第5話 人助け

 冒険者となった俺、バレットはゴブリン討伐の依頼を積極的に受けていた。しかし俺自身は、早々にソロの限界を感じつつあった。そんなある日、俺は森の中で行き倒れていた女の子を発見。保護すると彼女を連れて町へと戻るため歩き始めた。


 ティレットの町までは、森から歩いて30分程度だ。しかし今の俺はまともに歩けない女の子を連れている。だからか時間が掛かってしまう。時折彼女を気にしつつ歩みを進める。

「もうちょっとだっ!頑張れっ!絶対に眠るんじゃないぞっ!」

「は、い」


 俺は彼女が眠らないように必死に声をかけ続けた。彼女が既に限界ギリギリの状態なのは、人命救助の経験など無い素人の俺でも分かった。文字通り1分1秒を争う状況だ。とにかく俺は彼女を引きずるように足早にティレットの町を目指した。


 そして城門が近づいてくれば、周囲にいた冒険者やら商人やらが俺たちに気づいてなんだなんだ?とこっちを訝しんでくる。

「お、おいなんだっ!どうしたっ!?」

 更に騒ぎを聞きつけたのか、衛兵らしい人が近づいてくるが好都合だっ!


「頼むっ!手を貸してくれっ!近くの森でこの子を見つけたんだっ!もう餓死寸前なんだっ!何か食べ物とかくれっ!金は払うからっ!」

「な、何っ!?」

 衛兵は驚きつつ、俺が抱える女の子の様子を見ると、すぐに表情を青くしながらも頷いた。


「よ、良し分かったっ!とりあえず詰所に来いっ!そこなら水も食い物もあるっ!」

「ッ、ありがとうございますっ!!」

 衛兵の人は俺と反対側の彼女の腕を肩にかけた。俺はその人と協力し、彼女を城門内側の詰所に担ぎ込む。


「お、おいなんだっ!?」

 すぐに中にいた他の衛兵たちも戸惑い声を上げる。

「誰か食い物と水をっ!どうやら森で遭難してたようだっ!餓死寸前らしいっ!急げっ!」

「お、おうっ!」

 俺と衛兵の人は、とりあえず彼女を詰所の、仮眠室のベッドの所まで運んだ。

「とりあえず水、持ってきたぞっ!」

 そこに駆け込んできたのは水差しと木製のコップを持ってきた別の衛兵。彼は彼女の前に座りながらコップに水を灌ぐ。

「ほ、ほら、飲めるか?」

 衛兵がコップを差し出すが、彼女は手を震わせるばかりだ。


「すみませんが、飲ませてやってください。もうほとんど動けないほど弱ってるみたいで」

「マジかよっ。わ、分かった」

 その後、彼女は水を飲ませてもらい、更に衛兵の人が用意した食事、粥やスープ、もう噛む力も殆ど無いのでみじん切りにした果物などを食べさせた。


 流石に衛兵の人たちも仕事があるので全員が彼女の面倒を見る訳には行かず、俺が一人残って彼女にみじん切りにした果物を食わせていた時。

「……う」

「ん?どうした?」

 不意に、彼女は体を震わせた。俯いているせいで表情は分からず、声も小さく聞き取れなかった。彼女の口元に耳を近づけてみる。


「ありがとう、ございます」

 聞こえてきたのは、嗚咽交じりの感謝の言葉だった。髪の毛の合間から見える瞳には大粒の涙を浮かべ、口からは嗚咽が漏れている。

「気にするな。男として当然の事をしたまでさ」

 俺はそう言って更にみじん切りの果物を匙に救って彼女に食べさせる。


 しばらくすれば、少しは物を食べたからか彼女の肌色が少し良くなったようだ。と、そこへ。

「失礼するよ」

 不意に老齢の男性が入って来た。誰だ?と思っていると、先ほどの衛兵が続いて入って来た。


「遅くなったな。町医者のハレル先生を連れてきた。先生、彼女の様子を見てやってください」

「はい、分かりました」

 老齢の男性、ハレル先生と呼ばれた男性が彼女の傍の椅子に腰を下ろす。そこから脈などを測り始めた時。


「君」

「あ、はい」

 衛兵の人が俺に声をかけてきた。

「見たところ冒険者のようだけど、少し話を聞きたい。別室に来てくれるかな?」

「分かりました」


 俺は言われるがまま、別室に案内された。そこで俺は質問され、名前や冒険者をしている事、森で彼女を発見した状況を説明した。

「ふむ。君が彼女を発見した時、周囲に人影は無かったんだね?争ったような形跡も?」

「はい。何もありませんでしたね。血痕とか、そういう物も何も」

「そうか。……なぜ彼女が一人で森にいたのかは、後で聞く必要があるな。ちょっと待っててくれ。少しハレル先生と話してくる」

「分かりました」


 俺はしばらく部屋で待機していた。しかしやる事も無いので、とりあえずM1911A1のチェックを行い、ホルスターに戻すなどしていると、さっきの衛兵が戻って来た。


「待たせたね。今ハレル先生に聞いてきたけど、今日の内に事情聴取をするのは難しいと言われたんだ。なので彼女の聴取は明日になったんだけど、すまないが君も明日それに同席してほしいんだ」

「え?そうなんですか?まぁ俺は別に構わないんですけど、理由だけ聞いても良いですか?」

「あぁ。それはまぁ、2人の認識の齟齬とか、意見の違いがあった場合すぐに確認が取れるようにね。納得、してくれたかい?」

「あぁまぁ、はい」

「良かった。じゃあ明日の昼過ぎ辺りにこの詰所に来てもらっていいかな?彼女は今日この詰所で預かる事になったから」

「分かりました。じゃあとりあえず、今日は失礼します」


 あの子を発見したりで色々あったけど、よくよく思い出してみれば俺はゴブリン討伐依頼の帰りだった。さっさとギルドに行って報告をしたかったし、これ以上ここに留まる理由も無かったので、俺は席を立って部屋を後にしようとした。


「あぁそうだ。実は君にハレル先生から伝言があってね」

「ん?俺にですか?」

 衛兵の人が何かを思い出したように口を開いたのだが、俺への伝言だという。何だろう?と思い気になって足を止め振り返る。


「あぁ。ハレル先生曰く、『彼女の発見がもう少し遅かったら間違いなく命を落としていただろう。君は彼女の命の恩人だよ』ってさ」

「そうですか」

 彼女が無事でよかった事に安堵すると共に、俺はあと少し発見が遅れていたら?と考え少しぞっとした。……本当に彼女の命は風前の灯で、俺がギリギリの所で彼女を助けたんだ。そう思うと、まぁ悪い気はしなかった。


「じゃあ俺はこれで。また明日」

「あぁ。待ってるよ」


 その後、詰所を後にした俺はギルドへと行き、ゴブリン討伐の証である耳を提出。今回は不意の遭遇戦もあってかいつもより多く耳を集めたので、その分報酬もいつもの倍。大銅貨1枚に小銅貨8枚と言う物だった。


 報酬を受け取った俺は適当な所で食事をし、そのまま宿へと戻り、早々にベッドで横になり休んだ。


 そして翌日。今日は昼頃詰所に顔を出してくれって言われてるし、依頼は休みにした。幸い昨日の討伐でそこそこ稼げたし、問題は無かった。まぁ今問題があるとすれば……。


「昼頃まで何やって時間潰すかなぁ」

 俺は部屋の椅子に座り独り言をこぼした。生憎この世界じゃ暇だからスマホとかを弄るなんて事も出来ない。……とりあえず、昨日使った弾の補充だな。


「えっと、≪メニューオープン≫」

 机に向かった状態で声を上げると、俺の眼前にディスプレイが映し出された。これが、俺の持つチート能力、ハンドガンチートだ。


 このチート能力はこんな風にディスプレイで欲しい銃や弾、サイレンサーやホルスターと言った周辺アイテムを選んで召喚する事が出来る。そして俺はその画面を操作し、弾薬と書かれたタブを選択。そこからM1911A1用の45ACP弾をひと箱。とにかく召喚する。するとディスプレイから光があふれ出し、それがテーブルの上で集まり45ACP弾の入った箱となる。

 

 俺は箱の中から弾を取り出すと、ポーチから空になっていたマガジンも取り出し、1発ずつ手で弾を込めていく。マガジンに7発弾を装填すると、マガジンをポーチに戻し、残った弾は箱にしまってクローゼットの中にあったリュックの中に入れておく。

 

 それを終えた俺はもう一度椅子に座り、改めて考える。今後の武器の事だ。今はこの世界に転生したばかりの頃から練習に使っているM1911A1を愛用し続けているが、装弾数の問題は切実だ。弾数が多い拳銃となると……。


 俺は拳銃本体と書かれたタブを選択し、指先で画面をスクロールする。そこには様々な拳銃が載っていた。


 様々な時代、様々な国の拳銃。リボルバー回転式拳銃も、オートマチック自動拳銃もある。そんな中で俺は装弾数の多い物を探した。


『定番のグロックシリーズに、ベレッタ92。弾を同一のまま装弾数を上げるのなら、H&Kヘッケラー&コッホ社のMk23とかもありだなぁ』

 

 そんなことを考えながら俺はしばらくタブを上下に動かしながら様々な銃を見つめていた。が、少しして俺は椅子から立ち上がった。一言で言うと、良い案と言うか、どれが一番良いかその時は決められなかったからだ。


 気分転換の意味でも、椅子から立ち上がり窓の方へと歩み寄り、その前で伸びをする。で、ふと窓越しに天井を見上げると、太陽が結構高い位置にあった。……そろそろ行ってもよさそうだな、詰所。


 時間もそろそろだろうと考えた俺はテーブルの上に置いていたM1911A1をホルスターに収め、部屋を出た。受付にいた女将さんに鍵を預け、俺は昨日の詰所に向かった。


 詰所にたどり着き、誰かに声をかけるべきかな?と考えていると。

「ん?君は確か、昨日の?」

 詰所の傍にいた衛兵の人が俺に気づいて歩み寄って来た。しかし、昨日の、という辺り俺が昨日ここに女の子を運んだ事を知っている人だろう。


「そうです。昨日女の子を連れてきた冒険者です」

「あぁ。君がそうか。話は聞いてる。この後あの女の子と一緒に事情聴取があるらしいね。こっちだ、付いて来てくれ」

 どうやら俺が来ることは聞いていたらしく、その人に案内され詰所の一室に通された。そこで待っているように言われ、しばらくすると。


「やぁ、待ってたよ」

 扉が開いて、昨日の衛兵の人と、昨日と同じ格好ながらも少し顔色がよくなったあの女の子が入って来た。昨日は本当にガリガリと言う印象だったが、少しは回復しているようだし、汚れていた体も綺麗になっていた。服も、誰かに貰ったのか奴隷みたいな恰好ではなく、質素な服を着ていた。

「あっ。あなたは……」

「どうも」

 女の子も俺に気づいたようで、少し驚いたように目を見開いている。そんな彼女に小さく笑みを浮かべながら返事を返す。


「それじゃあ、とりあえず二人とも座って。念のため2人に昨日の事を確認したいからね」

「は、はいっ」

「分かりました」

 少し緊張した様子の彼女とそうでもない俺。それから、まずは俺の方から説明を始めた。


 昨日と同じように、依頼で森にいた事。その帰り、微かに聞こえた声を頼りにそちらに向かうと彼女が倒れていた事。食料を持っていなかったので、とりあえず水だけ飲ませて彼女と共に急いで町に戻って来た事。彼女の周囲に争った形跡や他の遺体など何もなかった事など。

 そして俺の話を、彼女は覚えている限り間違いないと証言してくれた。そして話は、その彼女へと変わった。


「それじゃあ、まず君の名前から教えて」

「は、はい。私は、『ミーヤ』と言います」

「ミーヤちゃん、ね。それじゃあミーヤちゃん。どうして君があんな危険な森で、餓死寸前で倒れていたのか、説明してくれるかな?」

「わ、分かり、ました」


 彼女は恐怖で怯えているように、体を震わせながら少しずつ話し始めた。そして話を聞けば聞くほど、衛兵の人は顔を青く染め、そして俺は憤怒で顔を赤くしていた。


 彼女の話はこうだ。彼女、ミーヤはここからずいぶん離れた場所の小さな農村で家族や友人知人たちと暮らしていた。しかしある日、農村が魔物の集団に襲われた。まともな戦闘経験のある人など居ない農村のため、大人の男たちが農具を手に必死に戦ったが、多勢に無勢。やむを得ず、ミーヤや同世代の子供たち、老人などを逃がそうという事になったのだが、逃げた先でも魔物に襲撃され、ミーヤはただ一人、命からがら逃げ延びたという。


 だが、彼女の不幸はそこで終わらなかった。一人山の中を無我夢中で走り回った彼女は、疲れ果てて動けなくなった所を、謎の一団と遭遇した。馬車に冒険者らしい武装した男数人。裕福そうな服を着た商人風の男一人。最初ミーヤはそいつらを商人か何かだと思った。


 だが、現実はそうではなかった。そいつらは『奴隷商人』とその護衛だったのだ。しかも彼女の話から察するにおそらく『非合法の奴隷商人』のようだ。


 この世界において、奴隷と言う存在は珍しい物ではない。合法の奴隷商人が存在している。ただし合法の奴隷は決して漫画やアニメで出てくる奴隷ほどひどい扱いはされない。彼らの多くは犯罪者であったり、寒村から口減らしで売られた子供などだ。彼らは鉱山や農業などの労働力として働かされるが、彼らの立ち位置は『臨時の労働力』と言った所だ。普通の奴隷の仕事は鉱山や農業、開墾事業、金持ちのメイドとして、臨時の労働力扱いで派遣される。合法の奴隷とは、言わば派遣事業のような物だ。


 言うなれば仕事であるため、奴隷を雇う側、派遣を斡旋する奴隷商人なども奴隷にある程度の生活を保障する義務が発生するらしい。これらの事は、昔そう言った仕事に従事していた、って言う故郷の村にいたおっちゃんに聞く事が出来た。


 そして世の中には正規の手続きを踏まずに麗しい女性などを非正規の奴隷として闇市場で販売する非合法の奴隷商人も存在している。ミーヤもその、非合法の奴隷商人に捕まってしまった、という事だ。


 商人とその護衛だと思い、近づいて訳を話し、村を助けてもらおうとしたのも束の間。彼女は拘束され、同じく非合法で捕らえられた奴隷たちのいる馬車に押し込まれてしまったそうだ。 そして数日は馬車に乗せられ、どこかへと連れていかれる事になった。


 しかし、幸か不幸かその非合法奴隷商人の馬車を魔物が襲撃。彼女は何とかその隙に逃げ出す事が出来たらしい。しかし、馬車に乗せられて運ばれていたため、現在地など分からず彼女は数日間、野山を彷徨う事になった。何とか川の水や木のみで飢えを凌いでいたけれど、ついに限界が来て山で倒れた所を俺に保護された、というのが、彼女のこれまでだった。


「あぁ、神よ」

「………」

 衛兵の人は顔を青く染めたまま思わず神の名を口にしている。ミーヤは、苦しく辛い記憶を思い出したからか、俯いている。長い髪のせいでその表情を伺いみる事は出来ないが、その体は震え僅かに嗚咽が聞こえている。その隣で、俺は……。


「クズ共が……っ」

 彼女を奴隷にしようとした、奴隷商人たちへの怒りで体を震わせていた。それから数分、俺も、ミーヤも、衛兵の人も落ち着くまで数分を要した。それほどまでに衝撃的な話だった。


「……それで、彼女はこれから、どうなるんです?」

 やがて俺が最初に口を開いた。彼女の近況は分かった。しかし問題はこれからだ。

「どう、とは?」

「ミーヤさんの話の通りなら、今の彼女には頼る相手も、帰るべき場所も無いって事ですよね?」

「それは……。ミーヤちゃん。確認なんだが、君の育った村以外に誰か頼れる人とかいないかい?」

 俺の言葉を聞いて衛兵の人は彼女に問いかけた。しかし、ミーヤは俯いたまま首を横に振るだけだった。つまり、いないと言う事か。

「衛兵さん。この町に、彼女が頼れそうな所とかないんですか?孤児院とか、そういうの」

「無い、訳じゃないけどどうだろう。ミーヤちゃん、君の年齢は?」

「……今年で、16、です」

「そうか」

 小さな声でミーヤが答えると、衛兵の人は渋い顔をした。


「何か、問題でも?」

「あぁまぁ、うん。問題、かなぁ」

 その様子を訝しんで俺が問いかけると、衛兵の人はこれまた渋い顔をしながら小さく頷いた。


「この町の孤児院は、確か皆16歳になると独り立ちさせてるはずだから、訳を説明したとしても、どうなるか。孤児院もそこまで裕福って訳じゃないし」

「他に彼女の世話をしてくれそうな場所や施設は?」

「……ない、だろうなぁ」

 衛兵の人は申し訳なさそうに、ため息交じりに呟いた。となると。


「じゃあ、もし今後彼女が生きていくのなら、一番良いのは冒険者ですか?」

「そう、なるだろうなぁ。後は農村生まれだって言うし、どこかの農場に働き手として雇ってもらえれば、と言った所になってしまうかな」

 衛兵の人は申し訳なさそうにミーヤへそう声を掛けた。とはいえ……。


「でもここ数日飲まず食わずで森を彷徨ってたんですよ?ある程度はちゃんと食事をして休まないと。体力とかが戻ってからじゃないととても仕事なんて」

「そうだよねぇ」

 今の彼女は完全に回復した状態とはいいがたい。しばらくはちゃんと食べてちゃんと休んで、体力やら活力やらを戻さないと。


「とはいえ、しばらく休むって言ったって食費とか、どうにかしないと。ミーヤちゃん、お金は?」

「……」 

 再び彼女は無言で首を横に振った。

「う~ん。そうだよねぇ」

 どうしたもんか、と言わんばかりに衛兵の人は腕を組み、唸っている。その時。


「私、これから、どうしたら……」

 隣に座る俺に聞こえてきたそれは、彼女の悲しみと絶望に満ちた声と、それに交じって聞こえる嗚咽だった。


 彼女の最近の出来事は、『最悪』の一言に尽きるだろう。家族も住み慣れた場所も失って、命からがらこのティレットの町にたどり着いても、頼れる相手は居ない。これを最悪と言わないでなんて言うんだって、俺は思った。


 そして、同時に思った。『彼女を助けたい』、って。だから。


「あの、一つ聞いて良いっすか?」

「ん?なんだい?」

「もし、もしもの話だけど、俺が彼女の世話をするって言ったら何か問題あります?」

「っ」

「え?」

 俺が衛兵の人に問いかけると、ミーヤは息を飲み衛兵の人は疑問符を浮かべた。


「急にまた唐突だけど、訳を聞いてもいいかな?」

「えぇまぁ。っつっても、理由なんて大したもんじゃないですよ」

 そう前置きをしつつ、俺はミーヤの方へと視線を向けた。


「理由はどうあれ、俺は彼女に関わった。そんな彼女が行く当ても、頼る当ても無いって言うのにここで『はいさよなら』、ってのは正直男としてどうかとも思いますし」

「そ、それだけの理由で?」

 ミーヤは、戸惑ったような表情で俺を見つめている。

「あぁ。こいつは俺のちっぽけな正義感さ。困ってる女の子を見捨てたとあっちゃぁ、男が廃る、ってもんだろ?」


 そう言って俺は彼女に微笑みかけた。

「ッ!」

 すると彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。……って言うか今俺、もしかしなくても場の空気に流されて臭いセリフ言ってしまった?……いや言ったわ確実にっ!あれっ!?やべそう思うと急に顔が熱くなってくるっ!!


「お~~お~~」

 そして前を見ると、衛兵の人が何やらニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべているっ!?しまった見られたっ!


「んんっ!と、とにかくっ!」

 恥ずかしさを隠す意味でも、俺は咳払いをして続けた。


「俺はミーヤ、君を助けたいって思ってるっ。下手な同情と言われればそれまでかもしれないが、それでも俺は、君と関わった以上君の助けになりたい。……どうする?」

「ッ、私、は……」


 俺の言葉に彼女は少し迷っている様子だった。まぁ、殆ど見ず知らずの他人にこんな事言われちゃ、いきなり信じるってのも無理な話だよな。けれど……。


「あ、あなたは、私を、助けてくれますか?」

 彼女は、その体を、金色の髪を震わせながら俺を見つめてきた。そしてそんな彼女の瞳は、まるで縋るように俺を見上げ、目尻には涙を貯めていた。


 そんな姿の彼女を前にして、少しでも気のいいことを言ってやれれば良かったんだが、生憎俺もまだまだ新人冒険者だ。


「俺はまだ冒険者として駆け出しだ。だから何が出来るってはっきり言う事は出来ない。けど、最善を尽くす事だけは、約束する」


 それが今の俺にできる、彼女にかけてやれる最大限の言葉だった。けれど、それでも彼女は……。


「それで、良いです。どうか、よろしくお願いしますっ」

 ミーヤは、俺に対して深く頭を下げた。

「あぁ。俺にできる事なら、いくらでも手を貸してやるさ」

 少しでも彼女を安心させられれば、と俺は笑みを浮かべながら彼女の頭を優しくなでる。彼女は涙を浮かべながらも、俺を見上げて微笑みかけてくれる。


 そんなミーヤを見ていると、彼女のために頑張ってみようって思えたんだ。家族も故郷も失った彼女の、せめてもの助けになるために、頑張ろうって。


     第5話 END

 

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