転生は必ずしも良いとは限らない
小者
1章 充実していたんだ、本当に。あの日までは。
1.転生
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
目がクマだらけの少年がPCの前で奇声を上げている。俺だ。
「ようやくクリアしたぞ…HP高すぎるだろ魔王ふざけんなあひゃっひゃっはっははは!!!」
徹夜で魔王戦をしていたからか感情がおかしくなったみたいだ。何も面白くないのに笑ってしまう。
時間を確認するとすでに6時だった。いつもだったら家を出る時間だ。
「やばっ、学校行かないと。今から準備すればギリ間に合うか…? 早く自慢してアイツらの驚く顔が見たいぜ」
急いで準備を終えて、家を出た。
「あ、PCの電源切ってねぇや」
幸い気付いたのは家を出て数分の頃だった。これならすぐ戻って電源を切ることができるだろう。
そう思い、走って道路を渡ろうとした時だった。
「べぼっ」
俺は横から現れたトラックに轢かれ、スーパーボールみたいに吹っ飛んだ。
血まみれの自分の体を見ながら俺の人生はあっけなく終わった。
♢♢♢
俺が目を覚ますと、体の怪我は治っていた。そんなすぐに治るような怪我じゃなかった気がするんだけど。
「目が覚めたようだね」
中性的な声が聞こえた。周りを見渡したが、どこにも声の主らしき者は居ない。
「お前は誰でここはどこだ?」
試しに問いかけてみると、声の主は面白そうに笑った。
「はは、初対面の言葉遣いとは思えないね。RPGのやりすぎで常識が抜けちゃったのかな?」
イライラッ。ムカつく野郎(?)だ。
「姿を見せずに喋るお前なんかこんくらいで充分だ」
「いつまでそんな口を聞いてられるのか楽しみだね。さて、本題に入ろうか」
気になることなんて沢山ある。この全面真っ白の部屋はなんなんだとか、どうして俺は生きているんだとか。
「まず、僕は地球の神様だ。君たちが勝手に崇めてるモノとは別だけどね。そして、ここは死んで魂となった君を留めておく空間さ」
この展開…まさか異世界転生か? 俺の読んでいた小説に似たような話があったぞ。って、魂?
「俺死んでんの? 体めちゃくちゃ健康そうだけど」
「それは君が魂の形をその体にしているだけだよ。やろうと思えば魂っぽい感じにもなれるけど」
「なんか怖いからやめとくわ」
「それは残念。じゃあ早速君にしてもらいたいことを話そうか。と言っても、想像はついてるみたいだけどね。異世界転生だよ。君が大好きなRPGのステータス付きのね」
「おぉぉ! 魔王とか勇者とかいるんですか?」
「急に敬語使いだしたね! 手のひらくるっくるじゃないか。あぁ、魔王は居るけど勇者は居ないよ。君以外にも沢山転移させてるからね。勇者が何十人も居たら興ざめだろう?」
「転移? 転生じゃなく?」
「そう、転移だ。今までの日本人は転移したら直ぐに国に囲われてしまってね。ほとんどは魔王と戦うどころか、魔物とさえ戦わないんだ」
「じゃあ何をしてるんですか?」
「人間同士の戦争さ。魔王は脅威だが、異世界人の力が抑止力となって攻めてこない。それをいいことに国同士で転移者を奪い合って戦争になるんだ」
「それ大丈夫なんですか?」
「いいや? あと20年ぐらいしたら魔王は世界を滅ぼすと思うよ? そんな雰囲気感じるし。だから、転移じゃなく転生にしたんだ。身元不明のチート持ちなんて直ぐに国に取られてしまうからね」
「…つまり、俺に魔王を倒せと?」
「その通り。時間は限られているから、妥協はしちゃダメだよ。強くなって、魔王を倒せ」
魔王を倒せ、その言葉だけ感情が強く籠っているような気がした。
異世界人の力が抑止力となるくらいにはチートは強いのだろう。それなら魔王を倒すことも出来るかもしれない。心配なのは、俺が育つ前にチート持ちとバレることか。
「転生してから異世界人ってバレる可能性は?」
「あ。7歳の時に鑑定式があるからそこでバレるね」
「え、なんか対策とかないんですか?」
「早いうちに隠蔽スキルとって育てるぐらいしかないよ。SP使ってスキル取ることはできるけど、スキルレベルは上げれないからそこが1番大変かもね」
「SPってなんですか? スキルポイント?」
「正解。分からない単語はステータス開いてから知りたい単語を意識すれば全部見れるから自分で見てね」
「ステータスってどうやって見るんですか?」
「転生したら感覚で見れるようになるよ。なんか欲しいスキルとかある?」
「まず何があるか分からないんですけど。神様のおすすめとかないんですか?」
「珍しいね。君程RPGをやりこむ人間はこだわりが強いから自分で決めるのがほとんどなんだけど」
「SPでスキルを取れるならまあいいかなって。せっかくなんでおすすめでお願いします」
「SPで取れないスキルとかあるよ? まあそこまで言うならいいか。剣と魔法の異世界、ファンタジアへ行ってらっしゃい」
「えっ、ちょっ待っ――」
話が違うぞ!
文句を言う時間すら許されず、突然現れた真っ暗な穴に吸い込まれて意識を失った。
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