第4話 突然の出会い
異世界からの転生者である俺、バレットは生まれ育った農村を出て、冒険者になるために隣町、ティレットへとやってきた。そこで冒険者となった俺は、初仕事としてゴブリンの討伐を成功させた。
俺が冒険者になって、早い物で数日が経過した。あれから、俺は日常的にゴブリン討伐の依頼を受け続けていた。理由は一つ、それ以外今の俺に出来そうな依頼が無かったからだ。
ハンドガンチートを持つ俺にできる事は、その能力で召喚した拳銃を使っての戦闘くらいだ。薬草採取をしようにも薬草を見分ける知識が無い。手紙の配達なども、地理情報などが分からない。あと出来そうなのは農家の手伝いなどだ。こっちは農家生まれだから経験があるし出来なくもないが、こっちは完全に歩合制の給料になっている。1日働いてどれだけ貰えるか分からないので、俺はゴブリン討伐をメインに金を稼いでいた。
が、しかしだからと言ってゴブリンの集団を相手に挑みかかる程の無茶はしない。今の俺のメイン装備はM1911A1。装弾数は7発+1発の、最大8発。こいつで対応できるのは、最大でも8匹が限界。しかしまともな実戦経験が数えるほどの今の俺に、1匹を1発で倒しきれる腕があるなどとは考えていない。だからこそ、俺はゴブリンと戦う時、まずは相手の数を確認し、奇襲が出来るかどうかを見て勝率を考える。
ある時などは……。
『ギギャッ!』
『ギャギャァッ!!』
今、木の陰に隠れて息をひそめる俺の近くを、獲物のイノシシを引きずりながらゴブリンが5匹、歩いている。どうやら獲物が取れた事に喜んでいるのか、連中は大はしゃぎで喚きながら森の奥へと入って行った。
「ふぅ」
ゴブリンどもが見えなくなった所で、俺は息をつき引き金にかけていた指を外した。緊張感で背中が汗でびっしょりだ。まぁ5匹なら、奇襲で1匹か2匹持っていければ決して勝てない数ではないが、某パイロットが言っていたように『臆病なくらいがちょうどいい』と俺は思っている。
勇んで向かって行って、やっぱり無理でした、なんてのはシャレにならない。命は一つしかないんだからな。だからこそ、俺は無理をしない戦い方を心がけていた。
相手の数と奇襲が出来るか。そこから俺なりに勝率を考えて、それが高くなければ無理に挑まず逃げるなり隠れるなりする。どうしても戦わなきゃいけない時や、不意の遭遇戦の時以外は、そうやって不利になりそうな戦闘は避けていた。
しかし、不意の遭遇って言うのは必ず起こる物だった。
その日、俺はゴブリン4匹を仕留めた。後は町に戻ってギルドに報告をするだけ、のはずだった。
しかしあとは帰るだけ、という安心感が俺の警戒心を緩めてしまった。結果。茂みを抜けた所で。
『ギッ!?』
「ッ!?やべっ!!」
気づいた時にはほんの数メートルの所にゴブリンが5匹ッ!しかも1匹と文字通り目が合ったっ!
『ギッ!?ギギャァッ!』
『ギャッ!ギャァッ!!』
すぐさまそいつは喚きだし、他の4匹も喚きながらこん棒を振り上げたっ!
「このっ!!」
既に右手に握っていたM1911A1を両手で構えるっ。まだ森の中だったので、ホルスターに収めていなかったのが幸いだったっ。
即座に2連射。距離が近いから、ヘッドショットは狙わず体の中心、つまり胴体部を狙った。放たれた銃弾は2発ともゴブリンの胴体に命中し、2匹はその場に倒れたっ。
更に3匹目、4匹目ととにかく動きを止めるために撃ち込んだ。が……。
『ギギャァァァァァァッ!!』
「ッ!?」
最後の5匹目がその間に接近してきたっ!ゴブリンの大きさは人間の子供程度。振り上げたこん棒は、そのまま振り下ろされれば俺の腹部に命中していただろう。
俺は咄嗟にそれを避けようとした。だが、僅かにこん棒の切っ先が服に擦れた。
「ッ!?」
文字通り、首の皮一枚の差で避けたような物だ。ギリギリの回避に冷や汗が噴き出る。が、今は戦闘中だっ!
「こいつっ!」
『ギャァッ!?」
俺は咄嗟にゴブリンの腕の辺りを蹴っ飛ばした。格闘技も碌に知らない俺の咄嗟の蹴りだったが、ゴブリンも攻撃直後で防御が出来なかった事と、ゴブリン自体が軽い魔物だった事もあって、肩の辺りを蹴られたゴブリンはそのまま倒れこんだ。
何とか起き上がろうとするゴブリンだが……。
「終わりだっ!!」
俺は倒れたゴブリンに向かった即座に2発、撃ち込んで倒した。流石に胴体に2発も食らえば確実に死んだだろう。しかし油断は出来ない。俺は即座に周囲を見回し、生き残りが居ないかを確認。そして1匹だけまだ呻いていたので、そいつにトドメの一発をぶち込むと、これで使った弾は7発。だが薬室に1発残っているし、俺は即座に空のマガジンを取り出して新しいのをリロードしチャンバー内部をチェック。よし、ちゃんと弾は入ってる。
それから、俺はすぐに周囲を警戒した。まだこいつらの仲間がそばに居る可能性もあるからだ。しばらくは周囲を警戒していたが、敵の気配は無かった。それを確認した所で……。
「ぶっはぁぁぁぁぁっ!!」
俺は盛大に息をついた。急に張りつめた緊張の糸が切れた事でとてつもない徒労感が襲ってきた。その徒労感のせいか力が抜けてしまい、俺はそのまま近くにあった木に背中を預けた。
あぁクソっ。今のはマジでヤバかった。今思い出すだけでも背筋を冷たい汗が伝う。ホントに、あの時脇腹に攻撃を受けて倒れてたら、最後の1匹にタコ殴りにされて殺されてたかもしれない。……そう思うと、背筋がぞっとする。
「これが、ソロの限界かぁ」
そして俺はポツリと独り言を漏らした。
その後、俺は倒した5匹から耳を回収すると町に戻るべく歩き出した。そして、その道中で今後の事を考えていた。今、早くも俺はソロの限界を感じつつあった。
今の俺にあるハンドガンチートは決して弱い訳ではないが、俺自身にチート能力がある訳じゃないし、運動神経とかも極端に良い訳じゃない。格闘技だってまともに知らない。射撃に関する技術だってまだまだだ。そんな今の俺に、同時に対処できる敵の数なんてたかが知れてる。加えて今持っているM1911A1の装弾数はせいぜい8発。弾を撃ちきったらリロードしないといけないし、接近戦に持ち込まれれば俺はおそらく弱い。ゴブリン相手の接近戦でさえ辛勝、という感じだったんだ。
装弾数自体は別の銃、例えば標準で装弾数13発の『ブローニング・ハイパワー』や『グロックシリーズ』などを持てばいい。それだけで装弾数の問題は解決する。
しかし弾切れになれば接近戦に持ち込まれる可能性はどの拳銃を使おうと同じ事だ。となると、今俺が欲しいのは、『仲間』だ。リロードのタイミングだけでもフォローしてくれる仲間が欲しい。そう思っていた。
しかしそれ自体もまた、危険な事だと俺は思っていた。なぜなら俺の能力はリスクやコスト無しで拳銃を無限に取り寄せる事が出来るからだ。この力の存在をしれば、俺を利用しようとするやつが現れるかもしれないし、拉致監禁され、武器の提供を強要される恐れもある。……そう考えると、おいそれと他の冒険者を仲間として勧誘出来ない。俺の存在を誰かに売り渡そうとして俺を裏切るかもしれないからだ。かといって、一人で冒険者の仕事を始めた俺に冒険者仲間など居ない。
結局の所、『仲間は欲しいが信頼できる相手が居ない』、というのが現状だった。
「ハァ、どうしたもんかなぁ」
ため息をつきながらも周囲を警戒しつつ、森を抜けようと歩いていたその時。
「…け、て」
「ん?」
不意に、何か聞こえた気がして俺は足を止めた。なんだ?と訝しみながら、右手に握っていたM1911A1のグリップを両手でしっかり握りつつ、周囲を見回す。そして敵影が無い事を確認すると近くの木の影に小走りで近づき、影に隠れた。
そこからもう一度周囲を見回すが、周囲に動きは無い。と、その時。
「だ、れ、か」
「ッ!」
確かに聞こえたっ。人の声だ。こっちかっ。俺は静かに声のした方へと歩みを進めた。人の声のようだが、状況が分からない。もしかすると、盗賊に誰か襲われているかもしれない。とにかく、状況次第で対応も変わってくる。とにかく俺は声の主を確認するために、周囲を警戒しながら声がした方へと近づいていく。
そして少し進むと。
「ッ!?」
予想外過ぎる状況に俺は思わず息を飲んだ。何しろ森の中でボロボロの奴隷みたいな恰好の女の子が倒れてたんだからなっ!俺はすぐに駆け寄りたかったが、理性がそれを制止した。
『あれは罠かもしれない』、と。倒れている女の子に近づいて、そっちに集中していると襲われる、という展開が無いとも言えない。俺は駆け寄りたい衝動をぐっと堪え、木の影から周囲の様子を伺う。……周囲に怪しい影は無い。
「すぅ、はぁ。……よしっ!」
周囲に怪しい影は無いが、だからと言って敵が潜んでいないとも限らない。だからこそ俺は周囲を警戒しつつ、倒れている女の子の元へとゆっくり進んだ。彼女に近づき、そこで片膝をつく。
「おい、おいっ」
M1911A1を両手で持ち、周囲を警戒しながらも声を掛ける。しかし最初、彼女は反応を示さなかった。まさか、もう死んでるのかっ!? そう思うと背筋が凍える思いだった。だが俺はすぐに頭を被り振って、左手で彼女の首元に手を当てる。
……よし、脈はある。生きてはいるようだな。なら、呼びかけ続けるしかない。
「おいっ、おいっ!」
あまり大声を上げると魔物か何かに気づかれそうだったが、彼女が起きるまで長時間ここに留まるのも危険だ。だから俺は何回も彼女に呼びかけた。
すると……。
「う、うぅ」
どうやら彼女は目を覚ましたようだ。しかし声はひどく掠れ、微かに動いた顔は汚れ、やせ細っていた。こりゃ、かなり不味いな。
俺は右手でM1911A1を握ったまま左手でポーチの中に入れていた革製の小さな水筒を取り出した。
「無理に喋らなくていい。水だ。飲めるか?」
俺が問いかけると、彼女は力なく首を横に振った。もうまともに動けそうに無いのか。仕方ない。
俺はもう一度周囲を見回してからM1911A1をホルスターに収め、彼女の上半身を抱きかかえるように起こした。左手で彼女を支え、右手で水筒を口元へ。
「これなら飲めるか?」
今度は体を震わせながら、彼女は頷いた。飲み口を彼女の口元に近づけると、彼女はそれを口に含んだ。それを確認するとゆっくり水筒を傾けていく。
少しずつ流れ出した水を、彼女が飲んでいく。
「ッ、ごほごほっ!」
ある程度水を飲んだ所で咽てしまったようなので、一度水筒を話して背中をさすってやる。しばらくすれば、咳も落ち着いたようだ。
「あ、あなた、は?」
やがて、彼女は口を開いた。未だに顔色は悪いが、水を飲んだからか掠れていた声も少しは緩和されていた。
「俺はバレット。近くの町の冒険者だ」
「冒険者、だった、の、ですか」
「そうだ。正直、アンタには聞きたい事が無い訳でもないが、この森には魔物もいる。すぐに移動したい。……動けるか?」
こんな魔物が居る森の中で話なんてやってられない。それに彼女は見たところ数日何も口にしていないようだ。しかし生憎今の俺の持ち物に食料が無い。奢ってやるにしても町まで戻らないと。
しかし、彼女は目を伏せ力なく首を横に振った。仕方ないか。
「俺が肩を貸す。少しで良い。頑張れるか?」
「は、はい。肩を、貸して、頂ける、なら」
彼女は力なく返事を返す。……声に元気が全くない。こりゃ本格的にヤバいかもな。早く何か食わせてやらないと。
「よし。とにかく行くぞ」
急いで戻らないと。そんな風に本能が俺を急かす。俺は彼女の左手を取って、それを背中に回して左手で握る。右手は、やむを得ないので彼女の腰元へ。
「町までそんなに距離は無い。もう気力も体力もそんなにないだろうが、少しの辛抱だ。行くぞ」
「は、い」
こうして俺は森で見つけた謎の女の子を連れて歩き出した。
それが、俺にとって掛け替えのない仲間の一人との出会いだという事を、その時の俺はまだ知らなかった。
第4話 END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます