第3話 月日が経って
時間はあっという間に過ぎ去って、転生してから三年が経過した。
この三年間、毎日ひたすらに呪力操作を行っていた事もあって、生まれ変わった当初とは比べ物にならない程に呪力量が増えている。
感覚的には数百倍くらい……かな?
もう三年も前の事なのでハッキリとは覚えていないけど、だいたいそのくらいだと思う。
呪力の移動も難なくこなせるし、練度はかなり上昇したはずだ。
なんて言ったって、もう逆上がりだって楽勝なのだ。転生して直ぐの、布団の上で一日中ぼーっとしていた頃とは違う。
好きな時に移動もできるし排泄もできる。
あぁ、自立って素晴らしいや。
と、そんな俺は今、母から
なんと今日は『七五三』らしい。要するに祝ごと。
しゅるしゅると布の擦れる頻度が徐々に少なくなっていく。着付けはもう終わりそうだ。
あー、ワクワクする、ドキドキする。
だって今日は『七五三』以外にも俺にとっての記念すべき日でもあるのだ!
「終わったよー天智。うんうん、似合ってるし可愛いわ!」
「ありがとう!」
「それじゃあ、お出かけ行こっか!」
「うん! いく!」
そう、お出かけである!
今世初めての外出なのだ! 三歳にしてようやくだよ!
どうしてこれまで外に出られなかったか。
それは陰陽師の体質にある。陰陽師は常に身体から呪力が僅かに漏れ出している。それは精孔を開いていない子供でも同じ事だ。
そして子供のそれは妖魔にとっては大変な御馳走らしく、格好の獲物になってしまうのだとか。
たけど家の敷地内ならば結界を張っているようで呪力の感知を防ぐと同時に、例え気付かれたとしても低級の妖魔の侵入を防いでくれるんだとか。
まだ呪力による身体能力の向上しか出来ない俺が、もし一人で外に出るような事があれば……。
うーん、考えたくもない。俺はまだ死にたくないです。
まぁそういうことで、今日が始めての外出となったのである。
「おぉ、似合ってるぞ天智! 可愛いかっこいい愛らしい! 流石我が子だな!」
玄関に到着すると父がそう言って身体を抱えてきた。
高い高いしながらクルクルと回ると、そのまま抱っこしてくれる。
普段は仕事で家を留守にすることが多いが、今日はわざわざ休みを貰ってきたらしい。
息子のこと大好きだな、この父親は。俺も二人のことは好きだけど。
「それじゃ行こうか、
「えぇ、
玄関を出る。
すると屋敷の門のすぐ傍に黒塗りの車が一台止まっており、俺たちに気が付いたスーツに身を包む男がこちらに向かって会釈してきた。なんとも言えないマフィア感だ。
ふーむ。歩けるようになってからこの屋敷を見回ってみたけど、やっぱり比那名居家はお金持ちなのか? 敷地も屋敷もかなり大きいけど。
……まぁそんな事は今どうでもいいか。俺は早く外の世界が見てみたいぞ。
そんな俺の様子に気が付いたのか、門前まで移動すると父親が車の前にいる男に声を掛ける。
「今日は頼む」
「はい、お任せ下さい。しっかりと九条家までお届けいたします」
「うむ。それでは行こうか」
「かしこまりました。どうぞ」
そう言って、スーツの男は扉を開いてくれた。父親、俺、母親の順で車に乗り込む。
……って言うか、九条家?
まじか。
原作では数字の一から九を名前に関する家は
でもなんでそんな家に行くんだ……?
そんな事を考えていると車は直に動き出し、窓からは街の景色が一望できた。
ゲームで見た通り、現代日本の東京って感じの景観だ。
久しぶりに自分の目で見る世界は以前見た時よりもずっと新鮮で、考えていた事を後回しにせざるを得なかった。
「ふふっ、お外楽しい?」
「うん!」
「うむ、初めてだからな。ゆっくり堪能するといい」
「そうする!」
そうして俺が外の世界に感激している間に目的地に到着する。
家よりもずっと大きな屋敷が車を降りて直ぐに見える。
どれだけ広いんだ……。ウチも広かったけど比べ物にならないや。野球場くらいなら作れそうだけど。
「行こうか」
「えぇ」
母に手を繋がれて俺たちは屋敷の中に入る。
中に入ると使用人が何人かいて、皆一様に頭を下げ、俺たちはその中で長い廊下を進んでいく。
そしてある部屋の前で立ち止まると、その部屋の襖が開かれた。
そこには一人の女性が座っていた。
年の頃は二十代前半くらいだろうか。綺麗な着物を着た美女だった。
女性は俺達の姿を見ると、ニッコリと微笑みかけてくる。
そしてゆっくりと立ち上がると、こちらに歩み寄ってきて……頭を撫でてきた。
なんだか少し恥ずかしいな……。
しかし俺はそんな気持ちとは裏腹に、女性の顔を間近で見て思わず固まってしまった。
(あ、思い出した)
この人は九条家当主であり、歴代最強の陰陽師と謳われる原作においてのバランスブレイカー。
その名を
星の力を意のままにし、未来予知に近しい神の力を持つ星読みの使い手だった。
──そして。
将来、俺を指名手配犯と指定した張本人でもある。
「……へぇ、君の未来は随分と歪だね。まるで二つの魂が混同しているような感じだ。今の内に手を出すのも……ありかもしれないな」
ふぇ!? 手を出すってなに!?
え、何されるの!?
底知れない恐怖心が膨れ上がってくる。
冷や汗が止まらない。
(俺、殺されないよな……?)
今にも逃げ出したくなるようなプレッシャーの中で、俺は心の内で呟いたのだった。
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