3.情報収集

 俺はまず、魔物について情報を得るために冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドとは、魔物を倒して生計を立てる冒険者の集まりだ。魔物を倒すと、霧のように消えて、魔石と呼ばれる石を落とす。稀にその魔物の素材を落とすこともあり、ドロップアイテムと呼ばれる。

 魔王国と隣接しているからか、この街の冒険者ギルドは大きく活気がある。おかげで分かりやすく、初めて行く俺でも直ぐに道がわかった。


 早速冒険者ギルドの中に入ると、冒険者達の話す声が聞こえた。


「バラスの森でゴブリンが増えて報酬が上がってるらしいぞ」

「ゴブリンなら楽だな、サクッと倒して遊ぶか」

「おぉい、誰か魔法使いは居ないか! ロックゴーレム討伐のメンバーを募集している!」

「教会に新しいシスターが入ったんだが、めちゃくちゃ可愛いぞ」

「まじ?ちょっと怪我してくるわ」

「なあ頼むって、俺たちと一緒に行こうぜ?俺はCランクだし、こいつらももうすぐCランクに上がるぜ?」

「ごめんなさい、男は嫌いなの」


 久しく経験していなかった人の多さに気圧されていると、遊び人のような顔の男が声をかけてきた。


「おいおい、君何歳?」


「5歳」


「はっ、ここは子供が来る場所じゃないよ? お家に帰りな」


「俺は冒険者になりにきたんだ」


「!? いくらなんでも5歳じゃ無理だ!」


「それでも、ならなきゃいけないんだ!」

(冒険者にならないとギルドの設備が使えないから)


「…その歳で、そこまで」

(きっと家庭の事情があるんだろう)


 やっぱり5歳だと厳しいか。なにか別の方法を考えるしかないかなぁ。



「…よし、僕がなんとかしてみよう」


 あれ?なんか可哀想なものを見る目で見られてる。何か勘違いされてるっぽい。


「君の名前は?」


「カイン」


「カインか。いい名前だ。僕についてきて」


 優しく頭を撫でられた。もしかして、最初のちょっかいも危ないヤツに絡まれる前に助けようとしてたのか?

 見た目に反して良い人なのかもしれない。


 言われた通り男について行くと、カウンターで立ち止まった。ここで冒険者になるんだろう。


「やあ、ミルちゃん。この子の冒険者登録をしてくれないかい?」


 ミルと呼ばれた女性はさっきの会話を聞いていたようで、直ぐに登録できた。


「本当にいいんですね?」


「あぁ、分かってる。この子は僕が守る」


「…はぁ。気を付けてくださいよ」


「もちろん。愛してるよ、ミルちゃん!」


 この2人は付き合っているのだろうか? 仲がいいように見える。


「カインくん、これが冒険者の身分を示す腕輪よ。貴方は一番下のEランクだから、あまり無理しないようにね。それと、この腕輪は賢者様の技術が使われてるから壊れないし、ずっとつけておきなさい」


 そう言って渡されたのは鉄でできた腕輪だった。腕にはめてみると重かったが、5歳の俺が感じるにしては軽すぎるような…。


「あら、気が付いた? その腕輪は賢者様の技術で軽くなってるから、邪魔にはならないはずよ」


 マジかよ賢者様すげーな。1回くらい会ってみたいもんだ。


「ありがとうございます」


「ふふ、どういたしまして。分からないことがあったら、あのお兄ちゃんに聞けば教えてくれるから。頑張ってね」


「はい!」


 5歳でも倒せる魔物とか聞きたいな。レベルの上がる速度が遅い俺は、ソロでやるしかないし。安全策でいきたい。


「カイン、行くよ」


「どこに?」


「本屋さ」


「本屋? 資料室じゃなくて?」


 冒険者ギルドの資料室には沢山本があるし、そこに行きたいんだけど。なんで本屋? 本はそこそこ高かったはずなんだけど。


「カインは文字読めないだろう?」


「あっ」


 そうじゃん、俺文字読めないじゃん。言葉通じてるから勘違いしてたけど、読み書き習ったことないんだった。


「でも本って高いんじゃ?」


「大丈夫。文字を学ぶ本は領主様がお安くして下さってる。ここら辺は人魔戦争の影響で文字が読めない家が多いから、そのためだろうね」


「人魔戦争…」


 人魔戦争は確か、異世界人が現れる前、今から20年くらい前の話だ。

 魔王が暴れ回って、その脅威に危機感を感じた各国が同盟を組んで戦った。魔王は強く、いくつもの国が滅びた。そして、俺が住んでいる街、イエストも滅びる運命にあった。だが、そこに異世界人が現れ、魔王は撤退した。それからも異世界人は現れ続け、魔王はそれに対抗するために国を作った。


 そして、この街には最初の異世界人がいる。異世界人は鑑定を持っているだろうから、会わないようにするべきだろう。異世界人とバレるのも問題だし、最初の異世界人なんてものに関わるのも大変そうだ。


「そんな不安な顔するな。この街には救世の異世界人様がいるんだ。万に1つもありえないさ」


 そんなに顔に出ていただろうか。俺は思っていることが顔に出やすいのかもしれない。

 地球の神いわく、魔王は今から15年後に世界を滅ぼすはずだ。それが世界が滅びる瞬間なのか、動き始める瞬間なのかは分からないけど、最悪を想定した方がいい。


 俺のチートは育つのに時間がかかる。最終的には誰よりも強くなれるだろう。だけど、それまで魔王が待ってくれるとは限らない。早く強くならないと。

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