第15話 緊急依頼を終えて
多数の冒険者たちが参加した、ゴブリンの群れの討伐依頼。俺とミーヤは銃を手にこの討伐依頼に参加し、ホブ討伐などに協力。ゴブリンの殆どを討ち取る事が出来、無事に生き残るのだった。
緊急依頼を終えた翌日。朝。
「んぁ?……あぁ、朝か」
俺は窓から差し込む朝日で目を覚ました。が、しかしはっきり言って起きたくなかった。理由は簡単、めっちゃ疲れてるからだ。
昨日は、緊急依頼を終えて、疲れた体に鞭打って2人で、討伐証明のために適当なゴブリンの耳を回収して、更にギルドまで戻って、報酬を受け取るための冒険者たちの列に並んで、何とか報酬を貰うと、夕食も食べずに宿に戻ってきて、2人でベッドにバタンキュー、という感じだった。
しかし、一晩寝ただけじゃ疲れは完全に抜けないなぁ。まだまだ体が疲れているのが分かる。まぁ、幸い今日明日、冒険者稼業を休んでも大丈夫なくらいの金は、昨日の緊急依頼で稼げた。
そう考えると、今日はもう働く気も起きない。体も疲れてるし、かといって時間的に二度寝をするのもな。まぁ、仕方ない。俺はそのままベッドの上でゴロゴロしていた。
しばらくすると……。
「ん、ん~~」
ミーヤの眠るベッドの方から声が聞こえて来た。
「あ~~。もう朝か~~」
彼女もどうやら目を覚ましたらしい。ふとそちらに目をやると、ミーヤは上半身を起こして、凝り固まった体をほぐすように体を伸ばしていた。
「おはよう、ミーヤ」
俺も体を起こして彼女に声を掛けた。
「あっ、バレットさん。おはようございます。起きてらしたんですか?」
「いや、俺もついさっき目が覚めた所だ」
お互い、上半身を起こした姿勢のまま会話する。
「それより体調はどうだ?どこか痛むとかは無いか?」
昨日の激闘を繰り広げた後だ。一応何も問題が無い事を確認しておきたい。
「大丈夫です。ただ、全然疲れが抜けませんね。怪我とかをした訳じゃないのに、体が怠いと言うか」
そう言って彼女は苦笑しながらも息をついた。
「それは俺もだよ」
対する俺も苦笑を浮かべることしか出来なかった。
「昨日の疲れが抜けきってないみたいだ。体が少し重い。なので、今日は冒険者稼業を休みにしようと思うんだが、どう思う?」
「賛成しかありません」
俺の言葉にミーヤは即座に頷いた。という事で、2人とも満場一致で今日は休む事にした。
その後、2人して朝食を取った後、俺はミーヤと共に部屋で愛銃のメンテナンスを行っていた。銃を分解し、パーツのクリーニング。とはいえ、前日の疲れもあったからまったりのんびり、雑談をしながらだった。
「なんだか、平和ですねぇ~」
M34の分解したパーツを磨いていたミーヤが、ふと手を止めて窓の外を見上げながら穏やかな声で呟いた。
「そうだなぁ」
俺もそれに相槌を打ちつつもふとある事を思った。
「でも、その平和を守ったのだって、俺たちだろ?」
「あっ。そう言われれば、そうでしたね」
ふっと、少し笑みを浮かべなら俺が呟けばミーヤは少しだけハッとなっていた。そして彼女はまた、窓の外へと目を向けた。
「なんだか、今でも信じられません。自分が、ほんの少し前まで、ゴブリンにさえ怯えていた私が、戦う力なんて無かった私が、あんなに凄い戦いを生き抜いたなんて」
彼女は窓の外を見上げながら静かに語っていたが、ふと見ると、彼女の目尻に、涙が……っ!?
「み、ミーヤッ?どうしたっ?大丈夫かっ?」
なぜっ?と思いつつも心配になった俺はすぐに彼女へ声を掛けた。
「え?」
彼女は俺の言葉にキョトンとした表情を浮かべている。自分で気づいて無いのか?
「だってミーヤ、君が、泣いてるから」
「ッ」
そう指摘して初めて彼女は気づいたのか、息を飲むと手の甲で顔を隠すようにして涙をぬぐい始めた。
「ご、ごめんなさいっ、大丈夫ですからっ。ホントにッ」
「で、でも……」
どう見ても大丈夫には思えなかった。しかし本人が大丈夫だと言っている以上、どう声を掛ければいいのか、俺には分からなかった。無理に涙の理由を聞くのも、不味いよな。とにかく、今はミーヤが落ち着くのを待とう。
それから、少ししてミーヤは落ち着いた様子だった。
「ミーヤ。……大丈夫か?」
「はい。ごめんなさい、お見苦しい所を」
「別に気にしてないよ」
申し訳なさそうに小さく頭を下げるミーヤを気遣う意味で俺はそう返した。
「でも、もし何か辛い事があるのなら、言ってくれ。俺は君の仲間なんだ。いくらでも相談に乗るから」
「バレット、さん」
彼女は大切な仲間だ。辛い思いをして、苦しんでいる彼女をそのままにはしておけない。 やがて、彼女は少し間をおいてからゆっくりと口を開いた。
「少し、昔の事を、村での事を、考えてしまったんです」
「村って、ミーヤの?」
「はい。……もし、あの時私に、今みたいに戦う力があったらって。バレットさんが傍に居てくれたらってっ。家族を、皆を、守れたんじゃないかってっ」
「ッ」
彼女は悲しみに顔を歪めながら思いを、後悔を吐露していた。
「バレットさんにこんな事を言っても、筋違いなのは分かっていますっ。でももし、あの時、バレットさんが居てくれて、私も戦えたのならっ。家族を、村の皆を守れたんじゃないかって、考えてしまってっ。もう、後悔しても遅いのにっ」
「ミーヤ」
彼女は変える事の出来ない過去を悔やんで涙を流していたんだ。そうだ。友人を、知人を、家族を殺されるなんて。そんな辛い記憶、早々忘れたり、気にしないなんて事、出来るわけがない。ミーヤは再び、大粒の涙を流し始めた。
「変えられないと分かっていても、『もしも』を考えてしまうんですっ!もし私が戦えたのなら、バレットさんがあの時傍に居てくれたら、皆も、お父さんもお母さんも、今も、一緒に笑っていてくれたんじゃないかってっ!もう、二度と会えないと、分かってるはずなのにっ!」
ミーヤは、苦しみと悲しみにその表情を歪めながら止めどない涙を流し続けていた。そんな彼女に、俺はなんて声をかけてやればいい?悲しみに暮れる女の子を慰めた経験なんて無い。けれど、だからってミーヤをこのままにしておけないっ。こうなったら、とにかく俺に言える事を。伝えられる事を、伝えるしかない。
「ミーヤ」
俺は、自分の席を立つと彼女の傍に歩み寄り、彼女の前で床に膝をつき彼女の膝の上に置かれた手に、俺の両手を重ねた。
「ッ。バレット、さん」
「俺には、過去を変える力も、死者をよみがえらせる事も出来ない。ただ、銃を呼び寄せ、それで戦う事しか出来ない。……すまない」
「謝らないで、下さい。バレットさんは、何も悪くないんです」
「ありがとう、ミーヤ。でも、そんな戦う事しか出来ない俺でも、これだけは言えるよ。俺は今、君の傍に居る君の仲間だ。俺にとって、ミーヤは大切な仲間だ。だからこそ守りたい。そして何より、俺は1人の男として……」
この言葉は、滅茶苦茶恥ずかしい。臭いセリフだと自分でも分かっている。でもミーヤを元気づける為だ。羞恥心なんて後回しで良いっ。
「君を、君を幸せにして見せるからっ!悲しい思い出を塗りつぶすくらいの幸せを、君にあげたいっ!それが今の俺の、意思だからっ!」
「ッ」
言葉を叫んだ直後、俺は顔が赤く、熱くなるのを自覚していた。あぁクソッ!数秒前の自分を殴りたいくらい恥ずかしいっ!けどミーヤの為だっ!男は度胸だっ!うんっ!
「ば、バレット、さん」
って言うか、ミーヤも顔を真っ赤にしてるっ!まぁ仕方ないかっ!言った俺自身も恥ずかしいしっ!
「な、何て言うかその言葉、『愛の告白』、みたいですね」
彼女は涙を浮かべながらも、笑みを浮かべながら答えてくれたんだけど……。
「えっ?……えぇっ!?あぁいや待って待って待ってっ!」
愛の告白、という単語に思わず俺は握っていた彼女の手を放し、慌てたまま誤解だっ、と言わんばかりに手を振る事しか出来なかったっ!
「あ、愛の告白とかそんなんじゃっ!?い、いやもちろんミーヤは大切な仲間だし、好きか嫌いかで聞かれれば好きだけどっ!ってじゃなくてっ!あぁでもでもっ!ミーヤが幸せになってほしいって言葉は本意だからねっ!決して嘘とかじゃないからっ!!」
あぁ~~!自分でも何言ってるか分っかんねぇっ!ダメだァっ!言葉が反射的に溢れてきて止めらんねぇっ!!
「ふ、ふふっ」
すると俺の行動が面白かったのだったのだろうか。ミーヤは面白そうに笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます、バレットさん。おかげで、気分が晴れました」
「そ、それはなにより、です」
うぅ、恥ずかしいなぁもう。俺は顔を赤くしながら席に戻り、顔を見られないように俯きながらM1911A1のメンテに戻った。
あぁ~クソ~~。ミーヤを慰める為とは言え、慣れないくさいセリフなんて言うもんじゃねぇなぁ。まだ顔が熱い。
「改めて、ありがとうございます。バレットさん」
その時、ミーヤが声をかけて来た。俺は赤い顔を見られるのが恥ずかしいのもあって、少しだけ顔を上げ彼女の様子を伺った。
彼女は、目元を涙で濡らしてこそ居たけれど、それでも確かに、幸せそうに笑っていた。
「あなたに出会えたから、今の私がある。バレットさんに出会えた事。それこそが、今の私の、一番の幸せなのかもしれません。助けてくれて、支えてくれて、鍛えてくれて、傍に居てくれて。ありがとうございます、バレットさん」
「ッ!!ど、どど、どういたし、まして」
感謝の言葉と共に、彼女より送られた微笑みはあまりにも美しく、交際経験など0の、前世より童貞だった俺にとって眩しい物だった。それに思わず、更に顔を赤くしながら、俺はただもう一度俯きながら小さく言葉を返す事しか出来なかった。
「……私も、一つだけ覚悟が出来ました」
更に聞こえた、彼女の小さな声。しかし彼女の言う『覚悟』の意味を、今の俺には聞く勇気はなく、ただ俯きながら聞こえなかったフリをする事しか出来なかった。
その後、俺たちは銃のメンテを終えると昼食を取ってから宿を出た。昨日の戦いで金も入ったし、防具を新調してもいいかな?と考えたからだ。結果としては、他の冒険者たちも同じような事を考えていたようだ。緊急依頼で稼いだ金を使い武器や防具を新調しよう、という冒険者たちでどこの店も賑わっていた。
「混んでるなぁ」
「ですねぇ」
賑わっている、というか混雑している店の前で苦笑する俺とミーヤ。
「なんかごめん。せっかくの休みにしたのに、こんな混んでる所に連れ出す形になっちゃって」
「いいえ。私は大丈夫ですよ。バレットさんとお出かけ出来るの、私は好きですから」
「ッ!!そ、そそ、そうかそうかっ!それは良かったっ!」
ミーヤの微笑みと、交際経験0の俺に刺さる際どい言葉ッ!お、落ち着け俺。ミーヤはあくまでも仲間、パートナーだ。そ、それに彼女は出かけるのが好き、と言っただけだ。別に俺が好き、と言った訳じゃないっ!この程度で狼狽えるんじゃない俺っ!
とまぁ、ちょっとドキドキする場面があったものの。結局いくつかの店を回って俺たちは右手を守るため、手首から肘の辺りまでを保護する鉄製の小型ガントレットを一つずつ購入した。こういった道具も無いよりはマシだからな。
で、夕食も外で適当に済ませて宿へと戻ったのだが……。
「あの、バレットさん。少しだけ席を外していただいて、よろしいですか?」
「ん?なんで?」
部屋に戻った時、何故かミーヤが顔を赤くしながら声をかけて来た。なんでだろう?と思いつつ問いかける。
「そ、その。宿からお湯を貰って、湯浴みをしたくて」
「えっ?あ、あぁっ!そういうことねっ!じゃあ俺散歩でもしてくるからっ!」
ったく俺のバカッ!席を外す=男性に見られたくない事、だろうがっ!自分で言うのもあれだが、俺もだいぶ察しが悪いなぁ。湯浴みのために部屋を出るのだって初めてじゃないってのに。
とにかく俺は、念のためにM1911A1のホルスターを装備して部屋を出た。それからしばらく、宿の周りを適当に歩き回った。しっかし、女の子の湯浴みだから結構時間を置いてから戻らないとな。特に昨日は激戦だったし。
って事で、とりあえず適当なベンチを見つけてそこに腰かけた。とはいえ、町中で銃をいじる訳にも行かないし、俺は待ちゆく人たちをぼ~っと見つめながら、今後の事を考えていた。
ミーヤも銃の扱いには慣れて来た。ミーヤの扱う銃もM34から別の物、例えばオートマチックの物に変えても良いだろう。他には、この街を出るのもありだな。ずっとこの街で依頼を受け続ける理由は無い。まぁお世話になった人たちには挨拶回りくらいするだろうが。
新たな依頼、新たな出会い、新たな経験。そういった物をする為に各地を回ってこそ、冒険者だろう。とはいえ、だ。こういった事はミーヤとの相談無しに決められる事じゃない。しっかりミーヤと相談してから、だな。
ってか昼間のセリフ思い出すとホント恥ずかしくて死にそうになるわぁっ!なんだよあれっ!?今更ながらに猛烈に恥ずかしいぃっ!
俺は俯きながらも羞恥心で顔を真っ赤にしていた。道行く人に赤い顔を見られない為だ。思い出すだけで恥ずかしさで今にも頭を抱えて悶えそうになる。……けど。
「言った以上は、しっかりしないとな」
確かに恥ずかしいセリフのオンパレードだったが、あの言葉に嘘はない。俺はミーヤの事を、幸せにしてやりたい。
俺はベンチから立ち上がると、『そろそろ良いか』と呟き宿に向かって歩き出した。
俺にミーヤを幸せにしてやれるか、確証なんて無い。いや、そもそも彼女の幸せって何だろう?このまま冒険者を続ける事なのか?それとも、誰かと恋をして、平和な家庭を築く事か?
もし、ミーヤが誰かを好きになったら、あの子は。……俺の元からいなくなってしまうのだろうか?
ふと、そんな事を考えてしまった瞬間。足が重くなってその場に立ち止まった。ミーヤが俺の所からいなくなる。それを俺は『嫌だ』と感じてしまった。傍に居て欲しいと、思ってしまった。……仲間が傍に居る温もりを、ミーヤと一緒に冒険者として戦って分かった。
そんな彼女が俺の元から去る事が、今の俺は怖い。けれど……。俺は頭を被り振って歩き出した。
彼女が冒険者を止めて平和に生きる事、俺以外の誰かの伴侶として生きる事を望むのなら、俺は受け入れるべきなんだ。それが、俺にとって辛い結果になったとしても。……それでも俺は、ミーヤを幸せにすると誓ったあの言葉を、嘘にしたくなかった。
「……帰るか」
少し、モヤモヤした気持ちになっちまった。俺は気だるげに呟くと、宿に向かった。念のため少し遠回りで宿に戻る。
『コンコンッ』
「ミーヤ、俺だ。バレットだ」
「あっ!ばば、バレットさんっ!?お、お帰りなさいっ!」
ドアをノックし声を掛けると、中からミーヤの声が。しかし、慌てた様子の声だな?
「あ、もしかしてもう少し時間置いた方がよかったか?だったらもう少し外を歩いてくるが……」
「い、いえっ!湯浴み自体は終わって、服も着たのですが……ッ!」
まだ湯浴みに時間が掛かるのか?と思い聞いてみれば、ミーヤは違うと言ってきた。では、何なのだろう?男の俺には分からない事、なのか?
「え~っと、それじゃあミーヤ、俺はその、どうすれば良いのかな?」
「ちょ、ちょっとだけそこで待っててくださいっ!準備したい事がありましてぇっ!」
「お、おぉ」
彼女がそう言うと、部屋の中でミーヤがバタバタと動き回る音がドア越しに聞こえる。数秒後。
「お、お待たせしました。鍵も掛けてないので、入ってもらって、大丈夫、です」
「そ、そうか?じゃあ、入るぞ?」
準備ってなんだ?と思いつつ恐る恐るドアを開け、中に入る。
が、部屋の中は薄暗なかった。窓から外の光を取り込む窓もカーテンが締め切られ、燭台の火も消されていた。な、何でこんなに暗いんだ?と思いつつドアを閉めて鍵を掛ける。
「ミーヤ、どこにいるんだ?」
「こ、ここです」
俺が暗闇に問いかけると、うっすらと見える、ミーヤが使っているベッドの方から彼女の声が。しかし、暗闇なのも相まって彼女の姿が見えない。
「そこにいるのか。しかし、なんだってこんなに暗くして?カーテンとか、開けて良いか?」
「ッ!だ、ダメですっ!」
「えっ?」
微かにカーテンの隙間から洩れる光を頼りに、窓際に行こうとしたがミーヤの声の大きさに思わずビクッとなってしまった。
「あ、え、えとっ、そのっ!ば、バレットさんはベッドに座ってくださいっ!」
「え?」
「お、お願い、します」
訳が分からなかった。ミーヤが何をしようとしてるのか、皆目見当がつかなかった。とりあえず、ここは指示に従うべき、かな?
「わ、分かった」
俺は困惑しつつも手探りで自分のベッドに向かうと、そこに腰を下ろした。
「座ったぞ、ミーヤ。これで良いのか?」
「は、はい。じゃあ、そのまま目をつぶって下さい」
「え?良いけど……」
俺はベッドに腰かけたまま、目をつむった。
「わ、私が良いって言うまで開けちゃダメですからねっ!絶対ですからねっ!」
「わ、分かったよ」
ミーヤ、一体何がしたいんだ?とりあえず言われた通り、目をつむったままじっとしている。すると、彼女のベッドがきしむ音、ゆっくりと床を歩く音。カーテンを開く短い音が聞こえた。……ホントに何してるんだ?ミーヤ。と、疑問に思いながらも目をつむったまま待ち続ける。
やがて、足音が近づいてきて、俺の前で止まった。
「も、もう、大丈夫です。目を、あ、開けてください。バレットさん」
「わ、分かった」
一体何が始まるんだ?と言う緊張と不安にドキドキしながら、俺はゆっくりと目を開いた。
「……んっ!?えっ!?」
そして、開いた直後。視界に飛び込んできた光景に驚き、思わず声が出た。そこにいたのはミーヤで間違いないが、彼女の『恰好』が問題だったっ!今彼女が着ているのは、普段俺が目にしている安物の寝間着じゃないっ!
煽情的な淡いピンク色の、服の向こう側が透けて見える程の薄い生地で出来たその服を、一言で表すのなら『ベビードール』だ。その透けた生地の向こう側には、白いブラジャーとショーツが見えるっ!?
「え、えぇっ!?み、ミーヤッ!?」
予想なんて出来るわけもないミーヤの煽情的な恰好に俺は思わずベッドの上で後ずさりしてしまったっ!いやでも仕方ないってっ!いきなりあんなエロい恰好で目の前に現れたら誰だって取り乱すわっ!
「ど、どうしたのその服ッ!?」
「こ、これはその、以前、服を買いに行ったお店のお姉さんに、勧められて……」
着ているミーヤ本人も恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら話してくれるが。服屋のお姉さん、って。あっ!?
『あれ』かぁっ!なんかミーヤが店の奥に連れてかれた奴っ!
「も、もしかしてあの時、俺に見せたがらなかった紙袋の中身ってっ!?」
「うっ。そ、そう、です。この服、です」
「やっぱりっ!?で、でもなんでそんな恰好なんかしてっ!?」
「そ、それは、その……」
ミーヤは恥ずかしそうに視線を泳がせ、モジモジしていた。突然の事に理解が追い付かない俺は、ただ彼女の言葉を待っていた。
「ば、バレット、さんと。その、『そういうこと』を、したいって、思ったからです」
「えっ?……えぇっ!?そ、そそ、そういう事を、俺とっ!?」
思わず驚愕し自分自身を指さしながら問いかけるっ!?ってかマジでっ!?
「ど、どうしてそんな急にっ!?」
「それは……。昼間の、バレットさんの言葉を聞いたから、です」
「えっ?」
昼間の言葉?それでどうしてこうなるんだ?そう思っていた時、ミーヤの俯いていた顔が上がり、その横顔を窓から差し込む月光が照らした。
「ッ。ミーヤ?」
今、ミーヤは顔を赤くしながらも、とても穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
「あの時、バレットさんの言葉を聞いて、決心が、覚悟が出来ました」
「決心?覚悟?な、何の?」
「それは……」
彼女はゆっくりと俺の方へと歩み寄ると、そのままベッドの上にっ!?
「えっ?なっ!?」
そして驚き硬直する俺の前まで来ると、俺の胸元に体を預けるように抱き着いて来たっ!?
「な、ななっ!?」
肌で感じるミーヤの温もり、鼻孔をくすぐる良い臭い、僅かに腹の辺りに当たる、女の子の柔らかい部分に、俺の脳みそはパンク寸前だっ!
「バレットさんに、告白する覚悟です」
「えっ!?えぇっ!?お、俺に、告白っ!?」
「はい」
終始驚きっぱなしの俺に対し、ミーヤは静かに話を続けた。
「私は、今日のあの時に言ったように、バレットさんと出会えて、本当に良かったと思っています。あなたが、私を絶望の淵から救ってくれたんですっ!」
「ッ!」
俺の胸元に抱き着き、俺を見上げる彼女の目には、涙が。
「今の私があるのは、全てバレットさんのおかげですっ。何もかもを失い、戦う力も無かった私を、バレットさんが助けて、支えて、鍛えてくれたから今の私がいるんですっ。私は、そんなバレットさんに恩返しがしたいって思ってましたっ。仲間として、精一杯バレットさんを支えたいってっ!でも、もう、それだけじゃ、収まらないんですっ!」
「収まらない、って?」
「あの時の、『君を幸せにして見えるからっ』、という言葉を聞いた時、とても嬉しかったんです。そして、同時に思ってしまいました。ただ、仲間で居るだけじゃもう、耐えられないってっ!」
ミーヤは、そう言うと纏っていたベビードールを脱ぎ捨てたっ!?
「み、ミーヤッ!?」
「バレットさん。私は、バレットさんが、『大好き』です。『愛しています』」
「ッ!!!」
彼女の告白は、衝撃となって俺の体を突き抜けた。その衝撃によって、俺の体は完全に固まってしまう。今まで、告白なんてされた事が無かった俺にとって、その言葉はそれぐらいの物だったっ。
「私を絶望の淵から救い、支えてくれたあなたを、私は心の底から、愛しています。愛して、しまったんです。だからもう、ただの仲間として、あなたの傍に居るだけじゃ、耐えられない」
彼女は再び、下着姿のまま俺の胸元に抱き着いた。
「だからもし、バレットさんが良いのなら。私の幸せを、願ってくれるのなら。私の願いを、聞いてくれませんか?」
「願い、って?」
「私を、バレットさんの女にしてください。私を愛して、抱いて、下さい。それが、バレットさんを好きになった私の、一番の幸せなんです」
「ッ!ミーヤッ!」
「あっ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中の理性が途切れた。俺は彼女を抱き、そのままベッドの上に押し倒した。
「お、俺、も、もう我慢できそうにないっ!そんな恰好で、そんな言葉を言われたらっ!俺、俺ッ!ミーヤが、欲しいっ!」
まるで物を強請るような、最低な言葉だと、直後に思ってしまう。けれどミーヤは……。
「はい。構いません。バレットさんに、求めて頂けるのなら。強くて、優しくて、誰かのために戦える、そんなかっこいいバレットさんになら」
「ッ!ミーヤッ!」
「あっ、んっ!」
それからの事はあまり覚えていない。彼女を強く抱き寄せながら、口づけを交わした後の事は、殆ど記憶に残らなかった。僅かに残った記憶の残滓から分かる事は、お互いが初めてで四苦八苦しながらも、ただ欲望の求めるままに、お互いを深く愛し合った事。ただ、それだけだった。
ゴブリンの群れとの、大きな戦いを乗り越えた後。俺は、1人の女性と絆を深め、そして深く愛し合った。
第15話 END
ガンマニアの異世界ハンドガン縛り @yuuki009
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