第7話 来客がやってきた
四歳になって数ヶ月が経過した。
銀子との特訓はあれから毎日行われ、もはや一つの日常となっている。
当時と変化した事と言えば、自身に『紫電』を纏わせる術式──『操枷』を習得したということ。出力はまだ10%にも満たないが、それでも身体能力が飛躍的に上がる確かな感覚がある。
そしてもう一つは、銀子との夢の世界での修行で、瞬殺される事が少なくなったことだろうか。
まぁ、全力で護りに徹した結果ではあるけども……攻撃なんてする暇は与えてくれない。
とはいえ、銀子はそれでもまだ手加減している様子で、自分の力の無さに気落ちしそうにもなる。
だけど、こんなとこで諦めてたら強くなんてなれない。このままじゃ百鬼夜行で戦うなんて夢物語だ。
だから俺は、純粋に訓練量を増やすことにした。
朝と夜は銀子との特訓。そして昼から夕方の間は、
「まだ、まだぁ!」
「お、良いじゃないか。だが少し甘いぞ? それじゃあお父さんには当たらないなぁ」
父との模擬戦である。
父が家に居る時だけに限るが、銀子との特訓とはまた質の違う戦闘経験が積めるからかなり助かる。
と言うのも、銀子は俺を直ぐに殺しちゃうから、打ち合いというものが殆ど発生しないのだ。
銀子曰く、死に優る経験なし、との事だった。
まぁ、言おうとしている事は分かる。
確かに明確な死の気配というのは身に染みるのだ。いつまで経ってもアレには慣れる気がしない。
ゾクッとしたあの感覚は、夢の世界と銀子という組み合わせの修行でしか経験できないだろう。
現に殺気の察知? 第六感? みたいなもので反応出来るようにってきているのだから、実際に効果はあるようだ。
「しかし、天智は日に日に強くなるな」
「そうっ、かなぁ!」
地面を蹴りあげて俺は横薙ぎに木刀を振るう。
しかしその攻撃は意図も容易く上段から叩き落とすように弾かれた。
前のめりになった俺に、父は肋を目掛けて回し蹴りをかましてくる。
それを寸前で察知した俺は、すぐさま後ろに飛び退いた。
「うむ。護りに関しては最初から目を見張る物があったが、攻撃もなかなか良くなってきている」
息を荒らげる俺を、父は腰に手を当て「はっはっはっ」と誰かに自慢するような誇らしげな表情を浮かべて笑う。
にしても、父さん強いや。
流石準一級陰陽師と言ったところか。
陰陽師は一級から準五級までの階級があり、同じように妖魔にも階級が存在する。
同級の妖魔を単独で祓えるか祓えないか、それが一つの指標だ。
『操枷』を使っていないとはいえ、そんな父の背中が遠すぎて逆に悔しくなってくる。
ちなみに、『操枷』を使わないのは純粋な戦闘、戦術を学ぶ為だ。
これらの基礎がしっかりしてきてから術式は使おうと思っている。
だから父さんには術式を一回しか見せてない。俺がそう提案したからだ。
……まぁ、呪力による純粋な能力向上だけは使わせてもらってるけど。
じゃないと木刀なんて簡単に振るえないしね。
「はぁ、はぁ……ありがとう。でも、まだ一回も攻撃当てられてないしなぁ……」
「ははっ、術式なし、それも四歳でこれだけやれるのは天智くらいだぞ? 誇っていい」
こちらに歩み寄ってきて、乱暴に頭を撫でてくる。
嫌な気がしないのは、確かな愛情を感じるからだ。
「さて、今日はこのくらいにしておこう」
「え、俺まだやれるよ!」
「はははっ、そうかそうか! だけどな、今日はお父さん用事、と言うか来客があるんだよ。すまないな」
「……そっか。わかった」
「うむ、天智はいい子だな。では身体を冷やす前にお風呂にでも入ってきなさい」
「あれ、お父さん一緒に入らないの?」
「あぁ、ちょうど今来たようでな」
父がそう言うと、屋敷の中から母が顔を出す。
「恭志郎さん、お客さんです。冬馬さんが来てますよ」
そういった母の背後から、一人の男が姿を見せた。厳格そうな父とは対象的な、優男って感じの人。
「あっ!」
「む、どうした天智?」
その人の顔を見て思わず驚いてしまった俺は、慌てて
「ううん、なんでもない! それじゃあお風呂行ってくる!」
妙な様子の俺を見る父を置いて、靴を脱いで屋敷に上がり、風呂場へ向かう。
そんな中で、俺の心は歓喜に打ち震えていた。
「あの人、
天智と雫が初めて会うのは、今から一年後の七五三の時だったはず。
それまでに雫のお父さんから彼女の事を聞いてみたい。原作に無い丸秘エピーソードとかないだろうか。
とにかく、雫の血縁者と会えるなんて光栄だ。
「でも、どうしてここに?」
そんなイベント、原作にはなかった気がするけど。
それに父さんもココ最近はずっと家にいるし……何かあったのかな。
興奮とは別に、原作にはなかった展開に一抹の不安を感じながら、俺は身体をさっと流し風呂を出る。
そして二人の姿を探し回ると、縁側に繋がる廊下の先。つまり、まだ庭に居たのが見えた。
「それで、どの辺りだ?」
「ここから十五分の場所にある山。その中にある社の近くだ」
「……そうか。姿は見たのか?」
「いや、まだだ。顕現する機会を伺っているのか、はたまた力を蓄えている最中なのか」
「どちらにせよ、早めに仕留めないと不味そうだな」
「あぁ、だからお前を呼んだんだ」
「……そうかい」
何やら物騒な事を話してる。
この辺りに妖魔が出た?
やっぱりこんなイベントは知らない。
シナリオが変わってきているのか? だけどどうして? 俺はまだ原作壊すような事は何もしてないはずだけど。
もしくは原作では語られなかったブラックボックスだったりするのか?
うーんうーん、と頭を悩ませながら縁側へ向い、二人を見ながら腰を下ろす。
すると二人が俺に気がついた。
「随分早いな、しっかり温もったか?」
「うん!」
「へぇ、この子がお前の子か。……これはなかなか」
「だろう? 自慢の息子だ!」
「あぁ、お前が誇らしげに語るのも頷ける」
雫のお父さん、いや冬馬さんが俺の事を足先から頭に向かって観察するように視線を動かしていた。
「まぁ、俺の娘には敵わないけどな」
「むむっ、それは聞き捨てならないな」
あれ、なんだろう。
……なんか、悔しい。
だからこそ、俺はいつの間にか口走っていた。
「あ、あの! 俺、あ、いや。僕と手合わせしてください!」
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