第8話 オリジナルポーションを製造したいっ
「――確かに、ここに契約は完了しましたっ。では、まず回復量の多くて、重量の軽い携帯向けのポーションを作って欲しいですね!」
プリムラからそんな注文を受け、わたしは了承した。まだ錬金術師に成りたてで少し自信がないけれど、この仕事をやり遂げられたらきっとまた前へ進めるはず。
お店だって大きくできる。
あと、
最低でも、ひとりは手伝ってくれる人が欲しい。
「分かりました。納期は……?」
「う~ん、出来れば三日以内とか」
「早ッ!?」
「これには深い
荒野まで遠くてポーションの補給も大変らしい。
そこで回復量があって携帯しやすいものが必要のようだ。……でも、ちょっと疑問に思った。
「イベリスさんは作られないのですか?」
「残念ながら私は皇帝陛下直属の宮廷錬金術師なんです。なので陛下の命がなければ動けません」
そ、そんな事情があったなんて。
陛下が許可を出せばいい気がするけど、そう簡単な話ではないのかも。
ていうか、イベリスって皇帝陛下直属なのー!?
本当に凄い人なんだ。
「なら、わたしがやるしかないですね」
「がんばってください。私も可能な限りサポートしますから」
「お願いします、イベリスさん」
話がまとまると、プリムラは「また近い内に」と笑顔で去っていった。こんな早くお客さんに巡り合えるなんて奇跡みたい。
しかも、一番客が帝国の騎士団長さんとかプレッシャーだなぁ……。
「三日しかないので、さっそく取り掛かりますね!」
「焦らず、品質の良いポーションを作りましょう」
ポーション瓶、試験管、ビーカーやフラスコ、乳鉢にハーブ類を準備。楽器のマラカスみたいなケルダールフラスコを使用していく。
何度も何度も試作品を作っていくけれど、上手くいかない。
「う~ん……ホワイトリジェネポーションって難しいんですね……」
「宮廷錬金術師でも成功確率は10%ほどですね」
「たったそれだけなんですか!?」
「とても難しいのですよ。なので『リジェネポーション研究書』があれば成功率が上がるんですけどね……」
聞きなれない言葉にわたしは首をかしげた。
研究書?
そんなものがあるんだ。
「それがあると、どうして成功率が上がるんですか?」
「三年前に私が書いた研究書なのですが、何者かに盗まれてしまったのです……」
「そんなことが!」
「なので、肝心なレシピが抜けてしまい、成功確率が10%しかないのですよ。おかげで大量生産ができず。不完全でとてもコストの掛かるポーションとなってしまいました」
申し訳ないと、イベリスは謝る。
悪いのは彼ではない。盗人が悪いのだ。ていうか……盗んだ人がいるんだ。いったい、誰なんだろう。
「心当たりはないんです?」
「研究書の内容は数式が膨大で、さすがに思い出すは不可能。となると犯人を探すしかないのですが……思い当たる人がいないのです」
うーん、犯人を探すのは無理そうかな。
その研究書があったら、完璧なホワイトリジェネポーションを作れるような気がしていた。
でも、探している暇はない。
こうなったら独自のポーションを編み出すしか。
「あの、イベリスさん。ちょっと外を歩いて考えてみてもいいですか?」
「もちろんです。行き詰った時はそうする方がいいでしょう。きっと面白いアイディアが浮かぶでしょうし」
「はい、そうしてみます!」
お店を出て、わたしは街へ繰り出した。
特に目的もないけどポーション開発の為の知恵をどこかで拾えれば嬉しいな。
ブルースライムの欠片、コボルトの短い毛、ガーゴイルの牙、グリンブルスティの黄金肉、ゾンビの目玉、吸血コウモリの羽根……。
周辺の難易度の低いダンジョンで取れるものばかり。
困っていると露店のおじさんが話しかけてきた。
「こりゃ驚いた! その身なり、宮廷錬金術師様でねぇか! なにかお探しですかい?」
「オリジナルのポーションを作ろうと思いまして、なにか良い材料がないか探しているのです」
「……なるほど。なら、ハーブなどの回復アイテムが必要でしょうねぇ」
「珍しい回復アイテムがあればいいのですが」
「それなら『ユグドラシルの根』がええかと!」
聞き覚えのあるようなアイテム。う~ん、確か教本にも載っていたはずなのだけど……思い出せない。たった一行だったし、内容もほとんど忘れた。
「そのユグドラシルの根はどんな効果が?」
「ハーブを凌ぐとてつもない回復量らしいです。滅多に手に入らないので高値で取引されてやすねぇ」
「ちなみにお値段は?」
「ニーズヘッグ金貨三枚だったかなぁ……」
き、金貨……三枚……?
ウソでしょ!!
世界共通貨幣のニーズヘッグ金貨が一枚でもあれば、小さな宝石くらい買えちゃう。それが三枚ともなれば、とんでもない金額。
ポインセチア帝国の貨幣に換算して、約三十万セル。
そんな大金があったら、錬金術師の道具がたくさん買える……。
「そう、ですか……」
これは無理かなと落ち込んでいると、露店のおじさんは貴重な情報を教えてくれた。
「そうだ、宮廷錬金術師様ならダンジョンへ行けるんじゃねぇべか?」
「ダンジョンへ?」
「ここだけの話ですけどね、帝国の西側にある『森林ダンジョン』にユグドラシルの根があるとか何とか」
おじさんによると、三日前に冒険者ギルドを通して森林ダンジョンへ進入した錬金術師がいるらしい。そのダンジョンは、A級以下の錬金術師の場合、許可が下りないと入れない場所なんだとか。
でも、わたしはS級の宮廷錬金術師。進入自体は可能。……やるしかないかも!
「ありがとうございます、おじさん。行ってみますね」
「一人で? いや、宮廷錬金術師様なら平気ですかね?」
「一人じゃないですよ~。もちろん、頼れる人と向かいます」
「それなら安心ですぜい。お気をつけて!」
おじさんと別れ、わたしは一度お店へ。
このことをイベリスに伝えてみた。
「おぉ、ユグドラシルの根という手がありましたか! 完全に失念しておりました。さすが、アザレアさんです!」
「いえいえ、偶然です。それより、イベリスさんも一緒に来ていただけませんか?」
「もちろん、一人で行かせるわけにはいきませんので、お供します。ゼフィランサスも一緒ですよ」
「やった、嬉しいですっ! イベリスさんと一緒にダンジョンへ行けるなんて感激」
「となると、
「? どういうことですか?」
「実は――」
えっ……そんなことが可能なの?
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