4.職場体験in冒険者

 レオナルド(遊び人風の冒険者の名前)から文字の読み書き本を買ってもらってから1週間経った。その間に色々あったけど、文字はそれなりに読み書きできるようになった。5歳児の学習力はすごいな。


 レオナルドは俺に本を買い与えるだけでなく、他の冒険者と話す機会を与えた。最初は5歳児だからと不安そうにしていたが、段々と心を開いてくれるようになった。さらには狩りを見学させてもらえることになった。

今日がその日で、俺は待ち合わせ場所の広場で待っていた。


「おはようカイン、相変わらず早いね」


 幼さの残る高い声が聞こえて顔を向けると、俺より身長が少し高いくらいのロリ…じゃなくて女性がいた。俺の身長は大体120cmだからかなり小柄だ。


「おはようございますランバーさん。未だに慣れませんね、それ」


 ランバーさんは2メートル近くある斧を背負っていた。どこにそんな力があるのかと言いたいが、彼女はドワーフなのでそういうものなんだろう。

ドワーフと言っても、髭がもじゃもじゃという訳では無い。


「あぁ、これか。今日はこれでゴブリンを捌くんだ。少しは慣れるんじゃないかな」


 のほほんとした顔で物騒なことを言っている。俺はこの人を敵に回さないようにしようと誓った。


 ランバーさんと話しながら待っていると、


「よぉ! 元気か!? 俺は元気だぞ!!!」


 思わず耳を塞ぎたくなるくらいの大声が聞こえた。


「朝から騒がしいな…これだからエルフは…いや、エルフでこんなにうるさいのはお前くらいか?」


「おぉ! よく分からんが俺をほめたのか! うれしいぞ!」


 この騒がしい男は信じ難いことにエルフだ。細い身体、虫も殺さなそうな顔に弓と、口を開かなければ典型的なエルフなのに。


「おはようございます、アランさん」


「おはよう! 今日は実にいい天気だな!」


 アランはそう言って馬鹿みたいに笑う。いや、実際に馬鹿だ。心の中で呼び捨てしてしまうくらいには馬鹿だ。

 前聞いた話だと、狩りに行く時に弓を忘れて、拳で戦おうとしたら死にかけた、なんてのもある。しかし、弓の正確さはさすがエルフと言ったところで、余計に普段の残念さが目立っている。


「アランさん、ジェイルさんはどうしたんですか? いつも一緒に来ていたと思うんですけど」


「確か用事があるって言ってどっか行ったぞ。…む、もうすぐ来るな」


 アランがそう言ってから1分も経たずにジェイルさんがやってきた。レオナルドと一緒に。


「待たせてすまない」


 ジェイルさんは教会の司祭だ。57歳と高齢だが、ステータスは上級職で、かなり強い。教会関連の職業は、他の系統の職業を取ることを禁止されている分、回復スキルや対アンデッドに特化している。


「どうしてジェイルさんとレオナルドが一緒に?」


「ちょっと買う物があってね。偶然そこで出会ったんだ」


「あぁ、まさか目的まで被っていたとは思わなかったがね」


「何を買ったんですか?」


「それは開けてからのお楽しみだよ。ほら、開けてみな?」


 そう言って渡されたのは大きめの袋だった。持った瞬間、想像以上の重さに驚いた。鉄でも入ってるのか?

 袋を開けてみると鞘に入れられた短剣があった。どれほどの価値かは分からないが、確実に安物では無い。


「今日は見学とはいえ、念の為護身用に持っておくべきだろう。重さは子供でも持てるようにエンチャントがされている。貰ってくれ」


 エンチャント!? スキルを取得するための条件が厳しいから弱い効果でもかなり高額なのに、軽量なんてもっと高いぞ!?


「こんなに良い物を貰ってもいいんですか? 5歳に持たせるレベルじゃないですよこれ」


「君の事情は聞いている。必要になると思ったから買った。レオナルド君も同じ意見だ」


「…大事に使います。本当にありがとうございます!」


「短剣なら僕が教えられるからいつでも来てね」


「じゃあ狩りが終わってからでもいいですか?」


「おっ、やる気があっていいね! もちろんいいよ!」


 狩りの時にこっそり経験値稼ぎたいな。この短剣があれば選択肢が増える。確か魔物と戦った全員に均一で経験値が配分されるから、石でも投げて当てればいけるんじゃないかなぁ。問題はそれを許されるかだけど。


「では、狩りに行こうか。バラスの森へ」



 ♢♢♢



 Eランク区域、バラスの森はほぼゴブリンしかいない。Eランク区域は、Eランクの冒険者でも狩りが出来るということだ。

 イエストの近くの狩場は、このバラスの森以外はB、Aランク区域しかなく、ここで満足できなくなった冒険者は西にずっと進んでサクラ共和国に行く。

 そうして強くなった冒険者が、B、Aランク区域を求めてイエストに帰ってくる。

 イエストは始まりの街でもあり、終わりの街でもあるのだ。


「という感じで、バラスの森は簡単だと思われている」


「違うんですか?」


「間違ってはいないけど、正解でもないかな。これはゴブリンに限らなず魔物全般に言えるんだけど、魔物は一定のレベルになると進化するんだ。戦闘中に進化して手が付けられなくなった例もあるし、レベルだけが条件では無いと思うけどね」


「その進化ってどれくらい強くなるんですか?」


「確実に2回りは強くなるね。例えばEランク下位のゴブリンが進化したら最低でもDランク上位にはなる」


「なのにEランク区域扱いなんですか?」


「進化後の魔物のことを計算に入れるとほぼ全ての区域がC以上になっちゃうよ。だからギルドは、進化前の魔物の強さで区域を判断してるんだ。そもそも進化は珍しいことだしね」


「…バラスの森はそうじゃない、と?」


「ここは例外なんだ。ゴブリンしかいないからこそ、奴らは…来てるな」


「え?」


「ゴブリン前方から走ってきてる! 接敵6秒後! この速さは進化後だ!」


 レオナルドが大声で伝達すると、皆直ぐに武器を構え前方を向いた。レオナルドの声は早口だが聞き取りやすかった。

 俺も遅れて短剣を構える。

 さぁ、人生初の魔物はどんなだろう?

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