11.アイリ無双

「うおおお! これが森か!」


「アイリ、そんなに大きい声出さないでよ」


「楽しい、楽しいぞ! 今までこんな楽しいことを独り占めしてたなんて、ずるいぞ!」


「聞いてないし…」


 アイリは初めて会った時からこうだ。

 天才はやはり、見えてる世界が違うらしい。人の話を全然聞かない。


 鑑定式の時も、職業を決めてないし武器もないしLPも使ってないのに狩りに行きたいなんて言って。

 明日は教会引率の狩りがあるんだから今日は我慢しろって言っても無理の一点張り。


 アイリの粘りが強すぎて大人達も諦めてしまった。なんとか職業を決めさせてLPも使わせて武器も持たせて、今に至る。


 ちなみに、職業は戦士で武器は教会が用意した少し高そうな剣だ。


「そういえば、アイリはLPどのステータスに使ったの?」


「全部STRに決まってるだろ!」


「えぇ…」


 俺は剣も魔法も使いたいタイプだから極振り勢の気持ちは分からん。それでも、アイリが言うと極振りも悪くないように思えるのだから不思議だ。


「おっ、アレゴブリンじゃないか!?」


「それメイジだから俺がやるよ」


 アイリはまだレベル1だし、性格的にも不安だ。

 そう思っていた。俺は才能の称号を舐めていたのだ。


「私がやる!」


「えっ」


 アイリは俺が止める間もなくゴブリンメイジに走り出した。


 速い!

 普通に俺と同速ぐらいあるんじゃないか? レベル差があるはずなのに、どうして…。

 もしかして才能の称号のせいか!


 俺がそんなことを考えているうちに、ゴブリンメイジはアイリに魔法を放とうとしていた。


「ギィア!」


「えいっ」


 スパッ。


「ん?」


 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 アイリに火の玉がぶつかると思ったら、剣で火の玉を切った。

 それだけだ。


 その一振が綺麗で、俺もゴブリンメイジも呆然としていた。

 アイリは容赦なくゴブリンメイジの首をはねた。


「なんだ、弱いな」


 これでレベル1ってまじ?

 もうこの子だけで魔王倒せそうなんだけど。俺いらなくね?


「おー、レベルが沢山あがった。もっとレベル上げるぞ!」


「だから1人で先に行くなって!」



 その後もアイリ無双は続いた。

 おかしい、本来なら俺がアイリに魔物の恐ろしさを教えて大人しくさせる予定だったのに。


 今の俺はただアイリの後ろをついて行って魔石を回収するだけだ。雑用係じゃねぇか。


「アイリ! そろそろ日が暮れるし帰ろう!」


「もう少しだけ、もう少しだけ!」


「だめ! 遅くなったら俺が怒られるから!」


「カインのケチ!」


「はいはい帰るよー」


 流石のアイリも1人で残るのは嫌なのか、あまり抵抗しなかった。


「アイリのレベルどこまで上がったの?」


「ふふふ、聞いて驚け! 今の私のレベルは9だ! カインをもう超えたぞ!」


「たっか!」


 偽装していない本当の俺のレベルは12だけど、それも直ぐに越されそうだ。

 俺の2年間の狩りの頑張りが…。


「!? アイリ、止まって!」


「 何かあったのか? 私の凄さに感動して歩けなくなったか?」


 俺の〈直感LV4〉スキルが反応してる!このスキルは第六感が目覚め、危機感が強くなる。

 それが今反応しているということは…!


「レオナルド! ピンチなんで助けてください!」


「どうしたんだ一体、見る限り異常はないみたいだけど―――」


 俺とアイリの2人で行くことが許される代わりに、護衛としてレオナルドが影から付いてきてくれている。


 俺はその事をジェイルさんから聞かされていたが、アイリは何も知らなかったから、突然現れたレオナルドに驚いている。


「あの木々から嫌な予感がします。2年前のあの時と、同じ類の」


「なるほどね。よく見れば、嫌な雰囲気を感じるよ」


「な、何を言っているんだ?」


「カインはよく1人で狩りをしてたよね。…覚悟はある?」


「問題ないですよ、この2年間の成果を見せてやります」


「アイリちゃんは先に街に戻ってこのことを伝えてくれるかい? 教会と冒険者ギルドに行って欲しいんだ」


「カインは戦うのか? なら私だけ逃げるなんて嫌だ! 私の方がレベルが上だし、強い!」


「アイリ。これは誰かが行かなきゃいけないんだ。こんな時までわがまま言わないでくれ」


「じゃあ私とカインの2人で行けばいいだろ!」


「それは出来ないんだ。僕が街に送ってあげられるのは1人だけだ。そういう魔道具だから、どうしようも出来ない」


「っ……」


「アイリが強い人を連れてきてくれれば、俺達も楽になるんだ。頼んだぞ」


「…分かった」


「レオナルド、お願いします」


「準備は出来たみたいだね。いくよ、アイリちゃん。〈ルーラル〉!」


 レオナルドが、どこかで聞いたことがあるような呪文を唱えるとアイリの姿は消えた。


「後は耐えるだけ、ですね」


「それはどうだろう。獲物が減ってお怒りみたいだ。数百体のゴブリンの殺気を感じるよ」


「うわ、これは頑張らないとですね」


 これは手を抜く余裕は無さそうだ。レオナルドには誤魔化せないだろうけど、そんなことは後で考えればいいか。


 こんなに経験値が並んでいるんだから、全部取りきらないともったいない。


〈闘気LV1〉スキルを使っておこう。MPを5秒間に1消費するが、HPとMP以外のステータスを1.1倍にしてくれる。


 レオナルドも最初から二刀流だ。

 数百体相手に1本はきついのだろう。俺は短剣1本しかないけどな。

 そこはスキルで補うとしよう。


「来るよ!」

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