09.初めての世界

 目覚めるような感覚になり、そっと目を開ける。

 豊富過ぎる光に目を細めながら、ゆっくりと眼前の景色を視認する。


 巨大な噴水。

 透き通った小さな水滴が頬に散り、ヒヤッとした清涼感を覚える。


 周囲を見渡すと、鎧やRPGのようにファンタジックな衣装に身を包んだ人々が目に入る。

 その人々の喧騒が鼓膜を心地よく揺らす。


 言い知れぬ高揚感。

 喉奥からせり上がってくるような興奮。


 俺は今、確実に別世界に立っている。

 地球じゃない。火星でも月でもない。

 あの宇宙に存在し得ない世界に俺は立っていた。


 ◇◇◇


 ……はぁ、興奮冷めやらぬとはこのことか。

 石畳に舗装された道を歩きながら、辺りを見回してみる。

 石造の家々。いや、店か?

 大体が二階建てになっており、一階の部分に木製の看板が壁に突き立てられた棒に垂れ下がるようにして掲示されている。

 看板には絵が描かれており、欠けたチーズのようなものもあれば斜め十字に重ねられた剣のようなものもある。


 それらの店の前には時々屋台のような出店があり、焼き鳥やらなんやらの食べ物が売られていた。

 美味そうすぎるので自粛して欲しい。

 案の定腹の虫が鳴く。

 しかし、今の俺の手元に金があるとは思わないので、我慢する。


 なんでわざわざ我慢してまで歩き回ってんの、だって?

 そりゃ単純にこの街のことをもっと知りたいからである。

 さっきから色んな店に入ってなんの店なのか探究している。

 決して道中で気になりすぎて気付いたら入ってた、なんてことは無い。


 今のとこ判明したのは出店を省いて、チーズ屋と鍛冶屋と服飾屋とパン屋と……あと冒険者ギルドだな。

 冒険者ギルドは入会確定!

 ……だと思ったのだが、聞き耳を立てているとどうやら入会金が必要らしく、何事も無かったかのように帰らせていただいた。

 さて、どうしようか。


 お金をどうにかしようにも、生憎俺は現実でもバイトとかしたことない。

 なんか道すがら大きめなモンスター?を背負ってる人もいたけど、たとえ売れたとしても俺はアレ無理よ。


 ……どうにかしてバイトさせてもらうかぁ。

 いや、待てよ?

 今の今まで気付いてなかったけど、これ確かゲームだよな?

 バイト……できるかな……?


 ◇◇◇


 杞憂でした。

 さっき入った店の中から良さげだったパン屋に狙いを定めて頼み込みに行ったんだが、秒でOKされて即雇って貰えた。

 店主クッソいい人だった。


 よっしゃ、ひとまずはある程度この世界で生活して行けるように稼がなければ……!

 目標は……金銭感覚分かんないから後で決めればいいか。


 とりあえず頑張るぞ!

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