5.戦闘


「見えた! ソニックゴブリンだ!」


 ものすごい速さで走ってくるゴブリンが見えた。俺の目では追うのでやっとだ。

 ソニックゴブリンは1番前にいるレオナルドに襲いかかった。


「まずは僕の戦い方を見せよう! よく見てて、カイン!」


 レオナルドはソニックゴブリンの拳を短剣で受け流し、その勢いを利用して腕を切った。滑らかな動きだ。


「グギッ!?」


 ソニックゴブリンは驚いたように飛びずさるが、レオナルドが動かないのを見てまた襲いかかった。さっきと同じ直線的な飛び込みだが、速いだけで対処不可能になるだろう。レオナルドにはしっかりと見えているみたいだが。


「ははっ」


 レオナルドは楽しそうに攻撃を捌いている。攻撃の隙間に反撃を仕掛けたが、ソニックゴブリンは直ぐに下がることで回避した。がむしゃらに殴りかかっていたように見えて、何時でも下がれるようにしていたようだ。


「…あれ?」


 避けたはずのソニックゴブリンの腹に短剣が刺さっている。ソニックゴブリンは避けたはずだ。

 疑問に思っていると、ジェイルが教えてくれた。


「まだ見えないのも仕方ない。彼は短剣で刺す振りをして投げたのだ」


「なるほど…でも武器が無くなったら危険じゃないですか?」


「見てみなさい」


 レオナルドはベルトから短剣を2つ出して構えた。ベルトには短剣が8つも残っている。


「二刀流!?」


「ああやって最初は1本で相手をしてから、不意を付いて投げるのが彼のやり方だ」


 二刀流になったレオナルドはさっきまでよりも動きが良くなっているように見える。ソニックゴブリンも腹に短剣が刺さっているせいか、動きにくそうだ。

 焦ったソニックゴブリンが大振りになった所をギリギリで回避し、心臓に短剣を刺した。


「ふう、これで終わりかな」


 心臓を刺されたソニックゴブリンは呻き声を上げて息絶えた。そして、体が一瞬で煙になって、拳大ぐらいの石が1つ出てきた。


「これが魔石だよ。魔石を冒険者ギルドに持ってくと金に変えてくれるんだ」


「魔石ってなんなんですか?」


「魔物が死ぬ時に残す魔力の塊だよ。魔石が作られるから体が煙になってしまうんだ。そういう訳で、魔石はエネルギー源として重宝されているんだ。属性が付いていると価値も上がる」


 魔力が電気、魔石が電池って感じなのだろうか。そう考えると、魔物を倒せばエネルギーが無限に手に入るということになる。だから魔法とかある世界なのに発展しているのか。


「ちなみにこの大きさの魔石でどれくらいの値段になるんですか?」


「ソニックゴブリンはDランクだし、10000エーンぐらいかな。あくまで大体だけど」


「それで足りるんですか? 冒険者は装備に金がかかるって聞いてるんですけど」


「Cランクの魔石とDランク以下の魔石だと値段が天と地程違うんだ」


 確かイエストの周りには、このバラスの森以外BランクやAランク区域しかなかったはずだ。Cランクのレオナルドたちだとここぐらいしか狩りが出来ないんだろう。


「まあ、イエストには休暇のようなもので来ただけだからね。飯が食べれて宿代が稼げればいいんだ」


「なるほど」


「それより、次に行こうか。僕のやり方は見せたから今度はランバーにやってもらおう」


「あぁ」


 バラスの森に入ってからランバーさんとアランはほとんど喋っていない。アランはうるさいから戦闘中以外喋るなとジェイルに言われていた。ランバーさんは何故か分からないけど口を開かない。返事はするんだけどな。


 それから結構歩くと、レオナルドが声を出した。先程よりは小さいが、充分聞こえる声だ。


「前方斜め30度の方向にゴブリン、こちらには気付いてないみたいだ」


 ようやく見つかったみたいだ。気がするが、運が悪いだけだろうか。俺はバラスの森について詳しくないし、思い過ごしだと思うけど妙に気になった。


「カイン」


「はい?」


「ちゃんと見てて欲しい」


「? はい」


 ランバーさんは俺の返事を聞いて少し笑った。何故笑ったのかよく分からないけど、結局聞かなかった。何となく、俺を通して別の人を見ている気がしたからだ。


 それから歩いてすぐにゴブリンは見つかった。見た目はソニックゴブリンよりも弱そうだが、性格が悪そうな顔をしている。


 ランバーさんは斧がでかくて隠密に向かないから、堂々とゴブリンの方に歩いていった。

 ゴブリンも気付いたようで構えを取った。しかし、さっきのソニックゴブリンと比べたら拙い構えだ。進化していないゴブリンならこんなものだろうか。


「グギッギッ」


 ゴブリンは手をクイクイっとやって挑発した。

 ランバーさんはキレた。


「死ねっ!」


 大きく振り下ろされた斧は思っていたより速かったが、ゴブリンは何とか避けた。

 その姿に違和感を覚えた俺は〈鑑定LV1〉を使ってみた。ソニックゴブリンの時はレオナルドの剣技に見とれてすっかり忘れていたが、今こそ使い時だろう。



 ステータス

 ゴブリンシャーマン

 進化:1

 LV:14

 HP:300/300

 MP:500/1200

 STR:???

 INT:???

 VIT:???

 AGI:???

 DEX:???

 LUK:???


 スキル

〈???〉〈呪?LV?〉〈挑?LV2〉〈見??真似LV1〉


 称号

〈狡猾なゴブリン〉(???)



 な!? こいつ、ただのゴブリンじゃなかったのか!

 レベル差のせいで一部読めないところがあるが、どう見ても怪しい要素しかないぞ。


 ゴブリン、いや、ゴブリンシャーマンを見ると、必死に避けているように見えるが少しニヤニヤしていた。確実に悪いことを企んでいる顔だ。

 レオナルド達は違和感を感じてはいても、危険だとまでは思っていないようだ。


 俺は気付いたらランバーさんの方へ走っていた。レオナルド達に伝えるべきだ、俺が行ったところでどうにもならない、そう思った。


 だが、嫌な予感がしたのだ。このままでは

 RPGゲームをした時にも同じようなことがあった。あの時はゲームの進行が不可能になるバグを偶然回避した時だ。


「カイン!? 何をして―――まさか! ランバー! 下がれ!!!」


 レオナルドが気付いた時には、俺とランバーさんとの距離は数mだった。

 だからよく見えた。ゴブリンシャーマンの手から黒い鎖が出て、ランバーさんを縛る所が。ゴブリンシャーマンのいやらしい顔が。


「なに、これ!?」


 ランバーさんが動けなくなったのに、ゴブリンシャーマンは逃げていった。直ぐに周りを適当に鑑定すると、ゴブリンメイジやゴブリンアサシンなどの名前がいくつも出てきた。


 くそっ、やられた! 最初からこれを狙っていやがった!


 木の隙間から複数の火の玉が、ランバーさんに向かって進んでいくのを、俺は見ることしか出来なかった。



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