第6話 2人の始まり

 森で助けた少女、ミーヤを連れてティレットの町へと戻った俺。幸いにも城門を守っていた衛兵たちの助けも借りてミーヤは一命をとりとめる事に成功。翌日事情聴取が行われたが、彼女の過去は過酷な物であった。頼る当ても無い彼女の助けとなるため、俺はしばらく彼女の面倒を見る事を決めた。



 詰所での話を終えた後、俺はミーヤを伴って詰所を出た。幸いもう自分で歩けるほどには回復しているし、あそこは詰所だ。いつまでもそこに居る訳にも行かないからな。

「さて。それじゃあミーヤ。とりあえず改めて名乗らせてくれ。俺は冒険者のバレットだ。よろしくな」

「は、はい。ミーヤです、よろしくお願いします」

 俺が挨拶をし、右手を差し出すとミーヤはおっかなびっくりと言うか、まだ少し緊張したような様子で俺の右手を握り返した。

「あぁ、改めてよろしくな。それじゃあまず、俺の使ってる宿に行くか。今のミーヤに必要なのは食事と療養だからな。休むための部屋を確保しないと始まらないし」

「は、はいっ」

 

 って事で早速俺は彼女を連れて宿へ戻った。入口から入ると、ちょうど受付で女将さんが暇そうにしていた。好都合だ。

「すいません女将さん」

「ん?あぁアンタかい、どうしたんだい?ん?」

 女将さんは俺に気づいてこちらを向くが、すぐに俺の後ろにいるミーヤに気づいて、怪訝な表情を浮かべた。


「え~っとですね。実は……」

 俺は女将さんに事情を説明し、何とか俺と同じ部屋で彼女が滞在出来ないか交渉してみた。

「成程ね。……そりゃ確かに災難だし、布団の一つでも貸してやるかね」

「良いんですか?」

「そりゃそんな話を聞いた後じゃねぇ」

 女将さんはそう言って少しだけ目を伏せた。女将さんもミーヤの話を聞いて思うところがあったのだろう。


「ただし、食事を取るって言うならそっちはそっちで別料金を貰うよ。アタシらも慈善事業で宿やってるんじゃないからね。それに、そっちのミーヤって子が金を払えるようになったら、2人部屋に移るなりもう一部屋借りてきっちり料金払ってもらうよ?良いね?」

「だ、そうだけど。ミーヤもそれでいいかな?」

「は、はいっ。大丈夫ですっ」


 どうやら彼女の方も女将さんの提案で問題ないようだ。とりあえず、これで当面の彼女の寝床は問題ないだろう。


 その後俺は女将さんから布団と毛布を渡され、それを自室に運び込んだ。

「よし。布団はまぁこの辺りに置くとして。どっちで誰が寝るかだけど……」

 まぁ普通に考えてミーヤがベッドの方が良いだろう。布団の下はもう固い木の床だし、今優先すべきは彼女の回復だからなぁ。


「ミーヤ、君はベッドで寝ていいから。俺が布団使うからさ」

「えっ!?で、でもそんなの、バレットさんに悪いですよっ!」

 どうやらミーヤの方が布団を使うつもりだったのか、彼女は驚いた様子のまま声を上げた。

「いやいや、それを言うならミーヤの回復が最優先でしょ?それに俺の事は気にしなくて良いから」

「い、良いんですか?」

「あぁ」

 まだ少し困惑している彼女に俺は笑みを浮かべながら頷く。

「分かりました。じゃあ、ご厚意に甘えさせていただきます」

 すると彼女も納得したのか、小さく頷いた。

「よし。それじゃあ寝るのは決まったし、次はどうするか?」

 

 と、この後の事を考え始めたのも束の間。

『クゥゥゥゥゥッ」

「ん?」

 何やらどこからともなく聞こえてきた小さな音。音がした方へと目をやると……。

「…………」

 顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに体をプルプル震わせているミーヤの姿が。成程、今のは彼女のお腹の虫か。

「とりあえず、食事にしようか。なんだかんだでもういい時間だし。早めの夕食って事でさ」

「は、はいぃ」

 ミーヤは恥ずかしそうに顔を赤くし体を震わせながらも頷いてきた。


 その後、宿を出た俺たちは、この前俺が見つけた店に向かった。そこは冒険者御用達の店で、値段はそこそこなのに量が多めという、肉体労働な冒険者の懐と腹に優しい食事処だ。


 幸いまだ比較的早い時間帯なのでそこまで混んでる様子は無い。前に何度か依頼終わりに店の前を通って、美味そうな匂いに誘われて入ってみたのだが、満席で泣く泣く店を出たのは記憶に新しい。


 ウェイターに適当なテーブルに案内された俺たち。メニューは店の壁のあちこちに掲げられた木札に書かれている。あの中から選ぶのか。幸い俺たちの席が壁の近くだったのでメニューは見えるが、さて、どうするか?


「ミーヤさんは何か良いの、って、ん?」

 メニューから彼女へ視線を向けたのだが、彼女は何やらじ~っとメニューの一か所を見つめていた。何を見てるんだろう?と彼女の視線の先を追う。彼女が見つめていたのは、串焼きの部分だった。


「ミーヤさん、串焼き食べたいんすか?」

「ふぇっ!?あ、え、い、いえっ!そ、そういう訳じゃっ!」

 俺が指摘すると彼女は驚き顔を赤くしながら否定しているが、こりゃ図星だな。となれば……。

「すいませ~ん」

「あ、は~い」

 俺は近くにいた店員に声を掛ける。

「ご注文ですか?」

「はい。え~っと、とりあえずミルクを二つとミートボールパスタ1人前を2つ。それと串焼きを下さい。とりあえずはそれで」

「は~い、少々お待ちを~」

 注文を聞くと店員さんは厨房の方へ。それを見送ると俺はミーヤに視線を向ける。見ると彼女は何やら恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「え、えと、その。あ、ありがとう、ございます」

「いえいえ」

 恥ずかしそうに顔を赤くする彼女が面白くて、俺は笑みを浮かべながらそう返した。


 しばらくすると、店員さんが注文した品を運んできた。一人前、というには大きい器に乗せられたミートボールパスタと、無数の串焼きが乗った大皿。デカい木製ジョッキに注がれたミルク。

「こ、これ、が……」

 ミーヤは目の前の料理に目を輝かせ、ゴクリと固唾をのんでいる。数日まともな食事をしていなかったであろうミーヤさんには、これだけでも十分ご馳走だろう。すると……。


『クゥゥゥゥゥゥゥッ!』

 何やら先ほどよりもミーヤの腹の虫の自己主張が激しい。

「ッ!あぅ、あぅ」

 それに気づいて恥ずかしそうに顔を真っ赤にするミーヤさん。

「ふ、ふふっ」

 それに思わず俺は笑いをこらえる事が出来なかった。

「うぅ、笑わないでくださいよぉバレットさ~んっ」

 涙目で俺に抗議の視線を向けてくるミーヤ。

「ご、ごめんごめんっ!それじゃあ早速、冷めないうちに食べよっか」

 

 それから俺たちは食事を始めた。ミーヤはまだ気が引けるのか、恐る恐ると言った感じでパスタを食べる。が、一口食べたらそこからはもうノンストップだった。終始無言でパスタを口に運び、時折ミルクでのどを潤し、串焼きを頬張る。


 その姿に笑みを浮かべそうになるのを抑えつつ、俺も食事を始めた。が、しばらくして……。

「ん?」

 ふと目をやると、彼女の食事の手が止まって、ミーヤ自身俯いていた。しかし彼女の前の皿にはまだパスタが残っているし、串焼きだってまだある。お腹いっぱいなのかな?などと考えていると、彼女の体が小刻みに震えている事に気づいた。これ、大丈夫かっ?


「ミーヤさん?大丈夫ですか?もしかして、お腹の調子でも悪いんですか?」

 もしかして、しばらく食事を取ってなかったし胃が受け付けなかったのか?そう考えるとこの店に誘ったのは不味かったかな。そう考えてしまう。が、俺が声を掛けると彼女は体を震わせながらも首を左右に振った。

 

「違うん、です。美味しい物が食べられて、今、私、生きてるんだなぁって思ったら、そしたら……」

「ッ」

 不意に彼女の髪の隙間から見えたそれは、涙だった。今、多分彼女は生きてる喜びをかみしめてるんだろう。あの絶望的な状況から生還して、今生きている喜びから彼女はきっと泣いているんだろう。なら、俺が何かを言うのは野暮ってもんかなぁ。

「まだまだ食べましょうよ。美味しいって思えるって事は、生きてる証ですから」

「はいっ」


 彼女は声を震わせながらも頷いた。それから俺たちは食事を楽しんだ。


 その後、食事を終えた俺たちは宿の部屋へと戻り、今後について話し合う事に。

「え~っと、それじゃあミーヤさんの今後についてですけど」

「はい。仕事の件、ですよね」

 俺はテーブル備え付けの椅子に。彼女はベッドの腰かけている。そして、ミーヤはいつにもまして真剣な表情だ。まぁ彼女自身の今後が関わってるのだから当たり前だろう。


「そうです。今の所ミーヤさんに出来そうな仕事となると、農村育ちである事を生かしてどこかの農場か何かに住み込みで雇ってもらうか。或いは冒険者にでもなって簡単な仕事をこなしてお金を稼ぐか、って所ですね」

「冒険者、ですか。でも、私に出来るでしょうか?冒険者なんて」

 と、彼女は冒険者と言う選択にどうやら懐疑的なようだ。まぁ、冒険者なんて危険な仕事ってイメージは確かにあるだろう。


「一応言っておくと、一番下のランク、Gランクの依頼なら農家の臨時の手伝いとか、後は荷物運びや手紙を届けたりとか。結構危なくない物もありましたよ?まぁミーヤさんに一番向いてるのは農家の手伝いの依頼とかですかね」

「成程。確かにそれなら、私でも」

 それくらいなら出来そう、と言わんばかりに小さく笑みを浮かべているミーヤ。とはいえ、依頼なんて受けて見ないと分からないしなぁ。まぁそこは体力が回復してからだが。


「ミーヤさん。明日の予定なんですが、一つ良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「こいつはミーヤさんの体調次第なんですが、明日の朝、良ければ俺と一緒にギルドに行って冒険者登録だけでも済ませませんか?どのみち、俺も何日も休んではいられませんから。明日にでも冒険者稼業を再開しないとですし」

「そう、ですね。分かりました。ならば明日、私もお供します」


 彼女は少し緊張した様子ながらも頷いた。その後も明日の細かい予定を話し合い、とりあえず明日の予定は決まった。さて、明日は仕事になる、って事で俺たちは早めにベッドと布団それぞれに潜り、眠りについた。



「ん、んん?」

 が、しかし眠りについたのも束の間。俺は耳に届く『何か』に気づいて目を覚ました。眠く重い瞼を擦り、布団から体を起こす。そして何かの方へと視線を向ける。


「お母さん、お父、さん」

 耳に届いた何かとは、ミーヤの『うなされている声』だった。窓から差し込む月明かりが彼女の顔を照らしているが、額には大粒の汗。顔は苦悶の表情を浮かべ、呼吸も荒い。更にまるで何かに怯えているように体は震えている。


 悪夢にうなされているのは、誰の目にも明らかだった。その姿が見ていられなくて、俺は布団から出て彼女の傍で膝をつく。

「もう大丈夫。大丈夫だ」

 そして彼女の耳元で小さく囁いた。それを数回繰り返すと、やがて彼女の呼吸も落ち着き、強張っていた表情もほぐれてきた。これで良し、と思ったのだが……。


「ん、んん」

 不意に彼女の手が何かを探すように、宙を彷徨い空を切る。……誰かを探しているのか。まるで、赤子が何かを求めるように彷徨う彼女の手。俺はその手を優しく握った。すると彼女の手も、優しく握り返してきた。


 やがて、ようやく彼女は落ち着いた様子で眠りについた。ただそれは良いんだが……。この手、どうするかなぁ。


 彼女が手を握っているので、俺が離れられなくなってしまった。仕方ないので、俺はベッドの傍に座りながら、何とか引き寄せた毛布にくるまったまま、眠りについた。



 翌朝。

「ん、ふぁ~~~~」

 俺は窓のカーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ました。まだ少し眠い中で自分の手を確認するが、流石にもうミーヤは手を放していた。彼女の様子を伺うが、まだ眠っているようだな。


 俺は彼女を起こさないように立ち上がると、椅子に座る。

「≪メニューオープン≫」

 そしていつもの起動ワードを口にし、ハンドガンチートのメニュー画面を呼び出す。そこから数多の拳銃のリストを見つつ、考え事をしていた。


 これからミーヤの独り立ちまでの間、彼女の食費やらを俺が何とかするしかない。となると、ゴブリン討伐を行うにしても恐らくこれまで以上にゴブリンを狩らねばならないだろう。それも1匹や2匹じゃない。恐らく最低でも1日9匹は狩らないとならないだろう。

 これまでのゴブリン討伐の報酬から考えて、ゴブリンの討伐価値は1匹につき小銅貨2枚と言った所。しかし2人でしばらく生活するとなると、1日最低でも大銅貨1枚以上は稼ぎたい。となれば、最低ラインは1日にゴブリン5匹の討伐。金に余裕を持つ事を考えると、1日に9匹から10匹は倒して報酬を得たい。


 それを考えればより装弾数の多い銃が良いかもしれない。そう思ってリストを見つめていたが、しかしやがて俺はため息をついてメニューを閉じた。


 理由は簡単。今の俺はまだ銃に慣れ切ってない。ようやくM1911A1を使っての実戦にも慣れていたってのに、変に銃を変えると操作などをミスしそうで怖くなった。それにとあるゲームで某蛇の名を持つ英雄は言っていた。『残弾数を体で覚える事だ』、と。


 となれば、せっかくM1911A1を使っての実戦に慣れてきた所なのに、下手に扱う銃を変えても実戦で力を発揮できるかどうか怪しい。だからこそ、今はまだ銃を変えないと決めた。


 俺は、視線をテーブルの上に置かれたM1911A1に向ける。

「まだしばらくは世話になるぞ、相棒」

 そう、物言わぬ相棒に言葉を投げかけた。



 その後、朝のルーティーンでM1911A1の動作確認、弾やマガジンのチェック、それと最近練習し始めた近距離を想定した銃の戦闘法、『CARシステム』の構え方の練習を行っている。CARシステムって言うのは、近年使われるようになったハンドガンを使っての近接戦闘を想定した構え方だ。屋内や入り組んだ場所での近距離戦闘を想定しているらしく、近年の映画などで有名になり始めてる構え方だ。


 最も、俺の場合は動画などを見ての練習だから荒はあるが、仕方ない。今はどんな状況でも対応できるように、練習を繰り返すしか出来ないからだ。そうやって構え方の練習などをしていると。


「ふ、ぁ~~~~」

 おっと、どうやらミーヤも目が覚めたようだ。俺はM1911A1を右足のレッグホルスターに収める。

「おはよう、ミーヤさん」

「あっ、おはようございます、バレットさん」

 俺が声を掛けると、彼女も笑みを浮かべながら返事を返してくれた。


 その後、俺たちは食堂で朝食を済ませた。一度部屋に戻り、ミーヤの体調を確認するが、問題ないというので俺は彼女を伴って宿を出た。


 で、やってきました冒険者ギルド。幸い早めに来たのでまだ混みだす前だった。なので手っ取り早く、まず俺のゴブリン討伐依頼を受注してから、更にミーヤの冒険者登録も済ませた。彼女の登録は問題なく終わり、これで彼女も俺と同じGランク冒険者だ。


 で、朝の冒険者の依頼受注ラッシュが終わった後、俺とミーヤは依頼の掲示板の前に立っていた。

「どうですミーヤさん。農家の手伝いの依頼以外、受けられそうなのあります?」

「え~っと、無い、訳ではないんですけど。どれもその、報酬が安くて」

 彼女は少し困ったような表情を浮かべながら答えた。そして俺は彼女の言葉に内心、『確かに』と思っていた。


 Gランクの依頼を見てみると、金になりそうなのはゴブリンや狼の討伐。あとは薬草の採取や森に自生するキノコの納品依頼など。後の手伝いやらなんやらは、はっきり言って小遣い稼ぎみたいなもんだ。かといって採取依頼だろうと森に行けばゴブリンのような魔物と遭遇する危険がある。となると……。


「やっぱり受けられそうなのはこれくらいですかねぇ」

「はい」

 俺たち二人は並んで、農家の手伝い募集の依頼に目を向けている。ただ問題がある。この依頼、給料の部分が『歩合制・働きぶりにより報酬変動』と書いてありいまいち報酬額が分からない。


「これ、報酬が分からないと受けようがないよなぁ」

「そうですね。正直、1回やってみないと分からないですね」

「う~ん」

 どうしたもんか、と思っていたが、その時ふと目をやると総合受付の看板が掲げられた窓口を見つけた。いっそ聞いてみるか。


「ミーヤさん、ちょっとあの窓口で聞いてみますか?もしかしたら分かるかもしれませんよ」

「え?あっ、そうですね。ギルドの方に聞けば、何か分かるかもしれませんもんねっ」

 俺が窓口の方を指さすと、成程、と言わんばかりに笑みを浮かべるミーヤ。


 という事で早速俺たち二人はその窓口へ。幸い他に人が居なかったので、受付にいたお兄さんに、依頼の事を聞いた。あの依頼でどれだけ稼げるのかを。すると……。


「あ~~。あの依頼ですかぁ。でも正直、あれはあんまりオススメできませんねぇ」

「え?なぜです?」

「実はあぁ言う依頼って、奴隷を雇えない農家とかが苦肉の策で出してるような物なんですよ」

「えっ?マジっすかっ?」

 少し困り顔のお兄さんの説明に俺は驚き思わず聞き返してしまった。

「奴隷って、雇うにしてもそれなりに義務が発生しますからねぇ。それが嫌で代わりに冒険者を雇う為にあんなふうに依頼を出してくるんですよ。でも、出してくるのは奴隷を雇うお金も無い農家が殆どですからねぇ。たまに奴隷を雇っても人手が足りない場合に、人手を集めるために依頼を出してくるような農家もあるので、そういう所なら報酬も良いんですが……」

「大半はそうじゃない、って事ですかね?」

「えぇ。なので仕事はキツイ上に給料も安いんで、あんまり受けたがる人はいないんですよ」

「じゃあ、彼女がGランクで依頼を受けて、それで生活していくとしたら最低限何の依頼を受けるべきですかね?」

「そうですねぇ。女性、となるとやはり薬草採取とかでしょうか。あの依頼にある薬草は結構森のあちこちに生えている上に、1年中季節に関わらず生えてますからあの依頼が受けられなくなる、何てことは無いと思いますよ」

「そうですか」

 説明を聞きつつ、俺は彼女の方へと視線を向ける。


 今のミーヤは目に見えて落ち込んでいるようだった。とはいえ、ずっとここにいる事も出来ない。俺も依頼で森に行かないといけないしな。


「ミーヤさん、とりあえずここを出ましょう」

「……はい」


 それから俺は、元気のない彼女を宿の前まで送り、昼飯代と言う事で小銅貨数枚を渡しておく。

「それじゃあ夕方くらいには戻って来ると思いますので」

「はい。どうか、お気をつけて」

「行ってきます」

 心配そうに俺を見上げる彼女に、俺は精一杯の笑みを浮かべながら頷き、踵を返して歩き出した。


 俺も、彼女も、生きていくためには金が要る。だからこそ、ゴブリンを狩らねば今の俺たちに未来は無い。やってやるさっ!あの子の、ミーヤのためにもっ!


 今の俺は、あの子の今後に関わっているっ!関わったのなら、最後の最後まで出来る事をやってやるっ! 自分自身を鼓舞するように、そんな言葉を頭の中で繰り返しながら俺は森へと向かった。 



~~~~

 バレットさんが遠ざかって行く。私、ミーヤはただそれを見送っていた。バレットさん。私を助けてくれた恩人。今も私の助けとなり、支えてくれている人。あの人がいたから、私はこうして生きていられる。


 けれど今の私には、あの人を見送る事しか出来ない。それが、とてつもなく怖かった。あの日、何も出来なくて、逃げ出す事しか出来なかった、無力な私には、ただ恐怖におびえる事しか出来なかった。


 それしか出来ない自分が酷く弱い、小さな存在に思えてしまう。今の私にはただ、あの人の生還を祈る事しか出来ない。

「どうか、どうか、無事に戻ってきてください」

 それでも私は祈る。あの人が無事に戻って来るように。


 そして、同時に考えてしまう。『あの人の助けになりたい』、『私でも使える武器があるのなら、あの人の助けになれるのだろうか?』、『私に、何が出来るのだろうか』、と。


     第6話 END

 

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