08.二度目のチュートリアル

 今回もこのゲームを始めて感じたことは眩しい――ではなく、高揚感と一抹の不安だった。

 前回同様眩しくはあるが、一度経験しているからかそこまでの攻撃性は感じない。


 代わり映えしない真っ白空間に降り立ち、感傷にふける。

 ……やっぱりこのゲームはすごい。リアリティしかない。

 現実と変わっていることがあるとすれば目が見えていることだけだ。

 現実よりゲームの方が過ごしやすいとはこれ如何に。


『──これより、チュートリアルを開始します。ICEが確認されました。キャラメイクを実行します』


 お、なんだ?今回はちょっと前回と違うっぽい。


「うおっ!?」


 突然目の前に俺と全く同じ……いや、若干大人びてるな?の全体像が出現した。


 なんだこれ……?

 キャラメイクって言ってたよな?じゃあ今からこれを弄るのか。

 試しに目の前の俺(?)の鼻先に触れてみる。

 すると視界にズラーっと謎のウィンドウが浮かび上がった。

 そこには色んな形の鼻の写真が載っており、スッとしたどこぞのイケメンのやつみたいなのもあれば豚鼻みたいなやつもある。

 しかし鼻はよく分かんないので、とりあえずスルーして目に触れてみる。

 今度は一つの目の写真と、その横にグラデーションがかったドーナツ型の大小二つの円が出てきた。

 大きい円を弄ってみると写真の目の瞳が赤や青、緑といった鮮やかな色に変わり、小さい円を弄ってみると、その濃さが変わった。


 うわぁ、すっげぇ……!

 元々真っ黒だった瞳がコロコロと色を変えていく。

 やべぇこれ楽しい……!


 数十秒くらい遊んだ後に、薄っすらと白い緑色に落ち着いた。

 小学生の頃からずっとこの色が好きなのだ。


 さて、次は髪の毛にしようかな。

 他と同様に頭に触れてみると、さっきの目のような感じで、髪の毛のウィンドウが表示された。

 あれ、髪型とかないんだ。目の前の俺をちょんまげとかにしてみようと思ってたんだけどなぁ……。

 まぁいいか。

 髪の毛は白にしてみる。

 お、瞳の色と相まって俺的にはいい感じに仕上がったぞ。


 鼻とかなんやらは面倒臭そうだったので、すっ飛ばしてこれで終わろう。

 よし、完成!……ってこれどうやって終わんの?


『キャラメイクを終了しますか?』


 うわ、機械音声。

 えっと、はい、でいいのか……?


『キャラメイクを終了します。名前の設定をお願いします』


 お、また新しいウィンドウが出てきた。

 真ん中に白く長細い四角形が置かれただけのシンプルなデザインだ。

 ここにゲーム内での名前を書き込むらしい。

 四角形を押してみるとウィンドウにキーボードが現れた。


 名前……どうしようか。

 俺の名前が蓮だから……うーん……レンコンでいっか。

 なんかしっくりくるし。

 よし、決まり。

 れんこん……っと。

 あ、これ漢字変換できるんだ。

 じゃあ蓮根にしとこー。

 よし、完了。


『チュートリアル続行。では、お好きな武器をお選びください』


 お、ここから前回と同じような感じになるのか。

 えーっと片手剣は却下で……今回はなんかやっぱり気になるし魔導書にしてみるか。

 魔導書っと。

 文字に触れると、文字が輝いて前回同様訓練場に跳ばされる。


 跳ばされた後、右手にずっしりとした重みを感じ、視線を向けてみると、そこには分厚い教典みたいなものが握られていた。

 これが魔導書か……。なんか、ゴツいな……。


『──では、これよりチュートリアル〈魔導書〉を開始します』


 また分厚い指南書でも降ってくるのか?と思っていたのだが、どうやら違ったようで、さっきのキャラメイクの時のように視界にウィンドウが浮かび上がる。



 魔導書:筆、指などを用いて紙面に魔法陣を形作り、そこに魔力を込めることで瞬時の発動を可能にする武器。

 魔法陣:魔法の詠唱を円とその内部の紋様で表したもの。魔力という媒介物によって効力を発揮する。


     次へ≫



 あー!なるほど、魔法陣か。

 剣と魔法と魔法陣……否が応でもワクワクさせてくれるじゃないか……!

 あっ、でも剣は見るだけで……。


 さて、『次へ』っと



 魔法陣を作成するにあたって、その元となる魔法を習得しなければならないことが挙げられる。

 例として【発火】の魔法を挙げる。

 【発火】は文に直すと「火を発する」となる。

 そうするとこの魔法の発動に必要となるのは「火」という概念と「発する」という動作である。

 これを魔法陣として書く場合、「火」と「発する」をそれぞれ円形模様に変換して組み合わせなければならない。

 その際にオリジナルの魔法を習得していないとその紋様が思い浮かばないのだ。

 逆に言うと、その魔法を習得さえしていればいくらでも複製可能ということである。


 ≪戻る 次へ≫



 お、おぉう、長……。

 なんか複雑で難しそうだなぁ……。

 まとめると魔法を円形の模様とかに変えて、保存できるようにした感じかな?

 咄嗟の応用は効かなそうだけど、入念に用意すれば強そう。

 まぁ、難しそうなことに変わりは無いのだが。


『次へ』



 チュートリアルの為に、【発火】の魔法を習得したステータスを用意した。

 このウィンドウを閉じると魔導書が使えるようになるはずだ。

 試してみるといい。


 [閉じる]



 おぉ、遂に使ってみれるらしい。

 なんか片手剣の時より圧倒的に優しいな……。

 贔屓か?まぁいいや。


『閉じる』


 ……さて、ウィンドウを閉じた訳だが……これといった変化は感じられないな?

 とりあえず手元の魔導書を開いてみよう。

 パカッとな。


 ……うぉぉお!?

 突然頭の中に『火』と『発する』の円形模様が浮かんだ。

 すげぇ、こんな感じなんだ。

 ……にしても、頭になんかよく分からん模様が浮かぶって変な感じだなぁ……。


 とりあえず魔導書の横に付属してた羽根ペンで頭に浮かんだ模様を書いてみる。

 うわ、すげぇ、模写するよりもスラスラ書ける。

 記憶じゃなくて体に定着してるのかな。

 それともゲームだから不便すぎるとアレだからかな?

 まぁいいや、どうせ不便すぎても嫌だし。


 とか考えていると書き写しが終わった。

 ……で、こっからどうすんの?

 あ、そういえば魔力を込めるやらなんやら……。

 魔力……ふんぬっ。

 ……力んでも何も起こらないか。


 えっ、コレマジでどうすんの?

 途方に暮れる。

 しかし、それは要らぬ懸念だったみたいで、ペタペタ魔法陣に触れてみると若干の脱力感を覚えた。

 すると、魔法陣が淡く光り、火がポッと生まれる。

 うわ、うわうわうわ!なんも無いとこから火が出た!

 すげぇ、魔法だ!うわ〜‼


 ◇◇◇


 ある程度喜んだ後、特有の虚無時間をやり過ごし、落ち着いたのでチュートリアルを終了することにする。

 前回『やめたい』って思った時みたいに『チュートリアル終わりたい』って思ったらウィンドウが出てきた。

 この仕様初見じゃ絶対分からんだろ。



 チュートリアルを終了します。

 よろしいですか?


 [キャンセル] [終了]



『終了』


『チュートリアルを終了します。

 ようこそ、オンライン・アライブ・ライフ・ヴァーチャルの世界へ。

 我々は貴方様にお楽しみいただけることを切に願っています』


 そんな前口上と共に、視界は真っ白に染まった。

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