第11話 災いの予兆
無事にミーヤとの最初のゴブリン討伐を成功させた日。その帰り道でミーヤを助けた時世話になった衛兵の人と遭遇。俺はその人からアドバイスを貰い、翌日にはミーヤを伴って買い物へ。そして俺は彼女にお守りを贈った。
ミーヤと一緒に仕事をするようになって、既に10日以上が経過していた。俺たちは今日も二人で森の中へと足を踏み入れ、標的であるゴブリンを探していた。先頭を俺が歩き、ミーヤが数歩遅れて周囲を警戒しながら続く。
歩いていると、前方の茂みの近くで何かが動いた。
「ッ」
俺はすぐにその場に屈みこみ、それに気づいたミーヤもその場に屈みこむ。俺は振り返り、前方を指さす。ミーヤは無言で頷くのを確認すると、俺はM1911A1を両手で構えながら歩き出し、ミーヤもM34を構え周囲を警戒しながら続く。
確認のために歩みを進めていると、見つけた。ゴブリンどもだ。どうやら今の奴らはどこかで拾ってきた動物の骨で遊んでいるようだ。好都合だな。
「ミーヤ、前方にゴブリンだ。数は4匹。やるぞ」
「はいっ」
俺の言葉に、ミーヤは臆した様子など見せず真剣な表情で頷く。この数日で彼女もゴブリン討伐にはすっかり慣れた様子だ。もう、ゴブリンに対して引き金を引く事に躊躇いは無いようだ。
「タイミングは任せる。ミーヤが射撃を開始したら俺も撃つ」
「はいっ」
ミーヤは頷くと、耳栓をセットし俺から数歩離れた木の影から狙いを定める。俺もそれを確認すると、周囲を少し警戒してから狙いを定める。ゴブリンどもは今も俺たちに気づかず、頭蓋骨をヘルメットのように被り、骨をこん棒の振り回して遊んでいるが、それこそが命取りだ。
次の瞬間森の中に銃声が響いた。ミーヤのM34の物だ。放たれた22LR弾が1匹のゴブリンの胴体を貫いた。それに他のゴブリンどもが驚くよりも先に、俺の手にしていたM1911A1が火を噴いた。
放たれた45ACP弾が2匹目の胴体を貫く。そこから更に、森の中に響くM34とM1911A1の連射による無数の銃声。やがて銃声が収まると、ゴブリンどもは動かなくなっていた。
「ふぅ」
奴らが動かなくなった事を確認すると、俺は息をついてリロードを行う。即座に周囲を警戒するが敵影は無し。なら問題なし。ミーヤはと言うと……。
彼女の方に視線を向けると、彼女は今まさに消費した弾を一発ずつ抜き取り、抜き取って空になったシリンダーに弾を装填しなおし、シリンダーを元に戻している。そしてシリンダーを戻した彼女はこちらへ視線を向けてきた。俺とミーヤの視線が合い、俺は笑みを浮かべながら左手でサムズアップをした。
するとミーヤもそれに答えるように笑みを浮かべながらピースサインを返してきた。はは、可愛いなぁ。 なんて考えていたが、おっといかんいかん。さっさと耳を回収しないとな。
その後、ゴブリンの耳を回収した俺たちは更にいくつかの小規模な、5匹前後のゴブリンのグループを倒して耳を回収し、森を出てティレットの町への帰路に就いた。
「ん、ん~~。今日は大漁ですね~」
既に森を出ているので、ミーヤはM34をホルスターに収め凝り固まった筋肉をほぐすように伸びをしている。
「そうだな。4匹の集団を3回目撃。更に3匹だけの集団を2回。おかげで弾の消費が激しくて早めに切り上げた形になったが、まぁ大漁なのは良い事だ」
数を狩ればそれが報酬アップにつながる。そうすれば生活も安定するし、いざという時のための貯金に回せる。
という事で俺たちはギルドに戻り、報告をして報酬を貰い、ギルドを出た。
「バレットさん、この後はどうします?」
「そうだなぁ。まぁ報酬もそこそこ貰えたし、少し早いが夕飯にしようか。明日も仕事だし、速めに食べて休もうか」
「分かりました」
って事で俺たちは適当な所で食事を取り、宿へと戻った。
「おや、おかえり。今日は早いねぇ」
宿に戻ると、カウンターにいる女将さんと遭遇。
「えぇまぁ。色々ありましてね。預けてあった鍵、貰えます?」
「はいよ」
俺たちは鍵を受け取ると、部屋に戻った。ちなみに、以前女将さんから言われていた通り、ミーヤが稼げるようになったので俺たちは一人部屋から2人部屋に移っていた。流石に一人一部屋となると払う家賃も馬鹿にならない。最初はミーヤが嫌がるか?と思っていたのだが本人は割とOKだったので、俺たちは今同じ部屋で暮らしている。
戻ってすぐ、俺たちはそれぞれのベッドに腰かける。
「ミーヤ、最近はどうだ?依頼を受けたりして何か問題とか、気になった事とかないか?何でも言ってくれていいぞ?」
その日は早く戻ってきた事もあって、彼女と少し話がしたかった。
今の俺は彼女をサポートする立場にあるし、何ならパーティーのリーダーのような存在だ。だからこそ彼女の事を聞いておきたかったし、問題があるなら対処したかった。 彼女もこの数日で銃を使った戦闘には慣れつつあるとは言え、慣れ始めた頃が一番怖いのはどれも同じだし、俺たちはパーティー仲間だ。変に気を遣わせてしまうのも申し訳なかった。だから、彼女と会話がしたかった。
「う~ん。そうですねぇ。そう言われても問題とか気になった事は特にありませんね。幸い銃の扱いには慣れてきましたし、特にこれと言って問題などはありませんね」
「そうか。それなら良いが。とにかく、何かあったら気にせず俺に言ってくれ。俺たちは仲間だ。仲間の間に遠慮は無しにしよう」
「はいっ」
ミーヤは俺の言葉に笑みを浮かべながら頷く。
「あっ、それならさっそく聞きたいんですけど、良いですか?」
「ん?なんだ?」
「バレットさんって、今後の展望というか、これからどうするか、とか考えてるんですか?他の町に行くとか」
「あ、あ~~」
言われて俺も、そうだな、と思った。確かに今までは目の前の事で手一杯だったが、それもかなり落ち着いてきた。そろそろ今後の事を考えても良いのかもしれないが……。
「その辺りは殆ど考えてなかったな~。最近はミーヤのサポートとか一緒に戦う事に慣れる事ばかり考えていたから、一切考えてなかったな」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。まぁ俺自身夢が冒険者になる事だったから、その願いは半分叶っちまってるんだ。もちろんこのティレットの町でず~っと冒険者やる、って訳じゃないから別の町や国に行ってみたい、とは考えたんだが。ミーヤはどうだ?どこか行きたい町とか、あるか?」
「う~ん。正直無いですねぇ。私も最近は目の前の事やその日の事で手一杯でしたから」
「だよなぁ」
彼女の言葉に俺も頷く。最近はそんな先の事を考えてる余裕も無かった。かといって、明確に行きたい所などが無いのも事実。
「じゃあとりあえず、もうしばらくは実戦への慣れとかも含めてティレットで依頼を受けつつ生活して、気が向いたり何かの依頼で町の外に出る事があれば、別の町に行ってみたり、とかでも良いか?」
「はい。大丈夫ですよ」
どうやら彼女も俺の意見に特に反対意見は無い様子。
「あっ、でもそれなら何時町を出るか分かりませんよね?」
「ん?まぁね。ふとしたきっかけで町を出る理由が出来るかもしれないしね」
「そうですよね」
「何か、気になる事でも?」
少し考え込んだ様子の彼女が気になり、俺は声を掛けた。
「いえ、気になると言うか。私、町を出る前に衛兵の人たちにお礼がしたいんです」
「衛兵って、あの詰所の?」
「はい。バレットさんもそうですが、あそこにいた衛兵さんや私を見てくれた町医者のハレル先生も、私にとっては命の恩人ですから」
「そっか。確かにそうだな」
彼女の言う通り、確かに彼らに世話になったのも事実。
「それじゃあ何か贈り物でもするか?お酒とか」
「そうですね。それじゃあ近いうちにハレル先生と衛兵さん達にお酒とかを持っていきましょう」
「OK。決まりだな」
こうして俺たちは衛兵の人たちやハレル先生に謝礼の品を贈る事に。
それから数日は、いつものように2人で依頼を受け、ゴブリンを討伐。なぜか最近は森でゴブリンと遭遇する事も多くなり、謝礼の品を贈るための資金を集めるのにそんなに時間は掛からなかった。
依頼を休む休日。俺とミーヤは市場で適当な果物や酒などを買ってからまずハレル先生の所へ行き果物を感謝のしるしとして送った。その後、詰所にも向かったのだが。
「こんにちは~」
「あっ、嬢ちゃん。それに坊主か。どうした?」
ミーヤが声を掛けたのはこの前世話になった衛兵の一人なんだけど。なんというか声に元気が無いし、顔色も優れない様子。
「あの、以前助けていただいたお礼としてお酒をお持ちしたんですが、大丈夫ですか?かなりお疲れのようですが?」
「あ、あぁ。悪いね。ちょっといろいろあってね」
衛兵の人はそう言って疲れているせいか乾いた笑みを浮かべている。
「何か、あったんですか?」
「ちょっと、ね。まぁでもお嬢ちゃんたちが気にするような事じゃないよ」
衛兵の人は乾いた笑みを浮かべそういうが、聞いた以上、俺は気になった。更に言えば……。
「バレットさん」
ミーヤが俺を見つめている。その表情は、何か言いたい事がありそうだ。しかしその表情を見ていれば俺でも分かる。『この人たちの力になれませんか?』と言いたげだ。 まぁ、俺も気になるしなぁ。
「あの、良ければ俺たちにもその事、聞かせてもらえませんか?」
「え?」
「いえね。この詰所の衛兵の皆さんには世話になりましたから。こんな事で恩返し、と言って良いのか分かりませんが俺たちに出来る事があったら協力させてくださいよ。まぁ、戦う事くらいしかお役に立てそうにありませんが」
「良いのかい?坊主」
「まぁ、何かあるって聞いちまいましたからね。俺、好奇心旺盛なもんで」
衛兵の人は少し驚いてから、次いでミーヤの方に視線を向ける。
「お嬢ちゃんも、良いのか?」
「はい。皆さんには大変お世話になりましたから。私にできる事なら、協力させてください」
彼女は笑みを浮かべながら頷く。
「そうか。ありがとう二人とも。心強いよ」
衛兵の人は俺たちにそう言って感謝の言葉を述べ、笑みを浮かべる。
その後、俺とミーヤはその衛兵の人に連れられて詰所の中へ。念のため周囲の一般市民には聞かれないようにするためらしい。
「それで、何があったんです?」
部屋に通され、席に座ると真っ先に俺が問いかけた。
「実はね、ここ最近街道でゴブリンが目撃されるようになって問題になってるんだ」
「ゴブリンが?」
「あぁ。……二人は冒険者だろ?ゴブリンの間引きとかの事は?」
「聞いてます。ゴブリンは群れを作ると村とかを襲いかねないから、群れにならないように間引きをするって。だからギルドにはゴブリン討伐の依頼が無数に張り出してあるのをいつも見てますから」
「そう。その通りなんだけど、ここ最近は街道で商人の馬車や貴族の馬車がゴブリンに襲われる事態が頻発していてね。そのせいで衛兵隊に苦情が来てるんだ」
「ん?なんでそこで衛兵隊に苦情が来るんです?衛兵の人たちの仕事って町の警邏とかじゃ?」
「いや。実は衛兵隊の仕事はそれ以外にも、町の周囲の安全確保という仕事があってね。近隣の街道の安全確保も衛兵隊の仕事なんだ。ただ、この辺りで街道の危険になりそうなのは、盗賊とかゴブリン、後は狼くらいでね。ゴブリンや狼は冒険者ギルドに依頼を出して対処。盗賊などは俺たち衛兵隊が対処してるんだよ」
「成程。じゃあさっき疲れた様子だったのは、そのゴブリン関係ですか?」
「うん。さっきも言った通りゴブリンが街道に現れるようになったから、パトロールを強化するって話しになってね。とはいえ普段は他にも仕事があるし、仕事量が増えるって事になって皆落ち込んでたんだよ。仮にパトロールしたって、ほんの少し、雀の涙程度に給料が上がるだけだからねぇ。ハァ」
「あ~~。成程」
言われて俺は納得した。仕事が増えるのに上がる給料が少なきゃ、そりゃ疲れたような顔もするわな。
「ところで、君たちはどうだい?最近何か変わった事は無いのかい?ゴブリン関係で、だけど」
「そうですねぇ。……どうですか?バレットさんとしては?私はまだ冒険者になりたてなので、良く分からないんですけど」
「ん?そうだなぁ。でも確かに最近はよくゴブリンを見かけますね。まだ俺がゴブリン討伐を始めたばかりの頃は、今ほど奴らと遭遇する事は無かったかな?」
「そうか。……森の中で、何か起きてるのか?」
衛兵の人は、どこか険しい表情でポツリと呟いた。さて、ここまで来たら無関係って訳にはいられないなぁ。何か起きているのだとしたら興味もある。それにこのティレットの町は俺の故郷の村にも近い。仮に群れがあの森で成長して、村を襲ったりしたら不味い。となれば……。
「あの、良ければ街道付近のゴブリン討伐、俺らがやりましょうか?」
「え?」
「いえね、実は俺たちいつもゴブリン討伐の依頼で金を稼いでいるんですよ。だからそのついで、と言って良いのか分かりませんが。依頼を受けつつ街道周りの様子でも見てみようかなって思いまして」
「い、良いのかい?いや、協力してくれるのは嬉しいが報酬などは出ないぞ?」
その言葉を聞き、俺はチラリとミーヤの方を見る。すると彼女もそれに気づいて俺の方を向くが、特に気にした様子もなく笑みを浮かべなら頷いた。どうやら報酬が出なくとも問題ないらしい。そしてそれは俺も同じだ。
「構いませんよ。皆さんには世話になりましたから、その恩返しみたいなもんです。それに俺の村もこの町から近い所にあるので、森でゴブリンが群れを作ってるのだとしたら、放置できませんから」
「そうか。そう言ってもらえると助かるよ。ただし無理だけはしないでくれ。あくまでも街道付近のゴブリンの討伐程度で良い。実際俺たちの仕事もその程度だ。無理にゴブリン増加の原因を探ろうなんて考えなくていいからね?」
「分かってます。無茶だけはしませんよ」
そう言って俺は席を立ち、ミーヤも続いた。
「それじゃあ、街道の方のゴブリン討伐は任せてください。俺たちで出来る限りやってみます」
「分かった。あぁそれと、このことはギルドにも報告済みらしい。なんでも索敵に優れた冒険者に森の中を調査させると言っていたから、ギルドで近いうちに何か言われるかもしれない。もし何かあれば、俺たちにも情報をくれると助かる」
「分かりました。何か緊急性のありそうな情報とかだったら、また真っ先にここに来ますよ」
「あぁ、頼むよ」
こうして俺たちは、ゴブリンの増加現象へと首を突っ込む事になった。
それが、どんな事態になるのかまだ分からないまま。
第11話 END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます