06.セット
もう一回だけあのゲームをしてみよう!……となったはいいのだが、肝心の藤真が外出しており、案内&セッティング要員がいない。
母さんもいるにはいるが、あの人は絶対機械に聡くない。父さんの方が職業的に信頼できそうだが、生憎と休日出勤中だ。
さて、どうしたものか。
普通に考えれば藤真か父さんを待てばいいのだが、せっかくやる気になったんだから今やりたい。
ゲームってそんなもんだと思う。
うーむ……。
唸っていると、唐突にインターホンが鳴らされた。
「はいはいはい……」
母さんがパタパタと駆けていく。
「はーい。あっ、祐奈ちゃん?」
『あ、ご無沙汰してます。ちょっとお菓子作り過ぎちゃって、お裾分けしに来たんですけど……』
「え、ありがとう!ちょっとそっち行くわね」
『あ、はい』
祐奈ちゃんとは、俺が小学校の時から母親ぐるみの付き合いで仲良くさせてもらってる女の子……いや、同い年だし女子か?
……まぁいいや。とりあえず幼馴染ってやつだ。
別に幼馴染だからと言って特段仲が良い訳でも無く、男子と女子の線引きがされていると思う。
小学校の頃は祐奈ちゃん呼びでなんとも思ってなかったのだが、中学校でなんか小っ恥ずかしくなって苗字の日野さん呼びに。
そっから向こうのお母さんと一緒じゃない限りはずっと日野さん呼びだ。
まぁつまり、幼馴染だからと言って特別よく話す訳でもないのである。
クラスの女子よりちょっと接点多いかなぐらい?
いとことかはとこみたいな距離感だと思う。
それで、家が近いのもあって時々こんな風に差し入れしてくれるのだ。
まぁ、お菓子類だったら大体が母さんの胃袋に行くんだけどな。
俺ら男衆は別に甘党じゃないので。
さて、結局最初に戻るんだが、もう誰か帰ってくるまでどうしようもないという結論に至った。ので、その間の暇をどうにかして潰すしかない。
出来ることといえば、寝るか音楽聴くかテレビかラジオ聴くか寝るかぐらいしかないので、ここは迷わず寝る一択である。
音楽やらなんやら聴こうが、どうせ寝てしまうのでもう素直に寝ることにする。
それが一番安定で賢い。
今座っている絨毯の周囲を手探りで確認し、寝転べるスペースを確保する。
さて、寝るか。と身をかがめる――
「──ねぇ、何してるの?」
「うわっ!?」
突然聞こえてきた声に驚き、寝転がろうとした姿勢そのままにコケる。
「誰っ!?」
「あ、え……そっか、目……私だよ、日野祐奈。君の幼馴染」
「あ、なんだ日野さんか……。珍しいな?家に入ってくるの」
「うん、久々にお邪魔しちゃった。蓮くんと会うのも久しぶりだね?」
「中学からだから……半年ぶりくらい?」
「かな。ここに来てはいたんだけどねー」
「確かに、お裾分けは結構頻繁だったなぁ」
「あはは……レシピとか見てやると大体4とか6人前できちゃうんだもん……」
日野さんはバツが悪そうに呟く。
「い、今更かもだけど、いつものお裾分け母さん喜んでるからさ、出来ればでいいけどこれからも持ってきてくれたら嬉しい、な?」
何とかフォローしようとしてミスった気がしなくも無いが、言っていることは紛れもない本心である。
「ホント?なら良かった。……あの、お菓子とかって蓮くんも食べてるの?」
「うん、ちょっとだけ貰ってる。全部美味しかったよ」
「そう?なら良かった」
「……」
やばい、会話が止まった。
今までどんな感じで話してたっけ。距離感が分かんねぇ……!
「あの、今さっき何してたの?」
うわ、ありがとう!こんな俺でも会話続けようとしてくれて!
あ、早く返さなければ。
「えっ、あ、寝ようとしてた……」
突然のことで驚いたのか、さっきしようとしたことをなんの捻りもなく口に出してしまう。
えっ、おいバカ!何会話終わらせようとしてんだよ!?
「えーっと、そのぉ……あっ、え、オアリブってゲーム知ってる?」
脳裏に思いついた話題をそのまま提供し、場を無理矢理繋いだ。
言って気づいた。
俺、オアリブモグリだ。
何を言われても空気が地獄になる……!
終わったぁぁあー!
どっちに転がっても終わりだぁぁあー‼
「オアリブ?……蓮くんオアリブ知ってるの!?」
「うわっ!?」
突然肩をガッと掴まれた。
「あ、ごめん……それで、オアリブ知ってるの……?」
「う、うん……」
び、びっくりした……。
心臓バクバク言ってる……。
「へ、へぇー…………あの、えっとね、それ私もやっててさ……良かったらでいいんだけど、一緒にやらない?」
「──へ?」
この人今なんて言った?
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