第12話 緊急依頼・前編
ミーヤと共に冒険者稼業でゴブリン討伐をするようになって早数日。まだまだ慣れない所もあるが、一通りは銃、リボルバーを扱えるようになったミーヤと共に俺は日々ゴブリンを狩って金を稼いでいた。そんなある日ミーヤの提案で、餓死寸前だった彼女を救うために協力してくれた衛兵の人たちにお礼をする事に。謝礼の品を持っていたは良い物の、そこでゴブリンに関する問題を聞いた俺とミーヤは、以前の恩返しも兼ねてその問題にかかわる事になった。
衛兵の人らに謝礼の品としてお酒を届けた翌日。早速俺とミーヤはギルドでゴブリン討伐の依頼を受けると、町を出て街道を歩いていた。普段は草原の上を突っ切って森へ向かうのだが、今回からは街道の確認と付近に居ればゴブリンを狩る事になっている。
あの人たちには世話になったし、これくらいで恩返しになるのなら良い。それに、ゴブリンを倒せればそれが俺たちの報酬にもなる。まさにギブアンドテイクだ。
「それにしても、どうして最近になってゴブリンの数が増えてきたんでしょうね?」
「さぁな。それは俺にも分からない。とはいえ、火のない所に煙は立たない、って言うくらいだ。物事には必ず理由がある」
俺たちはゴブリンが目撃された場所を目指して街道の上を歩いていた。街道は、流石に人通りも多いので道の上に人の足跡や馬の蹄の跡、馬車の車輪の跡などが残っていて、俺たちはそれを遡るように足を進めていた。
「とはいえ、俺もゴブリンにそこまで詳しい訳じゃないから、理由に関しては素人の推測くらいしか出来ないが」
「そうですか。でも、推察でも良いので私聞きたいですっ、教えてくれませんか?」
ミーヤは興味がある、と言わんばかりの表情で横から俺を見上げている。
「言っておくが推測だから確証はないぞ?鵜呑みにはするなよ?」
「はいっ、分かってます」
まぁ、聞きたいというのなら良いか。俺は一度息をついてから話し始めた。
「俺の推測だが、何か、もしくは誰かが周囲からゴブリンを森に集めているか、ってのが俺の推測だ」
「成程。でもどうしてそう思うんですか?」
「単純に数の問題さ。数が増えたって事さ。俺も魔物の生体には詳しくないから分からないが、単純に数を増やすのなら他から集めるしかない。そこから考えられるのは、この森には俺たちが知らない、ゴブリンに魅力的な何かがあるのか。或いはそれとも、周辺からゴブリンを集めて統率するリーダーのような奴でもいるのか。今の所俺の推測はこの二つだ」
「成程。でも、ゴブリンにリーダーっているんですか?」
「あぁ。ゴブリンには『上位種』がいるからな。そいつらがリーダーやってる可能性は高い」
「上位種?って何ですか?」
「っと、そうか。ミーヤは知らなくて当たり前か」
小首をかしげる彼女の姿を見て理解した俺は少し話を変えた。
「ゴブリンの中にはな、何等かの理由で通常のゴブリンから進化したゴブリンが居るんだよ。有名どころだと、人間の成人男性を上回る巨躯を持つ『ホブゴブリン』。ゴブリンなのに魔法が使える『ゴブリン・シャーマン』とかな」
「えっ!?ゴブリンが魔法を使えるんですかっ!?」
「上位種のシャーマンだけ、だがな。とはいえ、俺も依頼を受けてこの方、上位種は見た事がないから、或いは他の強い魔物が何らかの理由でゴブリンどもを従えている可能性はあるが……。っと」
話をしながら歩いていると、やがて森の入り口にたどり着いた。ここからは、街道は森の中を横断するように走っている。そのため左右を森に囲まれており、普通に考えれば奇襲や待ち伏せにピッタリだ。
となれば、おしゃべりはここまでだな。俺はホルスターからM1911A1を取り出し、一旦マガジンを抜いて弾をチェック。マガジンを戻す。すると、それを見ていたミーヤもハッとなった表情でホルスターからM34を取り出し、シリンダーをスイングアウトとして弾を確認。シリンダーを戻すと俺を見上げながら頷いた。
それに俺も頷き返すと、スライドを引いてチャンバーチェックを行う。さて、準備は出来た。
「良いかミーヤ。ここからは、どこからゴブリンどもが来るか分からない。警戒心を緩めず行くぞ?」
「はい……っ!」
彼女はM34を両手でしっかりと保持しながら頷いた。
「よし、GOッ」
俺たちはそれぞれの銃を構え、街道の淵を歩き始めた。時折周囲を見回しながら、今も街道の上に残っている車輪の跡を遡るように歩いている。流石に街道だけあって、結構な頻度で馬車や冒険者らしい一団と遭遇。念のため、俺とミーヤでここ最近この街道にゴブリンが出ている事を伝えた。
すると冒険者たちは殆どが『ゴブリンなんて心配ない』と言って笑って去っていき、商人たちの方は『急いで町に行かないと』と言って、顔を青くしながら馬車を飛ばしていった。
しばらく歩いていると……。
「ん?」
「バレットさん?どうしました?」
ある物に気づいて俺が足を止めるとそれに気づいてミーヤが声をかけてきた。
「ゴブリンの痕跡を見つけた」
「えっ?」
俺が答えると、彼女は少し驚いたように声を上げた。俺は周囲を警戒しつつ、その場に膝をついた。
今、俺の前に広がっていたのは、無数のゴブリンの足跡、襲われてパニックにでもなったのか、無数の乱れた蹄の跡と左右に振れた馬車の車輪の跡。
「これってっ」
「恐らくここで襲撃があったんだな。ゴブリンの足あとがあるから間違いないだろうが……」
俺はゴブリンの足跡を視線で追う。足跡をたどると、森の中へと続いていた。
「行くぞミーヤ。この辺りから森の中に入り、ゴブリンを探して倒す」
「はいっ」
俺は立ち上がり、ミーヤに指示を出す。彼女の返事を確認すると、俺たちはそれぞれの得物を構えたまま森の中へと入って行った。
森に入り、時折足を止めてゴブリンの痕跡を探す。痕跡があれば、それをたどるように進んでいく。そんなことをしていると……。
「ッ!」
不意に、木陰から出ようとした所で、前方から近づく何かの影に気づいて俺は咄嗟に木陰に戻った。
「バレットさん?」
「前方、何か来る。まだ距離があったからはっきりとは見えなかったが、多分人じゃない」
「ッ」
人じゃない、という言葉に彼女は反応し、ゆっくりと木陰から顔だけ出して前方を確認している。俺も、M1911A1を構えながら、ゆっくりと顔を出す。
そこから確認するが、何かの影がこちらに近づいてきている。まだ距離があるが、見えた。特徴的な緑の肌色。ゴブリンだ。
「ッ、ゴブリンですよ、あれっ」
「ミーヤも見えたか。……あいつら、真っすぐこっちに来るな」
「街道の方へ、行くつもりでしょうか?」
「……その可能性が高そうだな。ミーヤ、ここで奴らを待ち伏せしてやるぞ。街道の方に行かれても面倒だ。ここで片付ける」
「はいっ」
あいつらを見逃す理由は無いし、第一奴らはこっちに真っすぐ向かってきている。今から避けようとして動くと、逆に発見されて襲われる可能性もある。だったら、見つかる前に奇襲し、機先を制する。
「ミーヤはここから、俺はあっちの木陰から狙う」
そう言って俺は数歩離れた木を指さす。
「十分にひきつけたら、俺が合図を出す。それを見たら一気に撃て。良いな?」
「はいっ」
「よしっ」
彼女の返事を確認すると、俺は姿勢を低くして少し離れた木の陰に移動。
木で体を隠しつつ、まずは顔を少しだけ出して様子を伺う。こちらが奇襲の準備をしている間も、奴らはこっちに気づいた様子など無く近づいてくる。そしてある程度距離が詰まった所で、詳細な数が分かった。
ゴブリンは6匹。全員が粗雑なこん棒や槍、石斧らしきもので武装している。が、弓の類は無し。遠距離武器が無いのなら、こちらに距離のアドバンテージが付く。
俺は静かに、距離が詰まるのを待っている。一方のミーヤも、耳栓をした状態でしきりに俺の方に視線を送ってきては合図を待っている。だがまだだ。まだ20メートル以上離れている。もう少し。もう少しだ。15、10。ここだっ!
俺はすぐに左手を振って合図を送った。それを目にした次の瞬間、ミーヤが木陰から半身を晒しながらM34を構えた。
『ギッ!?』
『ギギィッ!?』
奴ら、ミーヤに気づいたが、俺も居るんだよっ! 彼女に一拍遅れて俺も木の影から半身を晒し、M1911A1を構える。
直後、二つの銃声が響き渡った。45ACP弾と22LR弾が放たれ、ゴブリンどもの体を次々と貫いていく。
『ギギッ!ギギャァッ!』
流石に数が倍以上、というだけあって2匹ほど向かってきたが。
「そこっ!」
『ギャァッ!?』
ミーヤの放った銃弾が1匹の足を運よく撃ちぬき、更に追い打ちの1発が胸に当たるのが見える。
「終わりだっ!」
もう1匹を俺のM1911A1の銃弾が撃ちぬいた。だが、撃ちまくったせいで今の1発で終わり。スライドはホールドオープン状態だ。俺は周囲を確認しつつ素早くマガジンを入れ替えスライドストップを押しスライドを前進させる。再び周囲を警戒しつつ、ミーヤの傍へ。ミーヤも周囲を警戒しながら、打ち切った空薬莢を、左手の親指でエジェクターロッドを押し排出。ポーチから弾を取り出し1発ずつ装填している。
弾を装填し終えた彼女がシリンダーを戻した所で、俺は軽く彼女の肩を叩いた。それに気づいて彼女は耳栓を外す。
「とりあえず見つけた奴らは倒したけど、他にもいる可能性がある。俺が近づいて耳を回収するから、ミーヤはその間周囲の警戒を頼む」
「はいっ」
「よし、行こう」
彼女の返事を聞くと、俺たちはそれぞれの銃を構えたままゴブリンの骸に近づいて行った。死骸の傍で俺が屈みこみ、耳を切り落とし回収する。それを傍で見守りつつM34を構えたまま周囲を警戒するミーヤ。
そして最初の攻撃で倒れた4匹の傍に近づいて耳を切り落としていた時。
『ガサッ』
「ッ」
その時、俺から見て3時の方角で何か、音がした気がした。俺は耳を回収しつつ、一瞬だけそちらに目を向ける。しかし、一瞬見ただけでは何が居るかは分からなかった。……ゴブリンか?或いは血の臭いにおびき寄せられた狼か。どちらにしても、警戒しないとな。まずは……。
「ミーヤ、そのまま聞いてくれ」
俺は耳を回収しながら傍に居たミーヤに小声で声を掛けた。彼女は俺の方を向こうとするが……。
「こっちを見るな。今俺から見て右、3時の方向で何か物音がした気がした」
「ッ」
俺の言葉に、彼女が息を飲む音が聞こえた。
「驚くかもしれないが出来るだけ平静を装ってくれ。相手に気づいていないと思わせたい」
今、彼女は俺の後ろにいる。射線は被ってはいない。
「幸い、耳は回収し終えた。俺は立ち上がって反対側、9時の方角に歩き出すから、それに続いてくれ。ただし後ろへの警戒は怠らずにな」
「はいっ」
彼女は俺の言葉を聞き、緊張した様子ながらも必死に平静を装っていた。
一か八か。何が居るにせよ、どう出る?
俺はゴブリンの耳を回収し終えると立ち上がった。
「行くぞミーヤ。ここにもう用はない」
「は、はいっ」
彼女に声をかけ、歩き出す。射線が被らないよう、彼女は俺の隣に少し感覚を開けて並んでいる。そしてもちろん、俺たち二人とも後方への警戒は怠ってはいない。と、その時。
『『『『ギギャァァァァァッ!!!』』』』
案の定、というべきかっ!ゴブリンどもが飛び出してきたっ!だがっ!
「ミーヤッ!」
「はいっ!」
気づいていたっ!だからこそ、俺たちは反応出来たっ! 俺とミーヤの2人は、それぞれのハンドガンを構えながら振り返るっ!
『ギッ!?』
『ギギィッ!?』
俺たちが奇襲を読んでいた事に驚いているようだが、もう遅いっ!
「くたばれっ!!!」
森の中に俺のM1911A1とミーヤのM34の銃声が連続して木霊する。ゴブリンどもは、奇襲を見抜かれた事に動揺していたのか、まともな反撃など出来ず驚愕の表情を浮かべたまま俺たちに撃ちぬかれ倒れた。
「ふぅ」
どうにか奇襲を退けた事で俺は息をついた。が、正直危なかった。気づいて無かったらやられていた可能性もある。本当に、実戦の怖さと言うのは何回経験しても慣れない。
「はぁ、はぁ」
ミーヤの方も、緊張と不安があったのか今は肩で息をしていた。それに今回は耳栓をつけている暇が無かったからだろう。慣れ始めていたとは言え、耳栓無しの生の銃声は、やっぱり違う。
「ミーヤ、大丈夫か?」
「は、はい。何とか。……でも、危なかったですね。バレットさんが気づいて無かったら……」
「あぁ。俺もそう思うとぞっとするよ。やっぱり実戦は、侮れないな」
「はいっ」
彼女も、俺の言葉に頷く。
「それより、ミーヤが先にリロードしてくれ。俺は次で良い。まだほかにも居るかもしれないしな」
「分かりました」
俺はミーヤがリロードを行うのを確認してから、自分のM1911A1をリロード。チャンバーチェックを行い、万全の態勢を整える。
「よし。弾は万全だし、あいつらの耳も回収して移動しよう」
「はいっ」
その後、俺たちは奇襲してきた奴らの耳も回収し移動を開始した。
「それにしても、あの奇襲してきたゴブリンたちってどこにいたんでしょうか?」
「……恐らく比較的近くにいたんだろう。だから銃声に気づいてすぐに近づいてきたんだ。そして俺たちにやられた仲間と俺たちを見つけた。奴らにどれほどの仲間意識があるのか知らないが、仇討ちか何かで奇襲をしようとした。って事だろうな。……んっ?」
さっきの場所から離れて、まだ5分と経っていないっ。しかしまたしても前方で何か動いたっ。
「止まれミーヤ。また前方で動きがあるっ」
「えっ?!」
俺たちは足を止め、草木の影に屈んで前方の様子を伺った。目を凝らしてよく見ると、またゴブリンどもだ。しかも数は6。最初に遭遇した奴らのようにすべての個体が武装しているし、何なら2匹ほど粗雑な木製の盾らしき物を持ってやがる。
「どうします?バレットさん?」
「……追うぞ。追い付けそうなら背後から奇襲をしかける。ただし奴らが俺たちをおびき出すための餌、囮って可能性もある。十分警戒しつつ接近。少しでも周囲に怪しい動きがあったら、すぐに逃げるぞ。良いな?」
「はいっ」
それから、俺たちはゴブリンの集団を尾行し、他の待ち伏せなどが無い事を十分確認してから、連中の背後より襲い掛かり倒した。すぐに耳を回収し、その場を離れた。
が、それからまた俺たちはゴブリンの集団を見つけ、これを撃滅。たった数回の戦闘で20匹近いゴブリンを倒した事になる。何とか4回目のゴブリンどもの耳を回収したのは良いんだが……。
「ば、バレットさん」
耳を回収し終えた辺りでミーヤが不安そうな表情を浮かべていた。
「いくらなんでもこれは。『多すぎません』か?ゴブリンが」
「……あぁ。ミーヤの言葉通りだ。いくらなんでも数が多い。それに森の広さに対して、一定範囲のゴブリンの密度が濃すぎる。……明らかに尋常じゃないぞ」
俺たちが動き回った範囲なんてそんなに広くない。なのに4度の戦闘。20匹を超えるゴブリン。不意に俺の背筋を冷たい物が伝った。これは、悪寒。『未知への恐れ』だ。
「こいつは、不味い気がする」
「どうします?バレットさん。私は正直、これ以上の深追いはやめておいた方が良い気がするんですが」
ミーヤの発言は一見弱気にも思えるが、俺としては賛成だ。どんな脅威が居るかも分からないのに踏み込むのは危険だ。 俺の本能も、出来るだけ早くここを離れろと言っているし。
「一旦町に戻ろう。弾も無限じゃない。ミーヤ。残弾はどれくらいだ?」
「えっと。ポーチには15発ほど。背中のリュックにはケースに入れたままの弾が、えっと、私の22口径が20発。バレットさんの45口径が20発。それぞれ入ってます。バレットさんの方はどうですか?」
「……同じくらいだな。30発程度だ」
俺はベルトのマガジンポーチを見ながらつぶやく。まだ弾がある状態で交換した弾倉が数本と、弾をすべて装填した状態のマガジンがこれも数本ある。
今、ミーヤの背負っているリュックには予備の弾と治療道具や万が一の野営に必要な干し肉などの食糧が少量入っている。しかし弾も無限ではない。
「残弾にはまだ余裕があるが、正直森の状況がまだ分からない。どんな脅威が潜んでいるかもしれないこの森の奥に踏み込むのは、無謀過ぎる。なので一旦引き返そう」
「はいっ」
お互いの認識が一致した所で、俺たちは森を出るため、ひとまず街道方面に戻る事にした。だが、歩き出したのも束の間。
「ッ、バレットさんッ!何か近づいてきますっ!足音ですっ!」
「ッ?!何っ!?」
後ろにいたミーヤが何かに気づいたようだ。俺も足を止めて周囲を警戒しつつ聞き耳を立てる。すると……。
『ガサッ、ガササ……ッ』
確かに聞こえてきたっ。足音かっ?いやでもこれは、複数?ゴブリンか?
「ミーヤ、背中合わせで全方位を警戒するぞっ」
「は、はいっ!」
俺たちはすぐさま背中合わせの状態でそれぞれの銃、M1911A1とM34を構えたまま周囲を警戒している。こうする事で全方位からの奇襲を警戒。敵を早期に発見するために俺が考えたチームプレーだ。
「ミーヤ、音は聞こえるか?」
「はい。微かにですけど。方向とかまでは……。っ、待ってください。音が近づいてきますっ」
「何?」
まさかゴブリンたちが俺たちを見つけたのか?囲まれると不味いが……。
「周囲を警戒。油断するなミーヤ。……ゴブリンらしき影を見つけたら、躊躇せず撃て」
「は、はいっ!」
彼女が頷き、しばし俺たちは冷や汗を流しながら、周囲を警戒している。と、その時。
「ッ!私の前方っ!何か来ますっ!」
「ッ!!」
彼女の報告を聞き、俺は即座に数歩横に離れ、彼女と並ぶようにしてミーヤと同じ方向に銃口を向けた。
見ると、森の奥から何かが草木をかき分けながらこちらに近づいているのが分かる。ただし草木のせいでその『何か』の正体は分からない。何が来る?と思ったその時。
「んっ?」
不意に、俺たちに迫る『何か』の後ろから、更に何かが追ってきているのか茂みが大きく揺れているっ。
「気をつけろミーヤッ、向かってくる奴の後ろ、更に何かいるぞっ!」
「ッ?!は、はいっ!」
俺の報告に彼女は驚き、一瞬俺の方を見つめてから即座に前を向く。
そして、何かが近づいてきて、そして茂みを飛び越えてきたのだが。
「なっ!?」
「ぼ、冒険者っ!?」
俺たちが驚くのも無理はない。現れたのは30代くらいの、ボロボロな男性の冒険者らしい奴だった。俺も彼女も慌てて銃口を下げた。
「ッ!」
すると男は俺たちに気づいた様子だ。しかしその男の息は荒く、あちこちに小さい傷があった。
「冒険者かっ!?おいお前らっ!今すぐ逃げろっ!ゴブリンが追ってきてるぞっ!」
「ッ!?何っ!?」
ボロボロの男から聞かされた言葉に思わず戸惑う。男は俺たち二人の傍まで駆け寄ってくる。
「早く逃げろっ!俺のすぐ後ろまで迫ってるっ!」
男は俺に掴みかかる勢いで肩を掴むと息も絶え絶えながらまくし立てるように話す。と、その時。
『『『『『『ギギャァァァァァァッ!!!!』』』』』』
後ろから迫っていた何か、ゴブリンたちが飛び出してきたっ!だが数は8匹っ!決して多くは無いっ!
「ミーヤッ!」
「はいっ!」
まずミーヤが手にしていたM34を発砲し、走っていた先頭のゴブリンの腹を撃ちぬいたっ。更に俺も傍に居た男を押しのけ、M1911A1を撃つっ。走っている相手だっ。外れた弾もあったが、とにかく8匹全部に最低1発は当てて動きを止める事が出来たっ!
「リロードしますっ!」
「カバーするっ!」
ミーヤは6発全部を撃ち切ってしまったようだっ。まだ俺の方は、2発ほど残ってる。チラリと後ろの男の驚愕する様を見つつ、周囲を警戒する。他に敵はいない、か?
「OKですっ!」
「よしっ!リロードするっ!」
「カバーしますっ!」
数秒ほど時間を置き、リロードを終えた彼女にカバーしてもらいながら、マガジンを交換する。古いのを取り出し、新しいのを挿入しチャンバーチェック。よしっ。
さて、改めて周囲を見回すが敵影は無し。後ろでは銃声に驚いたのかさっきのおっさんが今も呆然としている。
「ミーヤ、とりあえず周囲に敵は無い。臨戦態勢は解いて警戒態勢に移ろう。それに、こっちの人にも話聞きたいしな」
「分かりましたっ」
彼女は銃を手にしたまま、しかし少し深呼吸を繰り返し気分を落ち着けている。
「さて。で?あんたは誰だ?こんなところで何をしてる?」
「ッ。そ、そうだっ!悪いが俺は先を急いで、ぐっ!」
おっさんは何かを思い出したように走り出そうとするが、すぐに呻き声をあげ倒れそうになったっ!
「あっ!おいっ!?」
咄嗟に傍に居た俺が抱き留める。改めて見るが、あちこち傷だらけじゃないかっ。それに腿の辺りから出血してるっ!
「この腿の傷で歩くのは危険だなっ。放っておくと化膿して大変な事になるぞっ」
「そ、それでも俺は急いでギルドに戻るしかないんだっ!」
鬼気迫る様子のおっさんの言い分は分かるが……。
「とにかく治療が先だっ!何か情報を持ってるのか知らないが、このまま放っておいたらヤバいし、それに傷をふさがないと出血多量で下手したら死ぬぞアンタっ!」
「ッ!!う、わ、分かったっ」
死ぬ、という文句が聞いたのだろう。男は流石に顔を青くし、俯いた。
「ミーヤ、リュックを下ろしたら周囲を警戒しててくれっ。このおっさんの傷を応急処置したら、おっさん連れて森を出て町に急いで戻るぞっ」
「はいっ!」
その後、俺はミーヤの背負っていたリュックから応急処置用の道具を取り出して、慣れないながらも何とかおっさんの腿の傷を処置。俺がおっさんに肩を貸して歩き出し、周囲をミーヤが警戒しながら続いた。
ったく、何だか嫌な予感がするなぁホントッ!
本能が告げる。何か良くない事が起こりそうだ、と。そんな本能にため息をつきたくなるのを我慢しながら、俺とミーヤはおっさんを連れて町へと戻って行った。
第12話 END
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