13.初めてのボス戦その1

「はあっ、はあっ…」


 レオナルドから逃げて10分程経った。

 MPを消費している疲れと、急激に上げたAGIの違和感で息が上がっている。

 1回休憩をしよう。


 幸い、ゴブリンは近くにいないみたいだ。

 体力とMPを回復させるために、近くのちょうどいい木に寄りかかって座る。


〈祈祷LV2〉スキルでMPの回復を早くすることが出来るので、それを使いながら目を閉じる。

 このスキルは神に祈りを捧げることがどうのこうの、という風に教会が言っているが、実際は目を閉じるだけで問題ない。


 数分もじっとしていると、息も落ち着いてきた。

 まだ疲れは残っているし、MPもほぼ回復していないが、そろそろ動かないと追いつかれそうだ。


 それにしても、この誘導されている感覚は苦手だ。

 一直線にだけゴブリンが居ないせいでそこを進むことしか出来ない。

 脇道から無理矢理行こうとするのは〈直感LV4〉スキルが不味いと言っている。


 MPを節約するために〈闘気LV1〉スキルと〈瞬足LV2〉スキルを切っておく。

 疲れない程度に走って行くと、半径50mくらいの円上に開けたスペースが見えた。


 先客が居たようで、そいつらの目が見定めるように俺を見つめる。

 そして、満足そうに顔を上下させた。


〈鑑定LV3〉スキルを使ったが名前しか見ることが出来なかった。


 木の王冠?をかぶっている偉そうなゴブリンがゴブリンロード。

 2年前に見た時より豪華になっているエリートゴブリンシャーマン。

 そいつらを護るように立っているゴブリンナイトが10体。


 どう見てもボス戦だ。

 ゴブリンロードとエリートゴブリンシャーマンは格が違う、恐らくCランクだろう。

 DとCでここまで違うものなのか。


 この中では最も弱いと思われるゴブリンナイトですら、俺より強い。

 それが10体いる上に、呪術なんてやばいもの使うやつがいて、それを倒してもゴブリンロードがいるとか。


 無理ゲーすぎる。

 仮に転生してからずっとレベル上げしててもこんなの勝てる訳が無い。

 神様難易度調整ミスってませんか。


「はは…」


 思わず乾いた笑みが漏れる。

 ゴブリンたちの目はしっかり俺をロックオンしている。

 やるしかないようだ。


「グガッ」


「ギッ」


 ゴブリンロードが何か言うと、近くに行ったゴブリンナイトが1体前に出てきた。

 他のゴブリンたちは少し離れて騒がしくなる。


 前に出たゴブリンナイトは声に答えるように剣を抜き、空に掲げた。


「決闘…いや、遊びか」


 舐めやがって、ぶち殺してやる。


 俺も短剣を抜き前に出る。


 俺の準備が整ったのを見たゴブリンナイトは、手をくいくいっと動かした。

 挑発しているらしい。


「それじゃあお望み通り、俺からいってやるよ!」


 この2年間で俺は、〈短剣術LV4〉になるまで短剣を使ってきた。

 剣の扱いには少し自信がある。


 短剣の長所は手数と取り回しの良さだ。

 逆に短所は威力が弱いこととリーチが短いことだ。


 その点、レオナルドの二刀流は長所を活かし、また投擲で短所を補っている。

 短剣自体もかなりいいものなのか、威力も十分で隙がない。


 それに比べて俺は、二刀流でもないし投擲も出来ない。

 じゃあどうするのかと言うと―――


「こうするんだよ!」


 短剣で切りつけたところを剣をで防いだゴブリンナイトは両手が埋まっている。

 一方俺は、左手が空いている。


「燃えろ!」


 左手をゴブリンナイトに向けそう言うと、ゴブリンナイトが火に包まれた。

 それに巻き込まれないように俺は下がった。


 これが俺の武器、〈精霊術LV2〉だ。

〈意志魔力LV1〉で現象、対象を指定する。

 これはイメージでも代用でき、動作を付けるとより明確なイメージがしやすい。


 全てを口で指定すると時間がかかるため、口と左手を同時に使うことと短縮している。


「グギッギッギ!」


「グガガガガ!」


 火だるまになっているゴブリンナイトを見て、野次馬は笑っている。

 同じゴブリンナイトですら笑っている。


 やはり、魔物とは相容れない。


「なかなかしぶといな」


 火だるまになりながらも地面に転がることで火を消そうとしている。


「潰れろ」


 ゴブリンナイトの上に大きな岩が現れ、重力に従い落ちた。

 火を消すことに夢中になっているゴブリンナイトは避けることが出来ずに潰れた。


 ステータスを確認するとEXPが増えていた。

 しっかり死んだようでなにより。


「グガッ」


「ギッ」


「もう次か…」


 焦って〈精霊術LV2〉を2回も使ってしまった。

 MPの消費が激しいからあまり使いたくなかったのに。


 このままだと直ぐにMPが尽きてしまう。

 まだゴブリンナイトは9体もいる。

 次は〈精霊術LV2〉は使わずに短剣だけで倒そう。


「グギギッ」


 いきなりゴブリンナイトが突っ込んできた。

〈精霊術〉を使わせないつもりだ。

 元々使わないつもりだから別に問題ないけど、ゴブリンナイトにずっと攻めに回られると辛いのは俺の方だ。


 ゴブリンナイトは力が強い分足は遅い。

 突進を冷静に受け流し、反撃のタイミングを伺う。


「やっ、ぱり、そうだっ」


 ゴブリンナイトのスキルは〈剣術LV3〉だろう。

 スキルレベルが俺の方が高いから、上手く対処出来ている。


 とはいえ、一撃でもまともに喰らえば俺は即死。

 一方ゴブリンナイトは短剣で少し切られたぐらいでは大したダメージにならない。


「グギィ! グギッ! グギッ!」


 ゴブリンナイトは一向に攻撃が当たらないことに怒って荒くなった。


 無茶苦茶に振り回してるせいで攻撃のタイミングが読みづらい、が。


「ここだ!」


 一瞬だけ〈闘気LV1〉、〈瞬足LV2〉を使い、威力を底上げしての一突き。

 間違いなく心臓に刺さった。


「グ、ギィ…」


 短剣を抜くと、ゴブリンナイトは煙化した。

 これで2体目。


「グガガガガガガッ! グガッ!」


「ギッ」


 ゴブリンロードは大笑いしている。

 そんなに面白いか。俺が必死になって戦っているのが。


「絶対後悔させてやる…」


 まずは残りのゴブリンナイト8体だ。それから、エリートゴブリンシャーマンも倒して、ゴブリンロードも倒す。


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