第12話 顕現せし妖魔


 梟の鳴く声が聞こえる。


 時刻は深夜二時を過ぎたというのに、父さん達からの連絡は一度もなかった。

 今日一日、母さんは気丈に振舞っていたが、時折見せる不安げな表情が俺の脳裏に何度も蘇る。


(……考えたくもない、けど)


 父さん達に何かあったとしか思えない。

 それも連絡がない事を考えると、かなりまずい状況に置かれている可能性がある。

 最悪の場合、もう二度と会えないという事も有り得るかもしれない。


 そんなのは嫌だ。


(……様子を見に行くか? でも母さんを置いては行けない。だからと言って、連れていくなんて選択は取れない。父さん達が対処できなかったんだ、俺一人で母さんを守りきれるとは思わない方がいい筈だ。……くそっ、どうすりゃいいんだよ)


 何度目かも分からない思考。俺はもう、不安に押しつぶされてしまいそうだ

 きっと母さんも同じ気持ちなのだろう。壁を一つ隔てた先から、時折物音が聞こえてきていた。こんな状況で眠れるはずがない。


「……剣でも振るか」


 身体を動かして思考を断ち切ろう。

 今俺たちにできることは、悔しいけど二人が無事である事を祈るだけなのだ。

 そう思い立って母さんに勘づかれないように部屋を出た。


──その直後だった。


 ゾクリ、と。

 全身が悪寒に舐めまわされた。


 続いてパリンッとガラスが割れるような音が鳴ったと同時、本能が早鐘をけたたましく叩き始める。


「……っ!?」


 馬鹿みたいにデカい邪悪な気配が現れる。

 それは七五三で前にした妖魔では比較にもならなかった。

 気配は散歩するように正門から堂々とこちらへ向かってくる。そして玄関前で気配は止まった。

 そして、


「──天智! 全力で右横へ飛べ!」


 そんな銀子の切羽詰まった声を聞いた。

 俺は咄嗟に『操枷』を発動してその場から飛び退いた。


 刹那、轟音が耳朶を劈く。


「やっと見つけたよ」


 男児女児男性女性──いく層にも重なる機械音みたいな声。

 顔を上げれば、円型にくり抜かれた屋敷の先に、深紅の瞳を持つ人型の妖魔が此方を見据えて破顔していた。


 思わず言葉を失った。

 その異形は、あまりにも禍々しかった。

 人の形をしていながらも、明らかに人とは一線を画す異質さを兼ね備えている。

 肌には鱗のような物が浮き出ており、手足には爬虫類のような鋭い爪が携えられている。


 そしてあの瞳の色──、


「一級の妖魔……」


 冬馬さんでようやく祓える階級の妖魔。

 ──まさか、と。嫌な予感がした。


「ようやくだよ。長かったよ。苦労したよ。あの二人さえ居なければ、もっと楽できてたよ」


 血に染った爪へ長い舌を這わせて、妖魔はそんなことを口にした。

 



========


更新遅れて本当にすみません。おでこ地面に擦り付けてます。

更新はよ用の近況ノート作ります。更新はよ、のメッセージ待ってますスゥ…( ' ω :::………

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