14.初めてのボス戦その2

「はあぁぁぁっ!」


「ギィ…」


 短剣がゴブリンナイトの心臓を貫いた。

 これで残すは1体だ。


「案外いけるもんだな…」


 短剣だけでゴブリンナイトの剣をいなすのも慣れてきた。


「グガッ」


「ギッ」


 最後の1体を倒したら直ぐにエリートゴブリンシャーマンを〈精霊術LV2〉で倒す。

 そこまでいけば勝機も見える。


「ギ」


 ? 最後のゴブリンナイトはさっきまでのと違い、攻めてこない。

 守り気味だが、俺の体力と集中力が限界に近いとバレているのか?


 やるなら速攻で決めるしかない。

〈瞬足LV2〉〈闘気LV1〉を使って一気に畳み掛ける!


「はっ!」


「ギ」


 ゴブリンナイトは落ち着いて俺の短剣を防いでいく。

 今までと剣の冴えが違う。

 俺の〈短剣術LV4〉と同じレベルだ。押し切れない。


「くそっ」


「ギ…ギィ」


 焦りから攻撃が雑になり、ゴブリンナイトもそれを見逃さなかった。


「ギッ!」


 ゴブリンナイトが俺の右手を斬り、短剣が落ちた。

 振り下ろされた剣は勢いを殺さずに跳ね上がり、俺の首元に迫って―――


「ギィ!?」


 横から飛んできた短剣により、剣は弾かれた。

 そこに居たのは、レオナルドだった。


 いつの間にか目の前にレオナルドが立っていた。

 ゴブリンナイトから俺を守るためだ。


 子供扱いするなと言ったのに、結局レオナルドに助けられている。


 情けない…! どうして俺はこんなにも弱いんだ…。


「…話は後にしよう。まずは目の前のゴブリンだ」


「…ありがとうございます」


 ゴブリンナイトに斬られた右手が痛い。

 思ったより傷は浅いが、怪我をしたことがほぼ無かったせいか、かなり辛い。


〈ヒールLV1〉を何回か使うと出血も止まり、痛みも収まった。


 レオナルドの方を見ると、ゴブリンナイトを圧倒していた。

 俺の時は全て防がれ流されていたのに、今は必死になって防ごうとして斬られている。


 二刀流の手数に追いつけないというのもあるだろうが、それ以上にレオナルドには隙がなかった。

 未来でも見ているのかと思うくらいに、ゴブリンナイトの動きを妨害している。


 それを、目線や体の動きだけでやっているのだから、怪物に見える。


 程なくしてゴブリンナイトは死んだ。

 レオナルドの猛攻に防御が追いつかなくなったのだ。


「グガガ…グガ、グガ」


 それを見たゴブリンロードが動き出した。

 俺が相手をしてやる、と言っているようにも見える。


「はは…君ほどの化け物がどこに隠れていたんだい? この2年間調査して、森のほとんどを見たんだけどね」


「グガガッガッ」


「グギッギッギ」


 エリートゴブリンシャーマンまで前に出てきた。

 ゴブリンロードと合わせると、見ているだけで威圧されてるような気分になる。


「見ないうちに進化もしたみたいだ。ランバーの仇、取らせてもらうよ」


「グガガガ」


「勝手に私を殺さないでくれるかな」


「ランバー!? どうしてここに?」


「アイリちゃんが教えてくれたんだよ。ジェイルさんとアランも居るよ」


「久しぶりだね、レオナルド君。カイン君は鑑定式ぶりだね」


「第六感を手に入れた俺に敵は無い! 安心するといいぞ! はははは!!!」


「アランうるさい」


「お、おう…すまん」


 ランバーさん、ジェイルさん、アランは落ち着いているようだ。

 ゴブリンロードにビビっているのは俺だけか。


「ランバー、呪いは大丈夫なのかい?」


「ジェイルさんの知り合いの呪術師に診てもらって、かなり良くなった。違和感はあるけど、戦えるよ。…それに、呪いの借りはしっかり返さないとね」


 ランバーさんがキレている。それも当然か。

 2年間も呪いのせいで苦しめられたのだから、呪いをかけたゴブリンに復讐したいと思うのは。


 そういえば、結構話し込んでいるけど大丈夫なのだろうか。ゴブリンロードとエリートゴブリンシャーマンが黙って見ているようにも思えないが。


「グギギギ!」


 エリートゴブリンシャーマンは堂々と怪しいことをしていた。

 手から紫と黒が混じったような色の煙が出ている。


 2年前から進化している以上、呪いも強くなっていると見るべきだろう。

 この人達は再会を喜んでいる場合じゃないと思うのだが、何か考えでもあるのか?


「無駄だよ。ゴブリンの呪いは既に対策済みだ」


 ジェイルさんがそう言って錫杖を振ると、広がり始めていた煙が消えていく。


「グギッ!?」


 その光景にエリートゴブリンシャーマンは慌てるが、何も出来ないまま煙が全て消えた。


「これは呪術師と教会の合作で、ある程度の呪いなら浄化することが出来る。呪いの事は心配する必要はない」


 それでもランバーさんの呪いを完全に無くすことは出来なかったのか。

 多分出力の問題ではないだろうけど、呪いとはつくづく厄介だ。


 これで呪いが封じられたエリートゴブリンシャーマンは置物かと思っていたら、ゴブリンロードとエリートゴブリンシャーマンが光り出した。


 見ているだけで不快になる不気味な光だ。ジェイルさんが錫杖を振っても消えないということは、呪いではないのか。


 光が全身を覆うと、威圧感が増した。

 これには流石にレオナルド達も驚いたようで、警戒している。


「呪いだけじゃなく強化魔法も使えるのか。なんとも優秀なゴブリンだ。教会にもこれ程優秀な者がいればいいのだが」


「何言ってるんですかジェイルさん」


「最近、レベルを上げようとしない者が多くてね、少し愚痴ってしまった。では、やろうか」


「私は呪いの方をやるからでかいのは皆に任せる」


「1人で大丈夫かい?」


「呪いがなければ余裕。私より自分の心配をした方がいい」


「それもそうだね」


 レオナルド達が話す声には緊張感がない。

 こういう事態に慣れているからか、自然体で構えている。


 それに比べて俺は、少しの傷で痛がって、ゴブリンロードに怯えて、いい所が一つもない。


 一応、〈精霊術LV2〉で援護できるようにはしておくか。多分、効かないだろうけど、目眩しぐらいにはなると思いたい。

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