第18話 結婚してくれ
SSS級宮廷錬金術師になった、わたし。
とんでもないことになっちゃった。
マーガレットのディメンションポータルで、いったんポインセチア帝国へ戻る。
ちょうどお店の前に到着。
直後、冒険者たちは散り散りになっていった。
わたしとイベリス、マーガレットはお店の中へ。
「ただいまです」
「おかえりなさい、アザレアさん」
優しい笑顔を向けてくれるイベリス。その笑みに少し救われた。いきなりSSS級に昇進して、気が動転していたからだ。
まだ実感がないけど……。
ふわふわした気分のまま
「これで依頼は完了ですね」
丁寧にお辞儀をするマーガレットは、そうつぶやく。
「マーガレットさんの仲間を助けられませんでした……」
「とても残念ですが、エンシェントオークの討伐はしていただけました。今はそれだけで十分です」
「でも……」
「アザレア様はお優しいのですね。その気持ちだけで嬉しいです」
「あ、あの、マーガレットさん!」
「……はい。なんでしょう?」
「もし、行くアテがなければ……その、ウチで働きませんか!?」
「え……。このアザレア様のお店で、ですか?」
「そうです! きっと気分転換になると思いますし、それにちゃんとお給料も払いますから! 人手が欲しいんです!」
わたしは勢いでマーガレットを勧誘した。
いや、ぶっちゃけエルフで聖女なマーガレットに魅力を感じていた。あのヒールとか転移魔法とかいろいろ便利だし、あと美人で優しいところとか。
「ん~、そうですね。分かりました! これからよろしくお願いします」
「おぉ! 嬉しいです! よろしくです、マーガレットさん」
握手を交わし、マーガレットを仲間に引き入れた。
「良かったですね、アザレアさん」
「ありがとうございます。マーガレットさんのお力も借りて、お店を大きくしていきますね!」
「その意気です。……ああ、そうだ。私はしばらく留守にします」
「え、どこかへ行くのですか?」
「はい。皇帝陛下に呼ばれたもので、向かわねばなりません。しばらく二人でがんばってください。応援しています」
そう言ってイベリスはお店を去って行った。そっか、そうだった。彼は皇帝陛下直属の宮廷錬金術師。呼ばれる時だってあるよね。
寂しい……なんて言えないけど、でもひとりではない。
今はマーガレットがいる。
「イベリスさんが帰ってくるまでは、一緒にがんばりましょう」
「はい、分かりました。錬金術師様のことは心より尊敬していますので、なんでもお手伝いします」
「助かりますよ~。ポーションを大量生産すると運ぶのが大変だったりするので」
「そうなのですね! いくつくらい作られるのです?」
「うーん、昨日は百五十ですね。今晩は更に増やして五百はいきたいです」
「そ、そんなに作られるのですね!」
質と量、両方とも大事。
少し質が落ちれば回復量に影響しちゃうし、重ささえも変わってしまう。
ポーション造りは繊細なのだ。
さっそく製造に取りかかろうとすると、
「お邪魔しますよー」
「ランタナさん! いらっしゃいませ」
「そんな堅苦しくなくていいですよ。それより、小型ポーション瓶をたくさん作ってきました。どうぞ」
積み上がっていく木箱。
それが二十個は置かれた。
す、すごい数!
「これ、全部容器です?」
「そうですよ。仲間のブラックスミスと共に大量生産したんです。御代は一個百セルでいいですよ」
木箱には三千個の小型ポーション瓶が。そんなに納品してくれるなんて!
三十万セルと気持ちをつけ、わたしは代金を支払った。
「助かりました。ポーションの需要はとても高いので、すぐ売れちゃうんです。また生産してもらえませんか?」
「マジですか!! もちろんですよ~。そう思うと、自分はブラックスミスで良かったなと」
前はあんなに錬金術師にこだわっていたのに、今のランタナはブラックスミスであることに誇りをもっているようだった。変わったんだ。
「では、お願いしますね」
「了解です! では、さっそく取り掛かります!」
元気よく去っていくランタナ。
彼女と契約できて良かった。
◆
――気づけば朝を迎えていた。
あれから、わたしはほとんど睡眠を取らずにポーション造りに励んでいた。……ついに熱中してしまう。だめね、この生活は危険すぎる! お肌にもよくないし!
今後は気を付けようと心の中で誓いながら、わたしは――気絶した。
・
・
・
寝心地が良すぎる。
おかしいなと思って目をあけるとベッドの上だった。あれ、どうして?
「おはようございます、アザレア様」
「お、おはようございます。……あれ、わたしいつの間にか
「わたくしが着替えさせておきました」
「マーガレットさんが? ということは、わたしの部屋に運んでくれたのも……」
「はい、わたくしの転移魔法でパパっと」
便利すぎでしょう、転移魔法。
うん、マーガレットさんがいて良かったかも!
着替えてリビングへ向かった。
帝国製の紅茶を淹れ、気分を落ち着かせ――「ぶううううううう!!」わたしは紅茶を盛大にふいた。
「よう、アザレア」
「あ、あなた……オンファロデス!」
少し前に戦った錬金術師の男性だ。
あの時は配信ランキングの逆恨みで、襲われたんだっけ。
「あの時はよくもやってくれたな!」
「復讐ですか」
「と、いいたいところだが、SSS級錬金術師のお前に敵うとは思っていない」
「じゃあ、なにしに来たんですか」
「俺と結婚して欲しい」
「…………はい?」
本気の眼差しを向けられ、わたしは困惑した。
そりゃ、顔はいいけど……ウーン。
前に襲われたから、あんまり好きじゃない。
「あの時、俺は稲妻に撃たれた気分だった。アザレア、お前をただの田舎令嬢と侮っていた。でも、違った。お前は素晴らしい女性であり、最高の錬金術師だ」
なにこの人コワイ。
「……えっと」
「だから結婚してくれ!!」
「嫌です」
「んなあああああああああああ!!!」
ショックを受けるオンファロデス。今すぐ帰ってもらおうっと。
彼の背中を押し、無理矢理退店させるわたし。
けれども、オンファロデスは抵抗した。
「ちょっと、暴れないでください」
「ま、まてまてまて! アザレア、提案がある。聞いてくれ! 三秒でいいから!」
「三秒ですね。はい、どうぞ」
「実は――」
「はい、終わり」
「ああああああああああ、待ってくれ!!」
「…………」
面倒くさいなぁ、この人。
でも聞かないと帰らなさそうだし、少しだけ聞いてみるかな。
「ある国が魔力回復ポーションを欲しがっている。アザレア、お前なら作れるんじゃないか」
「魔力回復ポーション? それくらい売っているのでは」
「いやいや、魔力回復ポーションの“改良版”さ。ほら、お前は今、グリーンスリムポーションを販売しているじゃないか。これは改良ポーションの一種。なら、魔力回復ポーションも改造できるはず」
なるほど、体力回復ポーションばかりに目がいっていたけど、魔力のことは考えていなかった。そっちも作ればもっと稼げるかも。
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