第9話 ファーストミッション

 共に冒険者をすることになったミーヤ。そんな彼女に俺は武器としてS&WのM34を贈った。その練習のため、森へとやってきた俺とミーヤ。俺はそこでミーヤに銃の扱い方を教えた。


 

 射撃練習をした翌日。朝。食堂で朝食を取った後、俺とミーヤは部屋に戻りそれぞれホルスターやら弾の入ったポーチなどを装備する。

「よし。準備完了。ミーヤ、そっちは大丈夫か?」

「は、はいっ!大丈夫ですっ!」

 彼女自身はやる気を示すように精一杯元気な声で返事をしているつもりなのだろうが、俺でも分かる。彼女はかなり緊張している。その証拠に表情は強張っているし、視線もあちこちに泳いでいる。


「そう緊張するな、って言うのも無理かもしれないけどさ。今日はあくまでも銃に慣れる事が目的だ。ゴブリン討伐は二の次で良いから」

「そ、それで大丈夫、なんですか?」

「な~に、お金の事は気にしなくていいよ。ここ数日、結構頑張って余裕があるからさ。それに、今一番大事なのはミーヤが銃に慣れる事だ。じゃないと危険だからね」

「わ、分かりましたっ」

 彼女は相変わらず緊張した様子だが、初めての実戦だ。無理もない。俺がしっかりフォローしないとな。


 なんて考えながら、俺はサイレンサーを装備したM1911A1に目を向けた。これはミーヤのためだ。まだ銃声に慣れていない彼女が銃声に驚かないよう、少しでも音を下げるために、M1911の中でもサイレンサーを装備可能な、銃口にネジ穴のあるタイプに交換。サイレンサーを装着している。


「よし。じゃあまずはギルドに行って依頼を受注。その後すぐ森に向かうからね」

「はいっ!」


 という事でさっそく、俺たちはギルドで依頼を受けた後、森へと向かった。しばらく歩いていると、森の前に到着。俺ならいつもの事なのだが……。

「い、いよいよ、ですねっ!」

 隣にミーヤが居るのは、初めてだ。彼女も興奮しつつ緊張した様子。初めての実戦なら無理もないか、と思いつつ、俺も気合を入れなおす。


 今日からは傍にミーヤが居る。今後は彼女のサポートも考えなければならない事をとにかく頭の中に叩き込む。数秒、目を閉じ深呼吸をし気持ちを整えると目を開け、視線をホルスターへ。


 そこにあったM1911A1を取り出し、セイフティを解除。マガジンの残弾数をチェック。マガジンを戻し、スライドを引いて初弾を装填。チャンバーチェックも欠かさない。ふと隣を見ると、ミーヤも慣れない手つきでシリンダーをスイングアウトし、装填された弾を見つめている。

「ふぅ」

 やがて彼女は緊張した面持ちで息を吐き出し、シリンダーを元に戻している。


「じゅ、準備完了ですっ!」

「よしっ。じゃあ、行くぞっ」

「はいっ!」


 お互い、両手でM1911A1とM34を握り締め頷き合うと、俺を先頭に森の中へと足を踏み入れた。


 そこからはいつも通り慎重に進みながらゴブリンどもを探す。ミーヤには、撃つ時以外絶対に引き金や撃鉄に指を掛けないように言ってある。幸いM34はシングルアクションのリボルバーだ。


 シングルアクションとは、リボルバーの場合まず人力で撃鉄を起こさないと射撃出来ない。ダブルアクションのリボルバーの場合だと引き金を引いただけで簡単に射撃が出来てしまうので、初心者であるミーヤの事を考えてシングルアクション式のリボルバーを選んだ。

 幸いM34はシングルアクション方式だった。だから22LR弾を使う事や扱いやすいリボルバーである事と並んで、俺がM34を選んだ理由の一つでもある。


 俺たちが森に侵入して、しばらくして。

「ッ」

 先頭を歩いていた俺が1番にゴブリンの姿を捉えた。俺はすぐに立ち止まり、姿勢を下げて振り返る。

「いた。前方だ。数は3匹」

「ッ」

 報告は手短に済ませる。敵から目を離すのはそれだけ危険だからだ。俺の報告にミーヤは一瞬表情を強張らせ息を飲んだ。


「い、いよいよ。ですね」

「あぁ」

 実戦、という事もあって俺の表情も硬い。しかし彼女の方を見ると、少しばかり彼女は震えていた。初めての実戦だから無理もない。ここは、先輩としてフォローしないとな。


「大丈夫だ」

「あっ」

 俺は左手で軽く彼女の頭を撫でる。

「しっかり俺がフォローするし、数も少ない。さっさと片付けて、耳を回収するぞ」

「は、はいっ」

 俺が撫でてやると不安も少しは和らいだようだ。

「よしっ、行こう。姿勢を低くしてな」

 彼女は俺の言葉に無言で頷き、俺の後に続いた。


 いつものように、木々や林でゴブリンどもの視界を遮りながら接近していく。どうやら奴ら、食事中か何かのようだ。しかし好都合。食事に集中していてくれれば簡単に接近出来る。が……。

『パキッ』


「「ッ!?」」

 不意に乾いた音が響いた。二人とも息を飲み、俺は背筋が凍る思いだった。冷や汗が出てくる。チラリと確認するが、どうやらミーヤが枯れ枝か何かを踏んだようだっ。


『ギッ?』

 その時、ゴブリンの1匹がこちらの方角を向いた。しかし俺たちを見つけてはいないのか、辺りをキョロキョロと見回すだけだ。まだ見つかっていないか、と俺は安心したのだが。

「ッ!」


 ミーヤの方は息を飲み、緊張した面持ちで銃の狙いを定め始めた。ここから撃つつもりか。だが……。

『スッ』

 俺がM34の上部に手を置き、銃口を下げさせた。驚いた様子で俺を見上げるミーヤに対し、俺は左手人差し指を口元で立て、『静かに』と伝える。


 そのことに彼女は不安そうだが。……しばらくするとゴブリンは食事に戻った。それを確認すると、俺は彼女の方に向かって笑みを浮かべた。『ほらな?』と言わんばかりに。そしてミーヤの方も安堵したのか小さく息を漏らしている。


 そしてそこから俺たちは更に接近する。狙える位置までは、近づいたな。俺は木影で足を止め、振り返る。

「ミーヤ、君は真ん中の奴を狙って。俺はまずその両脇のどっちかをやるから」

「はいっ」


 お互いに狙う相手を決め、ミーヤは一旦M34をホルスターに戻すと首から下げていた耳栓を装着。M34を構えなおす。もちろんその間も俺は周囲の警戒を怠らない。


 3匹の様子を伺いつつ、周囲も警戒する。が、伏兵らしき気配は無い。その時、ミーヤの手が俺の肩を軽く叩いた。事前に2人で決めていた『射撃準備完了』の合図だ。それに答えるように、俺もミーヤの肩を軽く叩いてから『こちらも準備OK』という意味の返事を返し、彼女から数歩距離を取る。


 俺も彼女も、両手でしっかりと自分の相棒を握り締め、狙いを定める。そして。


 直後に響き渡る銃声。それはミーヤのM34のだ。それに一拍遅れて響く、いつもと違う少しくぐもったようなM1911A1の銃声。放たれた銃弾はと言うと……。


『ギギャァァッ!?』

『ギッ!?ガ、アァッ!』

 22LR弾は1匹目の胴体を貫通。1匹目は悲鳴を上げながら倒れ、のたうち回っている。俺の放った45ACP弾はどうやら心臓に当たったらしい、2匹目は胸を押さえながら倒れ動かない。


『ギッ!?ギギッ!?』

 残された3匹目は状況を分かってない様子で、のたうちまわる1匹目に困惑しているが、それが隙となるっ!そこだっ!


 続けざまに響き渡るM1911A1の銃声。放たれた45ACP弾が3匹目も撃ちぬいた。

そこからしばらく、のたうち回る2匹を警戒しM1911A1を構えていたが、やがて2匹とも動かなくなった。 それを確認すると周囲の警戒を行うが、別のゴブリンが接近してきている気配は無い。


「よしっ」

 周囲の安全を確認すると、俺は銃口を下げ、ミーヤへと視線を向けた。

「ふぅ、ふぅっ」

 見ると、今彼女は荒い呼吸を繰り返しながら、ゴブリンの骸へ銃口を向けている。不味いな、こりゃ。初めての実戦で、しかも弾が当たったからか、極度の緊張状態になってるのかもしれない。


 俺は彼女の指が撃鉄にかかってない事を確認すると、ゆっくりと彼女が手にしてたM34に手を置き、銃口を押し下げる。そして優しく彼女の耳栓を片方抜く。

「ミーヤ」

「ッ!」

 俺が声を掛けると彼女は強張った表情のまま俺の方へ音がしそうな勢いで振り返る。

「バレット、さん」

 彼女は緊張からか体と震わせ、目を見開いていた。

「大丈夫だ。……初めての実戦、緊張したよな。でもゴブリンは倒した。周囲に他の敵影も無い。大丈夫だ」

「そう、ですか」


 彼女は少しばかり安堵したようだが、不意に自分が殺したゴブリンを見ると、再び表情を強張らせた。

「わ、私、今まさに、銃でゴブリンを、こ、殺したんですよね?」

「……あぁ」

 彼女は初めての戦闘、もっと言えば明確な殺しに戸惑っていた。無理もない。武器を握ったこともまともに無かっただろうに。


「気持ち悪いか?」

「はい。正直、吐きそうなくらい、気持ち悪いです」

 確かに今の彼女の顔色は悪い。これ以上ゴブリンに近づいたら今にも朝食をリバースしそうだ。


「少し、ここで待っててくれ。討伐の証の耳を回収してくる」

「は、い」

 俺は周囲を警戒し、敵が居ない事をもう一度確認してから素早くゴブリンに駆け寄り、その耳を切除。布で包んでポーチにしまい、彼女の元へと戻る。


 僅か数分だが、その間に少しは顔色がよくなった、ように見えるミーヤ。

「大丈夫か?ミーヤ?」

「は、はい。何とか。……ご迷惑をおかけして、すみません」

「いいさ。気にするな。初めての実戦だからな。むしろその反応が当然ってもんだよ。……少しここから離れて休もう。血の臭いで狼とかが寄ってきても危ないし」

「分かり、ました」


 その後、俺はまだ気持ち悪そうな彼女を連れて移動し、適当な所で休憩のために木陰に座り込んだ。……もちろん森の中なので、襲撃を警戒してM1911A1は手にしたままだが。


「水、飲む?」

「ありがとうございます」

 俺はポーチから水筒を取り出し、彼女に渡した。彼女はそれを受け取ると、静かに水を飲み、やがて水筒を俺に返した。


「……どうだった?初めて、魔物とは言え命を奪った感想は?」

「感想、なんて呼べる物はありません。ただ気持ち悪くて、吐きそうになって。それだけでした」

「そっか」


 彼女は、本当に気持ち悪そうな表情のまま俯きそう語っている。

「じゃあ、冒険者、やめたくなった?」

「えっ?」

 しかし次の俺の質問が予想外だったのだろう。彼女は俯いていた顔を上げ俺に視線を向けている。


「生憎、今の俺に出来るのはこんな討伐系の依頼だけだからね。生きていく為にお金を稼ぐとなったら、こんな依頼しかない。つまり俺は今後、魔物とは言え命を奪ってお金を稼ぐ。そんなことばかりするけど、それでもミーヤは冒険者を続けたい?」

「……」

 彼女は少し、悩んでいるようだった。


「俺に付いてくるって事は、そういう依頼を受けて。時には自分の身を守るために、今ミーヤが手にしている銃で敵と戦うって事だ。当然、その時の戦いで相手を殺してしまうかもしれない。いや、依頼である以上、敵なら魔物であろうと殺さなきゃいけない。……そうと分かっていても、ミーヤは冒険者を続ける気がある?」


 それは俺なりの問いかけだった。ミーヤには銃の扱いを教え、持たせているが無理に冒険者を続けさせる気はない。ダメそうなら、やめさせるつもりだった。


 でも……。

「確かに、初めての殺生で気持ち悪い、とは思いました。でも、生きていくためにはお金が必要で、今の私たちにはこんな事しか出来ないのは、私も分かってます。だから戦いますっ、バレットさんと一緒にっ!」

 彼女は真っすぐ俺を見つめ返してきた。その表情に嘘や偽りの様子は全く見えない。どうやら杞憂だったかな。


「そっか。そんじゃまぁ、もうこの話は終わりっ。慣れる慣れないに関しては今後のミーヤ次第だし。それがミーヤの選択なら俺は尊重するよ。まぁ、決して楽な選択じゃないかもしれないけどさ」

 そう言って俺が笑みを浮かべながら立ち上がると、彼女も決心したような気合に満ちた表情で立ち上がる。


「例え楽じゃなくても、今の私はバレットさんに付いて行こう、一緒に居ようって決めたんですっ!だから、これからもがんばりますっ!」

 そう語る彼女の姿はどこか勇ましかった。ホント、頼もしい仲間が出来たなぁ、なんて俺は心の中で考えていた。


「さて、それじゃあ町に戻るか、それともゴブリンをもう少し狩って帰るか、って事なんですけど、どうします?」

「ならもう少し探して倒しましょうっ!そうすれば貰える報酬も増えますし、私も経験を積めば戦いにだって慣れるはずですからっ!」

「了解」

 些か、勇ましすぎる彼女に苦笑をしつつも、それから俺たちは追加でゴブリンを討伐し、無事に森を出て町へ帰還。


 これと言った問題もなく、無事2人で挑む最初の仕事を成功させたのだった。


     第9話 END



 

 

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