第4話 勝負の結果

 上手に出来たのか分からないけれど、全力を尽くした。


「完成しました」

「こっちも終わったです!」


 ランタナもポーションを完成させていた。少し焦っていたようにも見えたけど、気のせいかな。

 いよいよ判定に。

 イベリスは、まずランタナのポーションを吟味。見た目や香りをチェックしていた。あんなに丁寧に見るんだ。


 それからポーションを飲むイベリス。

 少し驚いた様子だった。


「腕を上げましたね、ランタナ」

「ありがとうございます、イベリス様!」

「なるほど、グリーンハーブを選ぶとはさすがです」

「この中で一番回復量の高いハーブですからね」


 次に、わたしのポーション。


「では、次にアザレアさんの作ったポーションをいただきます。まず、変わった色をしていますね」

「す、すみません。複数のハーブを調合したので」

「でしょうね。ですが、問題なのは香りと味、そして回復量です」


 蓋を開け、イベリスは香りをチェック。さわやかな笑みを浮かべていたところを見ると、好感触。その次に味。


「お願いします」

「いただきます。……うむ、へえ。これは優しい味です。回復量も桁違いですね」


「……!」


 褒めていただけて、わたしは嬉しかった。良かった~!

 でも、まだ勝負に勝ったわけではない。

 あとはイベリスの判定を待つだけ。


 緊張の中、イベリスは長考して考えていた。も、もしかして……わたしのポーション、ダメだったのかな……。


 不安と心配に襲われ、自信喪失になりかけた時だった。



「決まりました。勝者は……ランタナ」

「やったです!!」

「――と、言いたいところですが、アザレアさんの勝ちです」



「「え!?」」



 わたしもランタナも驚愕した。まさかの逆転勝利にわたしは頭の処理が追い付かなかった。え、え、ええ~!?

 一瞬負けたと思ったのに……びっくり。


「ど、どうしてですか!? 自分のグリーンポーションの方が品質も回復量も上だったでしょう!?」


 涙目になりがならも、ランタナはそう訴えかけた。けれど、イベリスは首を横に振った。


「確かに、グリーンポーションは一般的に需要のある回復ポーションです。しかし、アザレアさんの作ったこの“改造ポーション”は、並の錬金術師では製造できないものです。そう、これは宮廷錬金術師に匹敵する品質ですよ」


「んな!?」


 愕然となるランタナ。

 そっか、わたしの作ったポーションは、やっぱり改造ポーションのものだったんだ。以前、イベリスが教えてくれたから覚えていた。

 あの時の知識が役に立った。


「見事でしたよ、アザレアさん」

「ありがとうございます、イベリスさん。わたし、はじめてのポーション製造だったんですけど、自信がつきました!」


「それは良かったですよ。その調子で精進してください」


 これなら明日の試験は合格できそう。がんばろう!

 気分が良くなっていると、ランタナが頭を抱えていた。


「……く、悔しい。やっぱり、自分は錬金術師になれない運命なのですね……」

「えっ、ランタナさん。それってどういう意味です?」

「聞いてくださいますか。……実は、自分、本当は鍛冶屋なんです」

「え!? 鍛冶屋さん!?」

「はい。希望は錬金術師だったのですが、父の家が代々鍛冶屋で……家を受け継ぐことなっちゃってですね……」


 そういう理由だったんだ。

 ランタナの現在の職業も『鍛冶屋ブラックスミス』であり、錬金術師ではなかった。そうだったのね。

 でも、それなのにあのポーションの調合技術は素直に凄いと思った。

 感心しているとイベリスが微笑んだ。


「夢を諦めてはなりませんよ、ランタナ。世の中にはダブルジョブやトリプルジョブを持つ優秀な方達がいます。この私も宮廷錬金術師であると同時に、鍛冶屋でもあり、モンスターテイマーでもありますからね」



「「そうだったの!?」」



 ランタナも知らなかったようで、わたしと同時に驚いていた。……トリプルジョブの人が実在するなんて、イベリスって本当何者なの……。


 とにかく、勝負の勝敗はわたしの勝ちで終わった。それから、ランタナとは別れた。


 少し歩くと誰かに呼び止められた。



「そこのお嬢さんと宮廷錬金術師イベリス。さきほどの勝負を見させてもらった」



 ゆっくりと近づいてくる貴族らしき若い男性。この人は誰だろう……?



「これは、ノイシュヴァンシュタイン卿。なぜこちらに」

「イベリス。君の噂は風のように飛んでくるのさ。ほら、そこの美しいお嬢さんを連れていると聞いてね」


 じっくり観察するかのようにわたしを見てくる高貴な男性。卿と呼ばれているということは、かなり位の高い人で間違いない。


「アザレアです。よろしくお願いいたします」

「ほう、あの辺境伯令嬢の……」

「御存知でしたか」

「もちろん。あなたの力はさきほど拝見した。素晴らしい知識と技術をお持ちのようだ」


「イベリスさんのおかげです。彼がいなかったら、わたしは何も出来なかったですから」


 それは本当のこと。

 今のわたしがあるのは全部イベリスのおかげ。

 これからも、もっと勉強して吸収していかないと。


「そうか、良い師匠と巡り合えたな」

「ありがたいことに」


「アザレアさん、君は素晴らしい錬金術師になれる。それこそ、宮廷錬金術師も夢じゃないさ。そこでだ……明日の試験を急遽変更し、宮廷錬金術師の試験を受けてみないかい?」


「……はい? はいぃぃぃぃ!?」


「驚くのも無理はないだろう。でも、大丈夫。俺とイベリスの『推薦』があれば、難易度はかなり下がるから」


 そっか、推薦があると試験の難易度も変化するんだー…って、それいいんだ。

 でも、これは物凄いチャンス。

 いきなり宮廷錬金術師になれるのなら……それはとても素晴らしいこと。挑戦してみようかな。

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