SSS級宮廷錬金術師のダンジョン配信スローライフ

桜井正宗

第1話 わたしは錬金術師になりたい!

「アザレア、こちらがお前のお見合いの相手だ」


 父は勝手に婚約者を決めようとしていた。正直興味ないし、恋愛とかどうでも良かった。それよりも、わたしは子供の頃からの憧れである錬金術師になりたかった。

 でも、父も母もずっと反対していた。


 このままでは好きでもない人と結婚する運命……そんなのは嫌。


 だから、適当に返事をして――わたしはその夜に家を飛び出した。


 ……のだけど、ポインセチア帝国へどうやって行くの……?


 十六歳にもなったのに一度も帝国へ行ったことがなかった。行き方なんて知らないし、方角も分からない。どうすれば……。


 こんな夜では馬車もない。

 どうしようかと困っていると、怪しい人から話しかけられた。黒服の……おじさま?


「そこのお嬢さん、なにかお困りのようですね」

「あなたは?」

「私はただの行商ですよ。ポインセチア帝国へ向かうところなんです」


 帝国に?

 これはチャンス。馬車に乗せてもらえれば迷うことなく辿り着ける。危険なモンスターに遭遇することもないはず。


「あの、よければわたしを連れて行ってくれませんか?」

「いいですよ。お嬢さんほど美人な女性なら大歓迎です」

「び、美人だなんて……」

「いえいえ、本当ですよ」


 照れるけど、照れている場合ではない。わたしは帝国へ行って錬金術師になるんだから。


 運よく馬車に乗ることができた。

 名も知らない行商の人だけど、優しそう。


 しばらくは馬車で眠っていいと言われたので、わたしは横になった。朝になれば帝国に到着するからと行商は言った。その言葉を信じて眠りに。



 おやすみなさい……。



 ――ふと目を覚ますと、陽射しが入ってきた。まぶしい。

 少し眠気のある中で馬車の中を見渡す。


 そうだった、わたしは家出をして……行商の馬車に乗せてもらったんだ。そろそろ帝国に到着する頃かな。


 外を見ようとすると、足になにか当たった。


 なにかなと覗いてみると、そこには骨らしきモノが転がっていた。突然のことにわたしは青ざめた。え、なにこれ……。じ、人骨!?



「きゃああ!?」



 も、もしかして、あの人は行商ではないとか……?



「どうされましたか、お嬢さん」

「い、いえ! なんでもないです!」

「そうですか。もう少しで帝国ですよ」


 あと少しなんだ。でもこれ以上、馬車に留まるのは怖いと感じた。人骨が転がっているとか普通じゃない!

 わたしも何かされるんじゃないかと恐怖を感じて、こっそりと馬車を出た。行商に見つからないよう、馬車から降りた。


 幸い、馬車の移動速度はそこまで早いものではなかったから、ジャンプして着地。


 けれど足を挫いて倒れたわたし。



「きゃっ……! いたーい……」



 歩けなくなっていると、魔物に囲まれていることに気づいた。いつの間に……!?


 これは外の世界に存在するというモンスターというやつね。

 ぶにぶにで透明。

 書物で読んだことがある……確か、スライムとか言ったかな。それほど強くはないと聞いたけど、今のわたしにとっては恐ろしい敵でしかなかった。

 ど、どうしよう。どうすればいいの……。


 足を挫いてしまったし、動けない。

 このまま食べれちゃうの……?


 そんな、錬金術師になれないまま終わるだなんて嫌……!


 頭を抱えていると何か弾け飛ぶような音が聞こえた。キョロキョロと見渡すと、スライムが弾け飛んでいた。いったい、なにが起こったの?


「危なかったですね、お嬢さん」

「あなた……行商の! どうして?」

「お嬢さんの姿がなかったので心配になって引き返してきたんです」

「……そ、そうだったのですね。助けていただき感謝します。でも、あなたは……さ、殺人鬼では!?」


 そう、あの馬車には人骨が転がっていた。きっと、危ない人なのだと思っていた。けれど、彼は笑った。



「あははは! 人骨ですか。そう見えたのなら申し訳なかったですよ」

「え……」

「この骨はエサなんですよ。ほら、食べなさい」


 ポイッと骨を投げる行商の人。

 すると突然、大きな犬が現れて骨をしゃぶっていた。え……ええッ!? このデカい犬はなに!?


「えっと……驚きました」

「この犬は、ホムンクルスの『フレイムフェンリル』です」

「フェ、フェンリル!? あの伝説の生き物ですよね」

「ええ、それに似せて作った人造生命ホムンクルスです」



 ということは、この行商の人は……錬金術師!

 そうだったのね。

 あの骨は、わたしの勘違い。

 本当は良い人だったんだ。



「馬車に乗せてもらったのに申し訳ないです」

「いえ、いいんです。よく間違えられますから」


 照れくさそうに錬金術師さんは笑う。

 昨晩は暗くて表情がよく分からなかったけど、優しそうな男性だなって思った。


「あの、お名前を聞いても?」

「ああ、そうでした。私は宮廷錬金術師のイベリスと申します」


 きゅ、宮廷錬金術師……?

 ウソ、まさか憧れの錬金術師が目の前にいるだなんて……信じられない!



◆◆◆

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