第10話 爆弾ポーション Lv.3

 色彩豊かな植物がたくさん。でも、どれも毒があると理解した。これは触れない方がいいと本能で悟った。……案外、危険が多いのね。


「よくぞ気づきましたね。自生している植物はほとんどが『エンジェルトランペット』という猛毒の植物です」

「そ、そうなのですか……!?」

「はい。触れるだけで幻覚や幻聴などの意識障害に陥ります。皮膚も炎症したり、目に入れば失明する恐れも。大変危険なので触らないようにしてくださいね」


 そんな恐ろしい植物が生えているなんて怖い……。

 青ざめていると、茂みの奥から気配が。

 って、そこはエンジェルトランペットがあるところじゃない!


「……た、助けてぇ」


 まるでゾンビみたいな人間が現れ、わたしは心臓が止まるかと思った。でも、よく見ればその人は男性で、エンジェルトランペットによる炎症を起こしていたようだった。な、なんでこんなことに!


「これは大変です! アザレアさん、彼は植物の猛毒を受けています。すぐに応急手当をしなければ死んでしまいます」

「ど、どうすればいいのですか……!?」

「こんなこともあろうかと解毒ポーションを持っています。これを彼に飲ませます」


 イベリスはポケットから小さなポーション瓶を取り出した。あんなスリムな容器ははじめてみた。

 動向を見守っていると、イベリスは男性に解毒ポーションを飲ませた。すぐに回復して炎症は完治。こんなに早く治るなんて奇跡みたい!


「……あ、ありがとうございます。助かりました……」

「なぜ群生しているエンジェルトランペットの中にいたんですか?」


「じ、実は……村人や危篤きとくの母を救いたくて……。この“呪い”のせいでみんな苦しんでいるんです……! そこでこの森林ダンジョンにあるという治療薬になる『ユグドラシルの根』を見つけようとして……」


 でも、それは失敗に終わったようだった。冒険者でもない彼は、ただ闇雲にダンジョンをさまよっていたらしい。その結果がこれ。危険なモンスターも生息しているようだし、リスキーすぎる。


「なるほど。しかし、ここはS級ランク以上の者でなければ入ってはいけないのです。見つかれば厳罰に処されますよ。それに、運が悪ければモンスターに殺されてしまう」


 男性をとがめるイベリス。


「そ、そうだったんですか!? すみません、無知なもので……」

「いえ、命があって良かったです。村の方やお母さんのことは私がなんとかしましょう。アザレアさん、申し訳ないのですが……ひとりで進んでもらえませんか?」


 そう振られ、わたしは頭が真っ白になった。


 え……ひとりー!?


 ウソでしょ。こんな物騒な森の中をわたしひとりって、不安しかないのだけど! でも、人命がかかっているみたいだし、仕方ないかな。


「分かりました。無茶しない程度にがんばりますね!」

「ああ、いえ。ひとりとは言いましたが、一匹・・はつけますので」


 ゼフィランサスがわたしの胸に飛び込んでくる。そっか、このコがいた。フレイムフェンリルであるゼフィランサスなら強そうだし、うん、心強いっ。

 ひとりよりはマシ!


「分かりました。ユグドラシルの根を見つけてみせます!」

「私も直ぐに追いつくので」


 ちょっと寂しいけど、ここで一旦のお別れ。

 ゼフィランサスをぎゅっと抱きながら、わたしはダンジョンの方へ。


「では、またです。イベリスさん」

「お気をつけて」


 二人はダンジョンとは反対方向へ行ってしまった。……急にひとりになってしまい、不安とか心配に襲われる。だ、大丈夫かな。

 というか、冒険すること自体がはじめて。戦い方とか知らないけど、どうしよう……。

 青ざめながらも、わたしはゆっくりと歩く。


 木陰なせいか、冷たい風が頬を撫でる。ちょっと嫌な感じ。


「……スンスン」

「ゼフィちゃん?」


 ゼフィランサスがなにかに気づく。もしかして……モンスター?

 足を止め、様子を伺うと茂みの中から――。



「キキキッ……!」



 頭にお花を乗せたゴブリンが現れた。

 こ、これがモンスターなんだ。なんかイメージしていたよりもキュートな感じ。あんまり恐ろしさは感じなかった。

 でも、油断はできない。


 わたしは、予め工房アトリエで作っておいた爆弾ポーションを構えた。錬金術師の攻撃手段はあまりないから、これが一番高火力で強い。



【爆弾ポーション】Lv.3

【詳細】

 爆弾ポーションのレベルによって火力や爆発範囲が変化する。また、製造者の能力の影響も受ける。

 特別な火薬を使うと更に上位の爆弾ポーションを製造できる。



 これをさっそく試してみる。

 そういえば、教本には『ポーションは投げる物だ!』とも書かれれていたのを思い出した。そういうスキルもあるらしく、その名も『ポーションピッチャー』というらしい。


 極めれば遥か遠方の人間に対し、回復ポーションを物凄いスピードで投げつけたりもできるのだとか!


 今回は爆弾ポーションだけどね!


 身構えているとフラワーゴブリンが襲ってきた。あれ、でも名前がなんで分かったんだろう。いえ、それは今はいいや。


 トゲのついたムチで攻撃してきたので、わたしはかわしつつ、接近される前に爆弾ポーションを投げつけた。


 次の瞬間には『ドォォォォン!!』と爆発を起こし、黒煙が上がった。おぉ、我ながら凄い威力!


 気づけばフラワーゴブリンは、灰になって消えてしまっていた。なにかを落としていたので、わたしはそれを拾ってみた。



「あれ……これって」

「アザレア様、それはまぎれもなく『ユグドラシルの根』ですよ~」

「へえ、そうなんだ…………へ? 今誰かの声がしたような?」

「ボクですよ、ボク。ゼフィです!」

「…………」


 抱えているゼフィランサスがニコリと笑う。

 脳の処理が追い付かないわたし。

 ……もしかして。

 もしかしなくとも……。


「黙っていて申し訳ありません。ボク、喋れるんです」

「シャ、シャベッタアアアアアアアア!?」


 驚きのあまり、わたしは叫んでしまった。


「それにしても、アザレアさんの人気とか投げ銭とか凄いですよ」

「はい!?」

「今、世界中の冒険者がアザレアさんに注目しています。お金もたくさん! もう二十万セルは稼いでいますね」

「え、どういうことです?」

「ダンジョン配信と言葉を口にすると分かりますよ~」


 試しに『ダンジョン配信』と言ってみた。

 すると目の前に自分の姿が映っていた。


 え、ナニコレ!?


 しかも、文字がたくさん流れている。次々に現れる応援文字。



「アザレアさん可愛いー!

「フラワーゴブリンを一撃とかヤバくね!」

【ウォーロックのファウスティナさんから10,000セル】

「あれ凶悪なボスなんだけど……」

「ユグドラシルの根って存在したのー!?」

「ウチのギルドに入って欲しい!」

【クルセイダーのマティスさんから6,000セル】

「このコは伸びそう。応援してる!」



 な、なんか凄い盛り上がってるし!

 いつの間にこんなことに。


 なんであれ、もう『ユグドラシルの根』をゲットしてしまった。


 目標は達成したし、いったんイベリスのもとへ戻らなきゃ。



「ねえ、ゼフィちゃん」

「イベリス様を追いかけたいのですね! 大丈夫です。ボクと主様はお互いの位置が分かるんです。ご案内しますね」

「ありがとう、よろしくお願いします」


 案内を受けながら、わたしは森林ダンジョンを脱出。イベリスの元へ向かった。

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