第14話 緊急依頼・後編
森の中に現れた数百に及ぶゴブリンの群れ。それを討伐するためギルドは緊急依頼を出し、俺とミーヤをはじめとした大勢の冒険者がこれに参加する事に。俺たちはランクが低い事もあって、ゴブリンの群れの拠点となっている窪地を包囲する冒険者たちの、最後列に配置された。
今、俺たちは3つのチームに分かれてゴブリンどもの巣を目指している。しかし時折、前方からゴブリンらしきものの短い悲鳴が小さく聞こえてくる。
「また、ですね。ゴブリンの悲鳴ですよね?」
「あぁ。多分な。さっき前衛に弓を使う冒険者を集めているのを見たから、恐らく発見したゴブリンを騒がれる前に弓の斉射で倒してるんだろう」
「成程」
と、話していると。
「おっ?やっぱり坊主と嬢ちゃんじゃないかっ」
不意に小声で誰かに話しかけられた。俺とミーヤが振り返ると、そこに居たのは見覚えのある笑みを浮かべた者たち、あの詰所の衛兵たちだ。
「あっ、皆さんっ」
ミーヤも小声で驚いている。
「アンタらも参加してたのか?」
「まぁな。つっても最後尾の予備軍だが」
俺が問いかけると、一人が小さく笑みを浮かべながら答えた。
「それにしても、まさかゴブリンの群れ、それも数百匹とはねぇ。生まれてこの方聞いた事がねぇぞ」
その時、衛兵の一人が気だるげに息を吐きながらつぶやいていた。しかし生まれてこの方って事はもしかして。
「なぁ、アンタって生まれも育ちもあのティレットの町なのか?」
「ん?あぁそうだぞ。俺はひいじいちゃんの代からあの町で生まれ育ったわけよ」
「そっか。けどその様子じゃあ、過去にこんな事があったなんて話は、一度も聞いた事無いのか?」
「あぁ。ひいじいちゃんは流石に会った事はねぇが、じいちゃんも親父も、この辺りでこんな数のゴブリンが出た、なんて話は一度もしてなかったぞ」
「そうか」
話を聞き、俺は考えてしまう。今までに無かった事が起きてるって事は、何かしらの原因や理由があるのか?ゴブリンどもが、こんなに大量発生した理由が。
などと考えていると。
「おいっ、もうすぐ窪地に着くっ!全員戦闘態勢を取っておけよっ!」
前からやってきた冒険者が後列の俺たちに声を掛けた。その言葉を聞き、皆緊張した様子で頷いている。……考え事は後だな。いよいよ作戦開始だ。
「ミーヤ」
「ッ、はい、何でしょう?」
「俺の傍を離れるなよ?」
俺は彼女にそう言うと、もう一度チャンバーチェックを行い、更にサイレンサーがちゃんとしているかも確認する。そして改めて、彼女と向き合う。
「俺が、必ずお前を守るから」
「ッ、はいっ」
俺の言葉に彼女は一瞬目を見開き顔を赤くしたが、すぐさま嬉しそうに笑みを浮かべながら頷いた。
それからしばらくすれば、前方で戦闘の音が聞こえてきた。剣戟、雄叫び、悲鳴。森中に響き渡るそれらからも戦闘が苛烈な事は分かった。俺の周囲では、同じくGランクの冒険者たちが緊張した様子でそれぞれの武器を構えている。
俺たちは後詰の部隊だ。もし第1陣の冒険者たちが強ければ出番は無いだろう。とはいえ数はゴブリンの方が圧倒的に多い。いくら1匹の戦闘力が低いとはいえ、数が多いとなると……。
「ッ!後列っ!気をつけろっ!数匹『抜けた』ぞっ!」
前方から聞こえてくる叫びっ。すると前方、冒険者たちの間を縫うようにゴブリンが数匹、こちらに向かってくる。
「く、来るぞっ!」
緊張した様子の、誰かの声が聞こえる。恐らく位置的にGランク冒険者の物だろう。だが、そんな中で俺は息を吐き出しながら冷静に狙いを定め、引き金を引いた。
サイレンサーによって抑えられているとはいえ、100デシベル以上はある銃声に周りの冒険者たちはビクッと驚いていた。
だが、今は気にしてる時じゃない。向かってくるゴブリンは全部で5匹。今1匹撃ち殺したから、後4匹っ!
そこから更に引き金を引き、残りの4匹を次々と撃ち殺す。だが結構弾を使っちまった。即座に俺はマガジンキャッチを押してマガジンを抜く。
「リロードするっ」
「カバーしますっ!」
ミーヤが前を警戒してくれている間に新しいマガジンを装填する。そして前方を確認するが、他には来てないか。とりあえず一安心だが。
「ん?」
不意に視線を感じて横を向いた。見ると、傍に居た衛兵さん等が、鳩が豆鉄砲を食らった時のようにぽか~んとした表情でこちらを見つめていた。
「どうかしました?」
「はっ!?あ、い、いやそのなんだっ!急にデッカイ音出すからびっくりしちまってよっ!なぁっ!?」
「お、おぉっ」
俺が声を掛けると、一人の人が我に返って答え、傍に居た同僚に同意を求めている。やっぱり銃に驚いてたのか。と、更に視線を感じて周囲を見回すが、見ると衛兵の人ら以外の冒険者たちも驚いた様子で俺たちの方を見つめている。
あんまり見られるのは好きじゃないし、どうしたもんか、と思っていると……。
「おいっ!ゴブリンどもの数が多くて予想以上に手こずってるっ!何人か前線に来いっ!」
前方から聞こえる切羽詰まった様子の声に、皆そちらを向く。しかし、大半のGランク冒険者たちは戸惑った様子で前に行こうとはしない。……仕方ないか。
俺はポーチの中のマガジンを確認する。今日は弾を多めに持ってきている。それにミーヤが背負うリュックの中にも、既に弾を込めたマガジンやミーヤのM34の22LR弾も入ってる。まだまだいけるな。
「行くぞミーヤ」
「はい……っ!」
俺の言葉に彼女は、少し緊張した様子で頷く。それを確認すると、俺が先頭となり歩き始める。M1911A1を構えながら前に進んでいく。
「あっ、おい坊主っ!嬢ちゃんっ!」
後ろから聞こえる衛兵の人の声。しかし俺たちは半ばそれを無視するような形で前線へと向かう。
最前線が近づいてくれば来るほど、怒声や剣戟の音が大きくなってくる。そして林を抜けた先に広がっていたのは、窪地で繰り広げられる乱戦の様子だった。
なだらかな坂を下った先にある、半径100メートルはあるかという巨大な窪地で冒険者とゴブリンが入り乱れて戦っていた。それを俺とミーヤは、今は窪地の上の淵から見下ろしていた形になっている。
「ッ、ゴブリンが、あんなに……っ!」
数百に及ぶゴブリンを実際目の当たりにしたからか、ミーヤは驚き息を飲んでいる。無理もない。今までゴブリンを何十匹と倒してきたとは言え、同時に相手にしてきたのは精々6から7匹程度。この数は、正直俺でも怖い。
と、その時視界に飛び込んできたのは、普通のゴブリンとは異なり成人男性を上回る巨体。力士やプロレスラーを思わせる筋肉質の異形、『ホブゴブリン』の姿が見えた。その数、4体。
その4体のホブゴブリンを冒険者数人のチーム、計4つのチームがそれぞれ囲い戦っていた。……だが、状況は思わしくないな。一進一退の攻防が続いている上、時折周囲にいるゴブリンが冒険者たちを邪魔し、ホブに決定的な一撃を与えられないでいる。
「膠着状態だな。どうにかしないと」
「どうにかって、どうするんですかっ?」
緊張した面持ちで問いかけてくるミーヤを後目に、俺は状況を見る。やはり一番厄介なのはホブだ。しかも相手をしているのは恐らくDランク前後の冒険者パーティーか?……ならもし彼らがホブから解放されれば、或いは……。よしっ。
「ミーヤ、これから俺たちでホブを仕留めに行く」
「えっ!?ホブゴブリンをですかっ!?」
「あぁ。ホブを倒せれば、中堅どころの冒険者たちの手が空く。最悪、1匹でもホブを倒せれば戦局を変化させることが出来るかもしれない」
そう説明し、彼女の方を向く。ミーヤは少し、迷っている様子だった。……ここは、彼女は待たせておいて俺一人で行くべきか。そう考え始めた時。
「ッ」
彼女は俺の視線に気づいてハッとなり、顔を被り振ってから両手で頬を叩いた。なぜっ?と思っていると。
「行きますっ!行きましょうバレットさんっ!」
「……良いのか?」
危険だぞ?という言葉を俺は飲み込んだ。彼女は決意の表情を浮かべていたからだ。
「はいっ!一緒に行きますっ!私だって、戦えるんですからっ!」
そう言って彼女はM34を両手で構える。それが彼女の意思なら、尊重し、そして俺が守るだけだな。俺はマガジンチェック、続いてチャンバーチェックを行い、弾を確認。よし。
「よしっ。なら行くぞ。ミーヤは俺のフォローを頼む。リロード時のカバーと左右の警戒。それと知っての通り銃は貫通力が高い。咄嗟の判断は難しいと思うが、ゴブリンの背後に冒険者が居た場合、非常時以外は極力撃たない方が良い。良いな?」
「はいっ!」
「よしっ!じゃあ行くぞっ!」
用意は出来てる。俺が坂を下り、それにミーヤが続いてくる。下り坂を駆け下り、すぐさま近くにあった岩の影に飛び込んで様子を伺う。 ホブはデカく、背が高い分位置が分かりやすい。そして1番先に倒すべきホブは決めたっ。
「ミーヤ、ここから一番近い奴を優先的にやる。奴の傍に近づくまでの間、フォロー頼むぞ?」
「はいっ、任せてくださいっ!」
「よしっ!」
ミーヤが頷くのを確認すると、俺は岩陰から飛び出した。向かうは1匹目のホブの元だ。
だが、ゴブリンと冒険者たちの乱戦の中を行くのは難しい。そして……。
『ギギャッ!』
『ギャギャァッ!』
俺たちに気づいたゴブリンがこちらに向かってきた。
「っ!来ますっ!」
「あぁっ!見えてるっ!」
ミーヤの報告に答えながら、俺はサイレンサー付きM1911A1を構える。だがすぐには撃たなかった。それを見て、調子づいたのかゴブリンが2匹、笑みを浮かべながら突進してくる。
だが、真っすぐ向かってくるのなら当てやすい。更にゴブリンたちと俺たちじゃ、身長差がある。つまり奴らが近づいてくれば来るほど、銃口は自然と下に下がり、弾も上から下へ打ち下ろす形となる。つまり、貫通を気にしなくて良くなる。
「そこだっ!」
そしてある程度近づいてくれれば背後への貫通を気にしなくて良くなる。引き金を引き、銃声と共に1発目が放たれた。
「うぉっ!?なんだっ!?」
「何の音だっ!?」
突然の銃声に、傍に居た冒険者たちが驚くが今は気にしてる暇はない。放たれた弾は先頭を歩いていたゴブリンに命中。
『ギャッ!?』
そいつは呻きながらその場に倒れこんだ。
『ギャギャァッ!?』
更に後ろを走っていた2匹目が1匹目の骸をかわし切れずに躓き、転んだ。それが大きな隙となる。
『ギ、ギィッ!』
盛大にスッ転んだ状況から起き上がったゴブリンだが、遅い。
『ギッ!?』
歩み寄っていた俺に気づいてゴブリンが俺を見上げた時には遅かった。俺を見上げていたその醜い顔に45ACP弾を1発ぶち込んだ。
力なく崩れ落ちるゴブリン。それを確認し、素早く周囲に視線を向ける。周囲では乱戦が、って、ん?
何やら傍に居た冒険者たちがこっちを戸惑ったままの表情で見つめている。更にゴブリンたちも銃声に驚いたのか、動きを止めこちらを警戒し威嚇するようにうなり声をあげているだけだ。
ったくっ!
「おいっ!今は戦闘中だろっ!気を抜くなよっ!」
俺は周囲を警戒しM1911A1を構えながら、冒険者たちに怒声を飛ばした。それを聞いた冒険者たちはハッとなり戦闘を開始するが、それはゴブリンたちも同じだ。
『『『ギギィィッ!!』』』
我に返ったのか3匹が俺の方に向かって突進してきた。だが奴らの後ろに冒険者はいない。なら大丈夫だ。焦らず、狙いを定めて引き金を引いた。2匹は胴体に銃弾を食らって倒れた。しかし3匹目に放った3発目は僅かに頭の辺りを掠めて後ろの地面に命中した。だがまだ距離はあるっ!もう1発ぶち込むっ、と考えていた時。
「そこっ!」
それよりも早くそばに居たミーヤの射撃が3匹目を射抜いた。
『ギィァァァッ!!』
22LR弾が胴体を撃ちぬき、痛みで悶えながら前のめりに倒れるゴブリン。
「これでっ!」
そこに更に追い打ちの1発を叩き込み、とどめを刺すミーヤ。
「よしっ!クリアですバレットさんっ!」
「あぁっ!進むぞっ!」
向かってくるゴブリンは倒したっ!だったら、進むだけだっ!狙うはホブゴブリンだけだっ!雑魚に構ってる暇はないっ!
そこから更にホブに向かって走り抜ける。だが道中で、無数のゴブリンを相手に苦戦している冒険者を見つけてしまう。
『『『ギギャァァァッ!!』』』
「きゃぁっ!」
その時、女性冒険者の1人がゴブリン数匹に押し倒され、そのまま抑え込まれてしまったっ。
「あっ!?クソッ!こいつらっ!」
それに気づいた仲間の冒険者が助けに行こうとするが、他のゴブリンがそれを阻む。
『ギャギャギャッ!』
「ひっ!?た、助けてっ!」
2匹が抑え込み、3匹目が粗雑な石斧を振り上げるっ。このままじゃ助からないっ!
『銃を持つ俺たちが居なければ』、なぁっ!
「当たれっ!!」
足を止め、斧を振り上げているゴブリンに狙いを定め、M1911A1の引き金を引く。銃声と共に放たれた銃弾は、寸分たがわずゴブリンの頭部を撃ちぬき、正面から頭を撃ちぬかれたゴブリンは、そのまま後ろに倒れこんだ。
『『ギギッ!?』』
それに驚いて、対応に困っている様子の残り2匹。冒険者を抑え込んでいるが、それはつまり自分たちも動けないという事っ。動けば押さえつけている冒険者に反撃されるからだっ。そして、動けないのなら、俺たちのいい的だっ!
「ミーヤっ!左の奴をッ!俺は右をっ!」
「はいっ!」
俺たち2人とも、足を止めた状態で射撃。2人の放った銃弾はゴブリン2匹の胴体を撃ちぬいた。撃たれたゴブリンどもは、手を離し痛みで悶え苦しんでいる。
「このぉっ!」
そして拘束が緩んだその隙をついて、抑え込まれていた女性冒険者が手にしていた剣で続けざまにゴブリンの頭や喉を斬りつけたっ。
だが呼吸は荒く、起き上がるまで数秒、時間が掛かりそうだっ。
「ミーヤッ!彼女のフォローをするぞっ!」
「はいっ!」
俺たちはすぐに彼女の傍に駆け寄り、そして近づいてくるゴブリンをそれぞれの銃で次々と撃ち殺す。
これで、7発目ッ!弾が無くなりホールドオープン状態となるM1911。
「カバー頼むっ!リロードするッ!」
「はいっ!」
ミーヤに周囲を警戒してもらいながら、マガジンキャッチのボタンを押しつつ手首の動きで空になったマガジンを横に捨て、新しいマガジンを装填し、スライドストップを押す。
カシュッ、という音と共にスライドが前進する。その間に、どうやらミーヤも弾を撃ち切ったようだ。
「リロードしますっ!」
「カバーするっ!」
彼女もM34のシリンダーを、その下に添えた左手の指先で横に押し出し、持ち上げて左手親指でイジェクターロッドを押し込み、落下した空薬莢が地面に落ちてカラカラと音を立てている。ミーヤはそこからM34を右手に持ち替え、左手でシリンダーにポーチから1発ずつ弾を込めていく。
その様子を見守りつつ、俺は周囲を警戒しながら倒れていた女性冒険者に声を掛けた。
「おいっ!アンタ大丈夫かっ!?」
「え、えぇ、何とかっ」
彼女は少し驚いた様子ながらも立ち上がり、剣を構えている。恐らく銃に驚いてるんだろうが、フォローしたり説明してる暇はない。
「おい大丈夫かっ!?」
そこに倒れていた彼女の仲間と思われる冒険者たちが駆け寄ってくる。
「私は大丈夫。この2人に助けてもらったから」
「そ、そうか。良かったっ」
仲間の生存に安堵した様子だが、しかしリーダー格らしい男はすぐに頭を被り振った。そのまま手にしていた剣を構えつつ、周囲を警戒している。
「すまない、仲間が世話になった。ありがとう」
「気にしないでくれ。こういう時は助け合いだ」
彼の言葉に短く答えつつ、周囲とマガジンポーチの中を片手で探る。……結構弾の消費が激しいな。仕方ない。
「なぁアンタら、助けた借りって訳じゃないが、数秒で良い。周囲をカバーしてくれないか?」
「なに?まぁ、構わないが」
「助かる。ミーヤッ」
「ッ!はいっ!」
リーダーの男は少し困惑した様子ながらも頷いた。俺はすぐに周囲を警戒していたミーヤを呼び寄せる。
「マガジンの補給がしたいっ、頼む」
「分かりましたっ!」
彼女は頷くと俺に背を向けた。俺はすぐに彼女の背負っていたリュックの口を開けると、中に手を突っ込み中にあったマガジン数本を取り出すとポーチに突っ込んだ。
「俺のマガジン補給は終わったっ。ミーヤ、お前の方は?」
「まだ大丈夫ですっ。バレットさん程撃ってませんからっ」
「分かった」
周囲の状況もある。手短に話すと俺は傍に居た冒険者のリーダーの方へと視線を向けた。
「OKだ。助かった」
「そ、そうか。これで借りが返せたのなら何よりだが……」
リーダーはそう言いつつ周囲を見回す。リーダーらしい剣と盾装備の冒険者は、表情を歪めた。
「クソっ、あっちもこっちも乱戦だっ!」
「どうするよリーダーッ!この状況でよっ!」
「うっ、うぅっ」
仲間たちの言葉に、リーダーの冒険者は戸惑っていた様子だ。本来なら、俺が何かを言ってやる必要もないんだが……。
「アンタたちがどうするか、俺が口出しする事じゃないが、動けないのならここでゴブリンどもを倒しまくればいい。俺たちがこの状況をどうにかする」
「ッ。ど、どうにかするって本気で言ってるのかっ!?」
俺たちの言葉に息を飲み声を荒らげるリーダーの男。
「あぁ。手短に説明すると、俺たちでホブを相手にしている冒険者を助けて、ホブを1匹でも多く速攻で倒す。そうすれば中堅どころの冒険者たちが自由に動けるはずだ」
「速攻で倒すって、そんな簡単な事じゃっ!」
続けて声を荒らげるリーダーの男。しかしそれを俺のM1911A1から放たれた銃声が遮った。2連射で放たれた銃弾がこちらに向かってきたゴブリン2匹を貫く。
「簡単じゃなかったとしてもっ!今この状況を打開するには、それが1番早いっ!何せ数は向こうの方が多いんだっ!純粋な数の削り合いになったら、どっちが負けるか分からないぞっ!」
「そ、それはっ」
「とにかく俺たちは行くっ!アンタたちは、自分たちの好きなように動けっ!ミーヤっ!」
「はいっ!」
俺とミーヤは再び駆け出した。
「あっ!おいっ!」
後ろから聞こえる声を無視し、とにかく乱戦の中央付近で戦うホブ目がけて。
そこから更に襲い掛かって来るゴブリンを射殺しながらホブへと近づいていく。そして接近していくと、ホブと相対している冒険者たちの声が聞こえてきた。
「このっ!邪魔っ!」
「クソっ!周りの雑魚がうっとおしいっ!」
やっぱり上から見ていた通り、周囲のゴブリンが邪魔でホブに対して攻め切れていない様子だ。彼らとホブまであと20メートルまで近づいた。
『グォォォォォォォッ!!!』
「くっ!!」
唸りを上げ、手にしたこん棒を振るうホブとそれを避けつつ戦う冒険者。既にホブはいくつか攻撃を受けて血を流しているが、倒れる様子は無いっ!致命傷だけは避けてるのかっ!だがっ!
俺は足を止め、息を整えながら狙いを定める。
「ミーヤッ!前方のホブ、狙うぞっ!」
「はいっ!タイミングは任せますっ!」
ミーヤも足を止め、両手でM34を構えながら狙いを定めている。そしてホブが大きく右腕を振り上げた段階でっ!
「ってぇっ!」
俺が声を上げた瞬間、俺たち2人は引き金を引いた。放たれた銃弾は、ホブの右腕と、喉を貫いたっ!クソっ!頭狙ったつもりが若干外れて喉に当たったっ!
『ッ!?!?』
だがそれでも、突然の攻撃のホブは戸惑い動きを止め、痛みで苦悶の表情を浮かべているっ!
「ッ!今だぁっ!」
それを見逃す冒険者ではなかった。ホブと戦っていた1人が大声で叫んだ。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
大きな斧、戦斧を持ったガタイの良い男が動きの鈍ったホブへと肉薄し、その膝に戦斧の一撃を叩き込んだっ!
『グォォッ!?』
戦斧の一撃は、見事ホブの膝を骨ごと粉砕した。片足が砕けた事で、ホブはバランスを維持する事が出来ず、前のめりに倒れこんだ。それでも何とか無事だった左手で手をついたようだが……。
「終わりだぁっ!!」
弱点である頭部が下がった所を、リーダーらしい長剣を持った冒険者の刺突が貫いた。刺突は眼球を貫き、そして恐らく脳を貫き、やがてホブは力なくその場に音を立てながら倒れこんだ。
「よ、よしっ!これでホブを1匹……」
「ッ!?ニック危ないっ!!」
ホブの頭を貫いたリーダーらしき男は笑みを浮かべていたが、討伐直後で油断していたのか、背後から近づくゴブリンに気づいていなかったっ!
「ッ!?」
『ギィヤァァァァァァッ!!』
石斧を持ったゴブリンがニックと呼ばれたリーダー格の冒険者に向かって突進する。反応が遅れたニックとやらは対応できそうに無いが……。
ゴブリン目がけて俺のM1911A1が火を噴いたっ。放たれた銃弾がゴブリンの胴体を撃ちぬき、更にバランスを崩したゴブリンが前のめりにこけて倒れた。
「ッ!?」
ニックとその仲間が、驚愕に満ちた表情でこちらを向く。俺はそれを無視し、ニックの傍で未だに呻き声をあげるゴブリンにトドメの1発を叩き込む。
「カバー頼むっ!」
「はいっ!」
ゴブリンの頭を撃ちぬくと、すぐにマガジンを交換する。まだ弾のあるマガジンをポーチに戻し、新しいのを装填してチャンバーチェック。残弾8発。弾を確認した俺はすぐにミーヤの肩を叩いて合図をする。
「OKだっ」
「はいっ!私もリロードしますっ!」
「あぁ、カバーするっ」
彼女も使い切った弾を数発、指先で引き抜き新しいのを装填していく姿を確認しつつ周囲を警戒していたのだが……。なぜか今まさに加勢した冒険者連中が驚いた様子でこっちを見ているっ。やっぱり銃のインパクトが大きすぎるかっ。
俺はこんな状況だというのに驚き手を止めている彼らに舌打ちの一つもしたくなったが、それを堪えて声を上げた。
「おいっ!ぼさっとするなよっ!今は戦闘中だろっ!?」
俺は叫びながら、突進してきたゴブリンを1発で撃ちぬいて倒す。
「ッ!そ、そうだったっ!皆っ!ここからだっ!ゴブリンたちを狩るぞっ!」
「「「おぉっ!!」」」
リーダー格の男の言葉に周囲の仲間たちが呼応するように叫び、彼らはすぐさまゴブリンの掃討を始めた。 流石にホブを相手するだけの冒険者パーティーだ。ゴブリン程度なら瞬く間に倒していく。
よし、これでホブを相手にしていた冒険者パーティーが一つフリーになった。ここからもう一つでもパーティーをフリーに出来れば……っ!
そう、考えていた時だった。
『グォォォォォッ!!!』
「くっ!?おいッ!ホブが包囲網を抜けたぞっ!気をつけろっ!!」
「っ!?」
不意に聞こえてきた誰かの叫びに気づいて、反射的にそちらを向いた。見ると、2匹目のホブが戦っていた冒険者たちには脇目も振らず、俺とミーヤの方へと向かってきてるじゃないかっ!?なぜっ!?まさか銃の危険性に気づいたっ!?
『グォォォォォォっ!!』
「バレットさんっ!ホブが来ますっ!
ミーヤの声が聞こえ、俺の意識を引き戻したっ。確かに考えてる場合じゃないかっ!
「ミーヤは周辺警戒を頼むっ!俺がやるっ!」
「はいっ!」
ミーヤに周囲への警戒を任せ、俺は向かってくるホブに狙いを定めた。流石に図体がデカいだけあって、その分ヒットボックスもゴブリンより大きいっ!そのデカい胸に、ぶち込んでやるよっ!
狙いを定め、心臓に当たれば御の字だと考え、僅かにホブの左胸を狙い、引き金を引いた。だが、何と奴は即座に胸の前でその丸太みたいに太い腕を交差させて銃弾を防いだっ!?
「ッ!?防ぎやがったっ!」
そこから2発ぶち込むが、2発とも腕に防がれ致命傷にはなってないっ!あの肉厚の腕を撃ちぬくなら、対物ライフルクラスが要りそうだが、今は無いっ!俺のハンドガンチートで似たような威力の銃は取り寄せられるが、時間が無いっ!どうするっ!?
俺は素早くホブの体の各部に目を走らせ、気づいたっ!これならいけるかっ!?いや、やるしかないっ!あの巨体で接近戦に持ち込まれたら負けるっ!
「ミーヤッ!」
動かなきゃ死ぬッ!俺はすぐにミーヤに声を掛けたっ!
「は、はいっ!」
「俺の代わりに奴の胴体を狙って弾を撃ちこんでくれっ!奴の腕をあのまま釘付けにするんだっ!」
「りょ、了解っ!」
ミーヤは、指示の意図までは分かっていないようだったが、それでもM34をホブに向け、銃弾を放った。案の定ホブはそれを両腕を盾にして防いだ。その時、腕の合間から僅かにホブの顔が見えた。
その顔は、醜い笑みを浮かべているように見えた気がした。気がした程度だから、本当かは分からない。だがもし奴が笑っているのなら、その笑みに俺はこの言葉を返すだけだ。
「足元がお留守だぜっ!」
俺もまた、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべながら引き金を引いた。狙うは、足元。正確には奴のぶっとい太ももだっ!
引き金を引き、放たれた銃弾が空を裂いて飛ぶ。そして、ホブの右太腿に命中したっ。
『ッ!?』
次の瞬間、ホブは表情を歪めながらバランスを崩し、大きく前のめりにつんのめりながら倒れた。
「やったっ!」
「まだだっ!」
倒れたホブを見ながら笑みを浮かべるミーヤ。だが、奴はまだ死んじゃいない。俺はすぐに駆け出したっ!近づいてくれたのなら好都合っ!一気に2匹目も叩くっ!
残りは3発っ!俺は走りながらホブに向けて引き金を引いたっ!けど走りながらの射撃だからか、狙った通り頭には当たらないっ!2発は逸れ、1発が奴の右肩に命中したっ!
『グゥゥッ!!』
だがそれが幸いしてか、両手をついて起き上がろうとしていたホブの体が再び倒れたっ!
「ちっ!」
しかしヘッドショット出来なかった俺は、舌打ちをしつつもマガジンキャッチを押して空のマガジンを排出、すぐさまポーチから新しいマガジンを取り出して、スライドストップを押すっ!
カシュッ、という音と共にスライドが戻ったのを確認すると、ホブの頭から数歩の所で止まり、狙いをホブの頭へと定める。
ホブは、驚愕に満ちた瞳で俺を見上げている。
「終わりだ」
そして俺は、ただ一言それだけを言うと、ホブの頭に45ACP弾を2発、ぶち込んだ。確実に殺すために。
頭を撃ちぬかれたホブはそのまま三度地に伏し、そして今度こそ動かなくなった。だが油断は出来ない、周囲を警戒しつつもホブから距離を取る。
「バレットさんッ!」
そこに後ろからミーヤが息を荒らげながら駆け寄って来たっ。すぐさま彼女は俺と背中合わせの態勢となり周囲を警戒している。
「だ、大丈夫ですかバレットさんっ!?いきなり走り出すから、慌てて追いかけてきたんですけどっ!」
「大丈夫だっ!問題ないっ!」
幸い俺も怪我をしてないし、声を大にしてミーヤの言葉に答えた。これでホブを2匹撃破。正直笑みがこみあげてくるが、周囲はそうも言ってられない。未だに冒険者とゴブリンたちの間で乱戦状態だ。
「バレットさんっ、ここからどうしますかっ!?」
「どうするかなっ」
お互いに背中合わせの状態で全方位を警戒している。正直、ホブを2匹も倒したんだから一旦この乱戦から離れても良いか?なんて考え始めていた。
と、その時。
「「「しゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
聞こえてきたのは、冒険者たちの歓声だ。なんだ?と思いそちらに意識を向けてみる。
「ホブ討ち取ったぞぉぉぉぉっ!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
それは3匹目のホブと戦っていた冒険者の声だったっ!しかも声からして、ホブを討ち取ったのかっ!
「バレットさんっ!」
聞こえてきたミーヤの声。彼女の方を向くと、ミーヤは少し笑顔を浮かべていた。けど無理もない。乱戦でどうなるか分からなかった戦局が、こちらに有利になってきたっ!
そして更に……。
『ギ、ギィィィィッ!』
『ギャッ!?ギャギャァッ!!』
「あっ!?おいっ!ゴブリンどもが逃げ出し始めたぞっ!」
どうやらホブが立て続けに倒された事で不利を悟ったのか、次第にゴブリンたちが戦闘を停止して逃げ出したようだ。あちこちからゴブリンが逃げ出した、と叫ぶ冒険者たちの声が聞こえてくる。
「逃がすなぁっ!こいつらをここで逃したら後々の問題になりかねんっ!一匹でも多く殺せぇっ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
誰かが叫び、周囲の冒険者たちがそれに答えて雄叫びを上げている。それを合図として、どうやら追撃戦が始まったようだ。我先にと窪地から逃げ出そうとするゴブリンを背後から襲う冒険者たち。
「ば、バレットさんっ、私たちはどうしましょう……っ!?わ、私たちもゴブリンを倒すべきですかっ!?」
追撃戦が始まった事に戸惑い少し混乱しているようすのミーヤ。
「いや、やめておこう。どうやらこの戦い、俺たちの勝利で終わりそうだ。それに弾の消費も激しいし、ここまでだ」
「そうですか、分かりました」
俺は戦闘態勢を緩めるように銃口を下げた。そしてその行動と言葉でミーヤも少し落ち着いたのかM34の銃口を下げる。
相変わらず周囲では冒険者たちが逃げるゴブリンたちを追撃している。そしてゴブリンの中には、窪地を駆け上がって脱出する物も居たようだが……。
それも後方の新人冒険者たちと戦う形となって、大多数が討たれたようだ。
そして数時間後。緊急依頼によるゴブリン討伐は俺たち人間側の勝利となった。最後に残っていたホブも無事討ち取られ、ゴブリンの殆ども倒した。
「よぉしっ!この戦い、俺たちの勝利だぁぁぁぁぁっ!!」
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」
ゴブリンどもの骸がいくつも転がる窪地を見下ろしながら、冒険者たちは勝利の歓声を上げているっ。そして、俺とミーヤはそれを少し離れた所から見守っていた。
「勝ちましたね、私たち」
「あぁ、勝ったな」
お互い、あの乱戦の中を駆け抜けてホブと戦ったせいか、声に疲労の色が見え隠れしていた。喜びたいのはやまやまなのだが、今は休みたいという想いの方が強かった。そして恐らく、ミーヤもそれは同じだろう。
「バレットさん、これから、どうします?」
「正直、報酬の受け取りとかは明日で良いから、速く宿に戻って眠りたい。ミーヤは?」
「あはは、私もです。今は、一刻も早く休みたいですぅ」
「だよなぁ」
彼女の言葉に相槌を打ちつつも、今日、俺と彼女は無事に生き延びた。それが何よりも嬉しかった。初めての大きな戦い。何度か冷や汗ものの状況に遭遇したけど、生きていれば結果オーライだ。
だからこそ、今日生き延びた事を喜ぼう。そして、隣にいるパートナーを労おう。彼女がいたからこそ、俺は生き延びる事が出来たと考えている。彼女が居なければ、あの2匹目のホブとの戦いで、詰んでいたかもしれないからな。
「お疲れ様、ミーヤ」
「はい、バレットさんも」
歓声に沸く冒険者たちを見つめながら、俺たちはお互いを労い、静かに笑みを浮かべ合っていた。
第14話 END
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