第6話 宮廷錬金術師の試験
明日に備えて眠ることにした。
貸していただいた部屋は広くて、ベッドや本棚、ティーセットまでそろっていた。一番嬉しいのは錬金術師の為の
おかげで勉強が
わたしはベッドへ。
ふかふかで寝心地が良い。
ソワソワして眠れないかと思ったけれど、驚くほど簡単に夢の世界へ。
子供の頃の不思議な夢を見て、わたしは目覚めた。
そうだ、そういえば幼い頃から錬金術師に憧れていたんだっけ。こっそり勉強していた時期もあった。それが今こうして夢が叶う一歩手前まで来ている。
体を起こし、準備を進めていく。
時間の許す限り勉強も。
そうして、わたしはついに宮廷錬金術師の試験を受けることになった。
試験会場は意外なことにイベリスの邸宅だった。
「おはようございます、アザレアさん」
「お……おはようございます」
「緊張していますね」
「だ、だって……こんなに人が集まっているなんて思わなかったので」
広間には錬金術師を目指す人がたくさんいた。二十から三十人はいるかも。しかも、わたしより幼い子供もいた。あんな小さいのに。
「大丈夫です。最初は筆記試験ですし、その後に実技試験ですから」
「な、なるほど……」
それから、イベリスから説明が始まった。
「皆さん、私はポインセチア帝国に認められた宮廷錬金術師にして“アルケミストギルド”のギルドリーダーも務めさせていただいております。なので、転職試験はこの私が担当することになっているのですよ」
「おぉ~! マジかよ」「イベリス様って超有名人じゃん」「この邸宅もイベリス様のものだろう~」「宮廷錬金術師ってすげぇんだな」「かっこいー!」
と、どよめきが。
わたしも知らなかったんですけど!?
そうだったんだ。
イベリスが試験官なんだ。
あれ……でもそれって、つまり、わたしは試験管であるイベリスから全てを教わったってことだよね。もしかして……出題される問題も教えてくれた項目だったり。
まさか、と思いながらも用紙が配られた。
まずは筆記試験。
人数分が行き渡ると試験がはじまった。
内容はやっぱり教えてもらった部分ばかり。楽勝で解答できた。なんという手応え。スラスラと答えが解けていく。
周囲はなんだか悩んでいる様子だった。
でも、みんなは普通の錬金術師の試験よね……?
その後、筆記試験は終了。
すぐに合否が発表された。
これに合格しないと実技試験に移れないみたい。
「発表します。まず、宮廷錬金術師の試験を受けている方から。今回、十名の方が受けていますが合格者は一名のみです」
「たった一名かよ!」「え、誰?」「宮廷錬金術師の筆記試験に受かった人いるのぉ!?」「宮廷って超難関なんだろ?」「え~? ついに三年振りの誕生か」
そ、そんなに凄いことだったんだ。
祈っていると、イベリスが合格者の名前を口にした。
「おめでとうございます、アザレアさん、合格です」
「え…………?」
一瞬で注目されるわたし。
なんか凄い見られてるー!
「ウソ~!! あの女の子が!?」「すげぇ美人じゃん!」「おおおお、あんな可愛い子が!?」「信じられんなぁ。でも勉強がんばったんだろうな」「これからが問題だ。実技も超がつくほど難しいらしいぞ」「まあ、筆記が受かったんだから大丈夫だろ」
こんなに大騒ぎになるほどなんだ。知らなかった。
それからも合格者が発表され、試験に落ちた者は帰っていった。
残ったのはたった十人だけ。
しかも、大半がE級錬金術師――つまり、転職試験の人ばかりだった。
……ウソでしょ!?
そんなに難しいとは思えなかったけれど。……あ、もしかしてノイシュヴァンシュタイン卿の『推薦』の効果が働いているのかも?
「十名の方、おめでとうございます。引き続き、実技試験になります。これに合格してはじめて錬金術師になれます。中には昇級狙いの方もいますけどね」
さっそく実技がはじまった。
わたしのみ宮廷錬金術師の試験となり、最高品質のポーションの製造と、学んだ生命倫理を活かし、
このふたつを合格しなきゃなのね。
がんばらなきゃ。
「よろしくお願いします、イベリスさん」
「では、さっそく初めてください」
テーブルの上には製造セットが置かれている。
わたしは学んだ全てを注ぎ込み、手際よくポーションを作っていく。
「な、なぁ……おい。あの女の子の作ってるポーションなんだ?」「なんか普通の手順と違うぞ」「まあ、最高品質のポーションを作れって試験だし、なにか策があるんじゃないか」「へえ、あんな作り方があるんだ」「なんかスゴくね!?」
赤、青、黄、緑ハーブをいくつも使い、さらにハチ蜜やホワイトスライムの欠片を足していく。ホワイトスライムは、洞窟にしか生息しない珍しいスライム。そんなモンスターがドロップする欠片は、ポーションの品質を向上させる。回復力も凄くアップする。
よし、完成。
それから、更にプラントの作成。
試験管にマンドラゴラの根を入れ、オークの木の実と妖精の涙を投入。すると反応が起きて、それは『ドリアード』という植物モンスターになった。
ドリアードは子供みたいに小さくて、周囲に治癒魔法のヒールを無作為に施した。
「終わりました」
「お疲れ様です、アザレアさん。まず、プラントは見事です。まさか、ドリアードを作ってしまうとは……百点満点です!」
いきなりプラントに対する合格点を貰い、わたしは震えた。うそー!
周囲のみんなも驚いて拍手を。
でも、肝心のポーションがまだだから、完全な合格ではない。
「ポーションの方はいかがでしょうか?」
「これも見るからに素晴らしい。試験中、これほどの独自のポーションを作れた受験者は今まででいません。多分、アザレアさんが初めてでしょうね」
手に取り、ポーションを眺めるイベリス。
楽しそうに香りを楽しんでいた。
それから、わたしのポーションに口をつけてくれた。
「…………」(緊張で頭が真っ白のわたし)
「……ふむ。これは……」
「……え」
イベリスの表情が少し曇る。
もしかして上手くいかなかった?
不合格なのかな……。
心配になっていると、彼は笑った。
「なんとこれほど優しいポーションは初めてです。真心を……愛すらも感じました。これは宮廷錬金術師が作るホワイトリジェネポーションの領域です」
「つまり……?」
「合格です」
その言葉を耳にして、わたしは驚きのあまり硬直した。脳処理が追い付かない。
え、うそ……本当に?
立ち尽くしていると、みんなが祝福してくれた。
「うおおおおおおおおお!!」「三年振りの宮廷錬金術師誕生だー!!」「すごい、すごすぎる! 歴史的瞬間に立ち会えた!!」「超難問の試験を合格するだなんて!」「アザレアさん、すごすぎー!!」「かっこいいなぁ」「自分のことのように嬉しいぞ!」
そんな風に一緒にになって喜んでくれるなんて、わたしは嬉しくて泣いた。……良かった、本当に良かった……!
合格できたんだ!
やったあぁ!!
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