第13話 帝国製魔導式のお風呂で幸せ

 ランタナから最新の小型ポーション瓶を供給してもらえるようになった。

 こんな縁が出来るようになるなんて嬉しい。

 さっそく大量生産してくれるということで、ランタナは自分のお店へ帰っていった。今後が楽しみ。


「良かったですね、アザレアさん」

「はい、おかげでたくさんポーションを作れそうです!」


 たくさんサンプルを貰ったので、しばらくはこれで試作ポーションを作っていこう。

 サンプルの入った木箱をお店の工房アトリエへ。


「今日は疲れたでしょう。ゆっくりしてください」

「そうさせていただきますね、イベリスさん」


 わたしはゼフィランサスを抱えてお風呂へ向かった。お店の奥にある浴室に入って、まずは脱衣所で宮廷錬金術師の服を脱ぐ。


 ――って、アレ。なんかヘン。

 誰かに見られている気配を感じた。

 ゼフィランサスではない。

 これは確実に人間ひとのもの。

 ま……まさか、覗き?


 不安になっているとゼフィランサスがわたしの足にスリスリしてきた。


「アザレアさん、もしかして感じるのですか?」

「誰かいますよね?」

「ああ、やっぱり」

「やっぱりって……どういうこと?」

「ボクもビックリしています。本来、街や村に戻ると配信は自動終了するんです。なのにダンジョン配信が終了になっていないようですね」


 って、ずっと続いていたのー!?

 ということは世界の人たちからずっと見られていたってこと……?

 なにそれ、恥ずかしい!!


 しかも……わたし、今……。


「きゃ!!」


 急いで着替えた。危なかった……危うく肌を全てさらしてしまうところだった。みんなに見られるとか死ぬほど恥ずかしいし、絶対にイヤ!


「でも、おかしいですね。ダンジョンでしか効力を発揮しないはずなのに」

「ゼフィちゃん、配信を止める方法はないの?」

「それなら可能です。アザレアさんはアルケミストギルドに所属しているので、今は主様よりダンジョン配信の権限を付与されている状況。停止したい場合は『配信停止』と叫んでください」


 な、なんだ、そんな簡単ことだったんだ。

 というかそれを早く言って欲しかった……。

 わたしは『配信停止』を言葉にしてみた。すると、違和感のあった気配は消えた。……そういうことだったんだ。もう!


「ありがとう、助かりました……」

「ごめんなさい。ボクも気づかなくて」

「いえ、良いんです。それより今度こそお風呂へ入りましょう」


 浴室は、広くて天井の高いお風呂だった。

 そこにそびえるように立つアンティークな浴槽バスタブ。最新の帝国製魔導式だ。わぁ、シャワーもついていてスゴいっ。照明も温白色で落ち着いていて、とてもオシャレ!


「アザレアさん、アザレアさん。ボディソープとシャンプーは、イベリス様がお作りになった製品ですよ!」

「こ、これは実家でも使っていました。上品な薔薇ばらの香りがよくて、髪の潤いも最高に良いんです。まさか、イベリスさんが作っていたなんて知らなかったです」

「宮廷錬金術師は、こういう日用品も製造・販売しているんですよ~」

「そうだったんですね、わたしも作ってみたい」

「ぜひ、イベリス様から学んでください!」


 錬金術師ってそんなことも出来たんだ。凄い、夢があるなぁ……! わたしも、イベリスのように人の役に立てるものをいっぱい作りたい。一生懸命がんばって、追い付かなきゃ。


 シャワーを浴び、それからさっそくシャンプーを試す。う~ん、良い香り。やっぱりコレね。それから、トリートメント。いつものように髪のケアを終え、整え終えた。

 あとは髪をまとめ上げ、お風呂へ。


 魔導式は一瞬でお湯が沸くから、時間が掛からない。


 足から入って全身で浸かっていく。


「…………あぁ、最高の瞬間」

「ですねえ、お風呂は命の洗濯だと偉人がおっしゃっています~」

「その偉人さん、良いこといいますね」


 ゼフィランサスと共に最高のお風呂を楽しんだ。



 ゆっくりと体を癒したわたしは、お風呂から出て着替えた。そのままリビングへ向かうと食べ物の良い匂いがした。よく見るとテーブルの上には豪華な食事が並べられていた。わぁ、実家のディナーを思い出す。


「ちょうどご飯が出来たところですよ、アザレアさん」

「このお料理、イベリスさんが?」

「そうですよ~。腕によりをかけて作らせていただきました」

「こ、これは初めてみるお料理です。なんと言うのですか?」

「パエリアといいます。バレンシアという大国の料理で、とても美味しいですよ」


 匂いにつられるようにして、わたしは椅子に座った。料理を目の前にして、わたしはお腹が鳴りそうになった。

 ご飯の上に鶏肉、エビや貝などの魚介類、野菜がたっぷり乗っている。こんな目で楽しませてくれる料理があるなんて知らなかった。


「た、食べてもいいんですか?」

「どうぞ。ゼフィランサスはもう食べてますけどね」


 下を向くとゼフィランサスはもうガツガツと食べていた。もうあんなにっ! ああ、そっか。今日はずっとわたしたちを運んでくれていたし、お腹が減っていて当然よね。

 わたしもお腹ぺこぺこ。食べようっと。


「いただきますっ」


 スプーンを手に取り、さっそくパエリアを味わってみた。


「どうですか?」

「ん~、美味しいです! これは貝ですか?」

「そうです。ルーム貝という貝ですよ。あっさりと柔らかいのが特徴ですね。あと、イカも入ってますよ」


 その通り、柔らかくて美味しいっ。


「他はなんでしょう?」

「トマト、ピーマン、タマネギ、ピメント、インゲンマメなど野菜もたっぷりです」


 食べ応えがあると思ったら、そんなに野菜が入っているんだ。凄い。栄養価も高そう。 こんなに美味しい料理を作ってもらえるなんて、なんて幸せ。

 試験勉強をしていた時は、こんなに美味しいものを食べている余裕はなかった。努力して本当に良かったなぁ。


「今度、パエリアの作り方も教えてください」

「もちろん。料理も錬金術師のスキルとしては基本ですから」

「ありがとうございます。う~ん、美味しい」


「…………」


 お料理に舌鼓を打ち、味わっているとイベリスがぼうっとしていた。あれ、なんだか見られているような。


「あの、わたしの顔になにか?」

「い、いえ……。アザレアさんの表情があんまりにも幸せそうだったから、作った甲斐かいがあったなと」


「そ、そんな表情してました!?」

「はい、とても幸福感に満ちていました。見ているこっちまで幸せになってしまい、その、思わず見とれていました」

「……あぅ」


 そう聞かされると照れるというか恥ずかしい……。


「ところで今日の『ダンジョン配信』ですが、投げ銭も素晴らしい稼ぎでしたよ」

「ああ、そうでした。気になります、それ」

「本日は十八万セルを叩き出しました」

「え……」

「十八万です」

「ええッ!? 本当ですか!?」


 そんなに稼いでいたんだ!

 十八万セルもあればいろいろ買える。武器や防具だけでなく、いろんなアイテムを仕入れられる。こんな簡単に稼げるなんて配信って凄い。


「これを続ければお店の稼ぎと合わせて、とんでもない利益を生み出せるかと」

「人も雇えますね!?」

「もちろんです。でも今はポーション造りに集中しましょう」

「はい、分かりました。……あ、そういえばさっきまでダンジョン配信が止まっていなかったみたいです。危うく裸のままお風呂に入りかけちゃって」


 それを伝えるとイベリスは真剣な表情で驚いていた。

 ありえない、とつぶやいて。

 ゼフィランサスも言っていたけど、やっぱり普通じゃないんだ。


「どういうことでしょう? 一応今は停止していますけど」

「う~ん、分かりませんね。明日、冒険者ギルドに問い合わせてみます」

「お願いします。ちょっと不安で」

「お任せください。あと、明日からお店をオープンできるよう整えていきましょうね」

「そうですね、普通のポーションでもいいから製造して売らなきゃですよね」

「現在、ポーションの需要は高まっていますからね。必要としている人が多くいます」


 プリムラが言っていたモンスター討伐だとか、配信に必死になっている人が増えている影響だとか。今が商売のチャンス。まずはお店をオープンさせなきゃ。

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