第13話 予兆

「天智! 大丈夫なの!?」


 妖魔によってもたらされた轟音を聞きつけて、母さんが屋敷の中から姿を見せた。

 抉り取られた屋敷を見るや、俺の元へと駆け寄ってくる。

 だけど、俺はそれを制止させた。


「母さん、来ちゃダメだ!」

「でもっ!」


 母さん自身も分かっているはずだ。自分では戦うことは疎か、そのステージにすら立てていないと。

 母さんの階級は準五級。固有の術式も持たず、使えるのは汎用的な紙人形を使った術だけ。


 そんな母さんがアイツと戦えば……間違いなく手も足も出せないで殺される。

 そんなのは絶対にごめんだ。


「母さんだけでも逃げて。俺も隙を見て逃げるから」

「……っ!」


 今にも泣き出しそうな表情を貼り付けて此方を見つめる。

 不安なんだと思う、また家族を失うのが。

 父さんの安否も分からない上に、俺の命だって数分後にあるかも定かでは無い。

 母さんの気持ちはわかるけど、俺だって家族を失うのは嫌だ。


「大丈夫、銀子もいるんだ。何とかなるよ。それに、母さんが先に逃げてくれたら、俺も逃げることに専念出来る。だから、早く!」

「…………っ。絶対に、絶対に無事でいてね約束よ!」

「うん。約束する」


 そう言って唇を噛み締めて、血を流しながら去っていく母さんの背中を見送る。


「優しいんだね。こんな簡単に母さんを逃がしてよかったの?」

「うんうん、問題ないよ。用があるのは君だけなんだよ。いや、正確には君の式神だけなんだよ」


 目的が銀子……? どういう事だ。


「それじゃあ、行くよ。君の式神、貰うんだよ!」

「何言って──!?」


 妖魔がそう口にした直後、奴の影から複数の妖魔が解き放たれた。

 百足、蜘蛛、蛇、蝙蝠。様々な形をした妖魔が一斉に向かってくる。


「銀子、太刀貸してくれ!」

『好きにせい』


 俺は宙に現れた大太刀を握りしめて『操枷』と『譲雷』を展開し全てを叩き斬る。

 斬り裂かれた妖魔は黒い靄となって消滅した。


「流石だよ。でも、このくらい当たり前だよ。だって君の式神は──」

『黙らんか、下郎が。今ここで儂が祓ってやろうか』

「うへへ、それは今の貴方じゃ無理だよ。リサーチ済みだよ。君たちの事ずっと見てたよ」


 再び破顔する程に目尻と口角を三日月形に歪ませて、妖魔は嗤う。

 けたけたという甲高い声が酷く鬱陶しい。


「うへへ、それじゃあ、そろそろ殺っちゃうよ。でも、その前にだよ」


 再び影から無数の妖魔が現れる。


「君が悲しむところが、見たいんだよ」


 妖魔が指を指すと、群れをなす雑魚妖魔が明後日の方向へと放たれた。


──そっちは、母さんが逃げた方向だ。


「お前っ!!」

「そうそう、いい顔だよぉ!!」


 バチバチィ!!

 と、俺の怒りに呼応するように紫電が爆ぜる。

 俺は『操枷』を全力で解き放って『譲雷』を大太刀に纏わせる。

 そして、雑魚の進行元へと先回りして一撃を放った。


「──お前」


 怒りが膨れ上がっていく。


「狙うならなんであの時逃がした」


 ケタケタと、妖魔が口を開く。


「そんなの決まってるよ。君の抱いた安堵、そしてあの女の覚悟。その両方をぶっ壊したかったからに決まってるよ!」


 壊れた時の君の表情を想像したら、と、そう続けて。ヤツは嗤うのを辞めずに再び妖魔を召喚する。


「……」


 許さない。

 こいつだけは絶対に。

 これ程までに腹が立ったのはいつ以来だろうか。


「うへへ、死ね死ね死ねぇ!」

「──五月蝿い」


 大太刀で宙を撫でるように一振する。


「『槍雷』」

「うへ、へ──────は ?」


 一本の紫電の槍が放たれる。

 それだけで妖魔が一掃される。


「お前のその不快な声、心底耳障りだ」


 こいつだけはここで、


「来いよ。祓ってやる」


 塵一つ残してやるかよ。




========


お待たせしてすみません(深々とした土下座)

何でもするかもしれません、許してください。

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国を敵に回す陰の実力者系悪役に転生した俺、破滅フラグを回避する為に赤ちゃんの頃から努力してたら規格外の魔力で最強に きのこすーぷ @sugimonn19981007

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