17.魔法
「──で、どの魔導書を選ぶ?」
……はっ!?
意識が、飛んでた……!?
危ない危ない。
「ねぇ、どれにするのって聞いてるの」
店主さんが若干の怒気を含んだ声音で再度問いかけてくる。
「え、えーと、そうですねぇ……」
やべぇ、決めてなかった……!
確か、火、水、風、土、光、闇、それと氷とか乾燥もあったな。
そういえば他に精神魔法なんてものがあったよな……聞いてなかった……。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
早く決めなければ店主さんの視線の温度が0℃を下回る。
「──風!風でお願いします!」
ほぼ勘と適当で決めた。
まぁちょっとだけ不可視の攻撃とか考えたけど。
「風、ふーん。まぁ、いいんじゃない?」
店主さんはなんとも言えないような反応を示したのち、受付奥に引っ込んで行った。
正解でもなければ不正解でも無い……みたいな感じかな?
「アイツは多分氷を選んで欲しかったんだろうよ。氷魔法の使い手だからな、アイツ」
「へぇ!そうなんですね」
確かに何魔法使ってそうってなったら氷魔法が真っ先に浮かぶな。
まぁ、もし餅魔法があれば確実にその使い手だっただろうけど。
「──はい、これ。風の魔導書」
結構ゴツい金具が付いた分厚い本が渡される。
なんか、チュートリアルで使ったやつよりデカくて分厚いな。
「使い方は簡単。中の魔法陣に触れて魔力を流し込むだけ。そうしたら勝手に魔法が発動して習得できる」
……なるほど、魔導書って習得した魔法を魔法陣として書き込むことで後は魔力を注ぎ込むだけの状態にするから、誰にでも発動できるのか。
それをその魔法を習得してない人が使えば習得出来ちゃうってことか。
うわ、だいぶ破格な性能してるな、魔導書。
……いや、待て。
そんな高性能な物、絶対高いだろ。
「あの、ちなみにおいくらで……?」
「元は15万ゴールド。ただし今回だけグラの紹介とちょうど風の魔導書が二冊あったから特別値引きして5万でいい」
高っ!?
いやぁ、元の3分の1にまで値下げしてくれるなんてなんて太っ腹…………あれ?俺の所持金5万上回ってなくね?
あれから数日で2万も稼いでない。
腰痛とか現実での用事とか諸々あったのもあって、バイト時間は大幅に減っていた。
そう、確実に上回ってない。
え、じゃあ払えなくね?
「あ、あの、えっと、そのぉ……言いにくいんですけど所持金が……」
「……何?」
「5万ゴールドもなくて……」
「……え、お前金欠?なんで魔導書買いに来た」
そんなに高いなんて知りませんでした!
いや、よく考えたら現実でこんな分厚い本で装飾もされてて使ったらそのまま内容を習得できるってだいぶ破格だな。
そりゃ高ぇわ。
「返す言葉もございません」
「まぁ、いいよ。何ゴールドあるの?」
「えーっと……」
『マイマネー』
所持金:4万600ゴールド
「4万600ゴールドですね」
「9400か……まぁいい。許す」
「っ……あ、ありがとうございます!!」
天使!大天使!店主様!
「その代わり!これからもこの店を贔屓しろ」
「もちろんでございます!」
「……調子のいいやつ。……はい、あげる」
店主様から手渡された風の魔導書を受け取る。
テッテレー 蓮根 は 風の魔導書 を 手に入れた!
こんなの否が応でも小躍りしそうな気持ちになる。
「……お金」
「あ、すいません。……はい、どうぞ」
「……ん、受け取った。最後にそれを扱うにあたっての注意だけど、
「了解しました」
分厚い魔導書を抱えて、ウッキウキで出口に向かう。
「じゃ、俺は失礼します」
「……ん、またね」
「俺はもうちょいここに居る。帰り道は分かるな?」
「はい、大丈夫です」
そう言って扉を開け、パン屋への帰路に着く。
帰り着いた時間は約束の12時をとうに過ぎた午後2時だった。
昼飯に間に合わなかったことで店長にふてられ、機嫌を直してもらうのに小一時間かかったことはちょっとした余談である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます