた。


 な、なんて素早いの!

 しかも、腕もないのに“つるはし”を器用に使って攻撃していた。あんなクルクルを回転して攻撃するんだ。


「距離を取りますね!」

「ええ、お二人は私が守ります。――くっ! この物理攻撃、なかなか重いです。アザレアさん、援護を!」


 あのイベリスが反撃できないほど!? そ、そんな……そこまで強いなんて思わなかった。わたしは爆弾ポーションを投げて攻撃。


 宙を舞い、弧を描くポーションはスライムワーカーに激突。爆発を起こして一撃で倒した。



「……た、倒しちゃった」



「な、なんと! さすがアザレアさんですね!」

「アザレア様、お見事です!!」



 二人から褒められ、わたしは照れた。

 しかも、ダンジョン配信も自動で始まっていたらしく、そっちも大盛り上がり。いつのまに!



「うおおおお、アザレアさん強い!!」

「神業かよ」

【ナイトのマルコさんから13,000セル】

「坑道ダンジョンとかレベル高いところに入ったな~」

【アコライトのポンポンさんから4,000セル】

「いいね、ダンジョン攻略の参考になる~」

「レアアイテム狙い?」

「あ~、噂の万能アイテムかね」

「スライムワーカーから、たまに武器落ちるよ~」



 なるほど、こういう情報も得られるんだ。

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