第8話 模擬戦
「随分と負けず嫌いなんだね、君。恭志郎にそっくりだ」
「はっはっはっ! そうだろう?」
父さんは嬉しそうに笑いながらこちらを見てくる。
その顔はどこか自信満々で、自分の息子を褒められた親の顔だった。
「いいよ、その勝負受けてあげる」
冬馬さんはそう言うと、父に模擬戦用の武器を求めた。
「ほらよ」と、先程まで俺たちが使っていた木刀を父が持ってきてくれる。
「ありがとう、恭志郎。それじゃあ早速始めようか」
「はい!」
「ふっ、いい返事だね」
俺は木刀を受け取ると、構えて冬馬さんを見据える。
「それじゃあいくよ。言っておくけど、僕は恭志郎より強いから」
冬馬さんは軽く木刀を振るう。サンッと風切り音が耳朶を震わせた。
「『風よ』」
すると木刀の周りに渦巻いた風が発生し、刀身を包み込むように纏わり付いた。
「やるからには妥協はしない。恭志郎の自慢の息子がどれ程か、見てみたいしね。さぁ、どこからでもかかっておいで」
「わかりました」
だったら俺も出し惜しみはしない。そっちが術式を使うなら俺も使う。
俺は呪力練って全身に淀みなく広げ、身体の強度を上げる。
そして、
──バチィッ! バチバチバチィ!
『操枷』を展開した。
「ははっ、これは驚いた……その歳でこれほどの呪力操作と出力、か。油断してられないな」
「ありがとうございます。では、行きます!」
俺は地面を全力で蹴りあげる。
ドンッという地鳴りを響かせて、冬馬さんの正面へと距離を一気に詰めた。
「はやっ!? けど、直線的すぎる!」
カーンッ! と木刀の交錯する甲高い音。
俺の木刀は冬馬さんに弾かれ、更に刀身に渦巻く暴風によって後退させられる。
「まだまだ!」
すぐさま体勢を整えて次撃へと移り変わる。今度は横薙ぎの一閃を繰り出した。
しかしそれも簡単に防がれてしまう。
「うん、悪くない太刀筋だ。だけど、まだ粗削りだね!」
「ぐぅ!」
冬馬さんが力強く押し返してきて、俺の体は後ろへ飛ばされた。
流石だ。
原作での冬馬さんの階級は一級。つまり、父よりも強い。
そしてその強さの根幹にあるのは──多種多様な術式の行使。
『三大元素』それが冬馬さんの術式である。
名の通り、炎、水、風、を自在に操る術式だったはずだ。
ゲームではお助けキャラとして加入してきた事もあったのを覚えている。同時にその強さも。
「次は僕の番だ」
冬馬さんは木刀を片手に持ち替えると、空いた方の手を突き出してくる。
「『炎槍』」
ボソっと呟くと、掌の前に赤い魔法陣のようなものが展開されそこから燃え盛る紅蓮の槍が現れた。
それは勿論、俺目掛けて放たれる。
「うわっ!」
咄嵯に回避するも、ギリギリ頬を掠めた。
「まだいくぞ」
間髪入れずに次の攻撃が飛んでくる。
「『水刃』『水矢』!」
今度は二種類の術式が展開された。
『水刃』はその名の通り水の斬撃を放つもの、『水矢』は鋭く尖った水塊を射出するものだ。
その全てが俺に襲いかかってくる。
「っ、くそ!」
一つ一つ丁寧に捌いている暇はない。
俺は後方に飛び退いた。
「ははっ、逃げ回ってばかりじゃ勝てないよ!」
「わかって、いますよっ!」
……くそっ、どうする。
このままじゃジリ貧だ。何か打開策を考えないと……。
冬馬さんが次々に繰り出す多彩な術式を前に、俺は防戦一方だった。
「この程度で根を上げてるようじゃ、やっぱり僕の娘には届かないかな? まぁ、うちの娘は最強で可愛いから仕方ないけどね」
そんな様子の俺を見て、冬馬さんはニマニマとした笑みを浮かべていた。
「……」
……ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく!
子供みたいな挑発してきやがって!
「ははっ、いい表情だ」
もう、なりふり構ってやらない。
「……行きますよ」
──バチッ! バリバリバリッ!!!
今までよりも濃く、呪力を練る。
そして、『操枷』の出力を強引に引き上げた。
「本気、出します」
──刹那、俺は全身を纏う雷を置き去りにする勢いで駆けた。
冬馬さんが目を見開く。
「まだ上があるのかッ!」
咄嗟に『炎槍』を展開し放ってくる。
それを紙一重のところで避けながら、更に加速し──俺は冬馬さんの懐へ潜り込むと木刀を振り抜いた。
カァンッと何度目も分からない甲高い音が響き渡る。
「ははっ、確かにこれは──匹敵する」
冬馬さんの持つ木刀が宙を舞う。
その時の冬馬さんの玩具を見つけたような笑みが、やけに脳裏に焼き付いた。
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