第10話 ファーストデート

 俺と一緒に冒険者として仕事をすることになったミーヤ。そんな彼女の初仕事は俺と一緒にゴブリンを討伐する事になった。まだ慣れないながらも、M34を使って見事ゴブリンを倒したミーヤ。こうして二人で初めての依頼を成功させた俺たちはティレットの町へと戻った。



 依頼を終えて町へと戻って来た俺たち。

「んっ?あっ、お~い嬢ちゃんっ!坊主っ!」

「あっ!」

「ん?」

 町まで戻ってきて、門をくぐろうとした時。衛兵の一人に呼び止められた。ミーヤは衛兵を見るなり嬉しそうに笑みを浮かべている。俺もなんだ?と思ってそっちに視線を向けたのだが。


「あっ。あの時の人か」

 その衛兵、というのがミーヤの時に世話になった人だったのだ。その衛兵が俺たちの方に小走りで近づいてくる。

「やっぱりあの時のお嬢ちゃんっ、確かミーヤちゃんだっけっ?」

「はいっ、あの時は大変お世話になりました」

「やっぱりそうかっ!いや~元気になったみたいで良かったよっ!体はもう良いのかい?」

 衛兵の人は、ミーヤがすっかり回復した様子を見て安心したように笑みを浮かべている。


「えぇ。バレットさんのおかげで、無事に回復しました。今はもうすっかり」

「そうかそうか。それにしても、お嬢ちゃんは今何してるんだ?確か回復したら仕事を探す、みたいに言ってたが?」

「今はバレットさんと一緒に冒険者をやってるんです。まだ新人ですけど」

「冒険者だって?」

 衛兵の人は話を聞くと、何やら疑惑の目を俺に向けてきた。おっと?

「おい坊主、お前まさか彼女を無理やり仲間にしたとかじゃ……」

「あっ、ち、違いますよっ!別に無理やりとか迫られてとかじゃないんですっ!」


 ミーヤも衛兵の視線に気づいたのか慌てて俺と衛兵の間に割り込み、声を上げてくれた。

「ただ、私にはこれくらいしか出来なくてっ、それで冒険者をしてるんですっ」

「え?本当なのか?」

 衛兵は俺の方に視線を向けて問いかけてきた。


「えぇ。一応ミーヤは農家出身ですから、農場で雇ってもらえないか町の郊外の農場とか一通り当たったんですが、ダメでした。どこも奴隷が居るから、とかなんとか理由つけられて断られました。幸い、冒険者なら仕事の幅は多いですし、俺だって彼女を無理やり依頼に同行させたりはしませんよ」

「そっか。分かった。疑って悪かったな」

「いえ」

 衛兵さんは俺に向かって頭を下げてくれた。どうやら誤解は解けたようだ。


「いや~何しろこんな美人ちゃんだからなぁ。てっきり彼女欲しさに少し強引にでも迫ったんじゃないかな~と」

「び、美人ッ!?わ、私がですかっ!?」

 衛兵が何やら笑みを浮かべながら口にするが、次の瞬間にはミーヤが顔を真っ赤にしている。

「おうともっ!なんだお嬢ちゃん、自分に自信が無いのか?大丈夫だってお嬢ちゃんは十分可愛いからさっ!」

「あぅ、あぅっ!」

 ミーヤは褒められ、顔を真っ赤にして狼狽している。

「お~お~赤くなっちゃって可愛いねぇ~」

「もう。俺の仲間で遊ばないでくださいよ。まぁミーヤが可愛いのは認めますけど」

「ふぇっ!?」

「おっ!?なんだよ坊主も分かってるじゃねぇか~!」

「そりゃまぁね。ミーヤは十分可愛いのは俺が保証します」

「あぅっ!あぅっ!あぅっ!」


 俺たちの言葉で茹蛸みたいに顔を真っ赤にしながら狼狽しているミーヤは何というか可愛い。しかし、悪戯もここまでにしないとな。

「それじゃあそろそろ俺たちは行きますよ。ここでミーヤを褒め殺しにしてたら、彼女が茹っちまいそうですから」

「おう、そうだな。っと。そうだ坊主」

「はい?」


 蹲るミーヤに声を掛けようとしたのだが、衛兵の人に呼び止められ振り返る。衛兵の人は俺に近づいてくると、近くで耳打ちを始めた。

「お前、今あの子と一緒に冒険者してるんだろ?」

「えぇまぁ。そうですけど?それが何か?」

「だったら、あの子に少しでもなんか贈ってやんな。あの子の服、発見されて詰所に連れてきた時、仲間が渡したあいつの娘のお古のままじゃないか」

「あっ」

 彼に指摘されて、俺は思い出した。


 今彼女が着ている服は、ミーヤから聞いた事があるが、衛兵の人が『その恰好のままじゃかわいそう』、『どうせ娘も成長して着られないから』と言って譲ってくれた物だったはず。

「あの服だってお古だし、どうせだあの子に服なりなんなり買ってやったらどうだ?せっかく一緒に居るんだからよ」

「……そうですね。アドバイス、ありがとうございます」

「おうっ!男ならあの子の事、ちゃんと守ってやれよっ!じゃあなっ!」 

 アドバイスに俺が礼を言うと、衛兵の人は豪快に笑みを浮かべながら詰所の方へと戻って行った。


 確かに今まで生活費を稼ぐのに必死になり過ぎて、その他が御座なりになってたな。彼女も女の子だし、服も予備とかあった方が良いだろう。そんなことを考えながら俺は今も蹲るミーヤの傍へ歩み寄る。


「ほらミーヤ。いつまでそうしてるんだ?ギルドに行って報告、済ませないとさ」

「うぅ、はいぃ」

 ミーヤは未だに顔を真っ赤にしながら立ち上がり、俺の後に付いてくる。そしてギルドに向かっている時。


「あの」

「ん?どうしたミーヤ」

「さっき、バレットさんは私を可愛いって言ってくれましたけど、ホント、ですか?」

 何やら彼女は少し頬を赤くしながら問いかけてくる。その問いかけに、俺は歩きながら答えた。

「そりゃまぁホントさ。俺だって女の子に冗談で綺麗なんて言わないよ。それが嘘だって分かったら、相手の子だって傷つくだろ?そんな酷い嘘は言わないよ」

「じゃあ、やっぱり私が綺麗だって、思うんですか?」

「まぁね」

 俺は彼女の言葉に頷いて足を止め、振り返った。


「流れるような金色のロングヘア。その空を映しこんだような青い瞳。とても綺麗だよ」

「ふぇぁっ!?」

 割と臭いセリフ吐いてるなぁ、なんて思いながらも思っていた事を口にするが、次の瞬間には彼女がまた顔を真っ赤にしてしまう。心なしか頭から湯気が出てるような気がするが、気のせいだろう。


「ほらミーヤ。ギルドに行かないと。日が暮れちゃうぞ?」

「あっ!待ってくださいよぉ!バレットさ〜んっ!」

 顔を真っ赤にしながら前を歩く俺に追いかけてくるミーヤ。俺は顔の赤い彼女の姿に笑うのを堪えつつ、彼女と共にギルドへと向かった。


 その後、無事にギルドで報酬を受け取った俺たちは宿へと戻り軽く夕食を済ませると部屋に戻った。


「ミーヤ、少し良いかな?」

「あっ、はいっ。何ですか?」

「明日の予定なんだが、明日は依頼を休んで少し町に出ようと思うんだ。それでミーヤも一緒に来ないか?」

「私もですか?」

「あぁ。さっき衛兵の人に言われて気づいたんだけど、ミーヤの着てる服って衛兵の人の娘さんのお古、なんだろ?」

「はい。もう娘さんも成長して着ないから、と言ってもらったんです。それが何か?」

「今の所ミーヤの服はそれだけだし、着替えとかないと不便かなぁって思って。それにミーヤの持ち物がM34とそのホルスターとかだけってのもちょっとね。防具や道具を入れるカバンとか、そういうのを買いに行こうと思ってさ。幸いここ数日頑張ってたからお金には結構余裕あるし。どうする?」

「そう、ですね。正直服も欲しいなぁ、とは思っていたんですが、良いんですか?」

 彼女は少し気恥ずかしそうにしながら問いかけてくる。

「大丈夫だよ。お金のことは心配しなくて良いから。たまには自分にご褒美をあげないとね。日々の活力のためにさ」

「そ、そうですね。じゃあ、行きますっ!」


 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら頷く。こうして俺たちは明日、出かける事となった。


 翌日。宿の食堂で朝食を取り、少し休んでから俺たちは町へと出かけた。まず向かったのは、服屋。目的はミーヤの服探しだ。

「本当に最初は私の服探しで良いんですか?」

「まぁね。別に決まったルートとか順序がある訳でもないし、そこらへんは気にしなくて良いから」

「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」


 そう言って店の中に入ったミーヤはすぐさま服を見始めた。俺は楽しそうに服を選ぶ彼女を少し離れた所から見守っていた。が、不意に女性の店員らしき人がミーヤに近づき、声を掛けた。すると、ミーヤは顔を真っ赤にしながらチラチラと俺の方を見ている。更に店員はどこか面白そうに笑みを浮かべながら、俺と彼女を交互に見やり、更にミーヤに何かを耳打ちしている。見る間に顔を真っ赤にしていくミーヤ。……ちょっと様子が気になって来たな。 なんて思っていると店員がミーヤを連れて奥へと向かった。


「あっ!ちょっとっ!」

 流石にちょっと心配だったので後を追おうとしたのだが……。

「ダメですっ!」

「ッ!?」

 不意に別の女性店員が現れ俺の行く手を防いだ。

「な、何でだっ!連れが今奥に行くのを見たんだっ!何を話してたか気になるし、俺もっ!」

「それでもダメですっ!ここより先は男子禁制にして女子がある物を求めて集う秘密の場所なんですっ!どんな理由があろうと通すわけにはいきませんっ!」

「ッ。そ、そうかよ。でも連れに変な事したら、ただじゃ置かないからな?」

 何やら店員の圧がすごくて俺は一歩後ずさったが、しかしミーヤは大切な仲間だ。変な事をされて黙って等居られない。


「あぁ。その点はご安心下さい。私たちが中で彼女に行うのは、ちょっとした提案と、『試着』くらいですから」

「はぁ?」

 提案と、試着?なんだそりゃ? 予想外の答えに俺は肩透かしを食らった気分だった。結局、それからしばらく俺は店の中をうろうろしたりして時間を潰していた。


 が、しばらくして。

「ば、バレット、さん」

「ッ、ミーヤッ、戻って、ん?ミーヤ?」

 ミーヤの声を聴いて振り返ったのだが、なぜか視線の先にいたのは顔を真っ赤にしたミーヤとその隣で満面の笑みを浮かべるさっきの女性店員。だがそれよりも気になったのは彼女が持っていた紙袋だった。中に何が?と思って近づいたのだが。


「ッ!だ、ダメですっ!これの中は見ちゃダメですっ!」

「え?お、おぉ」

 顔を真っ赤にして叫ぶ彼女の姿に驚いて、俺は思わず足を止めた。


 結局、ミーヤはあの謎の紙袋の中身と、依頼の時に使う質素な服、休みの日に着る私服などを購入し、ここでの買い物は終わった。


 が、しかしミーヤがなぜか紙袋を持ったまま出歩く事をひどく嫌がったので、一度宿に戻ってそれを部屋に置いてから、また宿を出た。……あの店員たち、一体ミーヤに何を買わせたんだ?気になる。……気になるが、彼女に聞いた所で今は教えてくれそうに無いし。まぁ仕方ない。女性に必要な下着とか、そんなのだろう。試着、って言ってたし、と俺は納得する事にした。


 その後も俺たちは町中を見回り、今後のミーヤの荷物を入れるための旅用のリュック。更に戦闘時に荷物を入れられる小型のリュックや討伐の証拠をはぎ取るためのナイフなどを購入。更に防具屋にも寄って、安いがないよりはましだろう、と皮の防具を購入。

 

 この防具は使用者の動きを妨げないよう、胸や肩、肘など、最低限のバイタルパートを守るための物だ。これでも無いよりマシなので、俺と彼女用に革製防具、『レーザーアーマー』を購入。


 ついでに道具屋にも寄って野営のための装備やら、治療薬なんかも購入。で、これだけお金を使うと、懐は自然と寒くなってしまった。

「思ったより出費もあったし、こりゃまた明日から頑張るしかないかなぁ」

「そうですね」

 俺の言葉に静かに頷くミーヤ。


 と、大体の買い物は終えたので後は宿に戻ってゆっくり、と行きたかったんだけど。

「ん?」

 ふと、俺はある店の前で足を止めた。

「バレットさん?」

 それに気づいてミーヤも足を止めて振り返り、俺の傍に歩み寄ってくると店の入り口に掲げられた看板を見上げ、更に入り口から見える店内へと視線を向ける。


「ここって、アクセサリーか何かを扱ってるお店ですよね?このお店がどうかしたんですか?」

「ん?あ、あぁいや。ちょっと、気になってな。入ってみても良いか?」

「え?はい、大丈夫ですよ?」


 彼女の了解も得たので、俺はミーヤと共に店内へ。店内は薄暗く、所々に置かれた燭台のロウソクの火が店内をほのかに照らしていた。

「うわ~っ、すごいですねバレットさんっ!キラキラしてて綺麗な物がたくさんありますよっ!」

 ミーヤは部屋のあちこちにあるガラスケースの中で宝石のように輝くアクセサリーを見て目を輝かせている。綺麗な物に興味津々なさまは女の子らしく、その興奮した姿に俺もクスリと笑みを浮かべた。


 その時。

「おや、何かお探しかい?」

 奥から掠れた声が聞こえてきた。

「あっ、ミーヤはここで色々見てていいから。俺ちょっと聞きたい事があるから」

「はーいっ」

 戸棚の影に隠れて見えなかったので、ミーヤに一言言ってからその棚を回り込むと、奥に老齢のおばあさんがいるのが見えた。カウンターの傍で椅子に腰かけていた。

「こんちは。え~っと、この店の店主さん、で良いのかな?」

「あぁ。そうだよ。お前さんは、客みたいだねぇ。何か探し物かい?」

「まぁ、探し物と言えば探し物かな。ちょっとあるかどうか聞きたいんだけどさ」

「なんだい?」


「駆け出し冒険者の俺たちでも買えるくらいの、安めのお守りとかないかな?」

「お守り?まぁ無くは無いけどねぇ。ちょっと待ってなよぉ」

 

 おばあさんはゆっくりと頷き、傍にあった杖を手に立ち上がるとゆっくりした足取りで奥へと入って行き、しばらくしてお盆のような物を手に戻って来た。

「ほら、これだよ」

 おばあさんが持ってきたお盆の上に乗せられていたのは、ピカピカに磨き上げられた石に首紐を通したようなお守りだった。


「こいつは?」

「なぁに。しがない石材屋がお遊びで作ったお守りさ。石の欠片を綺麗になるまで磨き上げて作った、安物のお守りだよ。効果のほどは知らないがね」

「へ~」

 なんとも安そうなお守りだこと。まぁでも、あるとないとじゃ違うだろうし。ペンダントに矢が当たって致命傷を免れたなんて話も聞いた事がある。『無いよりはマシ』だろう。

「じゃあこれ買うよ。値段は?」

「小銅貨3枚さね。けど良いのかい?こんなもん、役に立つとは思えないけどねぇ」

「無いよりマシさ。こんなお守りでもさ」


 俺はそう言って肩をすくめると、代金を払ってお守りを受け取った。

「まいどど~も」

「あぁ」


 俺はおばあさんの傍を離れ、入り口近くでガラスケースを見ていたミーヤの元へと向かう。

「ミーヤ」

「あっ、はい、何ですかバレットさん?」

「ちょっとだけ、目を閉じてもらってもいいかな?」

「え?目、ですか?良いですけど……」


 彼女は俺の言葉に少しきょとんと首を傾げながらも目を閉じた。俺を信頼してくれてる証、なのかもなぁ。なんて思いながら、俺は今まさに買ったお守りをネックレスのように彼女の首にかけた。


「え?これって?」

 するとそれに少し驚いたのか、彼女はすぐに目を開け、胸元にあるお守りに目を向け、ついで俺を見上げている。

「バレットさん、これって?」

「お守りさ。安物で申し訳ないけど」

「い、いいえっ、そんなことありませんっ!どんなものでも贈ってもらえればうれしいですけどっ!……良いんですか?私だけ」

 彼女は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべたが、次いで俺を心配するような表情を見せた。


「気にしなくていいよ。ただ、ミーヤにもしもの事があっても大丈夫なように、って。そんな思いを少しでも形にしたくてさ。安物のお守りだけど、せめて君を守ってくれればって思ってさ」

 そう言って俺は彼女に優しく語りかける。

「ッ!」


 すると彼女はなぜか息を飲み、頬を赤く染めている。ちょっと臭いセリフを言ってしまったかな?なんて思っていると……。


「もう。バレットさんは、素敵すぎ、です」

 彼女が顔を赤くしながら小声で何かを言っているが、聞こえない。

「ミーヤ?今何か言ったか?」

「ふぇっ!?な、なな、何でもありませんっ!そのっ、お守りのプレゼントは嬉しいですがそろそろ宿に戻って休みましょうっ!明日は仕事ですしっ!」

「うぉっ!?ちょっとミーヤ、腕を引っ張るなってっ!分かったからっ!」


 俺は顔を真っ赤にしたままのミーヤに手を引かれて店を出た。

「やれやれ、青春だねぇ」

 店を出る時、店主のばあちゃんの言葉が聞こえてきたような気がしたが、何を言ってるのかまでは聞き取れなかった。


 こうして俺たちの買い物は終わり、そしてまた明日から依頼を受ける日々が始まるのだった。


     第10話 END

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