7.結末
「絶対に、助ける!」
とは言ったものの、俺に火の玉はどうしようもない。
だから、何とかできる人に任せる。多分、ジェイルさんはどうにかできる力を持っている。
前にジェイルさんが言っていた。上級職以上になると、〈制限解除〉というスキルが使えるようになり、少しの間一段階上の力を手に入れるらしい。
俺が対応すべきは、横から迫るゴブリンアサシンだ。
今見えているのは2体。俺が1体受け持って、もう1体は…アランを信じよう。あんなでも腕は確かだ。
「〈制限解除〉! 〈結界〉よ、彼女を守れ!」
ジェイルさんがそう言うと、半透明の壁がランバーさんの前に出来た。
壁に火の玉がぶつかると、ピキ、とヒビが入った。
「ぐっ、足りないか! ならもう1枚だ!」
火の玉によって壁は割れたが、即座に追加された壁に防がれて消えた。
「グギギ!」
「グギ!」
ゴブリンアサシンは息を合わせて同時に来た!
ジェイルさんはもう〈結界〉は使えなさそうだ。
必ず1体は俺が止める! レオナルドの技を思い出せ!
流れるように、剣を滑らせろ!
「ギギィ!」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
ゴブリンアサシンの剣が、俺の短剣を撫でていく。俺の腕に当たるかどうかのギリギリを抜け、ゴブリンアサシンはよろめいた。
ここだ!
「倒れろ!」
無駄な動きだらけだったがしっかりと刺さり、ゴブリンアサシンは倒れた。
「はぁっ、はあっ、はあっ」
ゴブリンアサシンが煙と化して、ようやく命を懸けた戦いの実感がわく。
「そうだ! もう1体は?」
振り向いた時にはすでに煙になっていた。落ちた矢を見ると、一撃だった。
「すごいな…」
でも、これでなんとか防いだか。後は火の玉をこれ以上飛ばされる前に、術者を倒せば―――!?
「…!」
ゴブリンアサシンがもう1体、無言で走っていた。
こいつが本命か!
「情けない! アサシンなのに、敵襲に気付けないなんて! なあ、そう思うだろう!?」
レオナルドらしくない、荒い動きでゴブリンアサシンを仕留めた。
「後は森に隠れたやつらを倒せば…」
「問題ない! なぜなら既に俺が倒しているからだ!」
「いつの間に!?」
本当に凄いな。
「そうだ! ランバーさんは!?」
黒い鎖は今もランバーさんを縛ったままだ。
ジェイルさんが診察している。
「不甲斐ない、私では完全に治すことは出来ないようだ。…〈オールキュア〉」
黒い鎖は無くなったが、ランバーさんの体には痣が残っていた。
「これは呪いだ。呪術師に祓ってもらうか、これをかけた本人を殺す他ない」
「悪い、ゴブリンメイジは倒せたんだがあいつだけ気配が追えなかった。俺の実力不足だっ!」
「アランは悪くない。私が、油断したから…」
「それを言うなら僕の方だ。僕が〈索敵〉スキルを過信していたのが悪い。まさかスキルに反応しない魔物がいるなんて思わなかった―――いや、これもいい訳だ」
自分が悪いと、3人が言い合いっていると、ジェイルさんが止めに入った。
「3人とも、そこまでだ。速くイエストに戻った方がいい。呪いの経過も心配だが、何よりあのゴブリンは危険だ。一刻も早く伝えるべきだろう」
「ジェイルさんの言う通りです。ここは皆悪い所があったということで終わりにしませんか?」
3人は顔を見合わせて、気まずそうに頷いた。
イエストに戻る道中、魔物とは遭遇しなかったが、ある意味危険なことが起きた。
「そういえば、あの時カインが最初に異変に気付いたんだったね。僕達ですら気付かなかったのに、どうして?」
まずい。俺はまだ5歳だから、ステータスも見れないしスキルも使えないことになっている。
何とかスキルを使ったことを誤魔化さないと。
「えっと、なんか嫌な予感みたいなものがして、行かなきゃって思ったんです」
「ふぅん、そうなんだ。あ、その時にゴブリンアサシンを倒してたよね? レベルが上がったと思うんだけど実感ある?」
「い、いや、特に変わってないですね」
「そっか、僕の時もそうだったし、ステータスが使えないと強くなれないみたいだね」
危ねー!
そもそも俺はレベルが上がりにくいから…って、ゴブリンアサシンはDランクだから経験値もそこそこあるだろうし、俺のレベルも上がっているのでは!?
よし、家に帰ったらステータス確認するぞ!
そんな訳で、無事イエストに到着。
ランバーさんは教会で精密診断を受けに行って、ジェイルさんもそれについて行った。
というか、ジェイルさんがイエストの教会で一番強いから、精密診断するのもジェイルさんなんだろう。
アランは、第六感を鍛えてくる! とか言って修行しに行った。彼なりに今日の事を反省しているようだ。
レオナルドは、冒険者ギルドに報告に行った。もしかしたらしばらくバラスの森に入れなくなるかも、と言っていたから、かなりの大事にする気だ。
期せずして1人になった俺は、家に帰って体を洗いながら、血まみれの服についてどう言い訳しようか考えていた。
母さんは確実に怒るだろうなぁ。
ただでさえ服を汚してるだけでも怒るのに、今日は友達と遊んでくると言っちゃったのもまずい。
だって、正直にバラスの森に行ってくるね! 強い冒険者達が狩るだけだから危なくないよ! なんて言っても許可される訳ないし。
というか実際危なかったしな。
父さんに説得してもらうか。父さんって基本的に俺に甘いし、味方になってくれるはずだ。
これで母さんから外出を禁止されたら時間が無駄になってしまう。
レベルだって上げられないし、スキルも使わなければスキルレベルが上がらない。家では使えるスキルも限られるし。
なんとしてでも、今まで通りに外出する許可をもぎ取らねば!
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