第13話 緊急依頼・中編

 以前世話になった衛兵の人から話をきき、街道にゴブリンが現れている事を知った俺とミーヤはゴブリンの数を減らし街道の安全を確保するため、街道から森へと侵入し、すぐさま無数のゴブリンを撃破した。しかし思った以上に多いゴブリンに一度森を離れようとした俺たちの前に傷ついた冒険者が現れた。その冒険者を助けた俺たちは、何かを急ぐその冒険者を連れて町へ戻った。


 ったく、何だってんだ一体っ。いつぞやのミーヤの時を思い出すなぁっ。 俺は腿を負傷して足取りがおぼつかないおっさんに肩を貸しながら走り、その後ろをM34を構えながら周囲を警戒しているミーヤが続く。


 あの後、俺たちはすぐに街道方面に引き返した。幸い街道へ出るまでにゴブリンの追撃は無く、何とか街道に出る事が出来た俺たち。だがおっさんが『早くギルドへ』と急かすので、そこから更に俺たちは街道を走った。


 おっさんに肩貸しながら走るのはキツイぜ全くっ!息を荒らげ、汗を流しながら俺たちは何とか城門までたどり着いたのだが。

「嬢ちゃんに坊主っ!?どうしたんだ一体っ!?」

 案の定衛兵の人に声を掛けられたっ!ホントいつぞやの時みたいだなっ!けどおっさんは早くギルドに行きたいみたいだしっ!ここは……。


「ミーヤッ、悪いがこの人連れてギルドに向かってくれ。俺も衛兵の人たちに一通り事情を説明してから行くからっ!」

「はいっ!」

 ミーヤはM34をホルスターに収めると、俺の代わりにおっさんに肩を貸す。

「す、済まない嬢ちゃん」

「いえっ。それより行きますね」


 肩を貸し歩き出すミーヤ。さて、俺は。

「すみませんお騒がせしちゃって。それより念のためお伝えしておきたい事があって」

「ん?なんだ坊主?」

「俺とミーヤ、彼女が街道のゴブリン出現の話を聞いて自主的に討伐を、って話は聞いてます?」

「あぁ。衛兵仲間に話を聞いたんだろ?聞いてるぞ。それが?」

「実は今日、彼女の街道辺りのゴブリン討伐に行ったんですが、街道から比較的近い森の中で20匹近いゴブリンを目撃、撃破してきました」

「ッ!?そんなにいたのかっ!?」

「えぇ。何とか倒したんですが、正直数の多さに気味悪くなって。それで引き返そうとか考えてたら、ゴブリンに襲われてたあの人を助けたんですよ。なんかギルドに行かなきゃってさっきからそればっかりで。それで、もしあの街道を行く人がいたら、最大限注意するように警告してください。……正直、今あのあたりは危険です」

「わ、分かった」

 衛兵の人は緊張した様子で頷く。


「それじゃあ俺もギルドに向かいますっ。またなんか分かったら伝えに来ますんでっ」

「あぁっ!頼むぞっ!」

 衛兵の人の言葉に答えるように手を上げてながら、俺はギルドに向かったミーヤの後を追った。


 幸いすぐに追いつく事が出来、俺と彼女はおっさんを連れてギルドへ。俺が肩を貸しながらギルドに入ればやっぱり目立つ。多くの冒険者たちがなんだなんだ?とこっちを見ている。


「窓口へ連れてってくれっ、どこでも良いっ」

「あいよっ」

 俺は男の人に肩を貸しながら、とりあえず人のいない窓口へ向かう。まだ依頼を終えて戻って来るには早く、依頼を受けるには遅い時間帯だからかそこまでギルドの中は混んでいない。


「すまないっ。ギルドの依頼で森にゴブリン調査に行っていたDランク冒険者のレオンだっ。大至急ギルドマスターと話したいっ。調査の結果報告をしたいっ。頼むっ!」

「わ、分かりましたっ!」

 おっさんの鬼気迫る表情に気おされたのか、受付にいた女の子は戸惑った様子のまま頷き奥へと向かった。


 そして数分もすれば、さっきの女の子が50代くらいのおっさんを連れて戻って来た。高齢だが、服の上からでも分かる鍛え抜かれた体に、腕などに見える傷跡。風体からして、いかにもこの人がギルドマスターって感じだが。


「レオンッ!戻ったかっ!」

「あぁ。何とかな。こいつらに助けられて、どうにか戻って来た。それで、報告なんだが……」

「待てっ、ここじゃ人目もある。場所を移そう」

「あぁ」

 どうやら二人には何か重要な話があるようだ。俺たちはここまでか?と思っていたのだが。

「君たちっ、すまないがレオンを連れてきてくれ。こっちだ」

 どうやらそうでもないらしい。

「分かった」


 それから俺はレオンと呼ばれた冒険者のおっさんに肩を貸しつつ、ギルドマスターに案内されギルドの奥、応接室のような場所にミーヤともども通された。適当なソファにおっさんを座らせる。ギルドマスターは、テーブルを挟んだその向かい側のソファに腰を下ろしている。さて、ここまでくれば流石に俺たちはもう良いか?


「あの、俺たちはどうします?退室、したほうが良いですか?」

「ん?」

「何か大事な話っぽいですし、俺らが居ても邪魔になるだけかもしれないんで」

「ふむ」

 俺が問いかけるとギルドマスターは少し悩んだあと。

「いや。君たちも残ってくれ。レオンを助けた時の状況なども聞いておきたい」

「そうですか。分かりました」


 残ってくれ、というのなら残ろう。別にどこかへ急ぎで行く用事も無いし。


 俺とミーヤは、レオンと呼ばれた冒険者の隣に腰を下ろした。

「さて、君たち二人と会うのは初めてだね。まずは私から改めて名乗らせてもらおう。このティレットの町のギルドマスターを務める『オックス』という物だ。よろしく頼む」

「Gランク冒険者のバレットです。こっちはパーティー仲間で同じGランクの」

「み、ミーヤと申しますっ!初めましてっ!」

 相手はギルドマスター、って事もあってかミーヤは緊張している様子だ。


「改めて、俺はDランク冒険者のレオンだ。今日はお前さん達のおかげで助かった。礼を言うぜ」

「いえ。偶然あのあたりに居ただけなので。正直、レオンさんの運がよかったとしか」

 流石に相手は年上でランクも上だ。敬語で俺は答える。

「そうか。まぁともあれ、お前さん達のおかげで助かったぜ」

「はい」


「さて、ではまずは、そうだな。バレット君。君たちの話を聞こう。君たちはなぜ、あのあたりに居たのかね?」

「え~っと。実は俺たち、衛兵の人たちに少し世話になった事がありまして。少し前にそのお礼の品を持って行ったのですが、その時街道にゴブリンが現れてるって話を聞きまして」

「成程。それで?」

「世話になったお返し、って事で俺たちで街道近くのゴブリンを討伐しようって事にしたんですよ。それで街道の、ゴブリンの足跡があった辺りから森に入って、ゴブリンを討伐してたらレオンさんとばったり。って感じです」

「そうだったのか。……ではレオン、聞かせてくれ。森で何があった」

「あぁ」


 不意に、レオンさんの表情が険しい物に代わり、ギルドマスターも真剣な表情でレオンさんの話に耳を傾けている。


「依頼で森の調査を行っていた俺は、森の中で狩りをしていたゴブリンたちを発見しその後をつけた。そして、森の奥で奴らの『巣』、いや、『集落』を見つけた」

「えっ!?」

「ッ!集落、だとっ!?」

 

 思いがけない単語にミーヤもギルマスも声を上げて驚いてるっ。いや、俺だってびっくりだ。まさかゴブリンが集落だなんて。

「集落、ってのは言い過ぎかもしれねぇが。とにかく奴らのコミュニティがあったんだよ。森の奥、窪地になってる所があって、その中に無数のゴブリンがいた」

「……その数は?」

「ぱっと見で、数百は下らないだろうな」

「ッ!?」


 よ、予想以上に大きな数字に俺は息を飲んだっ!数百のゴブリンだってっ!?そんなの、小さな村なんか余裕で蹂躙出来る数だぞっ!?いや、それ以前にっ!


「あのっ!この辺りにはそんなにゴブリンが出現するんですかっ!?」

 いくら何でも数が多すぎるっ。気になってしょうがなかったから声を荒らげて問いかけた。

「いやっ。ゴブリンは数こそ多い魔物だが、私がギルドマスターになってから、あの森でこれほどのゴブリンの群れが目撃された事は、無い。とは言え、事実だとすれば大変な事になるぞ」

「あぁ。数百ともなれば、村どころかこの町だって襲われかねないぞっ」

 ギルドマスターとレオンさんは深刻そうな表情を浮かべている。そして実際深刻だろう。町からほど近い森にこれだけの数のゴブリンがいるんだ。町や周囲の安全は確実に脅かされている、と言って良いはずだ。


「これは、このギルドの総力を挙げて取り組むべき問題だな。すまないが失礼する。他の職員らにも話さなければ」

 そう言ってギルマスは立ち上がった。が、部屋を出ていく時に不意に足を止めて俺たちの方へ振り返った。


「そうだ。先に君たちに言っておこう」

「なんでしょうか?」

「今聞いた通り、この町にはゴブリンの脅威が迫っている。そこで我々は今日にも特別な依頼である『緊急依頼』を発令するだろう。この緊急依頼は受注する人数に制限は無く、ギルドが参加を許可すればランクに関わらず誰であっても参加できる。当然報酬の額も通常より高い。ただし、緊急依頼はそれだけ危険度も高い。君たちも参加するかどうかは、自分で判断してくれたまえ。ではな」

 それだけ言うと、ギルマスは部屋を後にした。

 

 この町を守りゴブリンの群れを叩くための緊急依頼、か。その後、俺たちはレオンさんに一言言って、部屋を出た。そしてギルドの窓口に向かった。とにかく、今日討伐したゴブリンの耳を提出して報酬を貰うためだ。


 しかし、窓口の辺りではギルドの職員の人が緊急依頼の事を話していて、皆が騒然となっていた。


「繰り返しますっ!本日、ティレットの町近郊の森で数百匹に及ぶゴブリンの群れが確認されましたっ!当ギルドはこの群れの討伐を目的とした緊急依頼を出しますっ!詳しい説明は明日の朝ギルドマスターより正式に行われますが、もしこの依頼に参加しようという方は今のうちから参加申請が出来ますっ!どうかよろしくお願いしますっ!」


「数百匹のゴブリンってマジかよっ」

「あぁ。この辺りでここまでの数は異常だぞ?」

「だが相手はゴブリンだ。1匹1匹は大した事ないし、良い稼ぎになるかもしれねぇな」

「そうだなっ。おぉいっ!俺たちは参加するぞっ!」

「どうする?」

「明日正式にギルマスから話があるんだろう?それまで様子を見よう」


 職員さんの話を聞いた冒険者たちの反応は大まかに分けて3つだった。無数のゴブリンの出現に不安を覚える者。相手はゴブリンだから稼ぎ時だ、と意気込む者。まだ様子見をしている者。そんな感じに分けられる。

 

 そんな冒険者たちと声を荒らげる職員さん達を後目に俺たちは依頼完了の報告をし、報酬を貰うと一旦ギルドを出た。俺はまだ、この緊急依頼に参加するかどうか、悩んでいたからだ。


「あの、バレットさん。良いんですか?依頼の受付は、もうしてるみたいです、けど?」

 どうやら何もしなかった事に戸惑っているのかミーヤが声をかけてきた。

「そのことについては、ミーヤ。明日でも十分間に合う。それに、まずは君とじっくり話しておきたいんだ。だから宿に戻って、そこでしっかり君と話したい。良い?」

「ッ。わ、分かりました」


 話がある、と聞いたからか、彼女は少し緊張したような様子で頷いた。


「ハァ」

 その後、宿の部屋に戻った俺たち。俺は息をつきながらベッドに腰かけた。

「ふぅ」

 ミーヤの方も、流石に疲れたのだろう。俺と同じようにベッドに腰かけ息をついている。


「さて。早速だけどミーヤ。緊急依頼の事について話したい。良いか?」

「はいっ」

 俺が話題を上げれば彼女も緊張した面持ちで頷く。

「よし。じゃあまず俺の意見からだけど。俺はこの緊急依頼を受けても良いと思ってる。理由はいくつかある。一つ、俺の故郷の村がこの町からそう遠くない場所にある事。二つ、この町にも世話になった人たちがいるからそれの助けになれば、って考えてる事。それに参加すれば報酬も貰えるから。ってのが俺の理由だ。ただし、今このパーティーは俺のソロパーティーじゃない。ミーヤだっている。だから、仲間であるミーヤの意見を聞きたいんだ」

「私の、ですか?」

「あぁ。ミーヤは、どうしたい?依頼を受けるか受けないか、君の意見が聞きたい。それらを聞いたうえで判断したい」


「そう、ですか」

 ミーヤは少し俯きながらも、何かを考えこんでいる様子だった。やがて。

「バレットさん。この依頼はやっぱり、危険ですよね?」

「あぁ。ゴブリンの数は多いし、下手したらホブやシャーマンって言った上位種まで出てきそうだ。数百匹の群れとなると、まとめてるのも上位種の可能性があるし、そいつらとやりあう可能性もあると思う」

「じゃあ、そんな危険な依頼だと分かっていて、それを承知の上で行くんですね?」

「……さっきも言った通り、故郷の村がそう遠くない場所にあるんだ。下手をすれば家族がゴブリンの被害にあう恐れもある。それを阻止できる可能性があるのなら、俺は戦う」


 ゴブリンの脅威を知っていて、村に危険が迫る可能性を知っていて、もうそこまで来たら見て見ぬふりなんて出来ない。家族のために戦うまでだ。

「それに、俺自身もうこの問題に関わってる気がするんだ。あの、レオンって言う冒険者を助けた時からね。だったら、関わった者として最善を尽くしたい。出来る事をしたい」

「それが、バレットさんの意思なんですね?」

「あぁ」


 彼女の言葉に俺が頷くと、しばし沈黙が流れた。が、それを破ったのはミーヤの微笑みだった。

「ふふっ」

「ん?ミーヤ?」

 唐突な笑みに俺は戸惑った。彼女はなんで笑ってるんだ?と。


「俺、何か変な事言ったかな?」

「あっ、いえっ、違うんですっ。変とかじゃなくてっ!」

 俺が首を傾げていると、慌てた様子で訂正するミーヤ。


「ただ、バレットさんはやっぱり優しいなぁって」

「え?俺が?なんだって急に?」

「だって、関わったから、って言うだけで危険な戦闘に参加しようなんて、普通の人なら出来ませんよ、きっと」

「そうかな?」

「えぇ。そうですよ」


 彼女の笑みを浮かべながらの指摘に俺は小首をかしげた。俺としては『もう既に見たり聞いたりして他人事じゃないんだから、だったらやれることをやろう』、という程度の認識なのだが?


「だからこそ、そんな風に誰かのために行動できる優しさと、銃を扱い戦える強さを持つバレットさんに付いて行こうって、私は思えたんです」

「えっ!?」


 ミーヤの微笑みと共に告げられた言葉に、一瞬俺はドキリとした。そして彼女の微笑みが、とても眩しいもののように見えた気がした。っていかんいかんっ!今はそんなことを考えてる場合じゃないなっ!うんっ!


「そ、そっかっ!ミーヤの言葉はありがたいっ!そ、それで、ミーヤはどうするんだっ!?」

 うぅ、まだ顔が熱いが、とにかく話題を変えないとっ!

「私は。……私も戦います」

「ッ」

 彼女の言葉に俺の浮ついていた空気は消え去る。

「良いのか?危険度は、いつもの依頼とは段違いだぞ?」

「はい。それでも構いません」

 そう言うと、ミーヤはホルスターからM34を取り出し、それに視線を落とした。


「以前の私なら、戦う事なんて出来ませんでした。でも、今の私にはバレットさんがくれたこのM34と、これを使って戦う技術がある。だから、戦いますっ。あの日の私のように、誰かが家族も、大切な場所も失って悲しむ姿を見たくないからっ」

「……」

 俺は静かに彼女の言葉を聞いていた。そして、彼女の顔に浮かんだ決意の色は確かな物だった。


「危険だぞ?」

「覚悟の上です」

「……俺一人で行く、って事も出来るけど?」

「いいえ。私も行きます。……バレットさんと一緒に」


 少し、脅しと言う訳じゃないが言葉を掛けても彼女は怯んだ様子など無い。ここまで言われちゃ、しょうがないか。


「分かった。なら明日の朝、一緒にギルドに行って参加を申請しよう。それで良いな?」

「はいっ!」

 俺の言葉に彼女は力強く頷いた。


 こうして俺たちは緊急依頼に参加する事になった。



 翌日。俺とミーヤは朝、ギルドに向かった。そしてたどり着くなり多くの冒険者たちが集まっている事に驚いた。どうやら皆、ギルマスの話を聞きに来たようだ。ギルド内の人口密度は何時にもまして濃い。何とか中に入った俺たちは、とりあえず壁際に立ってギルドマスターの話が始まるのを待っていた。


 しばらくすると……。

「みんなっ!今日はよく集まってくれたっ!」

 ギルマスが現れたみたいで話が始まったが、こっからじゃガチムチのおっさんらが邪魔で見えん。まぁ声が聞こえるから良いか。

「早速だが本題に入ろうっ!昨日、このティレットの町郊外の森を調査していた冒険者が数百匹にも及ぶ規模のゴブリンの群れを発見したっ!奴らは森の奥にある窪地を拠点としているようで、今話した通りそこには無数のゴブリンが存在しているっ。しかしっ!拠点が分かっているのなら包囲する事は可能だっ!そこで我々はこのゴブリンの巣を、冒険者並びにティレットの町の衛兵隊より参加してもらう衛兵諸君によって包囲っ!そこから殲滅戦に持ち込みゴブリンどもを撃滅する計画を立てたっ!」


 話を聞いている中で語られた作戦。個人的には悪くないと思いながら、周りの人たちと同様に作戦の続きを聞く。


「なおっ、包囲網においては最前線をランクの高いCやDランク冒険者に担当してもらい、その後ろの第2陣をE、F、Gランクの冒険者に担当してもらうっ!今回の依頼には参加するだけで小銀貨1枚を一人ずつ確定で払う。更に討伐したゴブリンの数によって報酬も上乗せする予定だっ!」

「そのゴブリン1匹で、一体いくら貰えるんだいっ!」


 その時、誰かが声を上げた。まぁ当然か、明確な数字は知りたいわな。

「今回は、ゴブリン1匹に付き小銅貨5枚を想定しているっ!更にシャーマンやホブの討伐を行った者には小銀貨2枚だっ!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」

 ギルマスの提示した金額に冒険者たちは歓声を上げた。1匹で銅貨5枚ってのは、通常のゴブリン1匹の2倍ほどになる。更に敵の数も多いから、5匹も狩れば小銅貨25枚。大銅貨2枚と少し。ゴブリンを5匹討伐したんじゃ、普通なら大銅貨1枚が関の山だ。それが倍以上となれば、皆やる気も出るだろう。


「それではこの緊急依頼に参加する意思のある者は窓口に並んでくれっ!手続きとランクに応じた作戦の説明を行うっ!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」


 その後、俺たちも参加するために窓口へと続く長蛇の列に並んだ。どうやらギルドに来た冒険者たちの殆どは今回の緊急依頼に参加するようだ。皆出ていく様子もなく窓口へ続く列に並んでいる。



 結局、長時間待たされながらも俺たちは手続きを終えてギルドを後にした。


 窓口で説明されたが、Gランクの俺とミーヤの持ち場は最後尾、第2陣の一番後ろ。もはや後詰の役割くらいしか与えられなかった。言わば予備軍。野球で言えば補欠だ。何かあれば予備の戦力として駆り出される。何もなければそれまでだ。やる事と言えば、万が一にも第1陣を抜いて逃走するゴブリンが自分たちの所に来たら倒せ、くらいだ。


 作戦の決行は明日。各自それまで英気を養い武器や道具の手入れ、治療に必要な物資を用意しておけ、との事だった。なので俺たちはそう言った必要になりそうなものの買い物を済ませてから宿に戻った。明日の事もあって商店街は冒険者でごった返していた。そんな中で買い物をしていたら時間も結構経っていたので、宿の食堂で軽く夕食を取ってから部屋に上がる。


「明日は、いよいよですね」

「あぁ」

 ベッドに腰かけるミーヤは緊張した面持ちだ。まぁ、かく言う俺もそうだ。こんな大きな戦闘は初めてだ。緊張するな、というのが無理な話だ。でもここまで来たらやるしかない。


「とにかくミーヤ、明日に向けてもう休もう。少しでも体力を蓄えておかないとな」

「はいっ」


 という事で俺たちはすぐに眠りについた。が……。

「バレット、さん」

「ん?」

 流石の緊張でも俺もすぐには眠れず、ゴロゴロしていた。すると不意に声が聞こえた。ミーヤのだ。そちらに視線を向けて見ると彼女は不安そうな顔で俺を見つめていた。どうやら眠れないのは彼女も同じようだ。


「……明日、私たちは勝てますよね?」

「あぁ。大丈夫さ」

 不安でいっぱいいっぱいにも見える彼女を安心させてくて、確証もない事を俺は口にした。

「そうですよね。大丈夫ですよね。じゃあ、おやすみなさい」


 ミーヤは取り繕ったような笑みを浮かべると俺の方に背を向けた。……その笑みが、怯えを隠すための物なのは分かる。彼女だって俺の言った通り大丈夫だ、とは思ってないだろう。 それでも俺は……。


 必ず、俺がミーヤを守ろう。 そんな決意を固めながら、俺も眠りについた。



 翌日。朝。俺たちは朝食を済ませて宿を出た。ギルドで他の冒険者たちと合流してから、更に森へと向かった。目的地には、3つのグループに分かれた冒険者たちがそれぞれのルートを通って個別に接近。包囲が出来次第攻撃を開始する手はずになっている。


 俺とミーヤはそんなグループの一つの後方に配置された。

「よぉしっ!それではこれより第1グループは移動を開始するっ!各自、ゴブリンが現れた場合の対処はそれぞれで行うようにっ!では出発っ!」


 リーダー役の冒険者が叫ぶと、前の奴らから順に歩き出した。それを確認すると、俺はM1911A1を取り出した。マガジンを抜いて弾数をチェック。マガジンを戻してスライドを引き、初弾を装填。チャンバーチェックも行い、そのまま両手でM1911A1のグリップを握り、深呼吸を1回挟んだ。


 そんな俺の隣で、ミーヤもM34のシリンダーを確認し、それを戻すと両手でM34を構えながら俺を見上げる。


「いよいよだ。行くぞ、ミーヤ」

「はいっ!」


 こうして、俺たちの初めての大仕事、緊急依頼が始まった。


     第13話 END

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